リラの星~織姫の秘密~
林ももこさんとのついったでのやりとりからスピンオフ。
英語圏ではこと座の主星としてHarpStar、漢字圏で「織姫」として知られるこの星は、目立つ位置と明るさのゆえに、太古から洋の東西を問わず注目を集めていたようだ。アラブ圏では「舞い降りる鷲」と称されるが、これは隣近所を含めた星の並びを、獲物めがけて降りてくる鷲の翼の形に見立てたものといわれる。ラテン名の「Vega」はこの鷲にルーツを持つ。こらそこ、ハゲワシ説声高に言わない。
地球の歳差によって1万2千年後に北極星となるが、歳差の周期は2万5800年なので、逆に1万2千年前にも北極星だった。石器時代から文明の礎となる農耕牧畜の勃興を見るころで、季節によって見える星が違うことに気づき始めそう…な時代である。
当然、この時代の彦星は、織姫の周囲を夜っぴてぐるりと回っていたことになる。そう、太古ふたりはプリキュ…じゃない、年中、手を取り合い共に夜空にいた。さらに言うと、織姫は天の帝の娘であるが、その存在にふさわしく天の中心に座していたわけだ。彦星は、天の中心で輝く織姫に寄り添い、慕うように回っていたのである。そして時代を下り、織姫は天の中心を外され「天河の東」へ退位し、彦星は季節によっては出てこないようになった。
このシンクロニシティ。しかし大元の七夕伝承が数千年スケールの天体現象を反映して考えられたものかどうかはわからない。彦星=牽牛自体、古代中国の星図では現在のやぎ座を指したといわれる(とはいえわし座の隣だが)。でも、文明以前から織姫が目立っていたからこそできた伝説なのは確かだろう。一朝一夕で彼女が「スターダム」に押し上げられた、とは思えない。我々は後世、こんな素敵な物語を残すことができるだろうか。
その辺、現代は精密に観測して計算できちゃうので、想像に基づく伝説にはつながりにくく、面白みがないのは確かである。ただ、それはそれで、ベガが12.5時間で自転してて、これ以上早くなると遠心力で分解するとか、太陽系に似た惑星系が生成途上にあるとか、別の想像のタネは色々提供される。ちなみに、太陽からの距離は25.3光年で、同じ銀河系オリオン腕の離れ小島に浮かぶご近所さんである。
さぁ、光子ロケットの準備はよいか、燃料反陽子の充填は済んだか。人工冬眠装置の設定は万全か。我々はこれからベガに形成された惑星系に定住可能性を求めて旅に出る。往復60年のミッションである。生きて帰れる保証はない。また、浦島効果により、帰還後の地球人の多くは、我々が何者か知らないと思われる。
それでも、未来へ報告するために、我々は今、母なる大地を後にする。
« 父、娘を少女マンガの世界に引き込む | トップページ | 名古屋に戻りて3ヶ月 »
コメント