真桜の歌声~V.S.アキュフェーズ+スタックス~
●冒頭の能書き
その昔30年ほど前、演歌歌手がマイクの代わりに燃えるロウソクの前で歌うというCMがあった。声を出しているのに炎は吹かれている形跡が無い。ハテどこから声が出ているのでしょうというわけだ。子供心に不思議そのものであったが8年ほどして氷解する。渡辺美里が西武球場(まだドームになる前)のライブを終えてこう言ったのだ。
「ライブ終わると体中の骨が痛いんです」
なるほど。
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以上を踏まえて
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真桜(まお)。
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歌手である。
2013年10月より放送している「探検ドリランド~1000年の真宝~」の主題歌を歌っている(厳密には双子の「さくら」が歌っているらしいが遺伝子的には同一なので彼女にも応用が利くとして書くw)。2012年夏にはシングル「時計の針が」をリリース。
弱気なこと言うじゃねぇか。
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マジレスしてやる。
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ちなみにオレのライブレポは所々本音を混ぜつつ基本ポジティブな文体にしている。今般の「あにまーと」では真桜のパフォーマンスについて次のように書いている(人ごとのように自分の文を引用)。
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「真桜:ロックでありクールビューティと掲げているが、しのぎを削るような歌い方があなたという声の剣の核心を引きずり出すのかも知れない。それはぎらりと輝くこともあろうしぼろぼろにすり減っているのかも知れない。それは鼓膜との文字通り真剣勝負となる。挑んでこい18kHzを解像する耳で受けて立つ」
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これを詳しく分解してみる。なおシステムは次の通り。実家システムCDプレーヤ/アキュフェーズDP-65。ヘッドホン/STAXラムダノヴァ・ベーシックシステム。こういうの値段書くのダサいのだが本人のために書いておくとCDは35まんえん。ヘッドホンは6まんえんである。ヘッドホンがプレーヤーに比べてお安いようだが、こいつの特徴は「コンデンサー型」ということだ。コンデンサー型マイクを知ると思うが、同じ原理で音に戻すのである。コンデンサー型は繊細な音を拾うが、応じて、繊細な音まで描く。すなわち、しょっぱい音このシステムで聞きたくは無い。
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●探検ドリランド
初っぱなサビで、♪目覚めて~探検ドリラ~ンドと入るので、ここは起動して冒険の世界がぱーっと広がって行くイメージである。ドーンと広がって欲しいわけだが、「クールでビューティ」なのである。「美観」なのである。男としてはもう少し欲しい。だがソレは大声を出せというのではなく、がなり立てろというのではなく、マイク近づけろというのでは無い。広げろ、というのだ。広げられる、と思うのだ。ドリランドの世界の彼方まで、あまねく届くような声を。アフターバーナーで燃料を追加して燃やすような、そんな部分が欲しい。
●Awakening
ドリランドのカップリング。歌詞的にはアンサーソングになる夜明けの歌。全体クレッシェンドだが、さりとて明るさが基調にあるので最初を小さく出来ない。じゃぁサビでがなればいいかというとそうでもない。「広がり」がここでも要求される。が、さわやかな朝、である。
●時計の針が
1stマキシシングルタイトルトラック。本人作詞作曲。声質傾向踏まえたトラックであり当たり前だが馴染んでいる。だがしかし、もう少し「鋭さ」が欲しい♪時計の針が天上を指すその瞬間・・・これは一瞬・刹那である「一点を照らして」いるのである。ここにインパルス状にガンと突っ込めるとエンディング(to-codaで飛んでいる?)のリフレインの歌い上げと五條真由美のコーラスが更に映えてくる。「落ち着いた大人の女の声」である五條さんと、星空の下出発を想起させる歌姫の始まりの対比がおもしろい。
●yellow
声がナロウというかガラス板越しに聞こえるのは雨粒がガラスを流れるのイメージか。演出と取ろう。ただ、真桜は安易にファルセットを使わずトーンを飛ばすのが聞き所の一つだと思うので、あまりエフェクトは使って欲しくないのが正直。むしろコンデンサマイクで声帯の震え一つ一つまで拾い上げたい。これも広がるからこそのラストの♪希望になるんだ・・・でスッと針が止まる。雨が止む。
●ハジマレアタシ
大森祥子が明らかに真桜という星の始まりを意識したをゆんゆん感じるリリック。鼓動のごとく、進む秒針の如く通奏低音を擁するがヴォーカルはそこに「乗って」しまっている。本当に欲しいのはヴォーカルによる主旋律の「引っ張り」である。ケンカするくらいでちょうどいいのである。ベースやバスドラにハイトーン・メゾソプラノが勝つにはどうすればいいのだろう。
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■総括
彼女はとある歌姫を愛し憧れとしているわけだが、ラ行の発音やデクレシェンドの落とし方にその気持ち充分に感じる。だがこの先大人声となって落ち着く先は浜田麻里(モダチョキじゃなくて)に近いのではないかと感じている。
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ここでオレが言いたいこと判らない方のために次の実験を試みられたい。ハミングして欲しい。「ん~」と長く伸ばしながら、上の歯と下の歯をだんだん近づけていって欲しい、触れるか触れないかの瞬間、何が起こるか。
震えて微妙に触れたり触れなかったりカチカチするであろう。実はこのときあなたの声はあなたの頭の骨を震わせてあなたの頭全体から発せられているのだ。渡辺美里の言う「全身の骨が痛い」・・・そういうことである。彼女は全身を震わせ、ギターの胴となって声を出しているのだ。ちなみに彼女は屋根無し西武ドームでマイク無しアカペラというパフォーマンスをやってのける。なおこれはオペラの発声法そのものである。中世の歌劇にマイクなんてものは無い。
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歌手がのけぞったり伸び上がったりしながら歌っている姿を見た方もあることだろう。あれはかっこつけでも何でも無く、良く響くポイントを探して身体が勝手に動く結果なのである。
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で、真桜に言いたいのはこれ。全部出切っているとは思わないし、物理的な「全身」を楽器となしたアナタは応じたスケールや瞬発力を備えるだろうと言うこと。オーディオヲタの一見解として、あなたという楽器はまだ開発の余地がある「しのぎを削るような歌い方があなたという声の剣の核心を引きずり出すのかも」なのである。コンデンサマイクは口から直接届く音波だけでなく、身体から発せられ、録音スタジオに満ちたあなたの波動をも取り込み、ビットを刻むであろう。「身体全て」で歌われた歌は応じて聞き手の身体を共鳴させ、「全身で受け止める」とこうなる。これこそ歌い手と聴き手のシンパシー・シナジーであって、聞く装置が鼓膜から全身に広がる(ヘッドホンだと耳だけみたいなイメージがあるが、入力が一点でも共鳴によりエネルギは全身に広がる)。
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以上、シロトが歌手におこがましいが、百も承知と思うが、思ったままをしかし真剣に書いてみた。失礼はわびる。だがそもそも好きで無けりゃ30万の装置に突っ込んだりはしない。
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真桜。
Dream Chaserであれ-。
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追記:テレビ東京「開運!なんでも鑑定団」2013年10月15日放送分より、エンディングで彼女の歌が流れる。
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