正しく怖がる放射線【6・終】
6.影響と対策(承前)
(2)体内被曝の場合
②各物質が身体に与える影響
ここが本題である。ああ、長かった。なお、生物学的半減期はいずれも最大で90日前後と見ていただきたい(従ってモノによってはうんこしょんべんになる前に半減期を迎える)。
・ルビジウム86(86Rb)
カリウムと勘違いして体内に取り込まれる。筋肉に使われるため全身に分布する。
ベータ崩壊し、ストロンチウム86に変わる。半減期は18.63日。
事故から3年が経過しており、殆ど存在しないと見られる。
・イットリウム88(88Y)91(91Y)
イットリウム自体、肺水腫などを引き起こす毒として作用するほか、わずかな量が肝臓、腎臓、脾臓、肺、骨などに取り込まれる。但し人体全体で1mg未満。
88:ベータ崩壊し、ストロンチウム88に変わる。半減期は106.7日。
91:ベータ崩壊し、ジルコニウム91に変わる。半減期は58.5日。
事故から3年が経過しており、殆ど存在しないと見られる。
・ストロンチウム85(85Sr)89(89Sr)90(90Sr)
カルシウムと勘違いされて骨に取り込まれる。骨の中でベータ線を出し続ける。身体に悪い放射性物質の代表例である(この性質を逆に使って骨の中のがん細胞を破壊するために使われることもある)。
85:電子取り込んでルビジウム86に変わる(放射性崩壊しない)。半減期65日
89:ベータ崩壊し、イットリウム89に変わる(上記イットリウム参照せよ)。半減期50.5日
90:ベータ崩壊し、イットリウム90に。更にベータ崩壊してジルコニウム90に変わる。半減期は90Srが28.74年。90Yが64時間。
事故から3年経過しており、汚染地域にはまだ存在する。
・セシウム131(131Cs)134(134Cs)137(137Cs)
カリウムと間違われ~でルビジウムと同様だが、半減期が長いことと、植物が取り込むので、汚染された植物を食べることによって連続的にもたらされる可能性がある点から、身体に悪い放射性物質の代表例である。
131:電子取り込んでキセノン131に変わる(放射性崩壊しない)。半減期9.7日
134:ベータ崩壊し、バリウム134に変わる。半減期2.065年。
137:ベータ崩壊し、バリウム137に変わる。半減期30年。
事故から3年経過しており、汚染地域にはまだ存在するほか、植物や菌類(キノコ等)を通じて地面を循環する。
・ヨウ素131(131I)
甲状腺ホルモン生成に必須であるため、甲状腺に蓄積する。甲状腺ガンを誘発する。身体に悪い放射性物質の代表例である。放射性物質が集中する×半減期8日より、この放射性ヨウ素よりも早く「安定ヨウ素剤」を服用し、ヨウ素吸収を抑制する(お腹いっぱいにしてそれ以上食わせないのと同じ)。なお、ヨウ素は「事故と分かったら素早く」がキモであり、なおかつ、半減期8日であるから、時間を過ぎてからの影響はない。
ベータ崩壊し、キセノン131に変わる。半減期8日。事故から3年経過しており、影響は考えなくて良い。
ふう。
●まとめ
このように、放射能放射線放射性物質というと「良くワカラン」のだが、よく調べると本当に警戒すべきものはかなり絞られることがわかる。とはいえ絞られた連中はみなそれなりにやっかいで。
・ヨウ素:対応はスピード命
・セシウム:半減期が長いが、植物を介して食物連鎖をいつまでもぐるぐる回る
・ストロンチウム:半減期が長い上、骨に入るので身体から排出されない
こうなる。なお、ヨウ素131とセシウム134、137は、軽くて遠くまで飛んで行き、食物連鎖に入って何度も人体と接触することから「三大」とか「三悪」とか言われる。なので、「今事故を起こしたら何がドコまで広がるか」常に監視しておき、何かあったら直ちにヨウ素を服用する。屋内に退避するなどの処置が必要になる。しかし事故当日、政府も東電もシミュレータ「SPEEDI」の公開を控えた。これは実に残念かつ真逆の対応だったと言わざるを得ない。一か八かでしかないなら、「外れるかも知れないけれど警告を出す」があるべき姿であろう。確実に減災できるのと、確実に被害が生じるのと、どっちが正しいのか。問うまでもあるまい。
また、このページまで残った連中は「ベータ崩壊」の物質であることはお判りいただけたと思う。アルファ崩壊物質は「体内に入るとやばいぞ」と本に書いてあるわけだが、こいつらはそこまでの作用は無い。ただ、何せ食物連鎖に乗るので、30年、植物や魚肉を通じて何度も人体に接触する機会を持つ。除染はもちろんだが、山地に降ったのが雨の度に人里まで降りてくるので、常に洗い流しておく必要があるし、食物中の放射性物質チェックは続ける必要がある。
最後に「どこまで取り込んでいいの?」という話をしておく。いっちゃんやばいセシウム137で1ベクレル食うと0.013μSv被爆する(ソース)。環境省は「年間1mSv」を上限としている。これは77000ベクレルになる。魚類の出荷規制値が100ベクレル/1kgなので(ソース)、ざっくり規制値ギリギリの魚770キログラム食うと年間規制値に引っかかる。アジが大まか1匹300グラムであるから、アジを年間2564匹(毎日7匹)食うと年間被曝量。こうなる。なお良く「パイロットや宇宙飛行士は1回のフライトで宇宙から~」という比較を見るが、これらは体外被曝であり、体内深奥には達しないので、臓器や筋肉に放射性物質が溜まっている体内被曝と比較は出来ない。ただ、大気にはラジウム由来の放射性ラドンガスが混じっており、こいつが呼吸で肺に入って体内被曝する。その世界的なバラツキ1~10mSv/年(ソース)というから、日本人が平均0.81mSv(ソース)に対し、「年1mSv」というのは妥当な数値に思える。え?平均+事故で出た放射線加算したら2mSv位になる?だから10mSv/年くらいまでは少なくとも人間の生活環境では普遍的です。
事故から3年経過し、今警戒すべきはセシウム137、ストロンチウム90。ゼロサムを選ぶか、1ミリを妥当とみるか、アナタ次第。ただ、アナタは呼吸するだけで0.81mSv/年の体内被曝をしている。
(おわり)
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