あなたの身体の億万光年
いや別に変な宗教に目覚めたわけではなく、↓こんな経緯で。「ほしはかせ」(@hoshihakase)さんは天文台におつとめのプロフェッショナル。
質問:あなたの身体はいつ出来たものですか?
○年生まれで指折り数えて、ええ、今これを読んでいる生命体としてのあなたはそうでしょう。しかし、その生命体を細かく見ると話は変わってきます。あなたの身体の「肉」の部分は主としてタンパク質で出来ています。酸素を運ぶ「赤血球」は鉄を含み、「骨」の部分はカルシウムが主体です。
それらはどこから来たのでしょう。
地球生命の発生から繰り返してきた細胞分裂の結果がひとつ。生きてきた上で食物として摂取したのが一つ。ただ、その食物も、水と塩を除けば元は何らか生命体の一部。結局地球生命の原初に遡ります。そして、それら地球生命の原初たる有機物は、太古の大気に電撃(要は雷)を加えることで自然に合成されることが明らかになっています。これは、水と塩を含めて、私たちの身体が、地球の大地と大気に由来することを意味します。
(0点w)
では地球自身はどうでしょう。宇宙の成り立ちから見てみましょう。この辺は一番古い話のクセに一番先端の研究分野なので見解がコロコロ変わるのですが、今は「138億年前」と言われています。
「数式上、エネルギがゼロの状態の『無』から確率的に宇宙が生まれた」
これが最新科学が描く宇宙誕生です。たとえ何もない『無』であっても、宇宙が発生する確率が僅かながらあり、その通り生まれたのがこの宇宙だというのです。まぁそれは本質ではないので聞きかじる程度で。その後宇宙はインフレーションという一種の変身的急膨張期を経て(と言っても0.000000000000000000000000000000000001秒間位)、灼熱の火の玉として文字通り爆誕します。ご存じビッグバンです。そしてこの際、完全に滑らかな空間でなかったために、生成された水素等によって星が形成されます。宇宙最初の星です。ただ、小さい星から始まったのか、逆に密度が高くて大きな星を作ったのか、判っていません。日本の衛星が129億光年の彼方に直径5万5千光年という巨大な天体を発見し「ヒミコ」(卑弥呼)と名付けましたが、この発生メカニズムや、宇宙成長史における位置づけなどは未解明です。
この初期の星々はやがて質量の大きな物から一生を終えて行きます。質量の大きな星は核反応を激しく繰り返し、水素からヘリウム、炭素、酸素、珪素、等を生み出し、鉄まで作ります。しかし鉄より重い物は恒星活動では作られません。星はやがて自らの重さで潰れ、その際の巨大な圧力によって火の玉……超新星爆発を起こして一生を終えます。この爆発が作る超高温は核反応を促進し、ウランまでの90種類の元素を作り、宇宙へ放出します。カルシウムはこの時にできます(※)。
爆発で四散した物質ですが、同様にどこかで四散した物質と宇宙漂う間に巡り会い、巡り会いを繰り返して、やがて互いの引力で集まって濃度を上げて行きます。
(byハッブル宇宙望遠鏡広域惑星カメラ)
このわし星雲(M16)はそうした濃度の上がった領域の一つです。こうした濃くなったガスの中からまた星が生まれます。そうした星の生成と爆散を138億年の間に何回か繰り返し、その間応じた距離を漂い、最終的に46億年前、太陽系を構成し第3惑星に落ち着いたのが地球です。
ということは、そこに生まれた命を引き継いだ私たちの身体は。
炭素や鉄は星の核反応で作られると書きました。超新星爆発はカルシウムを作ると書きました。タンパク質は炭素がベースの有機物、血液の赤は酸化鉄の色、骨の基本はカルシウム。私たちの身体は、宇宙138億年のどこかで、星の中心で作られ、或いは超新星爆発で作られ、宇宙空間を億年に渡って漂い、そして天の川銀河系の中心を外れること2万6千光年、「オリオン腕」という星の離れ小島に集い、太陽を巡る地球をなし私たちの身体に受け継がれた物なのです。あなたの身体を構成する、5兆の細胞は、それぞれが幾億の時空を旅してたどり着いた「星のかけらの集合体」なのです。手のひらの細胞と手の甲の細胞は何万光年も離れた星が由来かも知れないし、その血管を流れた赤血球の鉄は別の銀河から飛んできた物かも知れないのです。
あなたの身体は宇宙138億光年の文字通り生き証人。言わば「星の子」。どうぞ安易に傷つけたりすることのないよう大切に。
スケールのでかい話になったので三十一文字でキュッと締めましょうか。
5兆なる 我が身の細胞 億万の 星の欠片を 寄せ集めて成り
※天然由来の元素は92番「ウラン」まで。しかし43番テクネチウム(Tc)と61番プロメチウム(Pm)はウランの核分裂生成で出来るので、宇宙空間の天体活動だけで生成されるのはこれら2つを除いた90種類となる。
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