TGVの技術
●冒頭の能書き
欧州、とりわけフランスの人にTGVを「フランス版新幹線」というと「ぶぶ漬けしかありませんけど?」のフランス版みたいな態度を取られる。とはいえ、高速列車の代名詞「Bullet Train」は「Shinkansen」で確立されたようなもんだから仕方が無い。TGV:Train à Grande Vitesse。日本語に訳せば「どえりゃぁ速い列車」である。何で名古屋弁やねん。
●概要
まず概要を書く。機関車2台で複数の客車を挟んだ形。客車は幅2.8m長さ18m。これは何のことはない名鉄電車の標準サイズと変わらない。比して新幹線は3.36m×25m。当然輸送力に差が出てきて、TGVでは標準の10両編成で1等車69人2等車276人。東海道新幹線N700系が16両1323人であるから比較にならぬ、と同時に、TGVの設計思想が垣間見えるであろう。大馬力の機関車2台。客車はスリム且つ小型軽量。「機関車が客車を牽引する」をシュリンクしてスピード重視に振った形である。なお輸送力不足の解消には、2列車繋いで20両運転とか、2階建て仕様のものもある。
●TGV技術の本質
そんなわけで淡々と書いていると自由平等博愛の精神から怒られそうであるが、逆に言うと、新幹線のようなブレイクスーではなくレトロフィットなので、それなりに工夫を要した。まず客車の小形化は「連接式」の導入と分かちがたく結びつく。
これは小田急ロマンスカーのものだが、車体を載せかけて連結も兼ねている。これをやるには短く・軽くなければならない(長いとカーブではみ出す)。
(はみ出す。台車が受け止めきれなくなる=短くあるべし)
そしてこれをやると、車輪=走行抵抗の低減に繋がるほか、「隣同士の車両の間で発生する押したり引いたりの振動」を考えなくて良いことに気が付くであろう。TGVは前後を機関車で挟んだ。負担する負荷のバランスが崩れると前後方向に振動が発生する。対して真ん中客車8両は連接構造で「一体」である。振動は機関車と客車の間2カ所だけ考えれば良い。
そしてこの前後振動抑制こそがTGV方式の技術的障壁でもある。二人三脚を考えて欲しい。二人が何も考えずに歩き出したら互いに文字通り「足を引っ張り合い」ろくに前へ進めないであろう。同じ理屈で、機関車二台「せーの」で動く工夫をしてある。すなわち、初期型は直流モータで、「性質上、負荷の重い方が回転数が落ちて、回転数の高い方に負荷が加わる」ようになっているため、適当にバランスする。最新型は同期電動機で、同期の名の通り、同じ回転数で回る。
そして軌道。すなわち線路……機関車質量がどう検索しても出てこないのだが、同じ4000kWの出力を有するBB7200形電気機関車が84トンなので似たような物であろう。比して新幹線は1両平均44トン。これらは軌道を構成する各部、とりわけ振動吸収。またカーブで外側のレールにかかる圧力、などに格別の配慮を要求する。欧州は昔から重い蒸気機関車を高速で運転してきた。格別の配慮に対応できる素地がある。活かせる。ちなみにTGV専用線はカーブ半径4000メートル、新設計は7000メートルより緩くしてある。また客車は軽さの副作用で躯体としては弱く、トンネル出入りの気圧差に耐えられないが、それは「トンネルはなるべく作らない。作るなら大きな断面」にて対処(?)してある。また、レールは左右僅かにハの字にしてあり、どちらかのレールに質量が偏ると、真ん中に戻ろうとするようになっている(クルマのタイヤのキャンバー角に相当)のだが、TGVでは大きな面積で質量を受け重量拡散すると共に、動力源との摩擦力を大きく確保するため、ハの字の角度を緩くしてある。なお、左右振動は前後の機関車で客車全体を軽く引っ張るように制御してやれば、ハの字に頼らず抑制できる。
以上、ある意味合理的だが、ちゃんと原理を理解して応じた手当てをしてやらないと成立しないし、こまめにメンテを要する。
●まとめ
「TGVは欧州というステージで航空機と対抗するため人数よりもスピードを重視している。それはコンコルドのスピード重視の思想を陸に展開したものに類似する」
とかよく見るが、まぁ東洋の猿に頭一つ抜きん出られたら言い訳考えるしか能があるまいて。さておきこの「重く大きな部分を有し」「格別な配慮」を要する列車システム。応じた物量、経験に立脚した暗黙知の延長線に成り立っている。機関車は大出力の高速回転を内包しており、電力・機械力・摩擦との果てしない戦いの場である。新幹線はそもそもそういうのを考えなくて済む電車方式にしたのは当然の帰結である。しかしフランスは挑み続けるそうである。
そんなもん、この国の「技術」では似たような物にはなっても未満にしかならない。逆に言うとこの国はこのシステムを理解していないと断じて良い。まぁ外面気にする同士仲良くやって下さい。
(実車写真はWikiから)
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