飛べないスズメの物語
物語なら小説ブログに載せりゃええ?うにゃ、物語の体を取るだけ。
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飛べないスズメが工場にいる。
近づくとバタバタとして逃げようとするが、左の翼は開くだけ。
工場の敷地の外へ出ることは生涯ないであろう。その代わり人の姿絶えないところであるから、人に近づかぬ敵の目を免れることは出来るであろう。不自由だが、危険は少ない。
芝地や草地はそこここにあるので、食い物に困ることもあるまい。屋外で菓子パンを食う社員もいるので、タイミングを学習すればパンくずなどにもありつけよう。
納品のトラックを待って大急ぎで道を横切り。おいおいパレットに載ってるのは電磁鋼板だぜ。ナイフみたいにスパッと切れる。近づくな。
剪定業者が草を刈った後、土くれで砂浴びをしていることがある。たまに雨が降れば、片隅の水たまりで水浴びをし。あまり質のいい水じゃないんだけどなぁ。
人への警戒心は持ち続けているようだ。逃げられない境遇を知っているので、あらかじめ距離を取る。野生の知恵だ。ちなみに工場には野良猫もいるが、今までは回避出来ているらしい。
その代わり常に動いていると見え、著しく体力を消費するであろう。使えぬ翼は応じた筋肉の不足を示唆する。鳥類は恒温動物だが、その温度は筋肉で作る。動かないというのは副作用を想起させる。
距離は取るが一定以上に離れはしない。人のそばが安全であると恐らくは知っている。
雨降るとスギの木の下で膨らんでじっとしている。じっとして隠れてるつもりかい?でも俺には見えてるよ。少し意地悪に見つめてやると何やら躊躇うように震える。逃げようかどうしようか、鳥でも迷うという情動を持つのか。
彼か彼女か知らぬ、このスズメを知っているという他の社員の声は聞かぬ。傍目にはチョンチョン散歩のように見えるであろう。飛ぶかどうかまで見届ける者はない。
そんな怖そうな目で見るな。お前のディテールを見ているだけだ。毛づや悪いしやっぱ小柄だよな。でも、お前逃げちゃうから、何も出来ないぜ。
午後、彼か彼女か、インバータドライブで轟々回る大きな室外機の下で目をぱちくり。
生きろよ。
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