命を奪う80センチ~チリ沖地震と津波に添えて~
チリ沖でM8.3の地震と聞いて注視を開始した。1960年「チリ地震津波」を筆頭に、この地で生じる大きな地震の津波は日本に達するからだ。チリ各所で観測し最大5メートルほど、深夜0時にPTWC
Pacific
Tsunami
Warning
Center
のハワイ測値を見に行き1m弱。「チリ地震津波」の際、ハワイの波高は10~11m程であり、三陸で5mであるから、単純に1/10して日本でも50センチ。条件により倍と見て1m近くになる可能性がある。結果、午前1時の気象庁会見を見て仮眠、午前3時の津波注意報で最大1m程度を確認し、ようやく就寝とした。これは親族が伊勢湾岸に住むことによる。ちなみに伊勢湾岸は志摩半島と渥美半島が太平洋に対し堰の役割をなし、全体で「Ω」の形となるので
(学研の図鑑「海」p67。1973年)
この理屈により「太平洋から来る」津波は大きくなりにくい。最大1mなら、それ以下と考えて良く、親族の居住地まで迫ることはない。但し、南海トラフ地震の一つ明応地震(現行の暦で1498年9月11日)の津波で、現在の三重県津市が壊滅しており、伊勢湾自体に津波が来ないわけではない(Ωの理屈を踏まえると震源が伊勢湾に食い込んだか、至近であったのであろう)。
そして、予報された時刻より襲来し始め、2~3時間後の8時~9時にかけて、各地最大値を記録し、以降減少し、16時過ぎ、注意報は解除された。検潮所の最高値は久慈港80センチである。
80センチ。
プールでそれは「立てる高さ」であり、大人の腰より高いか低いか、そんなもんである。では思考実験、そのプールで歩いてみる。道を歩くのと比べて大きな抵抗を受けるのが判る。同じ深さで「流れるプール」を考える。流れに逆らって歩くのは至難であろう。その高さで津波は時速40キロで陸を走る。
今回の津波でもネット記事のコメント欄など「小馬鹿」にしたような内容をよく見た。スマトラや東日本大震災の津波動画が多数あるにもかかわらず、理解されていないのかと残念に思う。津波は「波」の文字の故に、一般的な寄せて引く波(風浪)の大きなものと誤解されている部分は多くあろう。
こういう系の映画なども大きく影響している。しかし実態は書いたように「時速40キロで地を走る海から来る洪水」であり、工学的にはステップ状
┌
┘
の変化を持つことから、様々な周波数成分を有しており、地形と波が来る方向によって「共振」の条件を満たすと一気に大きな波にもなり得る。
以下、津波に関する良くある通説と誤解を書いておく。
・壁のような波
そのステップと条件が合致すればステップがそのまま発生する。「段波」という
但しこのパターンはむしろ「稀」。条件が整わないと発生せず、多くの場合、波が来てどんどん高くなりそれがいつまでも止まらないとか、波というより満ち潮のように海面が高くなりはじめ防潮堤を越えて溢れても止まらず高くなり続けるとか、そんな態様を示す。
(2分50秒くらいから)
・最初に大きく引く
これは全くの誤解。昭和三陸が正断層(太平洋プレートが凹んだ)タイプであり、応じて引きで始まったところもあるかも知れないが、1波目が押しか引きかは地形や津波の襲来方向で大きく変わる。
・1番大きな波はどれか
ステップを作り出す動きそのものが波になるし、ステップが海水を押すのでそれもまた波となる。ステップが何番目になるかは都度違うし、波は浅くなると速度が落ちるので、先行した波にステップが追いついてしまい、結局1回にまとまってしまうこともある。一概に言えない
・リアス式海岸が恐ろしい
それは正解だが「リアス式でないなら問題ない」という裏返しは誤解である。仙台平野をそれこそ時速40キロで全て飲み込んでいった動画は誰もが知るところ
(毎日新聞)
次回は、どこで起きるか、誰にも判らない。だから、誰もが知っておかなくてはならない。
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