中学生でも分かる「ハイレゾで音楽聞こうぜ」:前編・音楽をデータに変える
●冒頭の能書き
ソニー系の音楽配信サイト「mora」から、ハイレゾで楽曲を出しているShihoRainbow氏とこんなやりとり。
ハイレゾ=ハイレゾリューション:HighResolution…高解像度。要は高音質音源。
の、女の子向け講座か。
「ハイレゾの解説本」って確かにゴロゴロあるのだが、ハイレゾを聞くという行為自体は、現在、その辺でひょいとキカイを買ってくれば済むものではない。
(キカイ、の例。iFi audio「nano_iDSD」)
それ以前に、「音楽を聞く」というのが、「スマホにブックマークしているネット動画を見る」というのが「常識」の世代には、「いい音で聞きたい」という動機をまず持ってもらわなくてはならない。解説本やメーカーのハイレゾ誘導はその辺が欠けている。
「高音質で聞きたい=当然」という前提で書いてあるからである。実際には「タダだがとりあえず聞ける」から「じゃぁハイレゾのキカイ買って音源も買う」という段階へまず移行してもらう必要がある。だのに機械を買えという底意ミエミエではそっぽ向かれて当然である。
若い鋭敏な耳だからこそ、音に満ちあふれた幸福な空間を体験してもらいたい。
(ドヤァ)
本当に訴えるべきはこれだろう。そこで、2回に分けて、その辺を解説する記事を企んだ。この第1回では、「音楽をデータに変換する」仕組みを女の子、否いな「中学生でも分かる」レベルで解説し、ハイレゾ音源の「凄さ」を、まぁ、淡々と書く。
1.音楽信号の正体
これはShiho氏の曲「ColorTalk」5分間の音楽信号を表示させたものである。
更にその冒頭部分の「一瞬」を切りだしたのがこのぞびぞびした波形である。音楽信号はこのような連続的な電圧変化で構成されている。
2.音楽をデータに変換する
20世紀(!)のオーディオは基本的に、この波形をそのまま記録し、再生していた。「レコード」では円盤にぞびぞびをそのまま刻み、「カセットテープ」では磁力の強弱に変換して記録していた。一方、「CD」(コンパクトディスク)では、データに置き換えた。
(Wiki:「PCM」より)
ぞびぞびより波1発分と思っていただきたい。時々電圧を測ってやり
1:8
2:9
3:11
4:13
…と、並べてやるのである。音楽に戻す時は、一定の間隔で、電圧を作って流してやればよい。元の滑らかな信号に対してガタガタみたいに見えるが、「フィルタ回路」を通してやると、ガタガタがスムーズになる。
この
①「データさえ正しければ音楽信号に戻せる」こと
②ディスクに刻まれたデータをレーザー光線で読み取る=すり減るなど劣化が起こりにくい
を武器に、コンパクトディスクは商品化された。この時「データ化する回数」と「音楽信号を幾つのステップのデータに変えるか」は、当時の技術水準で、1秒に44100回、65536ステップ(2の16乗=16ビット)、と決められた。44100回というのは、人間の耳が2万ヘルツまで聞こえるので、それをカバーするには、2倍程度の回数でデータに起こせば良い、という理論に基づく。
3.ハイレゾの出現
とはいえ、CDは「大元の生の音楽信号」とは音質に差があった。「ガタガタはフィルタで滑らかになる」と書いたが、本当の大元には戻らなかったのである。上の画像で波1発を13回、データに変換しているが、20000ヘルツの波の場合、4回しかデータに変換されないのである。このことは高音になるほど再現性が劣る、という弱点があることを意味した。ピアノやバイオリンといった、高音の多い楽器でリアルさを欠いたのである。
解決にはデータに変換する回数、ステップの回数を増やすのだが、データが大量になるため、処理するコンピュータ回路、記録するオーディオ機器の進歩を必要とした。2000年代になってようやく、この辺がマトモに扱えるようになり、CDの2倍4倍のデータ変換、ステップ数も2の16乗(65536)から24乗(16777216)へと飛躍的に増加した。この辺のデータ量増大を図にしてみよう。
色つきがCDやDVDの音声として標準的に使われているエリア。その外側が「ハイレゾ」のエリアになる。多くが96/24。音質に凝ったものは192/24。一部実験的だが384/32などという高音質のものもある。
ちなみに192の場合、20000ヘルツに対し10回データ化するタイミングが得られる。上の絵は13回だが、ほぼ同等であり、人間の耳に聞こえる20000ヘルツをまぁ充分再現出来る能力を持つことがわかるだろう。もちろん、理論上は超音波まで収録出来、「聞こえない音を聞くのか?」と揶揄(やゆ)されるハイレゾだが、「超音波も録音出来る能力を持つことで、20000ヘルツを確実に保証する」のがその真の目的である。
(ドボルザーク53番バイオリンソロの部分。40000ヘルツまで倍音が収録されている)
(Kalafina。女性3人のコーラスボーカル。30000ヘルツちょっとまで入っている)
「クラシック」というと、ちょっと敷居が高いように感じるかも知れない。でも、ハイレゾで収録されたピアノや弦は、鳴っているだけで自然で心地よく、綺麗と感じられる。作曲家が~曲名が~指揮者が~んなものはどうでも良くなる。そしてオーディオ向きの心を持つ人は、それだけで虜になるであろう。
「どんな音楽か」を知るにはネットの動画で充分かも知れない。でもそれは「歌手や演奏家が込めらた全てを聞ける」ものではない。対しハイレゾは「込められた全て」に極力迫ろうとする試みだ。
ColorTalkハイレゾ版はその1曲だけでCDに収録出来るデータ量の1/3のデータを持っている。歌詞とメロディだけ分かれば、それで、いい?この膨大なデータから再現された音楽がどれほどのものか、聞いてみたいとは思わないか?
(つづく)
■発展
・この一定間隔でデータ化する方法をPCM:pulse code modulation。パルス符号変調という
・データを数字で表現したが、コンピュータは「オン・オフ」「電圧が高い・低い」という2つの状態の集合体で信号を処理する。なので、65536ステップ=0~65535までを、0と1だけで表現した形式に変換する。
0:00
1:01
2:10
3:11
4:100
5:101
6:110
7:111
(中略)
65534:1111111111111110
65535:1111111111111111
この0と1だけの状態が「デジタル信号」である。CDは16ケタで16ビット。ステップ数は2の16乗となる。24ビットでは8ケタ増やしただけだが2の24乗=1677万ステップまで飛躍的に増える
・CDを始めとする光ディスクでは、この1と0を「レーザー光線が反射する/しない」で判別している
・オーディオで使われるデジタル信号への変換にはPCMの他に「DSD:Direct Stream Digital」が主に使われる。同じくハイレゾ音源である「スーパーオーディオCD」に採用されている。DSDとPCMの間はコンピュータでの演算で相互変換出来る。
スーパーオーディオCDの例。但し、ポータブルプレーヤへ取り込むなど、中のDSD信号を取り出すことに強い制限が掛かっていること、専用のプレーヤーが必要なことから、殆ど普及していない。
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