出たらメンテ
樹脂パーツの不具合。
「金型のメンテは定期的にされてますよね?」
「定期的ではありません。全数検査をしてまして、不具合が出たらメンテとしてました」
こういうのを勝手に「でたらメンテ」と呼んでいる。「でたらめ」の意味合いも含む。少しキツい物言い。ちょっと解説する。
樹脂成形は「金型」という
作りたい製品の形を彫刻した金属の型枠に溶かした樹脂を流し込み、
キュア(cure:硬化処理)を行い、
同じ形を量産する。ただ、樹脂に比して圧倒的に硬い金属でも、繰り返せば劣化するし、樹脂から出るガスなどによる腐食や、単純にゴミが入り込むなどで出来映えが悪くなる。このため、型の清掃や、程度が悪い場合は削り直し、交換に至る。今回はこの「清掃」の実施頻度に問題があった。
実は金型のメンテナンスは大手間である。100キロ以上の金属の塊を外し、下ろし、分解し、高価な洗浄用薬液でブラッシングしたり洗浄槽にドボンしたり、場合により彫刻のやり直しをしたり。これをまた戻して位置を調整し、テストショットを行って出来映え確認、これでようやく元に戻る。一連の作業に掛かる時間とコスト、その間製品を作れない事による機会損失…馬鹿にならないのである。
で、たとえ話を一つ。あなたは「家の蛍光灯を交換する」のはどんなタイミングだろう。「切れたら」が普通だろう。「切れてなくても年一回」とか書いたらモッタイナイと思うであろう。一方で痴漢街路の照明が切れていたりすると、切れないように定期的に交換しろやと思うであろう。
金型のメンテもこれと同じような、立場によるタイミングの違いが存在する。「全数検査で異常が出れば」…理解は出来るのである。が、不良が出て迷惑を被るのはお客様なのである。
そして実は「異常が出れば」はひっくり返すと「問題ないと判断すれば」継続という意味になる。ここで「少しずつ」劣化する場合、次のようなことが起こる。まだ問題ない→昨日とほぼ一緒だから問題ない→昨日と一緒だから問題ない→積み重なると。
「でたらめ」の意図はここにある。少しずつ変わって行くので正常と異常の境目に気付きにくいのである。トラブルが生じたとき、ドコまで遡って再確認が必要なのか明確な区分けも付けにくい。当然是正されるまで生産も止まる。言わば「僅かなモッタイナイ」のために「大きな損失」を被ってしまったことになる。文字通り「でたらめ」ではあるまいか。
「**回ショットで清掃、確認と工程表を改定しました」
「お願いしますね」
同じ品質で作り続けるって大変なのよ。
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