「ひたち22号」の話
先週末の福島県沖地震で東北新幹線が不通になっているのはご承知の通りで。
この代替輸送手段として、JR東日本は、各航空会社、高速バスに声をかけた他、自社でも常磐線経由の臨時列車を用意した。すなわち、通常いわき駅で終点となる特急「ひたち」の一部を快速列車として仙台まで延長運転することにしたのだ。
2月15日月曜日。折からの爆弾低気圧がもたらした大雨と強風により、途中から「ひたち22号」になる快速は仙台発13時57分のところ、4時間遅れの17時57分にようやく発車した。
通常ダイヤで5時間。そこを4時間遅れで出発したらどうなるか。
東北本線と分かれる岩沼駅。ここで列車の中では前途について検討中と案内が流れた後、
「受験生が乗っていないか車掌が聞き取りに伺います」
そして。
「上野行きに変更し、上野到着は明朝になります」
との放送が流れたのである。そう、運転打ち切りなどの手段を執らず、是が非でも東京・上野まで走るというのだ。
常磐線は海沿いを行く。列車は雨や風の影響で、何度も安全のための運転見合わせを繰り返し、
余震にも見舞われつつ(書いてるそばからこれだ)
快速から特急に切り替わるいわき駅に到着したときには日付をまたいだ0時7分。実に7時間59分の遅延になっていた。
だが、ひたち22号となった列車は夜闇を光芒で切り裂いて可能な限りの最高速度で疾駆した。
「上野到着予定は午前2時半頃になります」
車内には途中から積み込まれたパンなどの軽食やミネラルウォーターなどが配られ、雨と風のエリアを離脱し、東京目指して走り続けた。
そして午前2時38分。長駆の果てに上野駅にたどり着いたのである。
……以上があらましで、熱き血に燃える細かいところはツイートまとめなど見ていただければ良いとして。
主題はここから。このブログではJR東日本のこうした「臨機応変の対応・危機管理」についてこれとかこれとかずいぶんダメ出しをしてきた。駅からずいぶん離れたところで停電して止まったのに「安全のため」を優先して窓の開かない蒸し風呂電車で乗客が体調不良とか本末転倒もいいところである。確かに、安全に関するルールは尊い犠牲の反省によって追加されてきた経緯があって、コンピュータ制御にそれが組み込まれた結果、逸脱すると解除が難しいロックがかかる。駅から少し進んだところで事故ならバックすればいいじゃんとか誰もが思うのだが、「後退」に変換できないのである(抜け道はあると思うけどね)。
それが今回、受験生のためにと雨風ぶっちぎり夜闇を突いて全力疾走という強引とも思える選択をした。状況次第の成り行き任せで走らせた上、元々ダイヤがない時間帯に特急列車一本仕立てて全速力でぶっ飛ばす(水戸→上野の運転時分は日中と変わらない)。信号踏切は勝手に動くからいいとして、集中管理で確認する担当はいるし、そもそも深夜帯は列車がないのでメンテナンスに割かれることが普通で、応じた人の手配、臨時列車の通知など、多くの協力と「末端までの完全・安全な」対応が講じられたわけだ。実際、保線チーム向けと思われる汽笛吹鳴が何度もあったとまとめサイトを見ると判る。雨風を押してなお是が非でもという思いがこの列車を上野へ届けたと言って良い。
上野到着後は始発までそのまま仮眠等に使えたようだが、乗っていた受験生は心配と疲労で一睡もできなかったのではあるまいか。
しかし、列車は到着したのだ。それは君たちに「行け」という運命の女神の導きであろうし、前途の苦難乗り越えてゴールしたこの列車に乗り合わせたことこそは、君たちが同じく苦難乗り越えられることを暗示する。
インバータドライブでベクトルぶん回して突き進め。爛漫の桜花がきっと君たちを待っている。
ひたち22号の受験生に幸あれ。
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