TAD-ME1(その2) #ハイレゾ 【ハイレゾ音源再生】
1.導入の経緯
TAD-ME1。2016年発売の機械を今更細かく書いても仕方がないのでさらっと。モデル名のMEはMicro Evolutionで同社最小のシステムである。最小言っても質量は20kgある。パイオニアは21世紀以降のオーディオ需要個別化(要はスマホで無料動画を見れば十分)の影響でブランドだけ維持されている状態だが、R&D部門であったTADは別会社として存続、その名を冠した機器類を販売しており、本機はその「もっともエントリークラス」となる。一見すると2ウェイだが、白いマルの中はツイーターとミッドレンジが同軸配置されており、TADシステムのキモ、CST(Coherent Source Transducer:訳・位相の揃った変換器)を構成する。要はこの中が2ウェイで、全体としてはプラスウーハーの3ウェイ。ちなみに発音ユニット単体商売はプロユース(録音スタジオ等向け)に元よりTADの名で実施しており、販路が一般オーディオヲタにも拡大した形。スピーカが主力だが、アンプ、円盤再生機、ケーブル類なども販売。値段はいずれもべらぼうである。
TADを本気で考えるきっかけになったのは、まずはこのME1自体のリリースである。名古屋では「オーディオフェスタ」という音キチ向けのイベントをヤッているが、そこでTADはブースを出しており、聞いてしまったからには仕方がねぇ。前記貼り付けたエクスクルーシヴのホーン型と、現行TADの同軸システムはコンセプトが違うのだけれども(※)、そこに浮かび上がったのは「正確無比」で、スピーカの存在を感じさせない「音楽の流れる空間」だ。そして、べらぼうに感じた値段も、サラリーマン生活長いことやってれば、「ムリ」な金額では決してない。そこへ、2013~14年頃のウォークマンZX1をトリガとするハイレゾ音源の普及にオーディオの買い替え時期が重なり、音源はデノンDCD-SX11、そしてアンプはアキュフェーズE-470と相成った。応じたスピーカーを用意したくなるのは当然の成り行きだった。その「オーディオフェア」の時代はウォークマンで聞くために如何にカセットテープへ純度高く録音するかが最終目的で、ゆえにCDプレーヤはアキュフェーズだし、録音機もパイオニアの10万円、だったのだが、こんちウォークマンはサーバから好きな曲選んで放り込むモノ。家で音楽聴くキカイは再生、アンプ、スピーカがあればよく、応じてコストのバランスも変わる。そうこうしているうちに戸建てへの転居となった。「いつかはクラウン」とはトヨタの有名なキャッチコピーだが、「いつかはTAD」は達せられる条件が整ったわけだ。「機は熟した」のである(クルマはNOAHだぞw)。
最も、メインを張っていたスピーカはトールボーイ型のヤマハNS-F500で、容積が小さくなるME1への変更は、低音への影響を考え、多少、抵抗があった。エンスージャストの定番はB&Wだし、テクニクスからサイズと価格に見合う新製品も出たのだが、その価格+αでTADになるのだ。最終的な試聴で決めるべく、ウォークマンと円盤大量に抱えてお店(オタイオーディオ)にアポ取って出かけた。
※2023/05/02補遺:Philewebのインタビュー記事でホーンから同軸に設計変更した理由の記載あり。引用すると「2ウェイで全帯域をカバーするシンプルな設計の良さを生かしつつ、家庭のリスニング環境でもなめらかな拡散と広帯域再生を両立するためには同軸型のCSTドライバーが最適なのです。ホーンではサイズが大きくなりすぎてしまうので現実的ではありません」ほーん。なお、パイオニアの「同軸型」発想自体は戦前に遡る。ポッと出の発想というわけではない。
2.決断
お店には現有機に近しい構成の方が比較しやすいからとデノン→アキュフェーズの組み合わせを希望していたのだが、試聴室で鎮座ましましてヒートランされていたアンプはアキュフェーズ、ただしE800。音源はディスクがエソテリックK-03XD、USBメモリは同N-01XD。まあ、十分すぎるほどに十分である。
「丁度つながっていまして」
ひととおり挨拶などしてご自由に、ということでウォークマンZX507からUSBで叩き込む。kalafina、ユーロビート、溝口肇、新垣隆氏のシューベルト、ケルティックウーマン、サラ・オレイン、ダイアナ・クラール、天使のハープ(教会のゴシックハープを高いレートで録音)、Rebecca、プリキュア(!)。
出てきたのは何度も聞いた音。ただ、独り占めして遠慮無く聞くと「味わえる」。
まず書けるのは、使い古された表現になるが、そこにスピーカーは存在しない。ただ、音楽の作る空間だけがある。システムに提示されたのは、「音楽の流れるステージ」であった。スピーカの両翼に、そして奥手に、高さ方向に音楽は演奏された。音場生成はスピーカから前へ広がる方が好きっちゃ好きだが、スピーカの存在は聞こえないのでどうでもええ。そして気づきとして「高さ」方向への展開を感じた。両翼、奥行き、高さ方向も音がある、音楽を見上げているようだ。「音が見える」という共感覚の持ち主の気持ちが分かる気がする。俊敏に立ち上がり、静寂に落ちる。ディスコサウンドでも汚れることなく打ち込まれた電子音を綺麗に解像して寄越す。
ブックシェルフで上下に広がる要素はないはずなのだが、こいつCSTで「点音源」を目指したと考えれば合点が行った。ピンホールカメラと一緒で、ピンホールを介して元の音場がコピーされて出てきたのである。そしてそれは「どえらい」ことだと更に気づかされる。転写性能がすごいと言うことは、雑な作りの音楽は雑に再生される可能性があるということだ。作り手が「ラジカセ等での再生も念頭にバランスを考えて」とか、マキシマイザでマシマシののりぺったんとか、「純度の高い音を寄越せ」という音キチにはヤキモキする「音作り」に接することがあるが、そーいうのはそのまま出てくると推察される。
それはまず、ハイレゾとCDとの「差」として顕在化した。
円盤音源。ヴァーブレコードのジャズ、新垣隆氏のチゴイネルワイゼン、ヴィヴァルディ「四季」、ジェニファー・ウォーンズ、水樹奈々のキャラソン集、プリキュア。
まず96/24や192/24は美しく再生された。なめらかに音楽信号が紡ぎ出された。「サルタレッロ」のハープ弾ける「ピン」という音は、STAXほどではないにせよ、インパルス成分を限りなくそれに近く空間に放った。ダイアナ・クラールの「口のサイズ」はちょっと大きめ、まぁ2チャンネルダイレクト録音でないなら、声の音像そのものは幻だから、そんなもんだろ。
DSD/SACD組、ジェニファー・ウォーンズは口元ちいさく、音楽は左右に好ましく広がる。水樹奈々はふわりと浮かぶような楽曲だが少し硬め。「ます」の弦楽はとにかく豊かに鳴り響いた。いつも弦には倍音が~だからハイレゾが~とか書くのだが、その生っぽさはそうした成分をしっかり再生できている裏返し。「きつさ」や「硬質さ」は全くない。アキュフェーズにせよTADにせよ、きつさを苦にする声を聞くが、自分の場合は「好きな方向」となる。ちなみにラックスマンは「聞いてて心地よい音だがちょっと物足りない」となる。余談はこのくらいにして、要は周波数特性的にはストレスなく突き抜けている、ということであろう。「特にここが伸びている」という書き方できないが、逆に言うと気になると感じた部分はない。
これがCD、およびそのリッピング音源に変えると厳しい状況に直面する。
スカスカなのだ。圧倒的に音が足りない。ちぢこまり、ぼける。録音の古さや、レベルをいじったであろう痕跡のノイズを拾ってしまう。「ハイレゾが良い」と固定観念を持って聞いているから?ここまでCD音源とハイレゾの音質差を如実に「思い知らされた」のは初めてかも知れない。もちろん超音波が聞こえるわけではない。CD音源は情報量が少なく、雑で、浅いのだ(そこまで言うか)。「デジタルで肝要なのはサンプリング周波数ではない、階調(ビット深度)だ」と言い切る評論家氏がいるが、気持ちは分かる。ただ、波形再現性(高域の位相特性)はサンプリング周波数がモノをいうので、理屈の上では正しくない。
ともあれ、聞いた結論は、「音質の良い物を用意するしかないね」であった。音質という点で、買うか買わないかは、(脳内の)議論の余地はない。
知ってしまったからには、もう戻れない。事象の地平面を突っ切ってしまえば、吸い込まれるのみ。
ちなみに比較するのもアレだが現有機「NS-F500」が頑張っている部分があるとすれば低音である。容積が効くので当然だが、裏返せばギュッと制動されているのかも知れぬ。まぁバスレフ機だし壁との距離もろもろで調整はできよう、部屋は四角四面の京間なので共振点は62.3、70.8、93.4Hzあたりを持っている。足りなきゃトーンコントロールで盛ればいい話。基本的に多少ハイ上がりで聞くので(これはSTAX聞いてる所為)、元々高域が突き抜けているこいつは低音増しくらいで丁度良いかも知れぬ。
具体的な運用法を考え始めたところで答えは一つである。
「いかがですか?」
「こいつでお願いします」。
そして2021年10月23日。着荷したとの報を受けて「お迎え」に行く。
夢の機械、我が家へようこそ。
(つづく・音質の話)
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