#ハイレゾ USBケーブルで音質は変わるか?(4)
●S/PDIF
「CDプレーヤ」というシロモノを、「CDからデジタル信号を取り出す機械」(トランスポータ)と「デジタル信号を音楽信号に復調する機械」(DAコンバータ)とに分けた「セパレート型」という形態にしたのは日立である(1984年)。このとき、デジタル音声信号は周波数帯域にして2MHzに及ぶことから、伝送用には映像用(当時NTSC規格4.3MHz)に対応した同軸ケーブルを用いた。その後登場したアキュフェーズのセパレートでは、モータ制御系の多いトランスポータを電気的に切り離したい、という目的から、デジタル信号を光の明滅で送る「光デジタルケーブル」(東芝のトスリンク)を導入した。で、「同軸デジタル」と「光デジタル」が令和の今に継承されるのであるが。
今日び、こいつらケーブルを求めようと店や通販サイトに行くと、HDMIやUSBによるデジタル伝送と区別するためか、「S/PDIF」というカテゴライズで売られている。S/PというのはSonyとPhilipsを意味する。ソニーは言わずもがな、フィリップスはオランダの電機メーカであり、ソニーと共同でCDというシステムを開発したメーカである。「フィリップスって電気シェーバーの会社じゃないの!?」という感じだが、そもそもCDの親分に当たる光学式ビデオディスク「レーザービジョン・ビデオディスク」(レーザーディスク)を開発し「光ディスク」という奴を世に送り出したのは他でもないフィリップスである。
レコードのサイズ(直径30センチ)だったが、ここにデジタル化された音楽信号を入れた「デジタルオーディオディスク」として、レコードに変わる商品に仕立てようという流れを経て、持ち歩くことを目した手のひらサイズ直径12センチの「コンパクト」・ディスク・デジタル・オーディオ・システムが生まれるのである。なお、フィリップスの技術自体は現在デノンと同じ資本に属するマランツブランドに継承されている。
前置きが長くなったが、そんなわけでUSBで送られた「データ」は、最終的にS/PDIF=Sony Philips Digital InterFaceに準拠した「信号」に復調される。そしてここに、「顕微鏡サイズの凸凹にレーザ光線を当てて戻ってくる/来ないを検出する」という、心許ない仕組みのゆえに仕込まれたデータ誤り検出・復元の技術が採用されている。大きく分けて次の2つ(実際には3つ)の技術である。
1.CIRC
cross-interleaved Reed–Solomon code クロスインタリーブ・リードソロモンコード。賢者で名高いソロモン王にちなんだみたいな感じだが、リードとソロモンは開発した技術者の名前である。この仕組みは「クロスインターリーブ」と「リードソロモンコード」に分かれる。
①クロスインターリーブ
これは元々「123……と順番にデータを読み出したいが、1を読んで処理している間にディスクが回転して2の領域を行き過ぎている。2を読むためにはディスクが1回転して戻ってくるのを待つ必要がある」という問題を解決するために、「じゃ最初から2を読めるタイミングに2をずらして置いておけばいいじゃん」という発想の元、データを並べ替えた(インターリーブした)ものである。エラー訂正というよりは、その時代の回路・CPUの遅さをリカバリする技術と言って良い。現在のハードディスク、そもそも円盤を持たないSSDには「遅さのリカバリ目的」では採用されていない。ただ、これの副産物として
123456789
142857369
並べたデータの赤文字の部分をエラーで読めなかったとしよう。上段だとごっそり抜けてしまうが、下段「インターリーブ」されたデータセットの場合、並べ直すと1×34×67×9となり、×の部分は前後のデータからその中間じゃね?という推定で補間ができる。これを利用し、エラー対策としてある。
②リードソロモン符号
まず、「8ビットのデジタル信号」を0から少し書き並べる。10進数の0から7に対応する。
00000000
00000001
00000010
00000011
00000100
00000101
00000110
00000111
「0」だらけ「1」だらけのデータセットが多いのがお分かりと思う。正しいタイミングでどっちなのか判断できないと「0や1がいくつ連続なのか」分からなくなる、と類推できるであろう。
なので。
一定のデータセットに対し、読み替え用のデータセットをあてがう。123456789をABCDEFGHIに変換してディスクに書いているようなものである。復調の際はAと読み取ったものは1に読み替える。
で。
リードソロモンコードでは、「ABC~」側の生成に対し、線形代数の「ガロア体」の概念を使っている(説明しない)。要はこれにより数学的な一定の法則の下に「ABC~」側を生成し、誤り訂正の符号を付加して「記録・送信用の信号列」とすることで、受信側で逆演算して誤りを訂正して復調できる……と理解されたい。
2.EFM変調
eight-to-fourteen modulation:8→14変調。CDは16ビットなのだが、8ビットごとに14ビットの別の信号に置き換えて記録してある。
これは↑に書いた「0や1が連続して正しいタイミングが分からなくなる」ことへの対策の一つで、「二進数の2つの"1"の間に最小で2個、最大で10個の"0"が必ず入るように選択」されている。すなわち人(具体的にはフィリップスのイミンク:Kornelis Antonie Schouhamer Immink)が工夫して考えたデータテーブルである。
10進 | 2進 | EFM |
---|---|---|
0 | 00000000 | 01001000100000 |
1 | 00000001 | 10000100000000 |
2 | 00000010 | 10010000100000 |
3 | 00000011 | 10001000100000 |
4 | 00000100 | 01000100000000 |
5 | 00000101 | 00000100010000 |
6 | 00000110 | 00010000100000 |
7 | 00000111 | 00100100000000 |
まぁこんな具合(8ビット全部=10進数255まである)。言ってみれば「暗号セット」で、どんなオーディオ機器もこの読み替え用データテーブルを持っており、これを参照して「生のデジタルデータ」にたどり着いている。
●ここまでのまとめ
楽曲信号→PCM/DSD変換→生データ→CIRC処理→EFM変調→(CDやデジタルオーディオケーブルでやりとりするのはここ)→パケットに切り分ける→(USBでやりとりするのはここ)→記憶装置内のデータ
以上「前座」。全部読んで下さった方はお疲れ様でした。あ、専門家の皆さん、これオーディオヲタク向けにかなり端折ってますので突っ込まないでね。
ではUSBケーブルで音質が変わる要素はどこでしょうw
(次回・最終回)
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