VVVFインバータという奴(その2)
では「鉄道ピクトリアルNo.1011」を教科書に、補足を入れる形でブツクサ書いて行きます。図版等は基本的に同紙を参照してもらって。
・インバータと言う語とその目的
invert+er。「反転」。これは「交流から直流に変換する装置」が先に出来て「変換器」(convert+er=converter:コンバータ)と名付けられたため、後から出来た「直流から交流に変換する装置」は、その逆の動作ということで反転装置・インバータと呼ばれるようになった、という経緯による。なお、最初の交流直流変換装置はスイッチがモータの回転で順番にカチカチ切り替わって行くというシロモノで、ゆっくり切り替えて行く必要があった。同好諸氏におかれてはスイス等欧州の交流電化で「帯分数表記16(2/3)Hz」(50Hzの1/3)という周波数の存在をご存じの向きもあると思うが、これはその「回転式変流器」をゆっくり回すために考え出された。
この人もそう。
・インバータの基本
最も身近な交流は家庭のコンセントである。ここにオシロスコープを突っ込むとこういう波形が観測できる。三角関数正弦波・サインカーブという奴で、交流電圧波形というとこれのイメージがある。が、「交流で動く機械」にとって、正弦波かどうかは実は余り問題にならない。プラスとマイナスが決まった回数逆になるならそれで交流の条件を満たす。ピク誌の図1をご覧頂きたい。スイッチS1と同S4を同時にオンにすると、「交流」と書いたところには、上の端子に+、下の端子にーが取り出せる。次にS1,S4をオフにし、S2,S3をオンにすると、「交流」部分には逆の電圧が出てくる。出てくる電圧は直角直角のギザギザ波形
であるが、これでもちゃんと交流の電気として通用する(※)。こういうのを「矩形波(くけいは)インバータ」と呼ぶ。最も簡単なインバータのひとつで、「車の中で家電製品を使おう」みたいな安いインバータや、同好諸氏には「マイネ40が当初付けてた蛍光灯のトランジスタインバータ」がこれだと書いておこうか。なお、鉄道用でもGTO素子を使った初期のインバータでは、最高運転周波数付近はサインカーブに近づけようとせずこれだった(1パルスモード)。また、家電用でも20kHz位で動くIHクッキングヒータや、60~100kHz位で動く照明用インバータなどはこのタイプのインバータである。
※この矩形波を「フーリエ級数展開」という数学的処理を施した数式で表現すると、多数のサインカーブの集合体として記述できる。そのうちの一番目立つ正弦波の成分で駆動されていると解釈される
(照明用のインバータ回路)
・三相用インバータ
鉄道車両の駆動用に使われているインバータで作る交流は三相交流である。
ピク誌図2をご覧頂きたいが、正弦波交流が3つ順繰りに流れてくる。3つの電線で3つの交流電源を少しずらして流している。これが三相交流である。モータに流すと順繰りに磁力が発生して回りそうな気がするだろう。そしてその通り交流電源=インバータ装置は3つ必要になる。三相交流の電源と負荷の関係を図示すると一般にこうなる。
「~」のついたマークが交流電源。「Z」は誘導電動機に入っているコイルと考えて頂ければよい。すると「~」の部分に上記4つスイッチのインバータがそれぞれ必要なように思えるが、3つの電源は時間的に少しずつずれながらプラスになったりマイナスになったりするので、スイッチは半分ずつ共用でき(1つの電源がプラスに繋がっているとき、他の2つはマイナスに繋ぐ)、2個ずつ3セット、6組で三相交流を得ることが出来る。これでめでたくピク誌図2のスイッチ6個の回路図に到達できる。で、スイッチのことを「アーム(arm:腕)」と呼ぶのだが、これは冒頭に書いた「機械スイッチ式コンバータ」で、スイッチが動く有様が「腕を動かしている」ように見えたからだ……という説をここでは主張しておこう。そして、「機械スイッチが付いて来られるスピードのために、周波数の低い交流を作ることが必要だった」という事実をひっくり返すと、「好きな周波数の交流が得られるインバータ装置を作るには、高速なスイッチが必要」となり、実験的には真空管スイッチ、本格的には半導体スイッチの出現までの長い時間がかかったのである。
(註:三相の中性点の話はスイッチの実動作の方が直感的に分かりやすいので触れなかった)
« VVVFインバータという奴(その1) | トップページ | VVVFインバータという奴(その3) »
コメント