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2023年4月 9日 (日)

VVVFインバータという奴(その7)

・制御方式と「音」の話

インバータの歴史は「使える半導体とその制約。および制約を越える工夫の産物」で積み上げられてきた話は前に書いた。この結果がニョジツに反映されているのが、インバータ制御の電車から出てくる「音」である。電磁石の実験の話で、自分の磁力で自分を振動させると書いたが、他にも、巻き線コイルの磁力と鉄芯通過中の磁力による吸引反発、急な大電流オンオフによる発熱冷却がもたらす膨張収縮など、モータとして回転力に寄与せず振動に化けてしまう成分が少なからず存在する。このうち、自分で自分を振動させるのを、「磁気歪みによる磁性体の変形」という現象に伴うものであるから、磁歪音(じわいおん)と呼ぶ。たま~に電柱のトランスがジーと唸っているが、これは磁歪音がほぼほぼを占める。

ピク誌図4のVVVFの波形イラストをご覧頂きたい。パルス列の始まりと終わりのポイントを、正弦波1発分の始まりと終わり(位相0度~360度・ぐるっと一週)に合わせてある。逆に言うと、正弦波を近似するに何個のパルスを使うか決めている、こうなる。正弦波4ヘルツをパルス45発で作るとすると、パルス自体の周波数(1秒間に使うパルスの数)は4×45=180Hzになる。PWMについてPWM「変調」と書いたが、これは、パルス列の周波数で正弦波を搬送しているという解釈になる。なので、パルス列のことを搬送波(キャリア)、搬送波の周波数をキャリア周波数と呼ぶ。

加速するためにインバータの出力正弦波の周波数を上げよう。8ヘルツになった。するとPWM自体の周波数は倍の360Hzとなる。うぃ~ん。モータの発する唸り音の「音程」は上昇する。磁歪音を「キャリア音」とも呼ぶゆえんがここにある。どっちでも良い。電磁音と言っておけばこだわる人にも角が立たない。

さて360HzとかGTOだと動ける限界に近い。それ以上周波数上げるにはどうするか。正弦波を作るパルスの数を下げるのである。27パルス。すると同じ出力正弦波8Hzで216Hz。キャリア音としてはいったん下がる。だが、インバータは加速しているので再び上がる。うお~ん。

以下、素子の動作限界に近づくとパルス数を下げる……を繰り返し、応じて音色が変わって行く。最後は簡単インバータで出てきた1発パルスに行き着く。こういう方法を、出したい正弦波とキャリアが同期していることから「同期式」という。シーメンスのアレはこの性質を利用してドレミファ~にしている。
なお、電車用VVVFは多く出力0.5Hzからスタートするが、こういう低い周波数は、出したい正弦波の位相無視してキャリアを一定にしている。「非同期式」である。

で。

(GTOかと思ったらSiCに更新されてたよ。いいけど)

「唸って」ますわね。すなわち周波数成分が1つじゃない。いろんな音が混じっている。これは矩形波をコイルに与えている所為で、ちょっと書いたフーリエ級数を実際に展開すると答えが出てくる。

Photo_20230409160701

さてこの「音」を喜んでいるのは我々ヲタくらいなもので、世間一般にはウケが悪いらしい。また、音になるということは電力の無駄が発生している。このうち「うるさい」の解決は、IGBTになって動作が速くなり、耳障りな周波数を故意に避けることができるようになったし、キャリア周波数を細かく変更して、見かけ上(聞き分け上?)ランダムにするなどの方策がとられている。

(名鉄4000)

・一時的な存在?「3レベル」式

20230409-171701

(富士時報)

どうしよう。やる?wピク誌は図16。

母線電圧に対して十分な素子耐圧が確保できない場合、単純には素子を直列にすればいい。ただ、直列の2つを「完全に同時に」オンオフしないと、先にオフした方に全ての電圧が掛かることになってぶっ壊れる。しかし完全に同時にオンオフさせるのは、素子の個体差のみならず、駆動回路の特性まで揃える必要があり、現実的には難しい。そこでまず、母線コンデンサを2個直列にして中間電位(NeutralPoint:NP)を作った上で、ぜってーNP以上の電圧が加わらない・加わったらNPに逃がす(クランプするという)構成を取ったのが3レベルインバータである。プラス・マイナス・NPの3つの電圧を持つので3レベル、である。4階建ての上2つのアームの動作で見てみよう。下から1階~4階と呼称する。正弦波の裾野の低い電圧を出すときは、3階の素子だけパタパタする。NPC電位から3階を結ぶダイオードを経由してNPC電圧がモータに出て行く。正弦波のてっぺん近くを出すときは3階と4階を同時にパタパタする。マイナス~NP+NP~プラスの全ての母線電圧がモータコイルに出て行く。ここで、3階素子がパタパタしているとき、4階素子が耐える電圧はNP~プラス間の電圧で良く、3階と4階がパタパタしているとき、全ての電圧が1階+2階の素子に加わるが、直列なので耐えられる。こうなる。ちなみにもし、何らかの理由で1階素子にNP以上の電圧が加わると、1階→NPに接続されているダイオードでその電圧は逃がすことが出来、3階素子の電圧がNP以下に下がると(つまり4階素子にNP以上の電圧が加わりそうになると)、NP→3階に接続されているダイオードでNP電圧に戻される。こうなる。

この方式は素子を守り、よりなめらかに正弦波を近似できる一方、素子は2倍+クランプダイオードも6個追加になって制御も面倒と、デメリットの方が多い。なので、IGBTの高耐圧化が進むと「不必要」になって採用されなくなった。

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(3300V/1200A……1500Vの2倍あるからいいだろ?という設計。これは1アーム分で、紹介した実物と同じく2素子並列)

更には「そもそも高耐圧」なSiC素子の登場により、ますます出番は減る一方……と考えて良いと思う。なお、これをもう少しこじらせた「階調インバータ」という奴が、UPSや太陽光パネルの電力系統連携装置などに使用されている。これは家電用の安価素子を使えるというメリットがある。

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今日はピク誌をなぞった内容じゃないが、これで現在主流のIGBTインバータに追いついた状態。磁界はちゃうわ次回は令和最新型「SiC-MOSFETによるPMSMのベクトル駆動」と、ピク誌で解説なしで使われている用語の説明、で、最終回、の予定w。何が「ちょっと補足」だよスゲーボリュームじゃんかオレ。

(次回・最終回)

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