VVVFインバータという奴(その6)
●素子の変遷(つづき)
一通り書くわね。いやムダにならんから。
・逆導通サイリスタ
これは簡単。こういう奴。そのFWD構造も内蔵したサイリスタ。日本最初のインバータ電車である熊本市電8200が載せたのはこれ。
・GTOサイリスタ
あー、素子カタログ読め、ということではありません。
GTO:Gate Turn Off
「ターンオフ」というのはサイリスタの消弧のこと。前述した基本的なサイリスタでは、オフさせるためにはカソード>アノードとなるように逆電圧を与える必要があった。これに対してGTOでは、ゲート端子をカソードより電圧を低くして(逆バイアスを掛けると言う)、カソード→ゲートと電流を流す。すると、カタログ図にあるゲートの「P」にある「プラスの電気の運び屋」(ホールという)が、マイナスの電圧に引き寄せられてゲート端子に抜かれる。すると今度は、ホールと合体しようとカソードから入ってきていた電子が行き場を失う→「ホール」と「電子」という電流の担い手がいなくなってサイリスタとして動作が止まる。すなわち、アノードカソードという「サイリスタ全体の電圧」ではなく「ゲートG端子を使ってターンTオフOできる」。GTOと。で、ホール引き抜きは1カ所だけだと時間がかかるし、電車用のサイリスタはデカい円盤なので、隅っこのホールが残ってしまう可能性がある。そこで、円盤上に二重三重の円を描く形でゲートを配置し、花びら状にカソードを配置したのがピク誌図7のイラスト。
これの画期なところは、ゲート→カソードに流せばオンになり、カソード→ゲートに流せばオフになる。オンとオフで扱う動作を逆にするだけで良いこと。転流回路まわりごっそり不要なこと。応じてサイリスタ全体の動作も早くなること。で、ようやく1500V電車の床下に載せて扱えるレベルになり、80~90年代インバータの主役に躍り出たのは皆さんご存じの通り。うぃ~んうぉ~んわぉ~ん。なおGTOGTOと気安く呼ばれるが、GTOサイリスタであって、あくまでサイリスタの一種。
・トランジスタ
ここまでの記事で何回か出しておいて今更だが一応。正式には下記FETなんかと原理が異なるのでバイポーラトランジスタ。この人は家電品に一杯使われていた物(廃盤)。端子左からエミッタ・コレクタ・ベース。略号がECBなので「えくぼ」なんて覚え方をした。ベースからエミッタに電流を流すと、コレクタからベースのホールめがけて電子が突っ込んできてベースを貫通、エミッタに流れる。ベースの電流をオフにすればコレクタからの電流は止まる。ベース電流でコレクタ電流をコントロールするスイッチ。電子顕微鏡サイズで何億も作り込んだのがICやマイクロコンピュータ。すなわち現代電子技術産業の立役者がトランジスタ。さておく。GTOは「オフするために電流を流す」必要があったが、トランジスタは流すのやめれば良い。かんたん。直ちに大型化して電力制御に用いる試みがなされた。工場なんかで使う産業用インバータ、
(こんなの。宣伝したやったぞ金よこせ三菱電機)
はこれで登場した。が、大きな電流を流すトランジスタは、内部損失が大きいし、制御のベース電流も多く流す必要があって、そのための回路や放熱に工夫を要した。
・MOS-FET
先に紹介した照明基板に載ってるこいつらがそう。Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor酸化金属皮膜電界効果トランジスタ……ってその意味はどうでもいいです。韻を踏んでる発音をお楽しみください。
こいつの特徴はゲート-ソース間に「電圧を与える」(≒充電する)だけでドレイン-ソース間がオンすること。充電されたのを放電すればオフになる。またこのメカニズムと、電流の運び屋が電子だけ(逆にホールだけのものもある)なので動作が速い。ただ、高耐圧と大電流化の両立が難しい。
※上記バイポーラ(ホールと電子)トランジスタに対してこの電界効果トランジスタは電子かホールのどっちか一方で動くので、ユニポーラトランジスタと呼ぶ、こともあるが教科書にそう書いてあるだけで誰も使わないw
・IGBT
トランジスタは高耐圧大電流用に作れるんだけど大きい奴は動作が遅くなってベース電流の回路も大きくなって……
と
MOS-FETの制御性とスピードで高耐圧大電流に作れればなぁ……
という切歯扼腕があって。「じゃぁ、MOS-FETでトランジスタオンオフすりゃいいじゃん」となって、
(サンケン電気のサイトより)
「等価回路」の方を見ていただきたい。MOS-FETのゲートーソースに電圧与えてこいつをオンにすると、トランジスタのコレクタからベースを通ってMOS-FETに流れる回路が出来る。ベース電流が流れたのでトランジスタはオンになる。MOS-FETのオンでベース電流をずっと流し続ける事が出来る。MOS-FETをオフすればベース電流も切れるのでトランジスタ部分はオフする。やがて最初から両者一体化された新種のトランジスタが生産された。コレクタと絶縁されたゲートを持つバイポーラトランジスタ。すなわちInsulated Gate Bipolar Transistor:IGBTの登場である。現下、主流の素子で、動作周波数も201系サイリスタの253Hzから通常2kHz。上記産業用だと14.5kHzに設定できたりする。
さて本記事のハイライト。ピク誌図9のBにあるようなIGBTモジュール。中身をぱかりんちょ(おいおい)
これ、ピク誌図2の例えば「SU1,SU2」など、プラス側マイナス側各1アーム入り「1相分」のセット。大電流用でIGBTとFWDと2素子並列に入っている。白い四角い部分が「シリコン半導体」そのもの。光の当て方により虹色にキラキラ光る。右側2素子こっち向いてる素子がIGBTで真ん中の短冊状の部分(セルという)から1本手前に引き出されているが、これがゲート。ワイヤが沢山生えているのがエミッタ。左端のセルから一本手前に戻っている。これがゲート回路に戻る。コレクタは裏面。右手素子の奥側にあるのが相棒のFWD。左右に沢山ワイヤ生えてて、これが左側素子のコレクター、小ぶりなFWDのアノードーそして右側素子のコレクタ(と裏側で接続されているフレーム)に繋がっている。左素子がインバータ用プラス電源(母線:ぼせんという)側のアーム、右素子がマイナス用アーム、となる。
以上インバータ用パワー半導体素子のオールスターキャスト。なにIGBTどっから持ってきたか?大学生時分に研究室に転がってたのをかっぱらったw
SiCは後で書くわ。とりあえずピク誌「IGBT」の説明まで完了。
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