VVVFインバータという奴(その1)
同好諸氏。今月同雑誌の内容ご理解頂けただろうか?
●冒頭の能書きその1
鉄道ファン(ヲタク)というのは「○○系は○○線を走っている」というのを基本的知識としてすべからく所有していて、そこからつながりのあるものを派生的に体系化して記憶して行く。しかしテレビ番組が扱う鉄道特集や「鉄道ファンを自称するタレント」の言動は、沿線情報や駅弁関係、「謎のルートを通る列車」なんかにベクトルが向かうことが多く、鉄道の根幹たる「走る機械とその仕組み」に向くことはまずない。いやいや走ってナンボなんだから「どうやって走るか」を知ってこそが原点だろうし、そのために数々の工夫と仕組みが考え出されて大規模なシステムになっていることに鉄道の本質、それを知り尽くす趣味の醍醐味があると思うのだ。鉄道ファン検定クイズ:鉄ビュースポットとして知られるナントカ橋はどこにあるでしょう……それ「本質」と関係あるか?何かシステム工学としての鉄道の知識の一角なのかそれ。ちなみにこんなんでカネ取って「資格」とか言ってんだぜ。資格はあるけど走る仕組みの説明もできない……意味あるのかそれ。その金で機械工学便覧でも買った方がよほど「趣味の充実」に資するわ。以上「鉄道趣味」に対する意見表明。
●冒頭の能書きその2
じゃぁ走る仕組みとして何があるのかというと、現存しているのは蒸気、内燃(エンジン)、電気(モーター)である。過去には人力及び馬車鉄道もあったとしておく。さてこのうち蒸気というのは動力の発生と伝達機構が外に出ていて見えるので直感的な理解は簡単である。
エンジンもエンジン自体は見えないが、自家用車があれば類似の機構として理解自体は難しくない。
『キハ28保存プロジェクト』
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で、電気車なのだが、「直流モーター」に関する限りは模型や玩具、最近では電池式の手持ちファンなどどんな家庭にもゴロゴロしており、
(ゴロゴロ)
磁石とコイルが見えているので、その間で磁力があーだこーだしているのだな、と類推が出来る。何なら理科の実験でコイル巻き巻きしてモーターを作ることすらあり、回る原理は理解できる。そしてその回転数は与える電圧で変えることができ、電圧を変えるには抵抗器を接続する。
(抵抗器)
扱う数式はE=RI(オームの法則)……小学校4年生である。
ここで。
鉄道用のようなバカでかいモータの電圧を抵抗でいじると、電流値「I」がものすごいので、抵抗器はカンカンに発熱する。同じくオームの法則より電力P=EI=RI2である。抵抗器を冷やすのに別途ファンを持ってきて冷やすとか電力無駄遣いの尻拭いに電力を使っている。そこで、「抵抗器の代わりにスイッチを置き、これを高速で切ったり入れたりして、例えばオンする時間とオフする時間を同じにしてやれば、平均して掛かる電圧は半分じゃね?」という考え方が出てきた。これを電流をぶった切る(Chop=チョップする)のでチョッパ制御という。扱う数式は、
Vi=入力の電圧。ton=スイッチがオンしている時間。toff=スイッチがオフしている時間。Vo=得られる出力電圧。なおこの分数の部分を「デューティ比」と言う(※)。
チョッパ回路実際動かすと(おいおい)
トミックス常点灯0-12V
— すのぴ@curekaisyain (@sunop2000) September 22, 2019
★ウチのは周波数を下げてあります pic.twitter.com/7KoE2win9M
ここまではまぁ、直感的な理解が可能であろう。
で、VVVFインバータでござる。こいつで動かすのは三相交流電動機(誘導機または同期機)である。扱う数式はこうなる。
三角関数のコサインである。実はインバータを学校で勉強しようとすると、工業系の大学で「電動機制御」や「電力変換」といった講座を履修して初めてお目にかかれる。バックボーンとして電気工学、その基礎として電磁気学、半導体で回路構成するので電子工学、扱う数学として幾何や解析を要求する。「直流」が「交流」に変わるだけでハードルがバカ高くなるのである。
そんなシロモノであるから今回鉄道ピクトリアル誌、どのレベルで解説するかと思ったら、なんとたったの(!)8ページでベクトル制御まで圧縮記述。で、冒頭「ご理解頂けたか?」になるのである。ほぼほぼ要点をかいつまんで、になってはいるが、基本的に「分かっている人の書き方」なので、「それ要るか?」「そこを端折るか」「いきなりそこか」と思ったところが幾つかある。で、補足を混ぜつつ、もうワンステップかみ砕いて書いてみようと記事を立ち上げた次第。何?ドヤ顔で偉そうだ?あまりこう文系理系によらず等しく楽しめる趣味であった鉄道に「デジタルデバイド」「理解度の格差」をもたらすのではないかという危機感があるのよ。人によって楽しめる範囲に差が出来るし、今後これがスタンダードになると、越える越えないで視野が変わる「壁」となって立ちはだかる。それじゃ楽しくないので「三角関数なんか試験終わってすぐに忘れた」という人でもインバータ制御分かる手助けできれば。
および、図鑑に書いてない(書けない)インバータの秘密を知った子供達が将来その道のエンジニアを志してくれれば。
「GTOのインバータは三菱の音が好き。IGBTの2レベルは東芝かE231の墜落だ」
はいはい。で、その「音」がなぜ出て今は目立たないか知りたくないかい?w
(つづく)
※チョッパの原理式と言われるが、実際には「連続モード」の時しか成り立たない。なので電源回路の設計で安直に電圧差からデューティを逆算して素子を駆動しても所要の電圧にならない。「オン時間中にインダクタンスに蓄積されるエネルギ×周波数」が1秒間あたりに受け渡される電力になるので、負荷の消費電力とインピーダンスから所要の電圧が得られるところでバランスするようにデューティ比を設定する。
※「知りたいが、ここ読んだだけでうんざりだ。結果だけ寄越せ」という方は仕方ありません、まとめはここです。
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