みどりの日にかこつけて令和グリーン車考
●クソ長い冒頭の能書き
そこがどんな空間であるのか知ったのは昭和50年、幼稚園坊主の頃。
母親の郷里が福岡博多なので、鉄キチの息子連れて行くには「新幹線」が最適解になるわけですな。ジュースを飲んで食堂車行って電話室でおばあちゃんに電話を掛けて……が、何せ6時間かかるので、いかな鉄ヲタなボクチャンでも退屈してくるわけですよ。しかも後半戦山陽新幹線区間になるとトンネルだらけで見るものもない。
そこでボクチャンは全長400メートル16両編成を「散歩」に出かけるわけです。1号車へ行って、16号車へ行って、自席へ戻る。幼稚園坊主が一人でテコテコ歩いているわけで現代なら立派な「事案」。しかし車掌にも、車販のおねーさんやビュフェ・食堂の従業員さんに声を掛けられた記憶は無い。そして。
11号車と12号車。2両だけ、違う車両。
雰囲気が違うのはすぐ判った。ほぼ無人で、大ぶりなオリーブ色の座席で足台つき。木目の仕切り板。クローバーをモチーフにしたマーク。
一方、
(鉄道博物館)
この時代の新幹線普通席はこんなので、リクライニングなんかしない。グリーン客室が「上級座席」であることをボクチャンは直感で理解した。
「ボクはグリーン券は持ってるのかな?」(←これは今にして思えば「鉄ヲタ男子に対する対応」だわ)
「いいえ、すいません」(←グリーン車に乗る仕組みを知ってる回答)
赤い腕章に夏の白い制服、車掌は温和な表情でボクを見送った。
時を経て新幹線に限らず「グリーン車」という車両に客として初めて乗ったのは中学2年の春のこと。「大都市近郊区間」では路線網が迷路のようであるので「同じ場所を二度通らなければ最短経路の運賃で計算する」という特例があった。鉄ヲタはこれを逆手にとって「隣の駅まで最も遠回り」な経路を選んで丸一日列車に乗り倒すという遊びを良くやった「大回り乗車」とか「一筆書き乗車」(同じ場所を2度通らないすなわち路線図で一筆書きの経路を取るに同じ)とか言った。その途中特急に乗ってもグリーン車に乗っても全く問題は無かった。応じた料金を払いさえすれば。
八王子から茅ヶ崎へ達してそこから東海道本線を東京へ……「130円の乗車券」を持った中学2年生は当時東海道・総武横須賀線にしかなった「普通列車のグリーン車」の乗り場に立った。ただ、ロックオンしたのは特急型185系(踊り子号)を使った普通列車……。
(これは同じ185系で「特急はまかいじ」運用中)
そう、そのグリーン車に乗るなら「普通列車のグリーン料金で特急用グリーン車」に乗れるのだ。
当然、車掌がすぐ来る。
「どちらまで?」
「東京まで」
「乗車券を拝見」
「八高線北八王子から八高線横浜線相模線東海道本線総武本線成田線常磐線武蔵野線東北本線川越線八高線経由で小宮まで」
もう、途中から車掌は笑い出して。
「ありがとうございます。グリーン料金1000円になります」
こうして、「プチ贅沢」に、はまった。
翌年中学3年の夏休み。その福岡の祖父母を逆に東京に招き、そこから東北旅行に出かけた。仙台まで新幹線に乗り、松島を観光。そこから花巻まで移動するのだが、当時東北新幹線は開業直後で本数が少なく、仙台まで一旦戻るのも何だかなぁ(乗車券の連続性が途切れるのもあった)と、松島からの移動は快速「くりこま」を選んだ。ところが到着した「くりこま」普通車はデッキに立ち客が溢れる状況。じいちゃんばあちゃんいるのに花巻までの90分余を立つ?
「グリーン車で行こうよ」
同行していた父親をたきつけた。
「しょうがねぇな」
「グリーン車」と書かれた扉を開くとデッキまで立ち客ギッシリの普通車と明らかに空気が違う。静かなキャビンは赤いリクライニングシートのそこここに人の頭が見えるが、ご一行様6人がまとめて座る程度は可能。3列に分かれて座り、リクライニングシートを倒す……がった~ん。じわじわ力入れないと一気に倒れるのであった。足置きを起こしてのびのびと足を伸ばし……悲しいかな程なく寝入って詳しい記憶は残っていない。
(そん時の車内補充券。4人+2人に分かれて乗ったうちの4人分)
新幹線のグリーンとなると就職してから、となる。入社当初静岡だったので、東京までは短距離と言って良く、プラス4000円くらいの負担は重くなかったこともあろう。初任給で100系新幹線の2階建てグリーン席に収まり、ゴールデンウィークの帰省をした。初任給は育ててくださった父母へのお礼品~というのが良くあるパターンだが、新幹線のロザ(オタ用語でグリーン座席のこと)でふんぞり返るのを選んだ親不孝者がここにいる。なお、その後、祖父の初盆で夏の福岡へ帰省することになり、ここでお礼をかねて「新幹線グリーン料金回数券東京-博多」(18万円!)で母をグリーンに乗せている。そしてそれが最後の福岡帰省であった。
趣味の延長としての贅沢……であったグリーン車が「深刻な助け船」に変わったのは三十過ぎて腰を痛めてから。腰へ荷重が集中しない座面構造はありがたかった。新幹線もEXカードで早割が効くことも手伝い、プライベートで90分以上の移動をする際は極力グリーンを選んで乗るようになった。ちなみにそれは周辺の人口密度を低下させ、コロナ禍で感染確率を下げる効果を持ったことは言うまでも無い。
一方、その間にグリーン車の「接客」は合理化簡易化要するにサービス低下が進み、単なるリクライニングシート着席サービスに成り果てた、と言って異論は少ないだろう。別記事でグランクラスを扱っているが、存在自体限られたそれに対して、概ね全ての新幹線・特急列車に組み込まれたグリーン車令和最新事情はどうなっておるのか、というのが長い長い能書きの終わりに示す本記事の趣旨である。
●東海道新幹線「のぞみ」N700系
外観。初代新幹線0系のグリーン車はドアに金色の縁取りが施されていたが、こいつはそういう演出ははなし。
デッキ入り口。「高額座席の演出」は見えるが「高級」じゃないわな。車内入るとカーペット敷きでかなり強く吸音される。ただ空調・換気はのべつ唸っている。この車両の乗車率は(そもそも客の少ない臨時便を選んでいるが)3割程度。ちなみに満席になるのはプロ野球チームが移動しているとか団体さんが乗ってる場合。
シート外観。電動フルリクライニングで、高さが変えられるフットレスト付き。読書灯・シートヒータ・コンセント内蔵。このほかに車端部荷棚にある毛布は勝手に使ってよし。
テーブル他居住空間。シートピッチ(座席間隔)が広いので、背面テーブルは下ろした後手前に引っ張って寄せることが出来る。
飲み物等を置けるインアームテーブル(肘掛けの中)あり。背面テーブルとは干渉しないように配置。
足下。前の席を蹴ろうと思えば蹴れるが、という程度。大抵靴脱いでフットレストでさぁね。座り心地は過去一番自分の身体にフィットしたのは100系のそれだったが、N700はサイズはさておき軽量化されていて剛性感がも少し欲しいのと。座面がチト固い。ただ2時間3時間乗ると普通車(以下ハザ)と疲労度や降りた時の腰痛感がまるで違う。
ウェルカムサービス。往年のそれは夏は冷やした・冬はホカホカのおしぼりだったが、今は紙タオル。
ミールサービス。ワゴン販売なくなった代わりに、類例のサービスはグリーン車のみになった。パーサーを呼びつけるか、スマホでQRを読み込んでオーダーする。
乗ってる列車と座席を打ち込む。「○時に着く奴の一番いい席で頼むわ」で乗ってる層にはハードル高すぎだろ。
え待って「ごはん」はあの鳥の餌みたいなサンドイッチと幕之内御膳(とりあえず一番高い奴)しかないの?
今回は午前中の移動で朝ご飯は済ませてきたので、おなじみ「シンカンセンスゴイカタイアイス」とそれ用アルミスプーン、ホットコーヒーをオーダー。
コーヒーは都度豆挽いて作ってるし(コンビニのアレと一緒)、アイスも新幹線と通販しかない。ただそれは元々ワゴン販売でロザとハザ共通で販売されていたもので、特別料金取られるなりのアドバンテージはない(上記幕の内もネット予約で誰でも買える)。
騒音。
— すのぴ@キュア会社員 (@sunop2000) May 4, 2024
カーペット敷きのフルアクティブサスペンションでバラスト軌道(砂利敷き)を280キロで走ってこんな状態。テキトーにガタピシ揺れるしハザに対してアドバンテージは感じないなぁ。
■まとめ
ハザで居眠りしてるとだんだん身体がずれ動いて丁度腰の痛い位置が刺激されたりするが、ロザは座面構造とフットレストで足を支えることもあってそーゆー現象は起こらず助かる。ただ、毛布もヒータも要らない原子炉人間としては、あまりフルサービス活用できないのでコスパの点で言えばイマイチ(真冬にヒーター使ったことはある)。ミールサービスも「元々すべからくあったものをココ以外無くした」っていうグレードダウンだしね。走行音が静かって訳でもないし。腰痛の緩和に金払っているだけという状況。
●しらさぎ(サンダーバードも同一車両)681/683系
新幹線以外の特急代表でみんな大好きサンダーバード・しらさぎのロザ。今日のしらさぎはクロ681。
ドアは四つ葉マーク以外は特にハザとの差違はなし。
デッキのドアは照度を落として少し雰囲気出しているが、特別な設えをしているわけでなく。
中は間接照明・カーペット敷きで大ぶりなシートが1+2配列で並ぶ。なおこの辺りの造作は他の西日本の特急車は大体一緒(なぜならサンダーバードを基準にその後の新型電車に展開したからである)。今日の利用者は10名。まぁ東京から福井に行く場合「ひかり」+「しらさぎ」より北陸新幹線回りの方が早くなった。応じてしらさぎ利用者は大きく減った。
シート外観。枕は上下に動く。操作系は肘掛けにリクライニングボタンのみ。これは体重掛けて背もたれを倒す昔ながらのスタイル。
製造され30年。色々劣化進行。コンセントなど令和当然のサービスはなし。ただ米原行き「しらさぎ」なら30分、サンダーバードでも1時間。今更付けるの?という部分はある。
テーブルは肘掛けから取り出すインアームタイプ。ちなみに以前は更に左右に広げて両方の肘掛けの間に渡して使うことが出来たが、令和最新型は半分しか使えないようにボルトナットでロックされてしまっている。弁当広げるのに困る……のだが、上記の通り「30分」「1時間」が前提。そのくらいは……という意図がありあり。まぁ実際問題靴脱いで酒飯広げてひとりどんちゃんって訳にも行かないだろうが。
フットレストは裏表があるだけで高さまでは変えられない。シートサービス一切なし。編成の一番端なので車掌が検札に来る以外トイレ利用者がドア開けるだけ。静かっちゃ静かだが、言い換えると「それだけ」。
キシキシカタカタ pic.twitter.com/xzjNrr2oUv
— すのぴ@キュア会社員 (@sunop2000) May 4, 2024
シート自体の座り心地は良い。ただ、電車自体がくたびれて来ていて結構揺れるしうるせぇ。オレは音も含めて面白がるかいいが、静寂と静粛を求めてロザを選ぶ人には向かない。
■まとめ
米原-敦賀30分。サンダーバードで1時間。しらさぎは1本おきに名古屋まで直通するがそれに乗っても90分。正直ロザを選ぶメリットがあまり感じられない距離と走行時間だ。しかも「しらさぎ」は前述の通り東京-福井利用者が抜けたので編成を更に切られてもおかしくないような状況。グリーン車の「ならでは」もフルリクライニングシートと、客の少なさ故の静けさ程度で、それよりうらぶられた感が目立ち、正直痛々しい。ただ、椅子自体の座り心地は良く、適当に揺さぶられるとよく眠れる。
●総括
「占有空間」を買うモノに成り果てた、と言えばいいか。「安く行く人は来ない」……いささか暴言だがそういうもの。昔はグリーン車の両側をビュッフェで挟んだり、サンダバしらさぎのように逆に端に置いたりして「それ以外の客が来る理由がない」ように編成した。自分の場合腰の養生のほか、姿勢を正すために動くので、隣に誰か座っているとシートを一緒に動かしてしまい迷惑を掛ける。そういうのも回避できることから好んで座っている。ただまぁ、「しらさぎ」で今後ロザを選ぶことはまずない。なお、「しなの」と「あずさ」を乗り継いで名古屋から八王子とか良くやるが、こいつらのロザは普通の4人掛けなので、そもそもがフラグシップトレインだったサンダバのロザよりは「格下」と言わざるを得ない。「1回、見直さない?」
★おまけ
JRの前身である国有鉄道の客室は元々3等級制で、上から順に形式名に「イ・ロ・ハ」と付けた。現在のグリーン車は元二等車で、形式「ロ」の「座席車」だから「ロザ」、普通車は「ハ」で「ハザ」である。
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