【要約】
・推しであるという忖度抜きにプレイリストに放り込んで持ち歩きたい佳曲である
・伸びのある高音と押しの強い低音が対立軸を構成し、力行する蒸気機関車のように剛直に展開する
・まいこヴォーカルはまるでモデリングされて耳元に降り立ったかの如く、一つ一つの言葉同士のつながりまでマイクロセカンドオーダで解像される。発音の口の形、唇の動きが見えるよう
・一方、バックトラックが盛られた結果、ヴォーカルが埋もれがちであり、スピーカーでのリスニングの場合、ツイーターを耳に向けるなどセオリーに沿った配置を工夫したい
・ハイレゾ(※)は倍音豊富な生楽器でこそ真価を発揮する。まいこヴォーカルとシナジー発揮できるアレンジを是非
【冒頭の能書き】
「北川さんもMachicoさんも歌ってるのに五條真由美だけえこひいき!」
まぁまぁ。まずその辺の理由。プリキュアシリーズは2004年に始まるが、そのオープニングを歌ったのが五條真由美である。番組の人気もさることながら、作品世界を反映したオリジナルのヴォーカル曲については、「青春賛歌」というか、「ジュブナイル音楽」というか、要はプリキュアであるというフィルタを外しても、女の子達の日常や未来を応援する大変優れた内容と言って良く「プリキュアソング」(プリソン)という1ジャンルを確立したと言っても過言ではない。それはとりもなおさず、五條真由美がベストマッチした成果だと言える。このシリーズのハイレゾ音源化はこの2~3年ほどであるが、この時点で(プリキュアに限らず)アニメの楽曲はそのまま声優が歌うというスタイルに変化しており、「五條真由美をハイレゾで聞く」タイミングはなかなか得られなかった。それがこのほど、メインヴォーカルとして、しかも96kHz/24bitという高いレートでリリースされたので奮って飛びついた次第である。「待ってました」。
(https://www.e-onkyo.com/music/album/mjss09321/)
以下、自分で言うのもアレだが、国内でプリキュア鳴らしてる者の中で最高ランクに近いであろう機器で聞いた結果を書いて行く。NASよりデノンDCD-SX11にて再生、バランス接続でアキュフェーズE-470へ送り、バイワイヤリング接続でTAD-ME1にて鳴らしている。
……なおデリシャスパーティプリキュア自体は笑いながら毎週見ている。
●楽曲自体の感想
タップして再生すると度肝を抜かれて裏切られる。ドラムが部屋揺るがしてリズムを刻み、走り出すその様は発進加速の蒸気機関車のよう。歌詞はプリキュアだと事前に聞かされていれば納得できるが、そうと知らなければパワフルなガールズロックそのものである。作詞のマイクスギヤマはプリキュアに関わって長いが、この「プリキュアとしてもそうで無くても」通用するリリックを獲得しているのは流石である。曲想に負けておらず、相互に引き立て合い、ヴォーカルを伸ばす……。適切なトライアングルバランスを確保している。
●音質
まず「アニソンのハイレゾ」に多い「のりぺったん」ではない。そこは安心して欲しい。
さていの一番に触れたいヴォーカルの表現力である。長く五條真由美を聞いているので彼女を軸に語るが、例えば「♪たいせつなものがひとつひとつ」という「発音される文字のひとつひとつ」が切り取られ、その発音をする口の形や唇の動きが目に浮かぶレベルで解像される。それはライブ会場でマイクを通さず聞こえてくる「間近に立つ五條真由美の声」そのものであり快哉である。ちなみにCD音源の五條真由美と比較すると、CD版は少し張り詰めた感と伴う硬さ、高域方向の寸詰まりがあり、まいこ(=五條真由美のニックネーム)ヴォーカルハイレゾの恩恵は十二分に発揮されていると言って良い。
一方、楽器の再生においてそれは高周波成分の充実と、応じた音像定位感の向上に現れる。対して本楽曲はドラムス・ベース・エレキギターメインであり、倍音を中心とする高周波方向のポテンシャルを生かしている、とは残念ながら言えない。音が前へ飛びだしてこない。ここは弦ものやブラス、ピアノを動員して更なる高みを目指して欲しい。大丈夫だ。フルオーケストラのバックトラックでも五條真由美は対抗できる←プレッシャー与えてどうする
ダイナミックレンジ・鮮度は頑張っている。ただ、オーディオ評論の定番に使われる曲群に比べるとキムワイプ1枚のベールをかぶるか(どんなたとえだ)。また、バックトラックが強いので3人ヴォーカルにかぶる(歌詞が聴き取りづらい)瞬間が少々ある。とはいえ、ハイレゾを買うような層は応じた機器と知識を持っているだろうから、スピーカーとの正対を変えるなど創意工夫で補えばいいだろう。イヤホン/ヘッドホン聴取ならてっぺんで聞こえる声を中心とした密度高い音場が得られる。なおプリキュアシリーズはメリハリがある若干ドンシャリでちょっとハイが強い音作りであるが、これはカップリング(というかメイン)の「ココロデリシャス」と共にクリアで透明かつ素直な傾向であり、元の良さを生かそうというアレンジを感じる。
あとそう、Machicoは歌い慣れた感があり、北川理恵はシリーズ歌い始めた当初に比して「長足」の進歩が聞こえる。
●まとめ
・推しであるという忖度抜きにプレイリストに放り込んで持ち歩きたい佳曲である
・伸びのある高音と押しの強い低音が対立軸を構成し、力行する蒸気機関車のように剛直に展開する
・まいこヴォーカルはまるでモデリングされて耳元に降り立ったかの如く、一つ一つの言葉同士のつながりまでマイクロセカンドオーダで解像される。発音の口の形、唇の動きが見えるよう
・一方、バックトラックが盛られた結果、ヴォーカルが埋もれがちであり、スピーカーでのリスニングの場合、ツイーターを耳に向けるなどセオリーに沿った配置を工夫したい
・ハイレゾは倍音豊富な生楽器でこそ真価を発揮する。まいこヴォーカルとシナジー発揮できるアレンジを是非
ツウぶった書き方をするなら「マーベラスはようやくハイレゾに作り慣れというか方向性を見いだしたか」。この方向なら歓迎なので、願わくば生楽器を多用し、高周波方向の充実を。シンセサイザは「その周波数」しか出さない。
デリシャスマイル♡
引き続きキラキラに幸あれ。
(文中敬称略)
※プリソンファンの皆さんへ「ハイレゾ」とは何ぞや
CDやDVDの音声を遥かに超えるデータ量を利用して供給される楽曲群を言う。CD1枚には「640MB」のデータが入るが、この曲の場合「1曲」で110MB使っている。High-Resolusion=高解像度をカタカナ英語で略してハイレゾである。
特徴は超音波領域まで録音されていることと、音の強弱を表現するステップ数が多いこと。「超音波?聞こえない音を入れてどうする」ハイレゾアンチはこれを言うが、CD規格(44.1kHz)では可聴限界「20kHz」の音を波1コあたり4つのデータで記録する。この曲の場合「96kHz」なのでだいたい10コで記録する。どっちが正確に元の音波に戻せるか論を俟たないであろう。専門用語を使うと「高域の位相再現性が違う」のである。
強弱について言うとCDは16bit=2の16乗=65536ステップ。こちら24bit=16777216ステップで文字通り桁が違う。合わせて「微細で俊敏な変化」に追従した精密で情報量豊かな音楽が聴ける。なお、本文中出てきた「のりぺったん」は、解析ソフトを使うと曲の波形が焼き海苔を貼り付けたように見える、抑揚も強弱も、この1670万ステップの恩恵が感じられない楽曲・アレンジを揶揄していう。
※ハイレゾを聞くには
書いたようにCDで供給するにはデータ量が大きすぎるのでインターネットのダウンロード販売となる。ウォークマンなどの対応した機器に移すか、「ハイレゾを受け付けるDAコンバータ」(またはこれを内蔵したオーディオ機器)にUSBで供給する。とりあえずこれだけで聞くことは出来る。スピーカーやイヤホンには超音波を再生できないスペックの機材も多いが、別にそこへハイレゾ流し込んでも聞こえないわけではないし、壊れるわけではない(さもないと昭和の昔から存在する「レコード」は、そもそも超音波が入っているので使えないことになってしまう)。なのでとりあえず何らオーディオ機器を持っている方は「ハイレゾを受け付けるDAコンバータ」を用意していただければ。ポータブルにイヤホン・ヘッドホンで運用されている方は機械を対応機に変えていただければ「ハイレゾのプリキュア」に邂逅できる。
幾つか機材をリンクする。さぁ、一線を越えちゃえw
・DAコンバータ→ifi_Audioとか無難
・DAコンバータ内蔵オーディオアンプ→まぁ、DENON
・ポータブル→ご存じウォークマン
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