←DCD-1600NE・

●くそ長い冒頭の能書き
「アキュフェーズ」というメーカの存在は1987年だったか、電波新聞社の「AudioVideo」という雑誌(廃刊済)で知った。オーディオ評論家として健筆を振るっていた飯田明氏が「40万円のCDプレーヤ」として当時のDP-70を紹介していたものだ。抵抗分圧式DAコンバータの原理原則を高精度な部品で突き詰めて作ったキカイで、「どんな音がするのか?」とオーディオのイベントへ聞きに行き、只々、驚嘆したものだ。それは当時高校生の自分にはとても手の出るシロモノではなかったが、就職後に後継機として「エントリークラス」(最安価)な機種としてDP-65が発売された際には、「手が出せる」状態であったから早速手にした。同期社員達がこぞってクルマを買う中、ひとりアホみたいな値段のCDプレーヤを買ったわけだ。

その音は後に主流となる1bit・ΔΣDACの「フィルタ回路で浮かび上がったサラサラと流れる様な」それと異なり、各階調に確実に電圧を与える復調されたPCM信号そのものであって、「堅実で芯のある、地に足の付いた」ものであった。2010年代をして買い換えようという気にはならなかった。が、しかし。

その2010年代、ソニーウォークマンZX1をニトログリセリンとするハイサンプリング・ハイビット……すなわち「ハイレゾ」の時代になると、普通のCD単体プレーヤである同機は袋小路の存在となり、手放すに至った。後釜は①同価格帯で②SACD/DVD-Rに記録されたDSD信号の読み出しが可能③USBでDSD11.2MHzまで放り込める……の全ての要求を満たすデノンDCD-SX11を選択した。

以来、10年。この間、同機はずっとデノンの準フラグシップとして現役にあり、2025年ようやくディスコンとなった。逆に言うとそのレベルは中々革新が無かったと言える。一方でその10年、就職前後に購入した機器たちが陳腐化したこと、歳食って応じたキカイを買える環境も整って、アンプはアキュフェーズE-470、スピーカはTAD ME-1へとジャンプアップした。すなわち、一回りして音源機器が最も古い存在となっていたのだ。これは、「まず、送り出しの質を高くする」源流第一主義としては看板倒れになるし、寿命のある光素子や機械リレーに10年は一つの区切りであろうことが見て取れる。そのタイミングで……というか、アキュフェーズの製品サイクルとしてそろそろと判っていたが……登場したのが本機である。モデルナンバーから判るように570の進化版と読み取れ、音質の予想が付くことと、阪神優勝でジョーシンのwebクーポンがドーンと付くことからポチった。初回ロットは完売ということで、ろくろ首になるほど長く待ってようやく届いたのが25年の晦日である。
操作性だの技術的検討だの書きたいことは多いが(検討はこっち)、こいつ手にした一般ユーザからのレポートは皆無に近く(本機のシリアルは120番台)、ここにたどり着いてイマコレ読んでる諸氏も「まずは、音の感想を聞こうか?」であろう。「アキュフェーズ買える頃には耳遠く」とかいうが(本当か)、f特12000Hzの耳には如何に。機材は以下。
・音源サーバ:Soundgenic(USB直結)★データ音源送り出し
↓
USB:アコースティックリヴァイブ
↓
・本機:アキュフェーズDP-570S★円盤音源送り出し
↓
バランス:アキュフェーズ
↓
・アンプ:アキュフェーズE-470
↓
バイワイヤリング:クリプトン
↓
・スピーカ:TAD ME-1(初代。TXではない)
では、行きましょうか。
●音質
■現下リファレンス
1.「~キボウノチカラ~オトナプリキュア’23」エンディングテーマ「雫のプリキュア」(サンプリング周波数96kHz/量子化ビット数24bit・flac形式。以下ビットレートは略記)
まず音出ししてSX11と違いは「小音量でもディテールがクッキリと描かれていること」。無垢の静寂から上品に立ち上がりキラキラと輝き出す。声に含まれる僅かなビブラートが耳元飛んで来て包み込むように震える。歌詞の発音一音一音をマイクのそばで聞いているようだ。回路のトランジェントが厳粛なまでに鋭いことを示していよう。ずっと聞いていたい歌声がここにある。
2.サラ・オレイン「Fantasy on Ice」(96/24・flac)
冒頭アカペラのサラおねえたまの唇の動きが判るよう。パーカッションの鋭さ、楽器一台ずつ描き分ける弦、間奏のブラスは遙か高みへ突き抜けて行くかの如く。旋律に踊る彼女の声は鮮烈とか言う次元ではなく、ここまで出てほしいと願うそのひとしずくまで描かれ、音に包まれて抱かれる快楽はコタツの中の猫の気分。いやおい世間のサラ・オレインファンの各位よ、「飛ぶ」ぞ。
■CD
1 まかせて★スプラッシュ☆スター★ /うちやえゆか(CD)
バックグランドの弦が生オケの上品さを備えてスタート。弾み、動き、流れる。「プリキュア」のコンセプトそのものの躍動感が心地良い。間奏から2番へ向かうベースのデケデケが重心低く出てきて、これはSX11と異なる表現になった。エンディングへ向かって繰り返して行くサビのフレーズにやえさんのフルテンション、強さが覗く。
2 Rose in Rose/五條真由美(CD)
静寂からどーん。鳥肌が立ったわ。ヴォーカルが小さくフォーカスするので音量上げてもうるささは皆無でひたすら明確で硬派な音が流れる。重心が低いので応じてスケールは大きくなり、この上ない安定感と存在感を与えてくれる。五條真由美という希有のヴォーカルを縦横無尽に駆使してあり、縦横無尽に再生している。
3 Mad Desire/Stephy Martini(CD)
保守本流ユーロビート。通奏のバスドラムがガツガツと掻き立て、震え、魂を荒ぶらせる。打ち込みのディスコサウンドであるが、リミット感、歪みは全くなく、エレクトロニクスならではの俊敏な大振幅をかき鳴らしてくれる。身体で直接受ける振動と鼓膜を震わす音波とのシンクロナイズがことのほか心地良い。超高解像度と超ワイドレンジが音楽だけの桃源郷へ連れてってくれる。
4 Killing My Love/Dave Rodgers(44/16・flac)
某、ダウンヒル最速のアニメで知られるLeslie Parrish歌唱のDaveバージョン。なおイタリアから直接ダウンロードした。こっちの方が音いいんだもん。とにかく静寂にぽつんと音像が浮かぶ様から怒濤の展開へ広がって行く有り様がすごい。圧倒的。ME-1のウーハーがずっとブルブル言ってる。シンセサイザの紡ぎ出す周波数下から上まで並んだギラギラの電子音が、レーザ光線のような切れ味で心地良く心身をドライブしてくれる。7分間の悦楽。こんな深い音だったんだね。
5 Coextensive/Master Gun(CD)
ジュリアナテクノ。ギャンギャンギラギラなんだが、なんだこの港区タワマンみたいな上品な立て付けは。クリップして歪みまくってやかましく大迫力、というのを期待すると真逆で裏切られるとでも書こうか。その代わりこれでもかと盛り込んである音要素を全部解像して叩き付けてくれる。この楽曲はギラギラを強調するあまりfレンジ全体は狭いのかも知れぬ。位相差成分はびゅんびゅんとビームのように耳元へ飛んでくる。
6 When You Dance With Me/レベッカ(CD)
1989年の音が克明にしかし少し抑制された感じで甦って驚く。ギターとドラムは当時そのままという感じで鮮烈だ。さてこの曲をリストしているのは間奏の重低音なのだが、耳をそばだてずとも克明に解像され、まるで部屋の空気を丸ごと揺さぶられるようだ。
■ハイレゾ
7 DONE/サラ・ブライトマン(44/24・flac)
え、これ低音豊富じゃんかというまずは印象の転換。fs44なので倍音ガーとかイマイチ丸いのであるが、豊かな階調がもたらす機微の表現は思わずニヤニヤ笑ってしまう。まるで草原で天使が歌っているかのようだ←そのまま死んでお迎えしてもらえ
8 ロマンティックじゃない?/ダイアナ・クラール(96/24・flac)
イントロのギターと彼女の声よ。そこに居るかの如きでゾクゾクするわ。ASMR向きの声色だよなぁ。静かで楽器の数が少ないので、その個々を解像して克明に描き出す一方、微弱な部分の精密な再生が要求されるが、あっさりというか当たり前に出して寄越す。これANCC効いてるんだろなぁ。
9 Skyrim Theme/ケルティックウーマン(96/24・flac)
多人数で音域が広いが埋もれるでなく潰れるでなく、個々を際立たせて浮かび上がらせる。当該ゲームの壮大なスケールが部屋の中に解像する。まぁ、なんということでしょう←語彙力。音量上げただけ多幸感が増すので(麻薬か)、耳に入るありとあらゆる音が心地良く聞こえる。それはアキュフェーズの使い手が大きく共感するところであり、嫌う人に最も反感を持たれる部分でもある。「ハマるとダメ」である。
10 百花繚乱/幾多りら(96/24・flac)
ちょっとヴォーカル音像大きい。が、出てくる音はひたすら贅沢だ。こんなんでりら氏聞いてええのけwヴォーカルに重きを置いた曲で楽器の数はそう多くないので、りら氏とスピーカ越しに対峙しているような楽しみ方出来る。
11 ことのほかやわらかい (feat.KAORI & KEIKO & YURIKO KAIDA & Joelle)/FictionJunction(96/24・flac)
弦→パーカッション→爆発!みたいな。通奏がまるで心臓の鼓動のよう。多重ヴォーカルが位相差を持って音場をうねうねと巡り、聞いてる部屋ごとどこかへ持ってってくれる。浮遊感のある曲だがその浮遊感とてつもなく、恍惚といつまでも聞いていたくなる。人が見たら「こいつキマってんじゃね?」と思うであろう。
12 Magia/Kalafina(96/24・flac)
このすっ飛んでくるストリングスよ。「魔法少女の歌」であり、「ほの暗さ」がぽっかりと口を開け、ゾクゾクさせる増幅感を得ている。ドラムスの打音はハッとするほど一音一音が明確かつ鮮烈で、織りなされる歌姫達のハーモニーと対立軸として屹立する。
13 音楽/Kalafina(96/24・flac)
後ろから始まって前に回り込んでスタートする。言い換えるとスピーカの存在感が消える。通奏低音は深く荒々しく、ヴォーカルは手のひらで掴めそうな位置に克明に浮かび上がり疾走する。間奏のコーラスの入り交じり重なり合い昇り詰めて行く心地よさよ。
14 うすむらさき/Kalafina(96/24)
地を這うイントロ、空間を描くパーカッション、キラキラと響く3人のハーモニー。「くっそ贅沢なkalafinaの聴き方」をしてるなって自覚があるわ。重心が低く腰が据わっているので高域方向の展開がことさらに強調され、妖しさを増す。フェードアウト部分はギリギリのギリまで音を出して寄越す。
15 Kyrie/Kalafina(96/24・flac)
美を聴け。一言で書けばこうなる。コーラスとハーモニーの至宝。こだまする追憶の艶やかさは一点の曇りもない漆の椀を見るよう。その裏側で螺鈿の鳳凰が翼を広げる。kalafinaだけ4曲?好きなんだよハイレゾ向きだし。
16 Sound of Destiny/緒方里奈(CV水樹奈々)(SACD)
浮遊するように再生される……という認識だったがカッチカチに解像してもらえました。SACDを意識したのかかなりハイ上がりな音作りで、これが定位情報を与えて「浮かぶような」感覚を与えていたらしい。なお水樹奈々ハイレゾ出てるがこのSACDを超える音質のモノはなく(のりぺったんなんだよキングレコード)、その生々しさ未だ比類無し。
17 ヴィヴァルディ Violin Concerto in E Major,Op8,No.1,RV.269(四季「春」)/THE AVISON ENSEMBLE(SACD)
「四季」としてまず再生されるアレ。1曲目の奴。あら綺麗。ハープが小音量で混じっているのだが、それをちゃんと曇らずぼやけず解像して寄越す。弦の倍音はオマエ大好物だろって位にゆんゆんのキリキリに復調してくれる。バイオリンの弦が表か裏か判る勢い。
17 So Sad/ジェニファー・ウォーンズ(SACD)
「いい音だねぇ」誰が聞いてもそう言うのでは?クリアで突き抜け感があり、自然だ。録音の質自体も高いのだろう。全体にスピーカの左右ツイータを結ぶ線より「上」に定位する。それはステージを見上げる視線に一致し、ライブ会場にいるよう。
18 作者不詳(ロンドン写本より): サルタレッロ (ゴシックハープ[15世紀メムリンク・モデル])/西山まりえ(192/24・flac)
このハープが置かれた中世の教会に一瞬でワープできる。弦をつま弾くその弾く音そのものが聞こえ、その消え際の余韻まで再生される。途方もない高音質で神に捧げる曲がここにある。
19 ます(シューベルトピアノ五重奏曲 イ長調 作品114 (D 667)「鱒」・第4楽章:アンダンティーノ - アレグレット)/Koike Strings with 新垣隆(DSD11.2MHz)
バイオリンはそこ、ビオラはここ、チェロが居て、その囲まれた中を「ます」が跳びはねながら泳ぐ。弦は高低に合わせて定位感が変わる。「存在感・有る味」があったりなかったり。シューベルトがそこに「一カ所にとどまらないますの動き」を重ねたならすごいが。偶然だよねぇさすがに。
20 世界の車窓から/溝口 肇(DSD11.2MHz)
弦とピアノとドラムセットでジャズアレンジ。リアルかつ「間近」だ。ピアノは録音レートと録音方法と機材が高次元で融合しないとリアルに録れないが、それを成し遂げてある音だと改めて認識。消え際のピアノの倍音をや。
■総括
雑誌のベストバイなんか見てるとマランツやラックスマンの3桁まんえんの機械に比して安価(!)な機器だし、型番上もマイナーチェンジ感があって要するに「地味」だが、隠された秘宝を手に入れてほくそ笑むことが出来るキカイと言おうか(何だそれは)。音出しして徐々にボリュームを上げていったが、一聴しての印象は「静寂から立ち上がる上品な旋律」。やがて細やかで豊かな倍音を伴う弦が耳元で踊り、空間を織りなすパースペクティブでニヤニヤし始める。顕著な特徴は「小音量でも克明」で、ディテールが手に取るように判る。ノイズフロアが低く、歪みが少なく、超高解像度である証左。立ち上がりの一瞬の静寂や消え際の1bitまでも明確に聞こえるような、「取りこぼさず細心に復調」感は他に類を見ず。それはΔΣ方式でずっと引っかかっていた「正弦波のゼロ点を平均値で作っている」ゆえの不安定感(先入観)をようやく払拭できた。
限りないまでの解像度と透明な周波数特性の音に囲まれて天国が見えるかの如き令和の逸品。音域ごとの量感のコントロールはスピーカと配置でやって下さい。オレが天国に行くまで令和の間は頑張ってもらうぞ←地獄に落ちろ
■V.S.前任機DCD-SX11
重心の低さと解像度の高さ、それが効いてる小音量での克明さはかなり差があるかなと。最近のデノンで低域が軽いと感じられる方はこっちに来ると幸せになれる(その飯田明氏が見いだしたEnya「Watermark」に出てくる「どすん」が明確に聞こえる)。ノイズがあると大きめに音を出した時「うるささ」があるのだが、その点は特に大きな差となった。こういう価格帯は「あれ?値段差の割りにたいしたことないじゃん」になりがちだが、「たいした差があった」という結論。SX11よ10年間ご苦労様。交代だ。

→Enyaさん三昧してみる
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