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手のひら端末でも読めそうな「夢見るようなファンタジーで、命を守る」お話を、ぼちぼちリストして行きます。

魔法少女レムリアシリーズ「虫愛づる姫と姫君」(1/7・毎週水曜12:00更新)
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 お話カタログ

●連載タイプ(掟破りの携帯で長編)
魔法少女レムリアのお話(現在15編)
超感覚学級委員理絵子の夜話(現在13編)

●長編
「天使のアルバイト」
天使が、人に近い属性を備える理由、そして、だからこその過ち。その結果。
(目次

●短編集
大人向けの童話(現在10編)
恋の小話(現在13編)
妖精エウリーの小さなお話(現在22編)
(分類不能)「蟷螂の斧」

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色んな切り口色んな長さ。他の「ココログ小説」の方々の物語。「へぇ、こういうのもアリだな」そんな発見をどうぞ!

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -159・終-

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「ストップ」
言われて心臓マッサージを一旦停止。レムリアが人工呼吸。
「どうしました……あ」
 ナースコールで駆けつけたのは小柄な看護師。先ほどの看護師ではないが、事態は瞭然。
「吐血しました。ドクターをお願いします。喫煙したようです。CPR(心肺蘇生)はできますので手配願います」
 レムリアは血塗れの顔で状態を報告した。看護師は数回頷き、腰につけている院内PHS電話機に手を伸ばした(PHSは一般向け簡易携帯としては2010年までに殆ど姿を消したが、企業の内線電話向けとしては引き続き利用されている)。
「すぐ戻ります」
 看護師はひとこ言うと、一旦その場から走って消えた。
 程なくして別の看護師とストレッチャーを持って来る。
「学!」
「はいよ」
 看護師らも加わり、老男性をせーので抱え上げ、ストレッチャに移す。
「手伝います。私もナースです」
 レムリアは血を拭うこともせず、ストレッチャーの下にあったAEDを見つけて中を開けた。
 看護師のPHS電話機が鳴る。
「はい、判りました。今AEDを……すぐ行きます」
 看護師が応じ、電話を戻す。
手術オペ室へ行きます。じゃあ悪いけど一緒に」
「もちろん。学、お母様のほうお願い」
 レムリアは言うと、看護師らと共に、ストレッチャーを押して風のように去った。
 相原はその後ろ姿を見送ると、口の端に薄笑みを浮かべた。
「あの……おじいさんは……」
 夫人が心配そうに相原を見上げる。
「大丈夫です。ちょっと出血したようです」
 相原は膝小僧をすりむいたかのように軽く言った。
「でも」
 ベッドは血の海であり、一部したたり落ちるほど。
「大丈夫、彼女……医療奉仕活動やってましてね。世界中で沢山の人々を助けてます。自分も同じように肺に骨が刺さりましたがこのように。彼女のおかげです。待って下さいね。今後の対応について看護師に連絡を取り……ああ」
 相原は言うと、自分が座っていた椅子を夫人に勧めた。そこへ、連絡を受けたのだろう、先の愉快な看護師が小走りで到着。
「あれ?坂口さかぐちさ……」
 夫人が所定の位置にいないためか、見回す。
「こっちです。大丈夫です。落ち着いてらっしゃいます。ベッドの交換を……」
 看護師は夫人が移ったことに気づき、表情を緩める。
「オーケイ。手配する……もう一度洗濯だねそれ」
「ですかね。で、お母様どうしましょう。説明を受けられたいと思うんだけど」
 相原の言葉に、看護師は小気味よいとばかり、口の端に笑み一つ。
「ご案内しますのでこちらへ」
 看護師は夫人を伴って立ち、出入り口で立ち止まると、相原を振り返る。
「彼女は?」
「もちろん旦那さんと一緒に。来るのを待つ娘じゃないっす」
「やれやれ……入院が伸びるぞ。鬼だね」
「いや、魔女の本領かと」

 アルゴ・ムーンライト・プロジェクト/第2部~魔法の姫君とはんてんの騎士~ 完
(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト・終)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -158-

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 レムリアはもう気が気でない。
「ドクター呼ぶか」
「でも私なんかの……」
 男性に異変が生じた。
 機械の唸りのような異様な声を発し、勢いで布団をベッドから蹴り落とし、体を折り曲げて吐血する。
「ああっ!」
 レムリアと相原は同時に声を上げた。夫人が目を覚まし、突然の事態にどうしていいか判らず、立ち上がって狼狽える。
「手伝って。気道確保しなくちゃ」
 レムリアはベッドを飛び出した。点滴の管を抜き、スリッパに足を入れる。
 しかし
「痛!」
 顔をしかめて脇腹を押さえる。筋肉を使うと痛みで力が入らない。
「待て」
 相原は動こうとするレムリアを制し、両腕で抱き上げた。
 いわゆるお姫様抱っこ。腕だけで40キログラムを支えるのは負担かろう。ちょっと震えているのが判る。ただ同時に、これが自分の脇腹に負荷が掛からない最善と気が付いた。
 だから相原の首に腕を絡める。私を運んで。
「具体的にどうする」
 相原はベッドへ歩を進め尋ねた。男性は激しく咳込み、そのたびにベッドに血の飛沫が文字通り噴き出している。まるで塗りつぶすかの如く。
「ベッドの上に下ろして。肺の中の血を出すからあの人押さえて」
「了解」
 相原は答え、彼女を血の海と化したベッドに下ろした。
 濃密な血の臭い。生臭さと、口の奥がギシギシする鉄さびの刺激臭。
「おとうさん、聞こえますか?おとうさん!」
 レムリアは呼びかけた。が、男性はそれどころではない。苦しげに喉を掻きむしり、七転八倒しながら血を振りまいている。
 肺の中で大量出血が起こり、呼吸不全になっているのだ。顔が青紫色に変わって行く。
「押さえて。仰向けに!」
 レムリアの指示通りに、相原は男性の上半身を柔道“横四方固め”の要領で押さえ込んだ。
「そのまま、あ、ナースコールのボタンを!」
 レムリアは言い、自分の口を使って老男性の口から血を吸った。
 そして床の上に吐き出す。相原は痙攣する男性を抑えながら手を伸ばし、テレビの下に降りているコールボタンのケーブルに指先を引っ掛け、引き寄せ、押した。
 相原の目に映ったのは、血液の飛沫を浴びながら、それでも必死になって男性を救おうとする浴衣の少女。
 その横顔は凄惨だが、気高さと強さが横溢した。
 老男性を全神痙攣が襲い、相原の感傷を吹き飛ばす。腕が動かなくなり、ただガタガタ震える。
「心停止!」
 レムリアが声を出す。要するに心臓が止まったのだが全く動じない。
「任せろ」
 相原は判っていた。寝技を解き、両手を揃えて男性の胸の上へ。
「いいぞ」
「お願い。圧迫15回呼吸5回」
「了解」
 言われて相原は心臓マッサージを始める。右手の上に左手を重ね、上半身の体重を掛け、胸部がばくんばくんと動くほど力を込めて押す。相原にとって実際やるのは初めてだったのだが、レムリアの記憶がテレパシーで送り込まれた結果か、考えずともできたようだ。
 その押す動作のたびに口から血が溢れる。それをレムリアが口を使って吸い出して捨てる。

(次回・最終回)

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【魔法少女レムリアシリーズ】虫愛づる姫と姫君 -23-

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 7

「姫ちゃん。森本先生から電話」
 彼女が“母”と呼ぶ夫候補の母の声に、彼女は眉根を潜めた。その日の夕刻、5時半近くで、これから早めの夕食を摂って塾へというところ。森宮のばら関連に相違ないのだが、彼女は30分前に森本に引き渡している。ちなみに二人ともハチに刺されたわけではないが、森宮のばらは何度か転んだし、自分も膝突いての方向転換や、道路脇の草に触れるなどして、絆創膏の必要な傷を幾つか作って適当にやさぐれている。
「はい。お電話代わりました」
『ああ、森本だが、君、森宮の生徒手帳を知らんか?』
「は?」
 唐突すぎて事態が飲み込めない。ただ、電話の向こうに森宮のばらの嗚咽が聞こえる。
「のばらちゃん何かあったんですか?」
『……ああ。それで……』
 要領を得ない。言葉を濁す何かがあるのは判る。
「今どこですか」
『いや……』
 面倒くせぇ。テレパス使わせろ。
「彼女のおうちの前ですね?のばらちゃん聞こえる?今行くからちょっと待ってて」
 電話を切り、ジーンズにブラウスの上半身に体操ジャージを上着がわりに羽織ると、母なる人も慣れたもので。
「塾には連絡しておくわ。何かあったら電話なさい」
「はい」
 電動アシスト自転車に電池を仕掛けて車庫から駆け出す。彼女のアパートは家から左へ出て坂道を上がった方が早いが、生徒手帳がどうのと言った。落としたか何かしたのだろうか。ならば彼女が寝そべっていた草むら四阿の前を通ってみようか。
 右に折れて急坂登って学校の方へ。学校前の十字路を左に折れて遊歩道……そこにはジャージ姿の平沢進が懐中電灯を持って地面を照らしている。
「ヒラ、どうした?森本先生からの電話?」
 彼には伝言を頼んだので、森本がアクセスするなら自分と彼だろう。
「ああ、森宮さんが生徒手帳をなくしたって……でも、見つからない」
 見れば草むらはかなり踏み倒されており、彼がくまなく探してくれたと見て取れる。
 超感覚はここにあるとは言ってない。ならば寝かした船内か。いや、船は活動前後の自身の質量を見ているので、あればそれと判る。
 散々暴れ回ったバスの転回場だろう。自分の物じゃないので認識が薄く、超感覚は反応しなかったのだ。
 ともあれ。
「彼女の泣き声が電話越しに聞こえた。どうも普通じゃない。行ってみようかと思う」
「家知ってるの?」
「判るよ」
「オレも行くよ。報告しなきゃならないし……あ、オレは走って行くからいいよ」
 自転車とランニングで並んで走り、二人は川沿いへ向かう長い坂道を降りて行く。道は細く、舗装が古くデコボコしており、聞くに住宅街ができる前からあるとか。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -157-

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 レムリアはテレビを覗き込みながら言った。男性の頭があって画面がよく見えない。
「同じく何もなし。まぁあんなもの正体ばれたらえらいことだが。ちょっと借りるよ」
 相原は言うと、レムリアの衛星携帯電話を手にして窓際に向かった。
「Hello,this is Manabu-aihara from remlia's mobile phone.Please show me star-ship argo's status………yes……yes,Oh I know……that's famous company……yeah,I'll be slave from next spring.So thank you.And now Princess so well good-condition……yes,bye」
(雑訳:相原がレムリアのモバイルから通話です。アルゴ号の状態は?その会社なら知ってます来春からそこの奴隷。姫様はご機嫌麗しく。では失礼)
 相原は終話ボタンを押して戻った。
「本部の曰く鎌倉にある宇宙機やってる会社に保管中とさ。セキュリティからも妥当だろう……って、聞いてないな」
 レムリアはテレビの情報に集中している。詳しく知っても動けないが、気になる。人ごとではいられない。そのバスが遊園地に出かけた子供会の帰路と聞けば尚。
 コマーシャルになった。
 そこでベッド上の老男性が夫人の方を見、のっそりと起き上がり、咳をしながら部屋を出て行く。
「肺炎……」
 老男性の姿が見えなくなったところで、レムリアはぼそっと呟いた。
「しかもかなり悪い……やだな」
 レムリアは下唇を噛んだ。
「それは予感?」
「て言うか……あの人まさか……」
 レムリアは夫人の方を見た。夫人は椅子の上でこっくりこっくり居眠りをしている。
 男性は奥さんの居眠りを見計らって立ち上がったに相違ない。
「ヤバくね?」
 期せずして二人は顔を見合わせた。相原も自分と同じ懸念を持ったと理解する。
 数分後、男性が帰ってきたが、先程以上に咳が酷い。
 そして呼気に含まれる臭気。
 二人は頷き合った。
 男性はトイレか何かでタバコを吸ってきたのだった。タバコを吸う人間と吸わない人間では存在を感知する閾値が大いに異なる。喫煙者が皆無と感じる程でもあからさまという表現が使える。
「まずい……んだけど」
 レムリアは呟いた。老男性の咳はゴボゴボと泡立つような音だ。いや本当に泡が立っているのかも知れぬ。肺の中に発生しうる液体・水分とは即ち。
 男性はレムリアの視線に気付き、すぐに避けるように目を背けた。
 そしてベッドに潜り込み、息を押し殺すようにして咳をする。布団の大きな動きから呼吸が不調であることはすぐ判った。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -156-

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 恐らく、今後のことを考えると、彼には正直に話すべきなのだろう。が、今それを全て話すのは時期尚早、というか、おのずと知ってもらう時が来る、そんな気がする。
 なので。
「いい思い出ないもん。多分どこの姫様にも大なり小なりあると思うよ」
 レムリアは目線を外した。
 相原は両の手を広げて軽く持ち上げた。アメリカ映画で諦念の意思表示に使われるジェスチャー。お手上げ、ノータッチ。
「判ったごめん立ち入ったこと訊いて。レムリアとしか呼びません」
「いいよ、別に」
 レムリアは笑った。ごめんね。
 すると、相原は薄笑みを浮かべて。
「姫君か。船乗って奇蹟を起こして回る姫ね……いいじゃんか、なるほどミラクル・プリンセスだな」
「そうかな」
 ちょっと照れる。それは目の前開かれたままの記事の最後の方に書いてある。キームゼーでも聞いたことだが、自分が言ったことではないから、周辺にそう言われているということだろう。
 ただ、アルゴ号は本当に奇跡を起こすためのキカイだ。メディア姫がアルゴ号で救助する側。それはそれでいいではないか。 
「かっこいいじゃねぇか。姫様舞踏会でドレス引きずり回してるだけじゃねえぞってな」
 レムリアはブッと吹いて笑った。姫様イメージぶちこわし。
 彼の目が、レムリアを見る目に戻ったと知った。
「副長とか、どうしただろ」
 話題を変える。〝最大の懸念〟が解決したせいだろう、次の心配はそっち。
 ハッと気づく。まずその心配をすべきだったのでは。……自分優先に反省。
「ん?新聞には何も書いてないよ。オレも逮捕されたが現在ただいまここにいるわけで。乗組員推して知るべし。イスラエルは写真出してるし、ちありちゃんに発言されたら日本政府は信じるしかないでしょ。コルキス本部と裏で何かやってると思うし。何でも同盟国合衆国の言いなりの可愛い犬ってわけじゃない。心配するこたないと思うぜ。何か感じるか?」
 テレパシー。予感など特になし。
「そっか。そうだね」
 レムリアは頷くと、箸を盆に戻した。
「ごちそうさま」
 久々にまともな食事を摂った気がする。今回船の中では自分のクッキーすら口にしなかった。
「もういい?売店で何か……」
「ううん、いいよ」
 レムリアはうーんと唸って伸びをした。相原が空食器を載せた盆を脇机に移す。
 外が騒がしくなってきた。救急車のサイレンに加え、ヘリコプターの飛行音。応じて廊下をバタバタ行く足音が幾つか。
 隣の老夫婦の見ているテレビに速報。空撮画像によれば、玉突き事故にバスが巻き込まれ、横転している。
「船があれば……そういや船は?」

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -155-

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 そこで院内放送のチャイム。先ほどの個人呼び出しと異なる雰囲気であり、応じてコミカルな看護師にも緊張が浮かぶ。
 放送の曰く、首都高でバスの絡んだ大きな事故があり、急患が大勢押し寄せるという。手空きの者は対応願う。
「あのあたし……」
 彼女メディアは自らを指さし、ベッドから出ようとした。
 看護師が目を剥いた。
「え?おいおいうちの病院は腹の傷パカパカしてる娘を手伝わせる趣味はないよ。それにナースは充分足りてるから。寝てなさい。これは命令」
「はーい」
 彼女メディアは不承不承といった風情で頷いた。看護師はニコッと笑うと、部屋から出て行った。
 視線を感じて振り返ると相原が見ている。
 それは傷付いた、そばにいた、彼ではなく、テレビの向こうのタレント……〝存在は知っているが接点は無い〟相手を見る目。
「姫様、ねぇ」
 相原はマンガに出てくる古代中国の任官のように、右手をガウンの左の袖に、左手を右手の袖口に入れ、腕組みした。
「ええ」
 レムリアはちょっと気取ってペットボトルの緑茶を口に含んだ。それこそ古い東洋からの使節団の訪問を受けたみたいだ。
「王女様」
 相原は恭しく拝跪し、そう口にした。
 王女は口に含んだ日本茶を反射的に吹き出しそうになった。
「ちょっとやめてよ」
「姫、おひいさま」
「きゃあ」
「本日はご機嫌麗しく、このはんてんの騎士、ご尊顔を拝し奉り恐悦至極に存じます」
 相原が使った最大限の敬語は、レムリア自身はそうとは知らなかったが、古風な響きから日常的なものでは無いことは理解出来た。
 王女は顔を真っ赤にして相原を見た。
「やめて……ぎゃはは……さぶいぼ(鳥肌)が出る」
 その所作はやんごとなきお方共通の高貴で淑やかなイメージではない。
 Tシャツ短パンで飛び回る元気な女の子レムリアである。
 そして、自分、それでいい。
「やっぱりレムリアだ。ってか、よくさぶいぼなんて言葉知ってるな」
「いいよそっちで。私だって……その、ボランティア活動の芸名とでも言うかな、ニックネームそっち使ってるから。メディアなんてマスコミかデータディスクじゃあるまいし、ましてや姫だの王女だの……ガラにもない」
「でも王女様なんだし……気が引けてさ。某国だってそういう血筋の方は宮様って呼んでるし」
「嫌、血筋は意識したくない」
「なんで。プリンセスは女の子の憧れ、ってのが童話の定番だし、グレース・ケリーとか、似たような事案は国あげて羨望のまなざしだけど」
 相原のシンプルな質問にレムリアは答えを躊躇った。普通の女の子は姫様になれると聞いたら喜ぶのであろう。比して最初から姫だと姫なりの事情があるのだ。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -154-

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 相原は記事を数ページめくる。挿入されたグラビアに写っている戴帽式でナースキャップの彼女。王宮の庭だろうか、馬にまたがりポロのスティックを操る彼女。どこかに国賓として家族で訪れた時のものだろう、青いドレスで豪華な彼女。
「姫」
「はい」
「看護師さんコレ普通の入院食……」
 相原は尋ねた。
「ええ、さすがに冷めたからレンジでチンしたけどね」
「レッキとした王族の娘が都内の病室でシャケ弁当を食べているの図」
「あのー描写しないでいただけますかねはんてんの騎士殿」
「これは失礼。しかしホントに?」
「ホントに」
「ホントのホントに?」
「ホントのホントに」
「だとしたら国賓待遇じゃ……」
 それを聞いてレムリアは箸を置いた。
「いいです。このまんまで。今まで通り扱って下さい」
 姫、と聞いた瞬間、みんなの態度が変わってしまう。一歩引いてしまう。ガラスのバリアを張ってしまう。
 それは、いや。
 特に、この、相原という青年はそんな存在にしたくない。
「いいの?じゃない、よろしいのですか?」
 看護師は困惑気味に訊いた。
「ええ。そういうの嫌いなんです。私は私なのに家系だけでみんな勝手に決めてしまう。なのでどうか」
「判った。じゃ、特別扱いはしないよ」
 看護師は言った。
「ありがとうございます」
 レムリアは頭を下げた。その後、二人はカルテを作ったのだが、女の子だし、ということで相原は外へ出された。
 相原が向かったのは休憩室。携帯電話の電源を入れようとし、電池切れで応答せず、新聞を手にする。
〝欧州宇宙船、戦争を止める〟
 イスラエルと東京湾のクジラが写してあり、更にイスラエル側はアルゴ号が作った光の柱を公開している。犯人はネオナチの手合いとだけしてあり(イスラエル視点ではそうなろう)、解決は欧州宇宙機関が秘密訓練していた新型宇宙船にレーザ兵器THEL(Tactical High-Energy Laser)を積み込み、というストーリー。まぁ誰かがデッチ上げた以外の何物でもない。無論、日本人某が出てこない一方、人種差別の繋がりも出てこない。以下もんもんと社説や政府の対応への苦言、安全保障だ自衛権だ。
 相原が呆れて戻ると看護師がカルテを胸に立ち上がったところ。
「終わった……」
「よ。いいよ。じゃあ身元保証その他の窓口は派遣団の方に照会すればいいのね」
「はい」
「判った。治るまでゆっくりして行きなされて」
「ありがとうございます」
 レムリアは答えた。自分を見る相原の目が変わっていると感じる。メディア姫を見る目になっている。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -153-

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「メディア・ボレアリス・アルフェラッツ」
「へぇ……何か古風な響きね。どこの言葉?」
「ラテン系の古語と聞いてます。メディアが私自身の固有の名前。ボレアリスは称号で北方の冠の意味、そしてアルフェラッツは国名です」
「称号に国名?名前に国名って凄くない?日本武尊みたいじゃない。え、ちょっと待ってアルフェラッツ……」
 聞き覚えがあるのか、看護師は腕組みして考え込んだ。
 相原が二人の会話、言葉のピンポンに合わせて、目玉と首を行ったり来たり。
「12歳」
 看護師は念押しするようにレムリアを指差した。
「はい」
「ナース」
「そうです」
「ちょっと待っててよ。彼にも何も言っちゃダメ」
 看護師は首を傾げて言うと、バインダーに挟まれた書きかけのカルテをベッドに置いたまま、部屋から出た。
「バレたかな?」
 レムリアは呟いて舌を出した。
「え?」
「いやこっちの話。わーいいただきま~す」
 割り箸をぱちんと割る。
 相原はあんパンの袋を破って取り出し、かじる。
 1分も経たず、看護師が何やら雑誌片手に戻ってきた。
「これでしょ」
 ページを開き、ベッドの上に広げる。
 そこには頬を赤らめ、看護師の白衣に身を固めたレムリア。
 “最年少看護師はお姫様”
 相原の全身が凝固した。
「へ?」
 今度は相原が冷静さを失ったとレムリアは思った。
 シャケの切り身から小骨を抜く。ちょっと勝利感。
 看護師は記事とレムリアを見比べ、納得したように頷いている。
「日本のような看護と平和を世界に……道理でペラペラだし箸も上手に……お使いになる、というべきね。ハイネス」
「ちょっと」
 相原は看護師の手から雑誌を横取りし、記事の本文を読み始めた。
「……世界各国の難民キャンプや野戦病院に医療補助を行っている国際医療ボランティア、欧州自由意志医療派遣団に、このほど現役世界最年少の看護師が誕生した。彼女はメディア・ボレアリス・アルフェラッツ殿下、12歳である。アジアとヨーロッパの境界に位置する小国、アルフェラッツ王国のレッキとした王女様だ。姫は幼少のみぎりから困っている人を助けたいという希望を強く持っておられ……」
 相原は丸い目をしてレムリアを見上げた。
「王女様なの!?」
 大きな声は老夫婦が振り向くほど。
 しかし、老夫婦の反応はそれだけ。普通、日本の大学病院でシャケ弁食べてる異国の姫という組み合わせは、存在しない。
「そういうことになりますね」
 姫の名を持つ少女は、ニコッと笑ってシャケの切り身を口の中に放り込んだ。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -152-

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 全身が熱くなる。何だろうこの恥ずかしさは。
「お、おい熱いのか?」
「そうだけどそうじゃなくて」
 何だこれ。
「不適合反応は起こってないから」
「オレの血が身体の中巡ってるって?」
 ぎゃー!
 図星という日本語を理解する。そう、自分はそれを意識して唐突に恥ずかしくなっている。
「そういう反応しなくてもいいだろ。どうせ二週間だかで全部入れ替わるんだろ血液って。脾臓ひぞうってそのためのもんだって聞いたぞ」
「でもさ。なんかさ」
 レムリアは下を向いてしまった。恥ずかしくてまともに顔が見られない。
 何で?
 自分が女だから?
 好きと言われたから?
「恥ずかしいって?」
「だって……あなたの一部なわけじゃん」
 ぎゃー!何言ってるんだ私。
「そういう捉え方するから赤くなるんだ。ガクジュツ的には単なる蛋白質と糖の分子の集合体に過ぎんだろうが」
 相原が心なしかニヤニヤ笑っているように見える。逆に主導権を取られたと感じる。
「で、でもDNAはあなたのものを持ってるわけじゃん。それが……」
「何が言いたいんだ、何が。血液細胞は自己繁殖はせんぞ。そーいうことは良く知っとるはずだろうが」
「でも……」
 言い返したいが、言い返したいために言葉を選ぶと逆に意識しちゃって空回り。
 何だこれ。自分、何だこれ。
 冷静さはどこ行った。
「じゃ返すか?血漿なんかもう同化してるから分離できんぞ」
「エッチ!」
 で、アカンベエ。ああこれいっぺんやってみたかった奴だ。
「あのなあ」
「傍から見てるとイチャ付いてるようにしか見えんわね」
 ノックがあって先程の看護師である。食事一式を載せたプラスティックのお盆と、何やら茶色の紙袋を持って立っている。
「はい食事持ってきたよ。あんたはこれね」
 はんてんの騎士には紙袋の中からあんパンがひとつ支給された。120円。消費税込み。
「あっと、お箸大丈夫だっけ」
「はい」
 レムリアのベッドにテーブルがセットされ、食事が置かれる。
 お盆の上は純和風。
「いただきます。あーおなかペコペコ」
「どうぞ。それとこれね」
 看護師は再び紙袋に手を入れる。それはレムリアのウェストポーチ。
「あ」
 レムリアは箸を置き、ポーチを手にした。
「どうもすいません」
「ベルトの所血が染みててね、クリーニング。さっき届いたのよ」
「綺麗に取れてます。で、あたしの名前はこれです」
 レムリアはポーチを開き、彼女が属する医療派遣団のIDカードを取り出した。
 相原がハッと気づいたように覗き込む。
「12歳。え?あらあなたもナース?なの?え?12歳で?」
「はい」
「メディア……ごめん、これなんて読むの?」
 レムリアは一呼吸おくと、看護師と、相原を見た。

(つづく)

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予定とか目論見とか野望とか

明けました。おめでたいかどうか知りませんw

「空き教室」は25年末に完結しました。作中の時間的にはかなり前なんですがね。リストは応じた時間軸に配置します。

レムリアの方、「虫愛づる」はもう少し。そのレムリアが初めての登場となる「アルゴ・ムーンライト・プロジェクト」はNola原作大賞に出すので(おいおい)書き直していてダラダラ載せてます。が、間もなく完結見通し。

その後、ですが。

実は2025年中にレムリアたくさん遊びに来てくれました。すなわちストックが出来ています。今年はそれは順次解放して行きます。女子高校生になるのでご期待下さい。

・「虫愛づる姫と姫君」(イマココ)
・「トワイライト・マジシャン・ガール」(但し物語空間的には「アルゴ号の挑戦 」と「転入生担当係 」の間。完結後はその位置にリスト)
・「寺社仏閣と魔法少女と」
・「文化祭の頃」
・「狭間で」
・「未練」
・「お姉ちゃんになって」
・「男の子の場合」
・「マジカル・ハイスクール・ガール」←!!
・「近寄らないで」
・「妾は高貴な姫なりき」
・「ひと夏の姫君」
・「母からの言伝」
・「16歳の花嫁」←!!!
・「おもちゃはこころのたからもの」
・「ほころばせたい花一輪」
・「ジーニアスラヴモーション」
・「病葉の乙女と雑で適当な姫君」
・「三十七兆の始まり」(進行中)

で、多分今年は終わるんだろうねぇ←もう年末の話かよ

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -151-

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「殊勝でよろしい。そのまま何も見るな」
 看護師は相原に命じると、傷の状況をチェックし、体温を測るように指示した。
 その間相原は微動だにしなかった。
 はんてんを取ることが許可されたのは、体温計が測定終了の電子音を鳴らした後。
 看護師はレムリアから体温計を受け取り、覗き込んだ。
 37・5度
「七度五分か、傷深いからまあそんなもんだろうね。じゃ食事持ってくるから。そうそう、あなたカルテ作りたいんだけど名無しのゴンベさんなのよ。はんてんの騎士はフルネーム知らないって言うし……日本人じゃないんだって?」
「ええ、私は……」
 言われて思い出す。彼は自分が“魔法少女レムリア”としか知らない。
「いいよ、あとで。ひとまわりしたらあなたの持ち物も持ってくるから、その時で。おいはんてんナイト、不適合の注意事項は覚えてるな。頼むぞ」
「え?あ……」
 相原が反応する前に看護師は姿を消していた。
 レムリアはくすくす笑った。
「面白い人だね。あんたもね」
「そうかぁ?でもここの看護師万事こんな調子だよ。結構しんどい仕事のはずなのにいつもニコニコしててそれをおくびにも出さない。ここを指定した理由のひとつ。滅法明るいべ?不安な気持ちにならない」
「指定?選んだの?」
「まぁね。オレなりに最高の病院と信じて。……だからあまり言わすなそういうこと」
 レムリアが覗き込んだら相原は照れた。
 ずっと面白い。
「それで、だね」
 相原は話題を変えた。照れ隠しだ。
「はい?」
「めまいとか、どこかカーッと熱い感じがあるとか、ないか?」
 相原はレムリアの手首を取って脈を診た。
 くすくす笑いは傷に来る。その脈絡の無さ、その唐突さ。
 多分看護師が言い残していった“不適合の注意事項”に基づく質問だとは思うが。
 何も話題が無かったらどう話を持っていったのだろう。
 不適合?
「あのー、大変恐れ入りますが、ドクターに言われたことをそのままお話し頂いた方が、逆に手っ取り早い気がしますが。あなたが間違った理解をされるとは思いませんが」
 レムリアは言った。自分の身体に予見される変調なら、申し訳ないが専門外の相原を介すより自分が直接意識した方が多分。
「400CC」
 相原はレムリアの腕を指さして言った。
 何その婉曲すぎて螺旋状態の表現。
「え?」
「やはりそれでは判らんか。俺の血が少し」
 輸血されたのだ。レムリアは理解した。
 ちょっと待った。
 理由は判らぬ。輸血なんて茶飯事であって驚くことでは無い。対象が自分と言うだけ。
 なのに、激しく動揺している自分がいる。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】虫愛づる姫と姫君 -22-

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 傍らでは振るった網の中にかなりのハチ。ぶんぶんと凄い羽音だ。畑のそば背の高い茅の葉っぱを引っこ抜いてヒモ代わりに縛り、網の口からハチが逃げるのを阻止する。なお攻撃態勢のハチはフェロモンで他のハチを呼ぶので、こうして森宮のばらが生かしておくとどんどんとハチは寄ってくる。退治が最善であるが。
 イヤホンにピン。
『ハチはその小屋の脇にある土の玉のようなモノから出てくる。それが巣じゃないのか?』
 アリスタルコス。船のカメラが撮った画像を寄越す。耳の無線機PSCはこれを視神経に被せてヴァーチャルリアリティの要領で見せてくれる機能を持つ。バス待合所の外壁に茶色の濃淡で縞模様を描くラグビーボール状の大きな塊。
「のばらちゃん。巣は待合所だ」
「判った」
 すると森宮のばらは逡巡するように少しの間網を見た後、そのまま側溝水路に持って行って網を水に浸けた。
 昆虫類は腹部に吸排気システムがあってそこから呼吸する。従って水に浸ければ窒息する。また温度で運動能力が変化する。冷たい水で動作を鈍らせる意向もあろう。羽音が水に飲まれて泡立つような音に変わり、更に水中に没して全く聞こえなくなる。水中で暴れもがき、文字通り上を下へと動き回る多数のハチ。
「代わろうか?」
「いい。私がやる。責任を持って見届ける」
 殺す、ことに大きな躊躇があったに相違ない。でも、それが今は最適解。
 中途で止めたりするまい。
「アリス、それは巣です。火の玉」
『プラズマ準備ヨシ』
「のばらちゃん、それはそのまま放っておけばいいよ。持ち上げて見届ける必要はない。ヘタに持ち上げてわっと出てきたら大変。これからブラスターで巣を破壊する。残ったハチがまた出てくる可能性があるから船へ戻って」
「判った」
 森宮のばらは茅の先っぽを引っ張って網の棒に結び付けると、意を決したように網から手を離した。網が流され、茅に引っ張られて止まり、ハチが蠕くネットの部分が水底へ沈んで行く。
「殺しちゃった……」
「あなたはその勇気で子供達を助けた。ちゃんと神様が罪を贖って下さいます。さあ」
 幾らか残っているハチをシャベルでひっぱたきながら、レムリアは二人を船へ急がせる。全員が待合所に背を向ければ次のステップに進める。ブラスター(Blaster)、熱線銃と表現したが。
「アリス火の玉。ターゲットはハチの巣」
『おうよ照準よし。見るなよ』
「カウントダウン3秒、2、1、0」
 パンと破裂音がし、目を閉じて程なく、まぶたを通してすらそれと判る白銀の火の玉が甲板から一閃し、待合所で小さなキノコ雲を作った。プラズマ銃。大電流でアルミの塊を溶かして文字通り火の玉を生成し、その大電流の発揮する電気力で射出する。
「次、レーザーをマルチターゲット連射。準備良ければGO」
『行けるぜ』
 グリーンのレーザ光が数秒間で数百本。バチバチと静電気が飛んだような音が幾らか聞こえ、静かになる。
 雰囲気が変わり、“命”が全て失われたことを確認する。こういうのは魔女の仕事。
 彼女が船のスロープに足を載せると、両の手にそれぞれ1メートル50の長銃を持った大男が、上からニヤッと笑って寄越した。
「ミッション・コンプリート」

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -150-

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 レムリアが少し笑うと、
「でもさ」
 相原のその言葉に、目を戻した。
「誰かのために生きてるって自覚してるかどうかに、年齢は関係ねえんだ。君はその歳で覚醒してる。そんだけさ」
「胸ぺったんこの童顔でも?」
「この娘は一生懸命生きてる。誰かを生かすために一生懸命生きてる。それがオレの第一印象で、それがオレの君に対する思いの全て。以上です」
 相原は誤魔化すように言って、諦めたように笑った。
 このひと可愛い、それがレムリアの思ったこと。
 すると相原は急に少年のような顔になり、
「恥ずかしいぞ」
「なんで?」
 レムリアは小首を傾げて尋ねた。
 それが“可愛い仕草”であるという認識はある。ただ、意図してそうしたわけではない。
「およそ21の男が……屈したんだぞ」
「あたし嬉しいよ。ああこの人あたしのこと凄く素敵に大切に考えてくれてるんだなあって。そりゃちょっと照れくさいけどさ」
 レムリアははにかんだ。
 好き、と言われてドキッとしたことは応じた回数あるが、素直に“ありがとう”と言える気持ちになったのは初めてだ。
 ただ、自分が好きだからか、と言われると違う。否、好きという感情を持ったことが無いのでワカラナイと言った方が正確かも知れぬ。
 結論、楽しい。
「あなたはあたしのことが好き」
「ぶっ……ええい唐突に何を言う。そういうことは明確に言語化して喚呼確認するでない。君はテレパスの使い方を間違っている。判っておればよろしい。言わすな恥ずかしい」
 やっぱり楽しい。
「え?いいじゃん別に。あなたの気持ち、凄く嬉しいよ、ありがと」
 レムリアは言った。そして判った。この男には“いかに相手を傷つけず自分の気持ちを伝えるか”という苦労がいらないのだ。
 ありのままの自分でいられる。
 すると相原は急に真面目な顔に戻り、何か言いかけたが、そこまで。
「お邪魔かな」
 トーンの低い利発そうな若い女性の声がし、部屋の入り口部分の壁が二回ノックされた。
 看護師である。雑貨屋の大きな紙袋。
「気が付いたね。じゃあ熱測ろうか。ハイはんてんの騎士は何も見ない何も聞こえない」
 看護師は軽妙な語り口で言いながら、その紙袋から相原愛用のはんてんを取り出すと、目隠しするように彼の頭にかぶせた。
「洗濯してあるから持ってきな。着ていた服も置いとくよ。えーっと、彼女は何か食べるかな?」
「はい。じゃぁ」
 言われて意識したら急に空腹を覚えた。
 相原ははんてんをかぶったまま、微動だにしない。はんてんの形状もあり、消えそびれた幽霊のようだ。とぼけた感じが珍妙。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -149-

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 館内呼び出しの音。
「あなた出てきた。って言うか連れ出された。アルゴ号でね。宇宙へ出るんだ。二人っきりで。誰も知らない。こっそり私を連れ出すの」
「それで?」
 相原がひとこと挟む。
「銀河に沿っていろんな星々を旅するんだ。アルゴナウタイ訪問ツアーって。神話に出てくるアルゴの乗員達の星座を実際に尋ねるんだ」
「なるほど、オレならやりかねんな」
 相原は人ごとのように論評を挟む。
「それで、あなたからいろんな事教わった。ふたご座は兄貴星のカストルよりも実は弟のポルックスのが明るいんだ、とか、こと座の琴はオルフェウスの持っていたもので、主星ベガは1万2千年後に北極星になる、とか。あとなんだっけ、ケンタウルス座のアルファ星は……」
「やがて太陽に近づいて、重力バランスの変動から彗星が雨のように地球に降り注ぐ。か?」
「そうそう。この辺本当の科学的知見?」
「うん」
「じゃぁ、やっぱり、あなたの知識だ」
 レムリアは一呼吸置いて。
「この間会った時にさ」
 前述の瀕死の相原を船に担ぎ込んだ際の話である。
「あなたあたしにデートしろって言ったじゃん。正直言うとさ、似たようなお誘いは数え切れないほど受けておるわけですよ」
「まぁ、そうだろな」
「お茶しよう、面白いところ行こう……でも、宇宙へ行こうと言ったのはただ一人。でね、一つ訊きたい。口に出して言えって言ったら、言える?」
「……」
 相原が口にしようとした直前にレムリアは制した。
「待って、そう言うとあなたは『宇宙行こう』棒読みみたいに言う」
 相原は苦笑した。
「あなた、私のこと、好き?」
 正面から問われて、相原は固まった。
 まばたきすらせず、レムリアを見つめ返したまま硬直。
「へへ、ごめんね、気が変わった」
 レムリアは言ってみた。
 言葉にされないでも判っているし、それは彼もよく知っていることだろう。
 ただ、彼に対する自分の情動は、過去自分に気持ちを示したどの男の子とも違うし、また自分に接するどの“大人の男”とも違うのだ。否、どっちでもある、というべきか。
「目を見て言うか?」
「ええ、出来れば」
「お前、命がけで守るに値する、女だ。女の子じゃねえ、女だ……大好きだよ」
 相原は言い、レムリアの手を、両手で、柔らかく包んだ。
 骨張ってクッション感の少ない、しかし熱い男の手。
 一つだけ予想に反したのは、ドキドキという脈動を感じないこと。
「学って歳幾つだっけ」
「21。12歳の女が真面目に好きだなんて言ったら世間一般的には犯罪。ロリコン、変態、逮捕」
「だろうね」

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -148-

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 彼女は理解した。自分の様子の確認か。
「ごめんね、テレパス娘で」
 はにかんでみせる。含めて、相原の気持ちは、わざわざ音声に具象化してもらわなくても、判った。
 面映ゆい。だから、からかい半分、意地悪で、言ってみた。
 ちょっと面白い。
 すると。
 相原は隠しても無駄と諦めたか、はたまた腰を据えたのか、フッと笑い、そして、自分の手は握ったまま、配管剥き出しの白い天井を見上げた。
「彼女のためだったら僕の血を全部抜いたっていい、臓器だって使える物なら全部使っていい、とにかく彼女を助けてくれ……と、申しました」
 今度はレムリアが赤くなる番だった。が。
「この娘は僕には何より大事な女の子なんだ。この位のことで死なせないでくれ」
 相原は、レムリアに顔を戻した。
 そして、レムリアもフッと笑った。
「ずうっとそばにいてくれたんだ」
 レムリアは相原の手を握り返した。
 呼応して早くなる相原の脈拍。
「まあね。あ、ごめんよ……勝手に手を握ったりして」
「ううん。いいよ。あなたの手は強くて熱くて、心地いい」
 レムリアは手を離そうとする相原のその手を、その必要は無い、とそのまま握った。
「そうか、それであんな夢見たんだ」
「え?」
 レムリアは目を閉じた。
「そう。夢。いつもと違う不思議な夢。でもそれが、あなたがそばにいたせいだったなら、納得できる。何か夢見た憶えは?」
「夢と言うより、祈ってた」
 相原は、そう返した。
「え……」
 レムリアが思わず目を開けると、今度は相原が目を閉じている。
「この娘を助けて下さい。世界の子どもを助けるためにも、この娘を助けて下さい。そう、祈った。理系のクセにね。祈ったよ。誰でもいいからと、祈ったさ。今こそ祈るべきだと思ったし、祈るしか無いと思った。お前さんが花咲いたみたいな笑顔で飛び跳ねてる姿思い描きながらね。こうなってくれってね。必死に祈るということがどういうものか、判った気がする。そのうち、眠り込んだらしい。夢を見たかどうかは判らん」
 相原が目を開く。
 今度は、自分が、語る番。
「なるほどね」
 レムリアは相原に一瞬目を合わせ、自分が、目を閉じた。
「夢ってさ」
 相原は特に相槌を打たない。しかし続けて良い旨は聞かずとも判る。
「人生反映されてんだよね。いやご大層な意味じゃ無くてね、知識と経験が映像に出てくる。……宇宙が出てきたんだ。それも凄い経験だったけれど、それだけじゃ出てこない、もっと広い空間。あたしの知識じゃない」
 テレビの音。
「男の夢、あなたの記憶、なら合点が行く。あんなスケールの夢あたしじゃ見られない」

(つづく)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -87・終-

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「その通り。あなたがその線路に落とされたことにより、それを認める旨の証言をその者より引き出した。あなたがそれを回避したなれば?」
 教頭が関わっている、という論理的つながりを断ち切ることになっただろう。秘密を探られていると知った教頭が理絵子を消しに掛かったというプロセス無く、いきなり教頭を疑ったことになるのだ。唐突すぎて不自然である。
 同じ事が全体に対して言える。理絵子がもし、心霊写真をあゆみちゃんのせいだと決めて、いきなり空き教室に臨んだとしたら?
 教頭に殺害されてそれこそ伝説の一部と化したか。
 或いはそれを回避できても、疑う自分をあゆみちゃんは相手にしなかっただろうし、“彼”でない自分に、彷徨う彼女を救うことはできなかったに相違ない。
「全てはあるべくしてあり」
 理絵子は言った。それが結論。
「その通り」
 住職は頷いた。
 気持ちがすぅっと軽くなる。
 あるものをありのままに受け入れられるというのは、何と気楽なことなんだろう。
 廊下を来る数名の足音。
「クゥールでクレヴァーな会話は終わったかい?」
 桜井優子が顔を出す。
 墓参のメンバーは他にマスターと朝倉祥子。
 朝倉祥子が畳に手を付く。
「本来、誰よりもわたくしがここに参らねばならないところ。不作為を反省しております」
 住職は朝倉祥子に顔を上げさせ、
「いえ、それは時が必要だったかと思われます。あなたが今のお心の状態で参ってこそ彼女も浮かばれようというもの。あなたは悩み、苦しみ、そして傷ついた。長い長い時間を彷徨った。ただその結果として、この黒野さんを素直に受け入れ、そして最後には彼女のために死線に向かって足を踏み入れたではありませんか。これが無駄な遠回りだという愚かな者はおりますまい」
「『私の生徒ですもの』……かっこよかったぜ、先生」
 桜井優子がからかい半分で言った。
 聞いたところでは、朝倉祥子は理絵子が出て行くところを夢に見、仲が良い桜井優子に電話で問い、桜井優子がマスターにクルマを出してもらって、深夜の学校へ乗り込んだという。
 朝倉祥子は照れたように笑った。
 理絵子はハッとした。
 担任がこういう表情で笑ったのは初めてではないのか。
 しかし。
「半年休職ですと、もう3年になるまでお会い出来ないんですね」
「ええ、復職先は別の学校になるかも知れない。いっぺんアパートを引き払って実家に転がり込むつもり。……ありがとう。あなたには学級委員という以上に世話になったし、大きな何かをもらった気がする」
「そんな。ただの生徒です。先生はずっと先生です」
「あら、上手いこと言っても、成績には反映しないよ」
「言うだけ損か」
「……どれ、おはぎでも出しますかね」
 会話が進行すると見るや、住職が立ち上がり、住居部分へ歩き出す。
 秋の空は青く深く、そして高い。

空き教室の理由/終

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -147-

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 そして、彼は自分の血を幾らかレムリアに分けた。彼女はAB型であり、希少性ゆえ病院の在庫では足りず、O型である相原から緊急にとなったものだ。なお、O型から別の型への輸血はあくまで緊急避難であり、通常は行われないことに留意されたい。O型が万能と考えられていたのは20世紀半ばまでの話だ。
 結果、まず、銃弾自体は彼女の脇腹を貫通しており、残留などは無かった。腹膜の損傷はあったが消化器の損傷は見られず、傷ついた皮下組織の切除と腹膜の傷・射出創(銃創の出口側)の縫合のみを実施した。鉛中毒の可能性は残るが様子見。
「撃たれた体内は中を火かき棒でかき回されたようになるものだが、これは奇蹟だ」
 執刀医はのたまった。
「そりゃぁ奇蹟が起きるだろうよ」相原は寝顔に語りかけるように言った。「この手で幾人救って来たのやら。ここで助からないなら神様解雇だ」
 相原が手を握ると、レムリアはギュッと握り返した。
 相原が身体震わせて赤くなる。
 が、レムリアは起きる気配無く、さりとて手を離すわけでもない。
 骨張って体毛も無造作な相原の手の甲と、ほんのりと薄紅色で“肌理”という文字がまさに似合いな少女の手。
「命がけ、ってのはマンガのヒーローと恋愛ドラマのキザ野郎だけのセリフ、だと思ったけどさ」
 相原は囁き声でひとりごちる。
「お前さんは、そう言い切るに足るよ……って、何言ってんだか」
 老夫婦に一旦目を向け、二人の目線が共にテレビに向いてるのを見て目を戻し。
「オレ3月下旬の生まれだからさ、基本的にクラスの同級生はみんな年上なんだよ。思春期になると見下されてるみたいに感じてさ。背も高くないからただのコンプレックスなんだろうけどさ。たださ、ケバい化粧の大学生より、派手に見えてみんなして同じカッコしてる高校生より、素のまんまのお前さんのわがまま聞いてる方が楽しい。そんな気がするよ。世間じゃこういうのロリコンって言うらしいけどさ。単に12歳だからイコールロリータってのは違うぜ」
 少女の手を両手で包む。
「んで?」
 果たして相原は心臓が止まったような顔をした。
「起きて……」
「るよ」
 レムリアは目を開く。黒曜石の輝きを蔵した、黒々と透明な瞳。
 比して、相原は、真っ赤。
「お・は・よ」
 彼女は軽い笑顔と共に言った。脇腹貫通したこととは関係ないと思うが、吹っ切れた、すっきりした気分だ。ちょっと苦しいぐるぐる巻の包帯。手首に刺さった輸液管。
「お、お目覚めですか」
 相原は首を絞められたような、掠れた声で言い、しかしハッと気付いたようにレムリアの顔を覗き込み、小さく頷く。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -146-

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 東京・信濃町しなのまち
 神宮球場にほど近い、著名な私大病院の一室で、相原は目を覚ました。
 そこは6人部屋で、こちら3ベッド、向かいに3ベッド。相原はベッドの脇、付き添い用の簡素な椅子に座った状態。浴衣をまとった己れを見、思い出したように周囲を見回す。そして痛そうに腰に手をし、硬くなった首をバキボキ言わせる。椅子に座ったまま寝込んだのだ。
 左方は空きベッドが2つあって窓。11階であり、窓の外は明治神宮の緑と、立体交差の高速道路。高速道路は通常通り(?)渋滞しており、昨日の騒ぎの影は見えない。
 そして右前の方、部屋の向こう半分には、真ん中のベッドにのみ使用者がいる。老夫婦であり、ベッドには夫君男性が上半身を起こした状態、奥さんの方が相原と同じく椅子に座し、2人でテレビを見ている。そこで男性が酷い咳をし、奥さんに背中をさすってもらう。
 男性は相原の目線に気付くや、背中さする手を振り払うようにして布団に潜る。
 困ったような奥さんと相原の目が合う。相原は軽く会釈をした。
「今日は、暖かいですね」
 奥さんがゆっくりと話しかける。
「そうですね。風もないし」
 相原は奥さんのテンポに合わせてゆっくり答えると、廊下を歩く靴音に顔を向けた。
 よそ行き顔の看護師が足早に目の前を横切って行く。ここは病室と廊下の間に仕切がない。その代わり、ベッド全体をカーテンでぐるりと囲う構造。下世話な言い方をすれば価格的に最もリーズナブル。
 看護師はこの部屋に用があるわけではない。相原はそれを確認すると、目線を手前に降ろした。
 彼の目の前、ベッドの上には、白一色のローブを纏った娘が仰臥している。疲れたような顔色で、しかし安心の面持ちで、安らかに寝息を立てている。
 レムリアである。助かったのだ。
 相原は足を組み、その上に肘を突き、レムリアを眺める。
「ふう……」
 相原はため息をつく。セリフ形で記述したが、その発声は声と呼べるかどうか判らないほど、かすかだ。僅かでも気付かれる、それを恐れているような感じである。
 ここでレムリアが失神した後の経緯に触れておく。
 潜水艦は帆膜被って動けないと判断したか、そのまま潜航して姿を消し、合衆国海兵隊より先に自衛隊が割り込んで〝防衛行動〟。アルゴ号と乗組員は密入国の疑いで逮捕。合わせて相原は〝外国為替及び外国貿易法〟に基づく〝非居住者への無許可武器提供〟で逮捕された。以上名目上。
 自衛隊の出したクルマの中で、相原はこの病院への搬送を指定した。彼の父親が希代の難病に罹患し、その病気である可能性に最初に言及したのがこの病院であった。結果全く関係ない交通事故で死にはしたが、応じた知識情報を有している、彼の知る限り最も優秀な病院がここだったわけだ。

(つづく)

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魔法の姫君とはんてんの騎士(アルゴ・ムーンライト・プロジェクト第2部) -145-

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〝デーモン・コア〟という相原の認識を感じ取る。核事故を起こして2人が死んだプルトニウムの球体。似たような死の球体ということか。
『原潜、ミサイル発射口開きます』
 それは甲板にあって上に向かって発射するもの。
『クローラ。水鉄砲だ』
『アイ』
 舷側から海水をビームのように噴射。それだけで水が発熱して湯気が立つほど。
『非常操作。船体下部外板解放。加速コイル磁力を制御し球体を吸着』
 半球形のリフレクションプレートと側面昇降口との間、船の後部下半分のカバーが外され構造体が顔を出す。黒い棒に太い管が螺旋を描いて巻き付いている。加速コイルである。黒い球体を強大な磁力で引き寄せ、コイルに衝突し、ガチャーンと大きな音。
『ヘリウムパージ』
 その声にレムリアは相原に身体を抱き上げられ、クジラの顎の辺りまで運ばれる。コイルは液体ヘリウム温度で冷却されているが、そのヘリウムが吐き出される。一瞬で周囲が結露して白い霧に包まれ、球体が氷の塊のようになる。ちなみにこれでコイルは冷却を失い温度が上昇して行き、伴って粒子加速に必要な磁力を失い、アルゴ号は推進力を喪失する。そこまで……相原の認識では20秒。
 彼は自身の意識を彼女に見せる。生物兵器である場合、その〝生物〟を生かしたまま広範囲に拡散させ、生きて動いている人々に付着させたり吸い込ませたりする必要があり、一般に殺虫スプレーのようなエアロゾル(液体噴霧)か、粉体を散布する。具体的な手段として電気か炸薬を必ず用いるであろうから、超低温はその作動を遅らせ、僅かであるが解決に時間的猶予を与える。とは言え長くて10秒か。
「船が検出している重量は?」
『200キログラム』
 帆膜で包む。それが当初計画であったが、完全密封できるか?中で〝拡散〟が起きたら?
 原潜は。
「相原に制御権を下さい」
 身体に直接彼の声が響く。ちょっと意識がもうろうとしてきた。出血が多いのだろう。自力で立てる自信が無い。
『どうする』
 説明を相原は略した。シールドが解除され(これで周囲には突然船の姿が戻る)。クジラを載せた第2マストと、最前部の第1マストが切り離され、ハイドロが一瞬暴風を発して船体が甲板を下に上下逆さま。
 逆さまなので黒い球体が上になった。
 黒い球体は強力な磁力を受けて自身が磁石になっている。相原は教えてくれる。釘を磁石で擦ると、擦られた釘も磁石になるというあれだ。
「磁束ベクトル反転」
 相原はコイルの磁力を反転させた。
 コイル自身が振動してカチンと音を立て、黒い球体の帯びた磁力とコイルの磁力は反発となり、球体が跳ね上がった。
 相原は再度ハイドロに物を言わせて船体を倒立させた。リフレクションプレートが宇宙へ向いた。
「第1マストの帆膜は原潜に被せてしまえ。球体は残りの全推力で太陽系の向こうへ叩き出せ!」
『アイ!』
 ハイドロが水鉄砲で帆膜を広げながら打ち出し、原潜を〝包装〟してしまう。そして。
 これで大丈夫……レムリアは薄れ行く意識の中で、光の柱が宇宙へ向けて突っ走ったのを見届け、相原に自分の全体重を委ねた。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】虫愛づる姫と姫君 -21-

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 ならば。レムリアは周囲を見回し、道路脇、農業用水であろうか、勢いよく流れる側溝と草むらの向こう、畑の畝に挿してある手のひらサイズの小さなシャベルに目を付けた。苗を挟む等の使い方をするのか、2本ある。
 走って行き、側溝をまたいで草むらを左右に分け入って畑に入り、それを手にする。短剣二刀流よろしく両手に持って森宮のばらの元へ。
「あなたは捕まえて。私はこれでひっぱたく」
「判った。こいつらはキイロスズメバチ。凶暴。可能であれば巣を探して」
 二人は一瞬背中を合わせると、作戦を照合した。その仕草は意図せず日曜日に放映している女児向けアニメの“決意のシーン”に一致しており、子供達の数人が気付いたのであるが、さておく。二人は再度別れてそれぞれハチに立ち向かう。
 レムリアは両手のシャベルを振るってハチを打った。ハチは黒い物・動く物を攻撃する習性を持つ。なので「逃げ惑う黒い髪」は攻撃を増幅する。日本人が逃げるのは逆効果と言える。
 持ち前の脚力で子供とハチの間に割り込み、超感覚にモノを言わせて攻め来るハチの経路を読んでひっぱたく。強固な外骨格で“武装”したハチの頭部が“カン”と甲高い音を立て、まるで石礫を鉄板で打っているかのようだ。もちろん、ハチはそれでバランスを崩しこそすれ、死ぬわけでなく、落下するでなく、体勢を立て直して再度襲ってくる。そこをまたシャベルで叩く。なお、こうした頑健さの故、地面、とりわけ土の上に落ちたハチを靴で踏むという動作は危険を伴う。頑丈な頭をゴム底で踏んでも土にめり込むだけで潰れはせず、その間に靴の上から針が貫通して刺される。森宮のばらの生け捕りはその辺を見越した結果であるかも知れぬ。
 ふと見ると森宮のばらが手を緩めて小さい子の背中に回って抱きかかえようとした。その背後。
「のばらちゃん後ろ!」
 カチカチと威嚇の歯噛み音を立てて接近する2匹のハチ。
 森宮のばらは振り返る。その遠心力でお下げ髪が弧を描き、先端の水晶がハチを叩く。
 森宮のばらは幼子を片手で抱き、空いた手で体勢を崩しながらもハチに網を振るう。
「ありがとう!」
「もう少し!」
 残った子供達は10名程度であろうか、引率とおぼしき大人の女性が2人いるが、2人とも逃げるでなく、子供達一人一人手を引いて船へ走る。そこを襲うハチをレムリアがシャベルで叩き、森宮のばらが網で取るという連携を図る。これは奏功し、かなりのハチを捕らえ、子供達も船へ収容した。残っているのは自分たちと、最後まで身体を張り、件の刺されたと判明した引率の女性ひとり。見れば額の上の方が赤くなっている。この後腫れ上がって来よう。何らか処置をしたい。

(つづく)

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