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手のひら端末でも読めそうな「夢見るようなファンタジーで、命を守る」お話を、ぼちぼちリストして行きます。

最近の更新

【魔法少女レムリアシリーズ】「彼の傷跡」(1/12:隔週水曜日更新)

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【理絵子の夜話】「禁足の地」(1/8:隔週土曜日更新)

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 お話カタログ

●連載タイプ(掟破りの携帯で長編)
魔法少女レムリアのお話(現在15編)
超感覚学級委員理絵子の夜話(現在13編)

●長編
「天使のアルバイト」
天使が、人に近い属性を備える理由、そして、だからこその過ち。その結果。
(目次

●短編集
大人向けの童話(現在10編)
恋の小話(現在13編)
妖精エウリーの小さなお話(現在22編)
(分類不能)「蟷螂の斧」

リンクのページ

色んな切り口色んな長さ。他の「ココログ小説」の方々の物語。「へぇ、こういうのもアリだな」そんな発見をどうぞ!

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1回、飛ばします

私事でじたばたしており、1回、更新を繰り延べます。

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【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -02-

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 彼女は我に返ったように真顔を見せる。そんな所へ押しかけて埃舞い上げるつもりはない。
「まぁまずは自分で考えるから」
「そ、そうだよ頼ってちゃ勉強にならない」
 二人で意見一致と書きたいが、後者平沢の発言には底意がある。彼女はそれを捉えているが、仕方の無いことと理解できている。
「そう?じゃ……いつもありがとう」
 信号の変わるタイミング、諏訪君が頭を下げる。送迎の意図は“途中で何かあった時に即応”するため。
 応じたスキルは彼女が保有。
「いやいやこちらこそ。じゃぁね」
 手を振って分かれる。その一連の仕草を見下ろす平沢。
 要は彼女に好意を持っている。底意というのはこの後二人きりの時間が自動的に訪れること。ただ、悲しいかな彼女には既にフィアンセと呼べる存在がいる。
「行きたかった?」
 彼女は平沢の目を見上げて尋ねた。自信と安定感がもたらす強い瞳。原宿で怪しげなスカウトをあしらうのも最近は慣れた。
「いや、だって呼吸機械とかやるんだろ?汚れた(けがれた)奴が行ったらいけねーよ」
 彼は慌てた風に目を逸らして応じると、逸らしがてらに英語のワークブックを取り出した。復路は彼女が彼に英語の補講。
 再び“通学路でない”小山の脇、遊歩道へ入って行く。彼らが彼らがここを通るのは、喘息持ちの諏訪君は少しでも車道を避けた方がいいだろうとの考えによる。遊歩道の反対側は住宅が並ぶが、いずれも遊歩道に対して高い塀を巡らせており、遊歩道に人目はないのだ。それが“暗くなると危険”の側面を与える。
 行く手にネコ一匹。
 いつもいる茶トラで耳の一部がカットされている。いわゆる“地域ネコ”という奴だ。
 にゃぁ、とひと鳴きして。
 いつもならすり寄ってきて首の後ろを擦り付けてくるのだが、今日はその場でピタリと止まった。
 いつもと違う。
「待って」
「え」
 彼女は平沢の身体の前に腕を伸ばし、進行を制した。
 自分を囲繞していた平沢の好意と目線が、自分の緊張した声によって解除され、同時に自分たちに向けられた四方からの敵意を受け取る。
 待ち伏せである。多分に攻撃的な。

(つづく)

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【理絵子の夜話】禁足の地 -04-

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“応じた示唆”来たのだ。よそのクラスである登与を巻き込んでしまった。
〈そんなことない。そういう思し召しでしょ。協力するよ〉
〈ありがとう〉
 仕方ない。
 さて気がつくとしょんぼりがっかりした目の下クマ男が目の前におる。
「イヤだという女の子に強要するのは感心出来ません。ついでに言っておくとスピリチュアルで本当にやばい奴は本人も気づかないうちに異常な人になり果てます。肝試し程度で何日も徹夜する行為は異常だと私は思いますが?」
「ごめん」
 しょんぼりとうなだれた、小さな声を聞きながら、理絵子は彼に背を向け、教室を出た。
 そこには登与が黒髪なびかせて自分を見ている。彼女の髪の毛は風もないのになびいたり漂ったりするのだが、それはオーラライトの圧力だと思うが、たたずまいが自然すぎるせいか、不自然さに気づく級友は他にいない。
 理絵子は上を指さした。屋上へ行こうという意味。その地は校舎から川に沿って西南西へ2キロ少々。見て見えない距離ではない。
 校内一、二を争う“美少女”が連れだって歩いておるので目立つことこの上ないが、それでも二人は能力の故に一瞬途切れた視線をくぐって3階へ、そして普段は出入り出来ない屋上へ向かう薄暗い階段へ。
 立ち入り禁止の札が下がるプラスチックの鎖をくぐる。舞い立つ埃、おびただしい翅虫の死骸。
「鍵が……」
 掛かっているんじゃないのか。登与の当然の疑問。
「開くから」
 その通り当然、普段は施錠されて出入り不可。が、理絵子はノブを握って、回した。
 ガリガリと金属同士が削れる音を伴ったが、それ以外ドアは無防備なまでに開いた。
「PK?」
「じゃないんだけど、必要なときに開くようになってる。開いたので必要と言うこと」
 PK。念動力を意味するサイコ・キネシス(psychokinesis)の略称。登与は大いに驚いているが、理絵子は超感覚系だけを有している。ただ、必要な場合、施錠されている鍵は開く。
「そういう守護者が付いて下さっているものと」
「ああ」
 納得の意を受け取る。回したドアノブを、少女の非力で腰を落として踏ん張り押すと、ギイ、と錆びた金属音を発し、ドアが開いた。
 わずかに吹く5月の風。
 真昼の陽光とヒバリの鳴き声。
「気持ちいい」
「こりゃ立ち入り禁止にされるわ。サボりたくなるもん」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -01-

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 交差点の脇には、造成時に切り崩さず存置された小山がある。その山裾(?)を巡るように遊歩道が配されており、クルマの来ない道として子供連れや犬の散歩、ジョギング等に重宝がられる。ただし、小山を挟んだ反対側の中学校は通学路にしていない。登下校時に生徒が集中すると混雑するのと、日暮れて以降は暗くなって危険だからだ。
 そんな校則を堂々無視するかのように遊歩道から出てくるブレザー制服男女3名。男子生徒の一人は大柄で首が太く、頭髪は丸刈り。運動部に所属と一目で判る。今一人は小柄で幼い顔立ちであり、男の子にしては色白、と書けるか。そして彼女、短髪と言うには少し伸びたか、小柄な男の子と同じくらいの背丈であり、口を不満そうに尖らせて、小柄な男の子の手にある教科書をのぞき込む。
 小柄な男の子……諏訪(すわ)君を家まで送りがてら、彼から数学の不明箇所の解説を受けるのが日課として定着。
「なんでx-2って思いつくわけ?」
 怒った風に聞こえる口調で彼女は訊いた。背後で大柄な男子生徒、平沢(ひらさわ)が自分も、とばかり何度も頷く。同様に数学の“受講者”であり、二人に対しての“用心棒”。
「8がミソなんだよ。2×2×2じゃん。xとyを掛けた部分があるでしょ。そこと公式を見比べると」
 因数分解。パズルを解くようなものだが、因子……パズルのピースを見分けるのが不得手で挫折する子は多い。
 諏訪君は立ち止まり、教科書の例題を指さし説明した。やや細く、そしてやや高い声色であり、背格好に応じて声変わりはまだかと思わせる。
「オレ適当に公式でやってた」
 比べ野太い声の平沢。喉仏が動く。
「公式でいいんだけど、公式と同じ形をしているところまで持ち込まないと……」
「それが判んねぇ」
 平沢が首を左右に振る。
「判んねぇ」
 彼女も真似してふざけて顔を左右に振る。少女マンガのヒロイン向きと書けるか、まっすぐ見つめてくる黒い瞳の持ち主で、表情は豊かで明るい雰囲気を常に有する。オーラのようだと評する級友もいる。
 声をそろえる二人に諏訪君はため息。
「これからウチ来る?」
 肩越しに親指立てて指さす背後、交差点を挟んだ高層住宅。
 そこに諏訪君は叔父夫婦と暮らしている。彼は喘息で通院を要するが、東北地方太平洋沖地震、伴う震災で福島の病院が機能停止となり、疎開がてらここへ転入。

(つづく)

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【理絵子の夜話】禁足の地 -03-

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 とは言え。
“そっとしておいて”という先人の思いを踏みにじる“肝試し”が横行している昨今である。東京多摩地区から甲州街道に沿っての周辺は、戦国時代を中心に多くの人死にを伴う悲惨な出来事が発生し、応じて鎮魂の場所・モニュメントが点在する。そこへのイタズラ動画をネットで目にする。感覚の故に我がことのように辛いのであるが、出しゃばる権限はないので我慢している。
 それとも手を出した方がいいのか……いや、やり始めたらキリが無い。
 そして、本当に自分が必要なら、応じた示唆がある。思い上がりのようだがそうと納得出来る。この力、そういうためのものだろう。
 翌日の昼休み。
 彼らは“新たな動画”を見せに来た。
「だから興味ないって」
「ちげーよ発見だよ発見。日本にもストーンヘンジってあったんじゃね?」
 ギャーギャーうるさい動画の向こうで、か細いライトが石を映している。
「順番に石を映しただけじゃ判らないよ。それに信濃大町(しなのおおまち)の上原(わっぱら)遺跡とか岩を円形に並べた遺跡は幾らもあるよ」
 あしらった。
 つもりだったが、以降彼らは毎朝動画を撮ってきたと言っては見せに来るようになった。
 徐々に深夜に、徐々に敷地の奥へと撮影時間と場所が変わって行く。
「黒野~」
 いい加減にせんか、と怒鳴ろうとしたが、目の下にクマを作り、瞳が宙を彷徨っているのは明らかに異常である。
 その目を真っ直ぐ見てやろうとするが、相手の視線が定まらない。
 憑依か。否。
 ちょっとした技。
「いてえっ!」
 手指から足へ抜ける電撃のような痛みと、応じた“バチン”という音が頭の中に響いたはずである。
 これで瞳の揺らぎは戻った。
“目が覚めた”。
「あら静電気ごめんなさい。ただね、キミは何の目的か知らんが動画を撮りに行くことそのものが目的になって寝不足で健康を害していると思うのだよ。それに毎朝ただ真っ暗なだけの動画を見せつけられるのも迷惑だ」
〈どうしたの?〉
 登与がテレパシーで訊いてくる。“何らかエスパー噛ました”ことを検知したのである。
〈中毒か依存症みたいになってる。何か現地で影響受けているかも〉
〈それって私たちが行った方がいいってことじゃ……〉
 やれやれ。
 示唆がある。この“テレパス・ショック”は二度目は効かない。
 示唆。ああ、示唆。

(つづく)

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レムリアの次のお話

「急襲」(仮題)

短編、12/29スタート。隔週水曜更新。

お話自体は終わってるんだけどタイトル悩んでますねん。

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【理絵子の夜話】禁足の地 -02-

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「ぎゃははシカトされた」
「やべー黒野冷てえのたまんねぇ」
 下品な笑い声複数。
 再度本を開こうとすると、すっと傍らに歩いてくる女子あり。
 その知る4名のウチの一人、名を高千穂登与(たかちほとよ)という。隣のクラス。全校公認の霊能者。わけあって超能力でケンカしたが今は仲良し。醸す雰囲気と美貌の故に天使と呼ばれる。
“禁足の地”に関わる話で来てくれたに相違なかった。
「うっわ登与ちゃんだ」
「何?俺らのクラス天国?」
 文字通り下馬評。流れる黒髪と、深く澄んだ瞳と、纏う静謐。
「いいの?」
「ウワサだけって設定だし」
 この声と同時に。
〈男の子達止めなくていいの?放置しておくと悪化して結局出て行かなくちゃならないことになる気が〉
〈そもそもダメとされてるところに入るなって私がわざわざ注意することじゃないし〉
 やりとりされる“心と心の直接の会話”。要はテレパシーで会話とは別に意思疎通をしている。
 登与の思いは、明らかに禁足地へのイタズラ目的を。超常の力持つ自分たちが対処しないのは問題ではないのか。対し、理絵子の判断は、“侵入禁止”が形而上からの警告であるなら、書いてある通りにすれば良いだけの話という単純なもの。
 “ガチでやばい”禁足地なら、応じた怖いことになるのでは、と登与は懸念している。ヤバさを自分たちが感じ取れない、イコール意図的に隠されているレベルのヤバ差かも知れない。それは判る。だが、だとするならば、自分たちの超感覚センサにそういう示唆すら無いというのはあり得ないと思うのだ。
 最も、常時力が作用しているわけではなく、何らかの“スイッチ”なのかも知れないが。
 その時が来れば判る、という奴だ。
〈放置?〉
〈いけないことなら、御沙汰があるでしょ〉
 応じたら、登与は納得したように背を向けて去った。
 ここまで数秒。会話に重ねてなされたとは誰も気付かない。
「あれ?登与ちゃん行っちゃうの?」
「ここ天国じゃないから」
 登与を追う下卑た視線を理絵子は遮った。
 自分に男子生徒達の目が向く、その間に登与の背中は廊下の向こうに消える。
 そして自分も席を立つ。
「邪魔」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -27・終-

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「夫は病床にありながら最期まで“いつものお父さん”でいてくれた。でも、それは私を心配させまいとするあの人の愛情で、実際には一人で戦っていたの。私も頑張らなきゃって。で、連絡とる手段がないじゃんって」
 祖母殿は微笑んだ。語尾の“じゃん”は東京・神奈川地域特有の言い回しで、それは応じて祖母殿が“東京の人”になりつつあることを示した。
「あーすっきりした」
 祖母殿は眦に涙の粒を浮かべて、しかし笑顔で言い、彼女と、彼と、父君を順に見やった。
「ばあちゃん笑ったの初めてかも知れない」
 果たして、進少年は呟いた。
 幾つかの“答えと変化”を彼女は得ている。
 いわゆる徘徊との見立ては完全に間違い。
 それから、東京での暮らし方をちゃんと話し合わなかったことも間違い。
「守(まもる)」
「はい」
 父君が呼ばれ、答える。
「何もしなくていいから、ただ家にいろ、ってのは、居たたまれないもんだよ。庭いじりしてもいいか」
 それを聞いた父君はハッと気づいたように目を見開き、続いて温和な表情を浮かべ、しゃがみこんだ。
「そうだな。何もせずボーッとしてろって考えてみりゃひでーよな。庭木と……」
「ゴミ出し、雑巾がけ、窓ふき、風呂掃除……あんでもやるでよ。そこまでロボットはやっちゃくれめぇ」
 そのあたりは“主婦”である母君(嫁)を差し置いて言い出しにくい、という意図もあったようだ。ただ、日本の伝統的な家父長制度、付随する家族関係の習俗を知らない彼女にはピンと来なかったが。
「頼むわ母さん」
「おうよ。それとデイサービス、行くようにするわ。おれが話し相手になってあげられる人もいるかも知れねえからな。時にお嬢ちゃん、姫ちゃんさん」
「はい」
 彼女は膝を向けた。
「あんたさんのマジックショーを見てみたいんだが、どこでやっとるかね」
「今度の日曜はですね……」
 自分を必要としてくれる人がいる幸せ。彼女は微笑んでウェストポーチから手帳を取り出した。

テレパスの敗北/終

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【理絵子の夜話】禁足の地 -01-

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 理絵子(りえこ)の住む街には立ち入りを制限した“禁足地”が存在する。
 武蔵野の面影を残す広葉樹の丘陵地、および、その周辺をぐるりと囲む草ぼうぼうの湿地帯で、応じて手つかずのままである。甲州街道から脇道へ脇道へ入って行き、最後はけもの道かと思うような細い砂利道の終点にそれは存在する。鳥居がなければ境目が判然としない。
「おい黒野(くろの)」
 ニヤニヤした男子生徒が理絵子を呼んだ。軽薄な男であり、ネット上で“チャラい系”“パリピー”とカテゴライズされる系統。彼女ら中学の制服はセーラー学ランだが、彼らは上着のボタンを全て外し、ワイシャツをスラックスの外に出している。シャツインはダサいから、だそうな。
 やれやれと彼女は読んでいた本を伏せ、席に座ったまま身体の向きを変える。長い髪がさらりと流れて陰りを作り、その奥で黒曜石を蔵した瞳が光を放つ。
 ろくでもねーことだ、と彼女はまず判じた。
「お前文芸部オカルト担当だって?」
「まぁ」
 必要最小限以上のことは言わない。清楚で真面目な学級委員で通っているので、砕けたところを見せる気はない。
「罵倒してくれ」
 男子生徒はそう言って携帯の動画を彼女に見せた。暗闇で男が喋りながら枯れ草をガサガサ踏む音。
「お前ならこれどこか判るよな」
 かの禁足地である。
「宮内庁の土地じゃんよ。不法侵入じゃないの?」
 ありきたりなことを言って軽蔑のまなざしという奴をくれてやる。禁足地よりその“けもの道”を奥へ進むと慎ましい古墳(前方後円墳)があり、応じて宮内庁管轄と言われている次第。ただ、実際は知らない。一方でネットの空撮は拡大不可能なレベルしか無く、戦中戦後に米軍が写した航空写真は一面が霧の中。この辺も“肝試し向き”の因子を与える。
「何か映ってるか?何か感じるか?」
 肝試しで入り込んだに相違なかった。類似の動画はネットで多数目にする。いたずらでも好奇心でもどうでもいいが、経緯と理由に対する敬意を感じない。“そっとしておいて欲しい”という共通の意図が判らぬか。
「別に」
 理絵子はそれだけ言うと身体の向きを戻した。霊能者とウワサされていることは知っている。相手にするだけ馬鹿馬鹿しいという身体アクション回答。
 ただし、本当にそうだと知る者はこの学校に4名だけいる。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -26-

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「お、姫……相原さん大丈夫か」
「貧血起こしちゃって……」
 だろう、多分。平沢進の自分に対する心からの心配と、その所以と、対する答えを用意できない自分。ごめんね。
「あら?ちゃんと朝ご飯食べてる?」
 祖母殿は優しい表情で彼女を覗き込んだ。
 それは祖母殿が前向きかつ生き生きと動き出していることを彼女に教えた。
「おばあさまにお会いできて、安心して血の気が抜けたようです」
 貧血の故は多分これが正解。緊張の糸が切れた。
「それは本当に申し訳なかったわ。私ったらどうかしてたと思うの。あなたたちにも謝らないとね。申し訳なかったわ……」
 身体を起こせる。
「もう大丈夫です。すみません」
「進と仲良くしていただいてるだけでなく、こんなお手間まで……」
「いえ、それは私が勝手に先走ってかき回してしまっただけの話です」
 しかもその勝手は間違いなく自分の思い込み、思い上がり。
「そういえば先ほどグループホームでって言ってましたね」
「ボランティア活動で、子供たちや高齢の方々の施設にお邪魔することがあります。その際、正直申しますが、突然、家に帰ると立ち上がってしまう方もお見えになるので……」
 彼女は言いながら両の掌を交互に開いたり閉じたりした。
 手のひらを開くたびに小分けパックにされた飴やチョコが出現。
「あらすごい。手品のショーなのね。そしてわたくしも同じように突然出て行ったのではないかと……」
「ええ、失礼な思い込み申し訳ありません」
「いえ構わないわ。至れり尽くせり上げ膳据え膳で“自分で考えて動くこと”がなくなってしまってね。ボーっとしているしかないの。すると本当にボーっとしてくるのね。ああ、これはボケちゃうって思ったわ。でも趣味があるわけでなし、本は全部こっちだしね。それで、これを読んでいたの」
 これ……祖母殿は立ち上がり、座卓の上から1冊の書物を取ってきた。
“日記・定敏 平成九年”
「だんな様の……」
「ええ」
 手渡されるとそれこそサイコメトリが発動した。強い思いのゆえだと判る。後悔、恐怖、諦念、一転して願いと期待……。
 そして6月28日の“ありがとう”という最後の記述。
 彼女は日記を開くことなく、ただゆっくりと表紙の文字を指でなぞり、両手で持って祖母殿へ返した。
 自分が踏み込む領域ではない。

(次回・最終回)

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【予告】理絵子の夜話シリーズ「禁足の地」

です。

今回も隔週土曜更新でダラダラと。

20日27日スタート。

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -25-

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「身体と、頭を使うこと、これを重視している施設が殆どです。動物なんでもそうですが使わないと退化する。そして一番よくないのはたぶん、何もしなくていい、とか、高齢者だから何もするな、の類」
 彼女はそこまで言って、
 自分の言葉に気づかされる。“高齢者だから”……自分が今回疑ったのは認知症である。それは“高齢者だから”という勝手な思い込みそのものではないのか。
 自己嫌悪。……あれ?
「姫ちゃん!」
「お、おいどうした!」
 気が付くと庭に転落して平沢進に脇を支えられている。
「大丈夫か?急にぶっ倒れたから……」
 しでかした間違いに血の気の引くような感覚が襲った。そうか、それは実際貧血起こしたのか……彼女はゆるゆると思惟を結ぶ。頭の働きが遅い。ごめんの言葉も出てこない。
 すると。
「ここに寝かしたり。座布団丸めて、足を高くしで」
 祖母殿が対応を指示している。彼女は父子に抱えられて縁側に戻され、足元と頭の下の枕代わりに座布団。
「ああ、血が出とる。進、テレビの下に救急箱あるから持ってこ」
「おう」
 男たちがどたばた動く。
「おれのせいで済まんの。だがあんたの言う通りかも知んね。おれ、“ただ、いただけ”だっだがらな」
 ……こちらこそ決めつけてしまって大変失礼しました……言いたいが口が回らない。
 自分が自分に激甚なショックを受けているせいだ、と冷静に分析している自分。
 ショック……それは、勝手に思い込んだと気づいたこと……では、思い込んだその理由は?
 多分、自分なら判る、という勝手な思い上がり。
 額に傷があるらしく、脱脂綿でぽんぽんと叩かれながら涙が出てくる。

-お前、何様のつもりだ!
-姫様だ!

 何を偉そうにふるまっていたのだろう。嫌いだという奴は放置しておけばよい。ただそれは自分の欠点・欠陥を自ら見ないようにすることに同じ。
「あら?痛かった」
 傷に触れたら涙が出て来たことで、祖母殿は自分が傷の痛みでそうなったと思われたようである。
「頭打ったかもしれない」
「ええ?俺ギリで受け止めたぜ!?それはない」
「ありがとう。ごめんなさい……」
 ようやく声が出せた。

(つづく)

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【理絵子の夜話】サイキックアクション -19・終-

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「あー、ザビエルだっけ、ルイス・フロイスだっけ。答えにくい質問をされて困ったとか」
「そう。そもそも平和の概念が違うから、価値観が違うから、お互いになぜその質問が出来るのか、なぜそれが“理想”なのか、根本的にかみ合わない。食べ物一つとっても、神様の思し召し、じゃなくて、自力で捕ってくる物だし、命を等価に扱うしね。“いただきます”は命への贖罪と生産者への感謝だけど、天にまします我らの父よ、は、父そのものへの感謝だしね」
 彼女らは相互に、納得した。
 および、これで決着が付いたわけではなく、人間自体の属性であるなら、今後も攻撃がたびたび来るであろうことも。
 そのために自分たちが集められたのであろうことも。
「自分の子を孕ませて、産んだら殺すって」
「野生では、よくあること。言うこと聞かないと殺すってのも、然り」
 立ち位置と今後を納得する。そして、対処できるであろうことも予感はある。
 問題は。
「手近に他に霊能者っていなかったっけ」
 学校にはいない。が。
 日本全体を考えたならば。
〈そういう情報は、我々が仕入れます〉
 大蜘蛛が応じ、同時に聞こえ来るあちこちからの遠吠え。
「犬は霊が見えるとか」
 古来人間のペットであること、犬神とオオカミと大神。
 全部つながった。
「待ちましょう。向こうから来る」
 理絵子は言った。
 それは、日常に割り込むように、忍び込む形で、挑んでくる。
 その後、警察や消防が“校舎爆発”の地に到着したとき、彼女たちの姿は無かった。
 未使用校舎に天然ガスが充満、それが鑑識の結果であった。

サイキックアクション/終

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -24-

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「タクシーだ。親父だろ」
 背の高い進少年が垣根越しを見通して言い、程なくタクシーであろうクルマは走り去った。
 足音が近づき、垣根の向こうに人の姿。
「お、え?」
 縁側の3人は理論上あり得ない組み合わせであり、驚愕しか生まない。
「おばあさまはこちらにお着きになっていました。私は進君のクラスメートで相原姫子と申します」
「ああ、ああ聞いてます。この度は巻き込んでしまったようで本当に申し訳ない。母さんよう、冗談じゃないぜ?どれだけ……」
 彼女は怒気孕む父殿の目を見、手のひらを掲げて制した。
「悪いと思ってるよ……ごめんな……手間ばかりかけてよ。ふと、おれだけこんな便利なところで至れり尽くせりでいいんだろうかと思ってしまってよ」
 手間ばかり。この語に彼女は引っかかった。
 すると進少年。
「ばあちゃん、居づらかったか?」
 祖母殿は目線を外し、少し置いて。
「思っちまうんだよ。おれだけご馳走食べて、便利な生活して。じいさんに申し訳ないなって。お前らにも気を使わせてしまってな」
 炊事・洗濯……昭和的主婦業を祖母殿は全てこなしてきた。それが東京に行って全て上げ膳据え膳。
「進君」
「は、はい」
 彼女に名前で呼ばれてドギマギ敬語。
「普段、お家での家事はどなたが?立ち入ったことを訊くけど」
「かーちゃん」
「おばあさまが参加できるとすれば?」
 すると、人が増えたこともあり、自動食器洗い機、ロボット掃除機を導入したと答えた。後は洗濯だが、物干しは2階。よって、
「ばあちゃんに階段は怖いなって」
「お料理は」
 すると父君。
「妻が本見てカロリーバランスやら考えて作ってますわ……って、母さんすることねぇな。え?ひょっとしてそういうことか?」
 彼女は、祖母殿がうつむいてこちらを見ていないことを確認してから、小さく、父君に頷いて見せた。
「私、グループホームとか顔を出しますが」
 これに祖母殿は顔を上げた。

(つづく)

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【理絵子の夜話】サイキックアクション -18-

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騙されるか、彼は一瞬そう思ったようである。が、神性を備えた異国の娘に抱きしめられて彼は一介の“男”に戻った。
 “憑きもの”が剥がれる。
〈主(あるじ)よ、ここは我が……〉
 声と共に、理絵子の身の中から現れて貫く漆黒の長剣一閃。
 魔剣クリュサオールであった。黒い人型のようなものが中空で串刺しにされている。
〈美砂殿。我が力援用されよ。汝にしか能わぬ〉
 それは、美砂だけが、条件が整った時のみ、可能な力の発露を示した。
 瞬間移動テレポーテーション。但し彼女のそれは所要の目的地に送るものではない。
 時空を越えたいずこかへ投擲する。
 さらば……クリュサオールの感情と共に、パン!という、風船が割れたような破裂音がした。
 腕の中が脱力する。等身大の人形のように、にわかに筋骨が力を失い、グニャグニャになり、どころか皮膚が裂けどろどろとした内容物があふれ出し液化して広がり。
 骨と、“人体の70%は水分”を彷彿させる汚穢な染みの広がった姿に変わった。
 獅子王と、魔剣の意識が追跡できない。
「ゾンビだね」
 美砂が一言。理絵子は思わず我と我が身を見回した。それの残滓が付着してはいないだろうか……気にするなと言う方がムリ。
「整理していいでしょうか」
 登与が言った。

・地球在来種の魔族でもなく、外来のそれでもなく、人類が発達してくる中で獲得した魔性
・宗教や正義の名の下に精神肉体両面から攻撃をしてくる。ターゲットは“日本”

「国家国民?」
「恐らく。人類が獲得した魔性にとって、“和をもって貴しと成す”日本の在り方は気に入らない。征服者というスタンスが得られなくなるし、付随する人間としてのあらゆる快楽を欲しいままにする権力も存在しない」

次回・最終回

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -23-

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 電源を入れるとクラシック音楽。すなわちこの地域の放送周波数に合わせたまま。
「ああ、済まないね……」
 祖母殿はラジオを傍らにコトリと置いた。
「まぁ、お二人ともここへ来ておくれ」
 ラジオを挟んで着座を促される。
「進、ほら」
「お、おう」
 彼を促し、率先して座る。
 祖母殿が口を開く。
「まずは……いきなり飛び出して済まんな。いたたまれなくなってな。ほんでこご来だはいいけど携帯電話があるわけでなし、ここの電話も止めたでね。連絡しようがなくてよ」
「常磐線から来られたとか」
「海へ行げでねっがらな。新幹線じゃダメだ」
 件の原子力発電所は太平洋側にある。当然、避けたくなる。
 うぐいすの鳴き声。
「わぁ、きれいな声。初めて聞いた」
 彼女の感想に祖母殿は微笑んだ。
「おめさん、進が初めで此処(ごご)で春告げ鳥聞いた時と同じだな」
「え?」
「そうなんですか?」
 二人は驚いて祖母殿を見た。春告げ鳥はウグイスの別名。
「ああ、じいさんが庭いじりしてて驚かしちゃなんねがらってハサミ持ったまま固まってよ。人形みだいだって……ああ、これは進じゃねがったか。彰(あきら)か」
 平沢進の父君であると彼女は察した。
 と、突如祖母殿はしょげたようにうつむいた。
「ごめんな。オレばっか進と遊んでよ。挙句に厄介になってまっでよ。じいさんに申し訳なくてよ」
 ラジオに向かって。
「それでここへ……」
「迷惑かけてすまんな。クラスメートちゅうこどは学校抜けて来ただが?しかしめんこい子だなおめさんは」
「人命にかかわる事態かも、という第一報でした。なら、天下御免ですよ……めんこい?」
 地面にたたきつける日本の古いカードゲームの“めんこ”なら知っているが。
「か、かわいい、って意味だよ」
 説明する平沢進の耳まで真っ赤。
「あら。恐れ入ります」
 彼女が応じると、ウグイスが唐突に飛び去った。まるで逃げるように。すなわち。
 程なく、クルマが止まった。

(つづく)

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【理絵子の夜話】サイキックアクション -17-

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「違う。こいつは……」
 その生涯を殆ど戦乱の中で過ごし、追って獅子王と呼ばれた男であった。
 むろん英雄である、いわゆる“十字軍”を派遣した側では。
 そこで登与がロザリオを示してみせる。我々は敵対する者ではない。しかし、
〈偽なり異邦人〉
 その反応は彼女らの外見“人種”に起因する情動とすぐに判った。
 アングロサクソンキリスト教徒にあらざれば人にあらず。
 キリスト教原理主義と結びついた人種差別。
「霊をしてなお肌の色を価値と見る哀れで笑止なる者よ、去ね(いね)」
 登与はロザリオを突きつけるようにし、言った。
 対する返事はウォー・クライ。すなわち戦士が挑みかかるときに放つ咆哮。
 獅子王と称された男の手に剣が“沸いた”。
 何か途方も無い力がその剣には宿っている。それは誤謬を誤魔化すための信念を十重二十重にまとった、

 いわば、呪詛の集合体。

 剣が登与へ向け振り下ろされる。だが、彼女は微動だにしなかった。
 ガラスが割れるに似た、あるいは鍛冶の槌が振り下ろされるに似た、鋭い金属音。擬音でガチンとでも書くか。
「邪なる者破れたり」
 それは元々、オカルト雑誌の裏表紙に載っていた“魔力を備えたロザリオ”を買った物と彼女に聞いた。
 それこそ邪な存在であるはずだが、今ここに、3800円のクロームメッキの十字は淡い金色に輝き、邪悪な霊剣を受け止めているのであった。
 果たして驚愕か、獅子王は動作を止めた。
 理絵子に示唆が下る。その刹那に自分のなすべきことは一つ。
 素手で剣をなぎ払う。横から叩けば傷も付かない。勇者の大剣は吹っ飛ばされてガシャンガシャンと二転三転。
 油断というか、意表を突かれたのであろう。小柄な東洋の娘に必殺技を無効化され、縋る術なし。
 次は何をされるのか……そんな目で怯えるような獅子王を、
 理絵子は抱きしめる。
 意図して意表を突くために。
「敵対と戦闘に生きた貴殿を慰謝する者が無いなどあってはならぬこと」
 自分を超能力者と知らぬでも、巫女属性の持ち主だと言うクラスメートは多い。
 その属性こそは、今ここで発揮されるべき。
「愛し愛されることすら政略とされた貴殿の生涯に永久の安らぎを」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -22-

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「扉を開きます」
 エレベータに乗り、着いた。一連の挙動は感覚的にはそれに近い。
 気密が開かれ、にわかに外界の音が入ってくる。鳥と虫の声。
 扉の向こうに姿を現す緑の間の道。
 畑に咲く白い花。トタン屋根の農器具小屋。
 ひょいと飛び降りる。“ドアが閉じて開いた結果”をぽかんと見ている平沢進を促して下ろす。
「見覚えある?」
 一応尋ねる。
「お、おう」
「良かった」
 なら、船は帰してもよかろう。帆船なので帆を広げて滑空できる。イヤホンでピンを送ると、周囲に人目が無いと確認したか、帆船は文字通り忽然と姿を現し、その帆を広げ、翼のように水平になびかせ、丘の上から風に乗って飛び立った。そして風の届かないところで主推進システムに切り替え、超高速で飛び去る。
 その動きを身体動かして見つめる平沢進は声も出ない。
“思い”が届く。しかも、この足下の大地から。
 おばあちゃんは、この里山を遊びまわる進少年を、夫婦で見守りたかった。
 近所にある複数の大きな桜の木を、肩車して見せたかった。
「ばあちゃん家(ち)、行けばいいかな」
「うん」
 坂道を下りて集落へ。果樹(柿だが、欧州育ちの彼女はそれだという知識がない)が枝を広げる平屋建てのお宅。
 垣根の向こう、縁側にその高齢女性は腰を下ろしていた。
「ばあちゃん」
 進少年の声にゆるりと振り向き、次いで目を見開く。
「進かえ?」
「そう。あー見つかってよかった。親父は?こっちへ向かってると思うけど」
「そちらは?」
 彼女のこと。
「相原姫子と申します。進君のクラスメートです」
「ばあちゃん探すの手伝ってもらったんだぜ」
 すると……祖母殿は温和な表情でゆっくり頷いた。
「ちょ……」
 散々探したのに、ということであろう。声を荒げようとする進少年の左手に彼女はそっと触れ、その先を制した。
「差し出がましいことをいたしまして申し訳ありません。人探しにツテがありまして申し出た次第です。こちら……手がかりとして借用したもの。お返しいたします」
 トランジスタラジオ。

(つづく)

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【理絵子の夜話】サイキックアクション -16-

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 念動を駆使したと知る。“煙”が全て凍り付く。
 次いで雨となって降り注ぐ。
「どうやら、あらゆる物事に挑戦が仕込まれるようだね」
 美砂は言った。意識と目線を感じる。闇の中から自分たちを見ている。
 味方もある。
〈そばにいますぜ〉
 とは件の巨大クモである。
「来る」
 気づいた瞬間後ろに刀抱えた男がいる。以下、実際には刹那の認識であるが、そこで判ったことを細かく書くとこう。まず、男は戦国時代に近隣の山城で戦死した武士の地縛であり、敵方血縁者に取り憑かずにおけない。
 その戦は凄絶な殲滅戦で、城に残ったのは女子供ばかりであったが、皆殺しにされたという。
 応じた仕返しを女子供に。
 以上判った瞬間には“女子供”である彼女らに対し、侍の刀が振り下ろされるところであった。
 対する理絵子の反応は。
 真剣白刃取り。
 侍が驚愕で凝固した刹那、美砂が後を受け継ぐ。刀は見えざる力でぐにゃりとなり、反動で侍がよろけ、理絵子が手を離した瞬間に赤熱して溶解する。
 遠方より“槍”が飛来。
 否、フッと中空で姿を消す。次に現れるまでやはり一瞬であったが、その間にこれから起こる出来事を彼女らは察知した。
 登与がロザリオ片手に口走る魔法のフレーズ。
 そして日に向かってかざした手のひらに槍の先端が弾かれて甲高い音を立てる。こちらは弥生時代の縄張り争いであるらしい。
 そんな者が今後も次々沸くのか?
 否、一時的に“そういうもの”を遮蔽しておくシールドが外れただけ。
 なら、直せば良い。ただ、自分たちが維持する次元の存在ではない。
「キリが無い」
 理絵子は印契を切った。のうまくさまんだばさらだんかん。後は超常の皆様に委ねます。
 爆風の如き物が彼女らを中心に生じて吹き広がる。結界が生成され、封印が成された。
「終わった?おうち帰れる?」
 これは美砂の弁。勿論、そうは簡単に問屋は卸さないというニュアンスを含む。
〈何か来ますぜ〉
 クモが言い、巨体を具象化させ、彼女らの傍らに参じた。
「……アレクサンダー」
「まさか」
 それが正なら、アルヴィトが破れたことを示唆するが。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -21-

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 青い空の下、再度衛星携帯のアンテナを伸ばし、短縮ダイヤルでコール。相手が出た。
「Hi,It's Lemuria.Please pick up me and friend,with use cloaking.」
 あとは待つだけ。1分もかからない。
「あの……」
「暴風が吹くから顔を腕で覆ってください」
 彼女は言いながら、ウェストポーチをごそごそしてワイヤレスイヤホン近似の機械を耳に挿した。
「来ます」
 ほどなく一陣の風が上空より吹き降りて広がり、順次風速が上がって轟轟たる暴風になった。
 園内を歩いていた人々から小さな悲鳴、走り逃げる人も。すいません。
“なにか”が二人の前に舞い降りる。ただその“なにか”は重量と大きさの感覚は有するが、目には見えない。
 風が収まって木の幹に見える部位に、黒い四角い領域が出現した。
 cloaking(クローキング)。いわゆる光学迷彩である。実際には二人の前に空飛ぶ帆船が着陸しており、見えているのは“船がいなければ見えるはず”の光景。
「どうぞ」
 彼女は黒い四角い領域……舷側通路を彼に示した。
「見られたくないので急いで欲しい」
「お、おう」
 持ち前の運動神経を発揮してヒョイと飛び乗る。
 彼女は昇降スロープを出そうとしたが、平沢が腕を伸ばして引っ張り上げてくれた。
「ありがと」
 ウィンクしてみせると彼は見て判るほど頬を赤くし、己の手のひらを見つめた。
「福島県三春町、お願いします。INS使うほどは急いでいません」
 中は白く照明されており、目が慣れてくると、縦に長い6角形断面の空間である。
 スライド式の舷側昇降ドアが閉まり、上昇に伴って下方へ押し付けられるようなG。エレベータでおなじみの感覚だ。
「これ、あの、窓際に浮かんでいた船、だよな」
「そうです。国際救助隊アルゴ・ムーンライト・プロジェクトの所有する飛行帆船です」
 一度、教室の窓際に呼びつけたことがある。ほとんどの生徒はその暴風に逃げ出す姿勢を取って見ていないが、彼は見ていた。
 ちなみに乗せた以上は秘密を前提に多少情報を開示してもいいと思うのだが。
 そんな時間はなさそうだ。
 耳に挿した通信機にピン音。
「間もなく到着します。どこへ?」
「えっと……」
 住所に基づきこの船が下ろせるスペースを検索。
 集落の外れ、アスファルト舗装が途切れたところに小高い緑地あり。
 特にGを感じることもなく、着地に伴う小さな衝撃。

(つづく)

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