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手のひら端末でも読めそうな「夢見るようなファンタジーで、命を守る」お話を、ぼちぼちリストして行きます。

魔法少女レムリアシリーズ「マジカル・ハイスクール・ガール」(10/9・毎日23時更新)
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●連載タイプ(掟破りの携帯で長編)

魔法少女レムリアのお話(現在28編)
超感覚学級委員理絵子の夜話(現在16編)

●長編
「天使のアルバイト」
天使が、人に近い属性を備える理由、そして、だからこその過ち。その結果。
(目次)

●短編集
大人向けの童話(現在10編)
恋の小話(現在13編)
妖精エウリーの小さなお話(現在27編)
(分類不能)「蟷螂の斧」

★このページから辿って行ける全てのお話は全部アタシが書いた著作権法第十条1に該当するものですから。勝手にコピー改変したら訴えますよ★

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2026年10月 9日 (金)

【魔女のレムリアシリーズ】マジカル・ハイスクール・ガール -09-

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 奈良井が何か言う前に、森本はその大きな腹部を上下させながら言った。
「東を受けたということですか?」
 3人目は彼か。
「そうだ。お宅から帰って来てない連絡がないと。僕の所にもまだ」
「いいえ私は。9時ピッタリに現場に着いたせいもあるかと。えっと1組の才木君かな?彼にも聞いてみてはどうでしょう。あと、差し支え無ければ彼の受験番号を」
「825だ。ありがとう。才木にも聞いてみるよ」
 森本は再度バタバタ走り出した。
 さて姫子としては他の受験番号なんかどうでもいいのだが、掲示板は何せ人生この先を左右する画像だったせいか、強く記憶に刻まれ、意外に細かくディテールまで思い出せる。
 825はない。ただ、所詮記憶。
「先生パソコンそれネット繋がってますか?」
「ええ、はい。今の話?」
「はい。どうせネットの掲示板とかSNSに画像上がってると思うので……」
「ああ、なるほど。どうぞ」
 先生の隣に座り、パソコンをズルっと引き寄せてカチャカチャ。
「アカウント持ってるの?」
「光龍寺こうりゅうじさんのにログインできるようにしてもらっています」
「なるほどね」
 光龍寺は姫子らの家がある住宅地の西端に接するお寺であるが、敷地内に親が迎えに来るまで児童生徒を預かる学童保育、〝トワイライトスクール〟を併設しており、姫子らも手伝っている。ネット知識は姫子らの方が高いことから、イベント告知用にと直接いじらせてもらっている。
 画像検索して。
「あったあった」
 倍率2.8倍超えというから1000人以上が受けた計算である。丁度いい画像がないか探して行く。背後と両脇から女の子達が画面を覗く。
「これは?」
 と美咲。

 0821
 0824
 0827

「あ」
「えーと」
 バタバタが戻ってくる。まぁ、才木君の答えは想像つく。
「相原さん」
 私に言うなよ。
 いいけどさ。
「森本先生これはネットに貼られた東の合格発表リストです。0825はありません。残念ながら」
「そうか。その、えーと、ヤバい。よなあ」
「彼は第一志望がここですか。それとも」
「第一志望は私立だ、東が滑り止め」
「ということはどちらも」
 森本は頷いた。私立の方が都立の試験前に結果が出るので、合格していれば都立を受ける必要はない。

(つづく)

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2026年10月 8日 (木)

【魔女のレムリアシリーズ】マジカル・ハイスクール・ガール -08-

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 みーちゃんは姫子の目を真っ直ぐ見つめ。
「私はあなたに命を救ってもらった。だから、今度は誰かを助けたいと思った……わ」
 姫子はその目を見つめ返し、大きく腕を広げてその身体を力一杯抱きしめた。
「あなたは素晴らしい選択をしてくれました。あなたの手のひらは多くの人々を救うことになるでしょう。そして私の存在が少しでもそのきっかけになれたなら、こんなに嬉しい事はありません。おめでとう。そしてありがとう」
「ううん……言い尽くせないほどのありがとうを言いたいのは私の方……命を救ってもらったに値するお礼なんか出来ない……だから……だから……」
「親御さんは?お母様は反対されなかったの?」
 姫子は身を離して訊いた。その過程で連絡をした際、溺愛系の教育ママと認識している。
「父親が怒鳴りつけた。一度くらい娘の気持ちを汲んだらどうだって。誰かを救いたい以上の尊い動機があるかって。母逆ギレして家庭内別居状態」
 みーちゃんは涙ながらに笑った。ただその双眸には一直線に未来を見据えるレーザー光のような強い決意が輝く。
「オッケ。看護師は知識だけでなくコミュニケーションと体力を求められます。文字通り頭と五体を全て駆使して、命と向き合い未来へ手を繋ぐ、ニンゲンだけが出来る仕事です。応じて道のりはハードです。どうぞ身体に気をつけて」
「はい。ありがとう先輩」
 みーちゃんはウィンクするとバイバイと手を振って美姫と共に教室を後にした。
「姫ちゃんってホントみんなを覚醒させる。変えてしまう。私もその一人だよ」
 薮原が立ち上がった。その瞳にはリスタート、雨上がりの日の出のような柔らかい光に満ちている。
 姫子は知った。もう、この娘に〝寄りかかる存在〟としての自分は必要ない。
「元々持ってたものにみんな自身が気付いただけだよ。頑張りな。藪ちゃんはこれから幸せになるんだよ」
「うん」
 涙ボロボロになってうんうん頷いていた美咲もろとも手続きを済まさせる。美咲も姫子との出会いがきっかけで生き方が変わったひとりである。
 その時。
 擬音で書けばドスンバタンと、太いのが鈍足で走ってくる足音。生徒ではない。
 バン、と音を立ててドアにぶつかりながら顔を覗かせる5組の担任、森本。置物のタヌキのような体格をした中年男性だが、その表情には焦燥が見られる。スーツを愛用だがスラックスからワイシャツがはみ出している。傾いて外れ掛けた黒縁メガネを直す。
「どう……」
「相原さん、ウチの宮山みややまと会わなかったか?」

(つづく)

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2026年10月 7日 (水)

【魔女のレムリアシリーズ】マジカル・ハイスクール・ガール -07-

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 ニヤッと振り返って2人ハイタッチ。彼女が上方のお笑い大好きと知っているのは、自分とあともう一人。
「藪やぶちゃんは」
「桑商くわしょうだから工業とか藤川の子と一緒に行ってる。そろそろじゃないかな」
 とは、ニッコニコで2人を迎えるキュロットスカートが似合いの担任、奈良井ならい。ノートパソコンに〝戦果〟を打ち込んで行く。(桑商:桑都そうと商業の略)
「ウチ合格率凄いよ。2人とも凄いね東だの陽の台ひのだいだの仕留めるとは恐れ入りました」
 姫子は気付いた。
 振り向いてドアに目をやると、痩せて制服がガバガバ気味の娘。その藪ちゃんこと薮原やぶはらあかね。
 手に物つ紙袋が重そうだ。すなわち。
「姫ちゃん」
「はーい」
「姫ちゃん……」
 真っ赤な目で呼ばれ、姫子は両腕を広げた。薮原は苦労した。この上なく苦労したのだ。家の経済的事情もあり、その商業高校一点突破。滑り止めなし。
 飛びついてきてわんわん泣かれる。姫子の身長は153。薮原は160あり、しかも元々お菓子大好きで応じた体型だったこともあって、まるで姉が妹に抱きついているよう。
「受かったよお!高校行けるよお……」
 声と涙は大けがでもしたのかと思うほど。姫子はこの娘が不幸を抱えたと知った時から受験当日まで時間の限りそばにいた。一頃姫ちゃん姫ちゃんとまるで幼子のように姫子を求めた。
 落ち着くまで椅子に座らせてと思い、彼女の座席まで手を引いて行くと。
「ひ~め」
 呼ばれて振り向くと神領美姫に伴われたみーちゃんこと佐藤美衣さとうみい。ほっぺたにニキビを抱えていたが今日は綺麗だ。
「おー、みーちゃんも都立?」
 白々しく。
「奈良井先生失礼します。私は私の進路を相原さんに報告する義務があると思いここに来ました」
「ああ、はい、どうぞ」
 前述の生死の境から救われた話は当然学年中が知っている。
 姫子が正面に立って出迎えると、みーちゃんは携帯電話のメールを開いた。
 合格通知。埼玉県立……。
「ここは?」
「看護師養成」
「高等部3年と専門2年の奴?」
 頷く。なお姫子が〝滑り止め〟的位置づけで受けた愛知県の私学も同様である。結果として受験料が無駄になったが。

(つづく)

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2026年10月 6日 (火)

【魔女のレムリアシリーズ】マジカル・ハイスクール・ガール -06-

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 姫子の声は車内の幾人かが振り向くほど。その彼女は〝不明〟だった1人である。
「それって……」
「もちろん、あなたに命を救われたから。次は私が誰かを救う番だって。合格してから驚かせたいって言ってたから知らんぷりしててね」
 彼女は大出血を起こして意識を失った。姫子はそこに駆けつけて救助している。
「判った。多分吉報だと思うからめちゃくちゃ喜んであげるよ」
 さて美姫とみーちゃん、さぁやは修学旅行の自由行動班を組んでいたが、本来同一班の男子3人が〝バックれ(しらばっくれ、の意)〟て遊びに行ってしまったため、オンナ3人取り残される形となり、クラスの異なる姫子らの班と合流して行動した、という経緯がある。また、その縁で美姫がストーカーに狙われた際には分担してウソをばら撒き煙に巻き、匿った。
「ちえちゃんは共栄きょうえい女子、美咲みさきは館ヶ丘たてがおか」
 この2人は同様に姫子と組んでオンナ3人である。
「館なら学校行けばおめでとうが言えるかな?」
 藤川と舘ヶ丘は都立高である。
 バスを降りて2人は学校へ歩いて行く。幾人か制服の姿が見え、背後から「おーい」と2人を追ってくる女子あり。
 振り向くとその坂本さかもと美咲である。ローカル線の駅から歩いてきたか。
「ひめひめでまぁ。まぁまぁまぁ」
 彼女は輝くような声で言った。ひめひめは姫子と美姫だから。2人が仲良くなった頃から誰かが言い出した。
「その声は合格したな?」
「いえい!」
 とVサイン。3人でハイタッチしてぴょんぴょんする。
「しかしみんな見事に志望校バラバラ……ってか、2人とも東なり南なり受かったわけだ」
 ひめひめでVサインを返す。
「マジ凄いわ。おめっとさん」
「ありがとがんす」
 苦労譚を分かち合い、笑いながら校門をくぐる。
 それぞれ自分の教室で待機している担任に報告に行く。美姫とは一旦別れる。
 姫子は美咲と並んで教室に入る。そこには女子の学級委員でクールだが平等という一般評の菊名きくなの姿。隣の市にあるハイレベルな都立高校。
「喜びオーラ出てまんがないいんちょ」
 背中に言ったら。
「ニヤつきながら何言うてまんねん姫ちょ」

(つづく)

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2026年10月 5日 (月)

【魔女のレムリアシリーズ】マジカル・ハイスクール・ガール -05-

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 日本国内の友達から絵文字や動画付きのおめでとうメールをもらって思わず笑ってしまう。距離はあっても文字通り〝光の速さ〟で結びつけてくれるインターネット大好き。
 駅前に戻ってバスの乗り換えだが、そこには自分の能力を通すと白銀のオーラを纏って見え、そのせいで長い髪の毛が風もないのに緩やかになびく長身の娘が立っている。オーラの見えない普通の人々でも〝輝くような〟雰囲気として感じられるはずであり、実際隣の高齢の男性が天使でも見るような目でその彼女を見ている。
 彼女が自分に気づき、振り向いて笑顔を見せる。立っているだけで背景が何であっても絵にしてしまう娘、神領美姫じんりょうみき。
「おめでとう」
「あ、先に言われた」
 互いに笑顔で手を合わせてパンと鳴らす。美姫はこの駅前に近い通称〝南みなみ高〟を受けた。校内の受験者は7名。それなりのハイレベルである。ちなみに、多摩たまの南にあるので〝たまなん〟転じて〝たまにゃん〟とか。ウェブサイトのマスコットキャラクターはもちろんネコのたまにゃん。
「ようやく深く息を吸える感じ」
「事前課題という奴があるのを知ってしまって受験当日より戦慄している」
「え、東そんなのあるの?」
「南はないの?」
 お互い顔を見合わせて目をぱちくり。
「まだ書類見てない」
「確認してみそ」
 美姫は同じく校名の入った、同様に分厚い封筒をゴソゴソした。
「その分厚さヤバない?」
 同様に〝入学にあたって〟と題された小冊子が入っており。封筒を姫子が支えて美姫は冊子を引っ張り出した。中を開いて。
「あ、ある。……〝星の王子さま〟のフランス語版か〝ピーター・パン〟の英語版を読んで自分なりに日本語に訳して持ってこい……」
 美姫は露骨に眉毛をへの字にした。
「春休み遊び倒そうと思ったのに」
「何か〝イヤなら来るな〟感」
「一気に最上級生から新入生にランク落とされた実感が出てきた」
 バスに乗って情報交換。美姫の友達でみーちゃん、さぁやとつながりがあるが。
「さぁやは藤川ふじかわ、で、みーちゃんは、埼玉の看護高等専門学校、と言ったら驚く?」
「え?」

(つづく)

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2026年10月 4日 (日)

【魔女のレムリアシリーズ】マジカル・ハイスクール・ガール -04-

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「どうした彼女変顔して」
 どこかの男の子。
「いえ苦虫を噛みつぶして飲み込んだだけ。多分あなたもそのうち」
「はっはっは。何か面白いな君」
 笑い声に送られながらテレパシーが働いた結果であることに今更気付く。それは彼女の素性に基づく付帯能力として生まれつき存在し、しかし判りすぎてもロクな事が無い(嫌なことまで判ってしまう)ため、意図して鈍らせてあるのだが、受験後〝結果に関する示唆〟を何も寄越さず、いや今こそ働いてエエのよと思っていたところ。とはいえ、〝ダメ〟という示唆もなかったと今更思い出す。まぁ、予知能力とは機序が違うが、因果律に従って答えが明確なものは確信感を得られるので、〝ダメでもないがOKでもない〟のはどういう仕組みによるのか。あるいはその方が〝普通の子のあるべき姿〟だからか。
 まぁ今更どうでもいい。書類をリュックに収めてしっかり紐を縛り、バス停に並んで今度はゴツい機械でメールを操作。本体のメール機能ではアルファベットしか扱えないので、ウェブメールサイトにログインしてポチポチ。液晶雑だが一応どんな文字かは判別出来る。
 まずは同じ家に住んでいる、正確に言うと彼女の方が居候している婚約者、相原学まなぶに送信。だから〝母〟は本当は将来の義母。
 『合格した』
 5秒後〝新着メール〟。
 『おめでとう』
 素っ気ないようだがどうせ後でイチャコラする。
 引き続きメールアドレスを知っていて、今日は家にいると判っている仲良したちにメールを飛ばす。そして遠い友達。
 故国の両親。
 彼女は外見、前述の通り小柄で、ようやくサマになってきたポニーテールに黒曜石の瞳の持ち主で、原宿を歩いているとスカウトされる幼さを残した顔立ちをしている。が、出自は日本ではない。結婚前提で日本に帰化したというのが正確な立ち位置。中世以後〝魔法〟で国家間の仲裁や紛争解決の任を担ってきた欧亜境界山懐の小国、アルフェラッツ王国の一人娘である。本名をメディア・ボレアリス・アルフェラッツ(Media Borealis Alpheratz)という。称号は北天の花冠。要するに魔法の国のお姫様であって、テレパシーと書いたが、その辺の超常感覚的知覚幾らかを魔女の付帯能力として有する。

(つづく)

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2026年10月 3日 (土)

【魔女のレムリアシリーズ】マジカル・ハイスクール・ガール -03-

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 ただ、安堵感はあるが、やった!とか声に出したり飛び上がって、という感覚はない。
 そういうのは後から来るのだろうか。それともこれは単なる通過点に過ぎないから?
「相原さん、だよね。3組の」
 とは聞き慣れぬ男の子の声。
「はい」
 振り返ると同じ制服。自分は小柄な日焼け娘として学校中に知られていると聞いているので、まぁ、判ったのであろう。
「あれ?だめだった?」
「いいえ、受験番号1番なのであの通り合格」
「そう。おめでとう。もし、今後会うことがあったらよろしく」
 ということは彼も合格か。姫子は笑顔を作った。
「才木さいき君だっけ。おめでとう。お互い頑張って行きましょう」
 と、報告しなきゃと姫子は思い直す。ブレザーの下ウエストポーチから取り出したのは流行のキカイとは様相が真逆。軍用無線機のような黒くてゴツい機械。
 衛星携帯電話。
 家に発呼。3秒で母が出た。まぁ、電話の前に座って待っていた、ということだろう。
「合格しました」
 電波に乗り、宇宙へ行き、衛星同士の通信を経てアメリカにダウンリンク、そこから海底ケーブルを通って日本へ届き、電話回線に乗って家の受話器へ。返事はその逆。応じてタイムラグがある。
『そう。おめでとう。必要な書類もらって帰ってらっしゃい』
「はい。ありがとうございます。切ります」
 込んできたので先に用事を済ませる。職員玄関の左側、来月から使うことになるのか昇降口に向かうと、下足のまま入れるようシートが敷いてあるので、そこを歩いて合格者受付へ。階段ホール前に長机が置かれて教員が並んでいる。一番左の女性の元へ。
「受験番号1番、相原姫子です」
「相原さんね。はいこれ。おめでとう。中を読んで期限のあるものは忘れずに」
「ありがとうございます」
 受験票と引き換えに受け取った、高校の名前の入った書類封筒は、分厚く膨らみズッシリ重い。〝入学のしおり〟の他にたくさん入っているよう。なに?夏目漱石の〝こころ〟を読んで読書感想文を原稿用紙10枚以上!?
 なんだそれは。入学もしてないのに宿題とか聞いてねえぞ。姫子はゲェと言いそうになるのを必死に堪えた。

(つづく)

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2026年10月 2日 (金)

【魔女のレムリアシリーズ】マジカル・ハイスクール・ガール -02-

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 わん、と、一声あり、手のひらとしっぽに見送られて姫子は歩き出す。スズメたちのさえずりを聞きながら住宅街の急坂を降り、信号を渡ってバスに乗り、駅前ターミナルでバスを乗り継ぎ、志望校〝東ひがし高〟へ。
 同じ目的であろう、ブレザー、セーラー、私服。様々な同年齢達と共に甲州街道を東へ向かう。
 隣の市との境に程近い停留所でぞろぞろバスを降り、横断歩道をぞろぞろ歩く。学校敷地をぐるりと囲う木立は春には早すぎる事もあって枯れ木姿だが、その分、南北に並ぶ二棟の白い校舎がよく見える。ここが春から学び舎になるのか、それともこの瞬間が見納めになるのか。
「緊張してきた」
「だよねー。大丈夫、だと思うけどねー」
 同じ制服同士の子もあるようだ。対して彼女の中学校は自分を含め3人が受けたはずだが、いずれも違うクラスで面識はない。
 合格発表は9時からで、現在時刻は8時55分。だが、校門の前には既にかなりの数の受験生達が待っている。
「受験生の皆さんはとりあえず中に入ってください」
 教員の声があり、鉄の校門がゴロゴロと左右に開かれる。朝ラッシュの時間帯で交通量が多く、歩道を埋め尽くされてはたまらない、ということだろう。誘導されて中に入ると、職員用玄関との間に大きな桜の木があり、その前に選挙ポスターと同様な一時こしらえの木の板が立てられてある。そこに合格者の番号がズラリと貼り出されるのである。ネットでの発表はもう少し未来の話。
 彼女の受験番号はアイウエオ順になることから、相原あいはら姫子……なんと0001番。
 8時59分。教員らがロール状の大きな紙や脚立を抱えて正面の職員玄関から出てくる。
「では、発表しますが、掲示作業中は危険なので少し下がってください」
 板の両側に脚立を立てて、教員が2人、紙の両端を持ってそれぞれ脚立に登り、紙の端部を掲示板の端部に合わせ、
 ロールが解かれて紙が広がる。
「わぁ!」
「お、あった!」
「やった」
 早い番号は左上、その紙を押さえる教員の手の下に隠れている。そして画鋲で留められて。手が離れる。
 
 0001
 0002
 0005
 ……

「合格者は受験票を持って昇降口から入ってください。合格証と入学者のしおりを配ります」
 道は、開いた。

(つづく)

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2026年10月 1日 (木)

【魔女のレムリアシリーズ】マジカル・ハイスクール・ガール -01-

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【序章】

 入学試験そのものは、それまで習ってきた、とりわけ夏休みの合宿で詰め込んだ内容の記憶が新しく、応じた手応えはあり、塾で行った自己採点でもまずまずの点数と想定された。ただ、都立高校すなわち〝試験内容は偏差値によらずみんな統一〟であり(この当時は)、ハイクラスの学校はみんな得点もハイクラスになる。「たとえ満点でも保証にはならない」と、安心できないまま受験からの十日間を過ごした。〝ダメ〟だった場合の行き先(いわゆる滑り止め)は確保済みであるとは言え、睡眠不足気味だったことは否めない。しかし、その間に私立希望だった友人達の進路が決まっていったのは素直に嬉しい気持ちになった。「あんたと仲良しで志望校落ちたのいないんじゃない?」……それは自分に敵対すると酷い目に遭うという〝姫子ひめこの呪い〟と真逆の結果で祈っていたこと。
 そして、第一志望に失敗し、思い悩んだ挙げ句彼女にタロット占いを頼んで来た男子の学級委員も、最初から募集期間が二期ある山梨の進学校に入学が決まった。親の束縛が激しかったが東京大学の合格率を示して説得し「寮があるのでそこへ逃げるよ」とのこと。この結果付き合いのある仲間で残ったのは、ひとりが詳細不明なものの、他は都立を第一志望としている仲良し二人と、女子の学級委員で、その都立合格発表の日を迎えた。
「行ってきます」
「はい。受かっていることを祈っています」
 温和に微笑む〝母〟に送り出されて家を出る。中学校に行くなら仲良しの子が玄関先で待っているが、今日は都立の発表・報告がメインで、私立の女子校に決まっている当該の娘は休み……。
「姫ちゃ~」
 の、はずだが、私服姿で、毛並みムクムクの柴犬〝ムク〟を連れて玄関先に彼女はいた。溝口智恵美みぞぐちちえみという。手のひらパタパタ。
「どしたの?」
「どしたも何も姫ちゃの応援に決まってるじゃん。絶対受かってます。あなたは夢を叶えて多くの人を救うべき人だ。神様が見てないわけがない」
 智恵美なのでちえちゃんはそう言うと、ムクのリードを手首に通し、姫子に向かって両手を伸ばし、ブレザー制服の襟元と、ポニーテールの白いりぼんをちょっと直してくれた。
「ありがと。行ってくるよ。ムクもね」

(つづく)

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10月1日:ついに、とうとう、いよいよ、ようやく

レムリア=相原姫子。高校生になります。前日譚があるのでスグにその姿をというワケではありませんが。

魔法少女レムリアシリーズ「マジカル・ハイスクール・ガール」

10月1日 22時30分より投入開始←何だ投入って

Backshadow

(茶坊主さんのラフスケッチをちゃっぴーでいじってある)

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2026年9月30日 (水)

【魔法少女レムリアシリーズ】男の子の場合 -20・終-

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 テレパシーで映像を送り込んでやる。自分が乗り組んだ高速飛行船。3次元の高速運動で蒼穹に大曲線を描き、応じて大地は横になり上になりして地球の丸みが視界に広がる。
「僕は……僕は……」
 夜闇の水面すれすれを超高速で東方へ滑走して行く。応じて天蓋を星が巡り、やがて水平線は朱に染まり天頂へ向かって赤から青へのグラデーションを描き、鮮烈な旭日が海の向こうから昇ってくる。
「飛びたい!僕は飛びたいんだよ。自分の力で空を飛びたいんだよ……」
 叫び、そして、わあわあ泣き出す。言えたね。それでいい。
「何か、いけませんか」
 姫子は、髭の男に問うた。
「男の子が大きな夢を持って、そこを目指すのはいけないことですか」
 無言。だが、真意はダダ漏れ。
「息子が国家公務員なら立派な家庭に見られる……そうですか。彼の価値観は無視ですか。それはとても、男のすることとは思えませんね。私なら、人の夢を潰すような、そんなショボい男を彼氏にするとか夫になるとか、あまつさえは股ぐらにチンチン突っ込まれるとか、そんな野郎の子を宿すとか、まっぴらごめんです。ひとりの女として、わたしはあなたという男性を否定します」
 無言。まぁいいだろう。強い言葉であることは認識している。そして何も言い返して来ないだろうとも。それはこの男の髭に残された〝男の子〟の残照の故に。
 対して笑顔で郁恵ちゃんを見る。
「この先はあなた方家族で決めることだと思うので私はもう失礼します。ただ一つ。朝食は採るようにしてね。それと多忙で食事の準備が難しいのは理解するので、光龍寺さんの子ども食堂とか利用を考えてください。栄養士さんと献立を考えているのでその辺は大丈夫です。私もよく手伝ってるから」
 ウィンクしてみせる。
「じゃあね。何かあったらまた教室まで来て」
「あの……」
「はい?」
「ありがとう……そして、申し訳ありません」
「いいよ。一人で背負い込んでるとハゲるよ」
 子ども食堂の利用者に彼女が加わったのは翌週月曜のこと。
 それは、都立高校の入試まで2週間といったところ。

 男の子の場合/終

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2026年9月29日 (火)

【魔法少女レムリアシリーズ】男の子の場合 -19-

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 すると母親は慄然とした表情を見せた。
「会社に言うと……」
「言われたら困るんだろうねぇ。その口ぶりからすると。……下着の着替えを用意して身体を拭いてやれ。幾ら看護師ったって同級生の女の子にチンチンやケツの穴見られるのはイヤだろ。そのくらい出来んだろ?優秀なお母さん」
 言い捨ててプリコーション一式を脱ぎ捨て、ゴミ袋を頂戴して放り込み、新品のマスクと手袋、ゴーグルを郁恵ちゃんに渡しておく。
「お兄ちゃんの食事上げ下げだけこれ身につけてお願い。食事は食いたいモノ食えるモノ。欲しいのはカロリーなので治るまでは栄養バランスガン無視でいい。毎回うがい手洗いを忘れずに」
 と、ガレージの方から外国車らしき大排気量のエンジン音。
「お父さんだ」
 革靴で歩いて来るコツコツという音が建物の外を動き、玄関前で止まり、ドアが開いた。
「誠志郎は……おや、こちらは?」
 口ひげを蓄え、ビシッと良いスーツを着こなす紳士、というところだが。
「同級生で看護師です。看病していました。インフルエンザAです。明朝、早い段階で医者に診せることをお勧めします」
「どっちも帰ってきてくれないから、一緒にうどん作って食べたんだよ」
「え?」
「あなたの奥さんを張り倒して、いま上でさめざめ泣いてますが、あんたもぶん殴った方がいいですかね。夫婦揃って子供ほったらかしとはどういう了見ですかね」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。状況が把握できていないんだが……」
「それが大問題だって言ってんだよおっさん。学校から緊急連絡先の携帯に電話が行ったはず。出てないならそりゃ把握できてねえだろうよ。インフルで幻覚見てるって認識なんかないだろうよ。幻覚が見えるくらい殴ったろうか?飛行機、飛行機、僕の飛行機、やめてお母さん、助けてお父さん……お前ら、揃いも揃って、自分の息子に何か恨みでもあるのか!子供いじめて楽しいか!失敗をなじって満足か!」
「相原さん」
 弱々しい声は上から誠志郎君。
「いいよ相原さん。もういいよ……ありがとう」
「良くないでしょうよ!そうやってまた言いなりになるの?あなたはどうしたいの。定年までタクシーで永田町を往復するのと、高度8000フィートを時速500マイルで飛ぶのとどっちがいいの」

(次回・最終回)

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2026年9月28日 (月)

【魔法少女レムリアシリーズ】男の子の場合 -18-

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 姫子は言い、立ち上がり、階段をドカドカ上がってくる母親を仁王立ちで待ち受けた。
「どこの馬の骨だか勝手に入り込んで……お前か!」
 ビシッと音が出そうな勢いで自分を指さす。タイトスカートのスーツ姿であり、どこぞの大企業の秘書でその地位がご自慢とテレパシーで判じた。
「何その物々しい格好は!せいちゃんは病原菌だとでも」
 ガタガタうるせえ。姫子はそのまま平手打ちをかました。
「黙れヒステリーのくそばばあ。その通り誠志郎君はインフルエンザAだ。病原菌じゃなくてウィルスな」
「な……」
 普通、子供の同級生に自宅でぶん殴られるというシチュエーションはないので、反射的に何か用意できる言葉はない。
「医者に掛かって抗生物質もらって大人しくしているのがセオリー。その機会を奪ったのはどこのどいつだ」
「なんて子なの……何様のつもり。医者でも看護婦(発言そのまま)でもないくせに」
 言いながらその手が震えている。暴力に対する恐怖からか、直前までの怒鳴り声が再開する気配はない。
「姫様だ。文句あるか。ついでに言っておくが看護師そのものだよ」
 都が発行した准看護師の免状を見せつけ、髪の毛掴んで鼻先1ミリまで顔を引き据えてやる。
「朝から食欲もないほど発熱しているのに市販の風邪薬飲んで寝ておけとは何事ですか。しかも学校には病院に行かせたと嘘をつく。重ね重ね何事ですか。聞けば食事もまともに与えていない。勉強だけしておればいい。そんなもの、親の行状ではない。むしろいない方がいい。ネグレクトっていうんだよ秘書室長さん。10億円の取引に付いて行くのが息子の命より大事かい。あ?誠志郎君は10億円の価値がないというのかい?あまつさえは両親揃って夜中の2時まで息子をガン詰めとか子供壊す気か!あ!?」
 それこそガン詰めしてやる。下から郁恵が、背後で誠志郎がドアを開けて見ている。
「子供は親のオモチャじゃねぇ。私は私の友達をないがしろにする奴は許さねぇ。たとえそれが友達の親であってもだ。……ちなみに高熱の子供ほったらかして社長にしっぽ振ってましたってのはアンタの会社のコンプライアンス的にどうなん。え?」

(つづく)

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2026年9月27日 (日)

【魔法少女レムリアシリーズ】男の子の場合 -17-

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 親は何しとんねん。
「あの……相原先輩さん」
「はい」
「先生が、何か手伝えることはないかって。その、ウチの親電話に出ないらしくて」
 倍殺しだ。
「えーと、じゃぁ、先生にスーパーで買い物を頼んでください。一袋60円のうどんの麺、お惣菜で売ってる半熟たまご、長ネギ一本、うどん汁の素」
 郁恵ちゃんはそのまま、人数だけ「3人分」として伝えた。
「買ってきてくれるそうです」
「オッケー。郁恵ちゃんはどうする?」
「私がうどん調理します。一緒に食べます」
「判った」
 部屋に戻ると誠志郎は布団をかぶってバナナをもぐもぐ食べている。
「あの、もう、何から何まで……ごめんなさい。これ冷たくて美味しい」
「いいえ。放っておいたら死にました。相原と会った翌日にインフルこじらせて死にましたとか、呪いどころの騒ぎじゃないからね」
 額の冷却ジェルを交換し、体温を再測定。38.2。
「脇とかリンパ腺のグリグリが腫れてくると思うから、そこにもこれ貼っておきな」
「うん」
 呼び鈴がピンポンで郁恵ちゃんが応対に出ると、乾先生が頼んだ買い物を届けてくれる。お礼がてら階段から顔を出したら〝フルアーマー〟の自分に驚いたが、事の深刻さは直ちに判ってくれたようだ。状況を話して「長居してうつったらシャレにならんので」と出席関係の処理を依頼して帰し、タマゴとネギのうどんを作って3人で食べる。もちろん、彼は自室に運び込んで。
「人心地付いた」
 とは彼の弁。食欲あるなら後は時間が経つのを待つだけ。
「これ相原さんの手料理?出来立てで温かいの久しぶり」
 もうこの親2の2倍4回殺す。
「いいえ郁恵ちゃんです。治ったらあなたが何かご馳走なさい。食ったら寝ろ」
 再度熱冷ましを飲ませる。なお、応じて長い時間を経過しているが、その間本当に彼の抱えている英語の課題を暇つぶしも兼ねて解いた。ドアの下の隙間を通してプリントをやり取りし、姫子が廊下で彼の回答をチェック。
 20時を過ぎて母親が帰ってきた。
「ちょっと!誰か来てるの!?」
「何その言い草!お兄ちゃん凄い熱だって言ったじゃん!お兄ちゃんのクラスの保健委員さんがずっと看病してくれてんだよ!だから、だから帰って来てって言ったのに!」
「なんで勝手に上がってるの!?」
「ごめん、私は切れた」

(つづく)

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2026年9月26日 (土)

【魔法少女レムリアシリーズ】男の子の場合 -16-

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 記憶の時制が巻き戻っているようだ。初恋の女の子。小学校6年生。テレパシーが勝手に拾ってしまうが、まぁ、後で聞く手間が省けるのでいいか。
『せいちゃんパイロットになるんじゃなかったの?勉強勉強でつまんない』
 それは、彼の強いショックの記憶。悪夢という奴は何故か知らぬが最悪のフィードバックを見せて寄越す。
『もう引っ越すから関係ないよね。勉強頑張ってね。さよなら』
 恋愛のせい……それは確かに最初の受験失敗の直接原因だった。夢も、恋も、全部奪われてこの部屋の虜囚にされたのが、学級委員宮越誠志郎の真の姿だったのだ。
 姫子はゴーグルとマスクを一瞬外した。誠志郎は一瞬身体をびくりと震わせ、我に返った。
「あれ、オレ……」
「うなされてました。一度換気のために開けます」
 と、机と本棚の間にある窓を開けようとするが、その名の通り半月形のクレセント錠は硬いし、窓もゴムが貼り付いていてベリベリ言う。
「いつから閉めっぱなしなの!?」
「ごめん」
 体重を掛けて外側にグッと押しつけ、ゴムが剥がれたことを確認してからこれまた力一杯使って窓を引き開ける。
 ドアレール・敷居には砂利が溜まっていたようでザラザラゴロゴロ言いながらどうにか窓は開いた。
 夕焼け間近の冬の冷気が室内に流れ込む。
「布団入ってて。吐き気はある?」
「ない。あちこち関節が痛い」
「筋肉震って熱を作るからで、インフル治れば改善します。今日は何か食べましたか?」
「サプリだけ」
「私はあなたの親を2回半殺しにしないといけないようです。合わせ技で死亡ですね。水分と糖分をサッと摂ることをオススメ。ゼリー飲料ならサラサラ入るけど、固形物を噛んで飲む方がいいかな。バナナ少しずつ食べな。冷凍だから口の中で溶かしながら、冷たいから落ち着くと思う」
 部屋の気温が下がったことで空気の入れ換えは大丈夫と見て窓を閉める。
「部屋の外に出ているのでパジャマを着替えて」
「うん」
 素直な弟である。外へ出て郁恵ちゃんを呼ぶ。
「冷蔵庫何かあった?」
 彼女は階段を上がってきて眉を曇らせた。
「それが……野菜と、ヨーグルトだけ」
 なんじゃそりゃ。
「冷凍食品は?あと、タマゴとか」
「冷凍ピラフならあるけど」
 と、そこで電話が掛かる。親か。郁恵ちゃんが2階の子機を取ると。
「はい……あ、先生」
 それは乾先生と言うことだろう。

(つづく)

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2026年9月25日 (金)

【魔法少女レムリアシリーズ】男の子の場合 -15-

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「塾にはお休みと」
「伝えておくわ。物々しいね」
「スポドリとバナナを買い足しておいて頂けるとありがたいです」
「買って何なら持って行くよ」
「いえ、我が家の在庫補充です」
「インフルの子供置きっぱなしで親は不在なのかい?」
「病院にも行かせてないようで」
「あらまぁ。この辺の病院水曜午後は休診だよ」
 姫子は動作を止め、目を見開いて母を見返した。最悪。アメリカ映画なら「ガッデム(Goddamn)」と言う場面だろう。
「仕方ありません。本人に頑張ってもらいます」
 体操ジャージに着替え、スポーツバッグに荷物をボカスカぶち込んで持って行く。
 道すがら衛星携帯で知り合いの医師に対応を確認する。准看護師なので医師の指示の下で活動すべしと言うのがヤパンの法の要件。寝かせて水分と食べられる範囲で栄養を。体温38度5分以上または本人がしんどい時には熱冷まし。了解。常識的な対応ですね。
 宮越宅の呼び鈴を押すと、物凄い勢いで郁恵ちゃんが出てきた。
「お兄ちゃんが……お兄ちゃんが……」
 取り乱しているが、何が行われているかは判る。うわごとを口走っている。
 ただちにお邪魔し、看護用ガウン、手袋、ゴーグル、マスク等を着用。
「親御さんからは?」
「何も……」
 クソが。
「わかった。郁恵ちゃんは、塾とか、行かなきゃいけない所はありませんか?」
「ピアノだけどお休みにしてもらいました。私もうつってるかも知れないし。あと、何か料理しようかなって」
「材料次第かな。ちょっとお兄さん見てくるから。後でその辺相談しよう」
「はい」
 さて階段を上がって行くと、うわー、とか、やめてー、とか。その飛行機のコレクションを捨てられた辺りのこと。まぁ、悪夢だろう。
「誠志郎せいしろうくん」
 ドアを開いて姫子は彼を下の名で呼んだ。彼、宮越誠志郎は半身を起こして両腕を伸ばし、虚空の幻を掴むような動作を繰り返している。インフルエンザ脳症と言う奴があるが、そこまで進むと痙攣だのひきつけだのに至るから、逆に言うとそこまでじゃない。高熱による譫妄という奴だ。むろんそれでベランダから飛び降りたりするので軽視はできない。
「誠志郎くん」
 涙ぼろぼろの彼はゆっくりと目を開け、姫子の方を見た。しかし。
「ゆきちゃん……」

(つづく)

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2026年9月24日 (木)

【魔法少女レムリアシリーズ】男の子の場合 -14-

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『はい』
 電話の向こうの声は奈良井だ。
「宮越君は病院なんか行ってません。持ってる検査薬でインフルエンザA。体温39.2。解熱剤ぶち込んで寝かしつけました。出席停止で。ちょっと親ぶん殴ってやりたいんで緊急連絡先で呼びつけてもらえますか?母親も父親も両方です。お前ら子供殺す気かと」
『待って待って相原さんちょっと待って』
 ヒートアップしてきた姫子の口調に奈良井は慌てたように返した。
『宮越君が病院に行ってないって言うのは本当なの?』
「市販の総合感冒薬、これ飲んでおけ、と言われたようです。解熱剤はある程度効くでしょうが、インフルは場合により譫妄を起こしたり急に重症化するので、ひとりきりで放って置くものではありません」
『幻覚見て飛び降りたりする奴ね』
「そうです」
 私が、とばかり郁恵が自分の胸に手をしてみせるが。手伝うってこと?
「予防注射とか……打ってたら兄ちゃんかからないよね。妹だけ打つってこともしないよね。却下、部屋に戻って」
 姫子は郁恵に言って。
「妹さんにもうつしたくない。親が責任持って看病しろバカヤロウですよ」
『判った。それは乾さんが電話されてるようです』
「救急車呼ばれたくなかったら早く帰ってこいと伝言願います」
『伝えておくわ』
「一旦切ります。病人に対応できる準備をします。何かあれば宮越さんの家の電話に連絡を」
『はい。お願いね。白井しらいさんには共有しておきます』
 電話を切る。白井というのは養護教諭。傍で口を真一文字に結んでいる妹に指示。
「お兄さんはインフルエンザAです。あなたにうつる可能性があるから近づかないように。トイレは2階をお兄さん専用に。私は一旦家に行って少し飲み物と食べ物の準備をします。多分、親御さんから電話が来るでしょうから、お兄ちゃんが大変早く帰ってきて、とでも嘘泣きして訴えて」
「わ、判りました。あの……すいません」
「大丈夫だよ。ちゃんと助けるから」

6

 家に帰って、インフルの委員長宅に手伝いに行く、と言ったら、母なる人は「それは大変」と言った。
 スポーツドリンク、ゼリー飲料、冷凍しておいたバナナ一本、板チョコ、冷却シート2箱に〝スタンダードプリコーション(Standard Precautions)〟とか言われる感染防止看護用品一式。

(つづく)

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2026年9月23日 (水)

【魔法少女レムリアシリーズ】男の子の場合 -13-

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 中でいいんちょはガタガタ震えている。
「オレ……重病なの?」
「あたしがうつりたくないからだよ。鼻の穴の奥の粘膜から検体を取ります。これ突っ込むよ」
 長い綿棒を鼻の穴から突っ込んでぐりぐり。咽せてゲホゲホ。
「ごめんよ。これで良し。体温測ってて。結果出るまで10分かかるから布団に入って待ってて」
 体温計を渡して送り出す。綿棒の先端を容器に入った液に混ぜ、プラスチックの検査機本体の試料穴へポタポタ足らす。
 台所で言われたとおりにミルクココアを作っている郁恵と出くわし、重装備にギョッとされる。
「お兄ちゃんは……」
「多分インフル。えっと、経口補水液かスポーツドリンクは……」
「ないです」
 魔法瓶のお湯をマグカップに注いで塩をひとつまみ。とりあえず代用。
 で、気付く。食器棚にズラズラ並んだサプリメント。頭が良くなる目が良くなる睡眠改善……。滑石に包んだゴミばかりだがATPなら今でも使えるか。(ATP:アデノシン三リン酸のこと)
 2階から体温計の測温完了のピーピー音。
「いいんちょー、何度ー?」
 声を張って尋ねると。
「9度2分」
 弱々しい声。妹は目を見開いた。
「病院行ってないよあれ」
 ウェストポーチから熱冷まし〝カロナール〟の錠剤を取り出し、ATPのサプリの錠剤、塩水と共に持って行く。階段上がってお部屋は4つ。その一番奥の部屋。
 机と本棚だけの部屋に布団を敷いて、彼は仰臥していた。はぁはぁと苦しそう。枕元には市販の錠剤風邪薬の瓶。
「暑いんだか……寒いんだか……」
「まず間違いなくインフルだよ。こうなると薬も効かないので寝て待つしかない。解熱剤。まずは飲んで」
 上半身を支えて飲ませる。
「なんで病院行かなかったの?」
「母親が薬飲めば熱が下がると」
「学校には病院に行くと連絡があったようですが……妹さんにも言いましたが、私はどうやらあなたの両親を半殺しにしないといけないようです」
 横たえさせ、階下のトイレまで検査薬を取りに行く。
 インフルエンザA。
「出席停止」
 クッキリとラインが現れたそれを見せると、いいんちょは諦念したように脱力した。冷却ジェルシートを額と首元に貼り付けて退室。
 衛星携帯電話に電波を拾わせるには外へ出る必要があり、面倒くさいので宅電話を借りる。
「3年3組相原姫子です。奈良井先生か1年2組の乾先生はまだ在校ですか?」

(つづく)

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2026年9月22日 (火)

【魔法少女レムリアシリーズ】男の子の場合 -12-

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 とは奈良井。なるほどというのは〝占ってもらうと元気がもらえる〟という生徒達の感想を確認した、というところだろう。
「確かに当たる当たらないという次元を超えた感じがするね。受けてみたいって子の気持ちが判る」
「ってか乾先生。彼女フラフラ状態と言った方が正確なほど体調ヤバいんですが、私が付き添って家まで送ってってイイですか?」

5

 乾教諭はクルマで送ると言ったのだが、女の子同士で話がしたいから、と断った。奈良井はバス通勤であるから、二人で歩いて行くことになる。とはいえ、宮越宅は姫子の家がある住宅街の奥まったところで、そう長時間歩くわけではない。
 道すがら普段の食事を訊く。するととんでもない答えが返ってきた。朝は基本抜き、昼は学校給食で夜はコンビニやスーパーで惣菜やお弁当。つまり昨日今日、親の帰宅が遅い時だけの対応ではない。
「あとは、サプリ」
「あなたの親殴ってもいい?」
「ズレて……ますよね」
「成績のためなら死んでもいい。その位酷いです」
 住宅街の最も奥、造成地は斜面なので、最も高い一帯にあたる。そこは他の家々より面積が2倍3倍という邸宅が並ぶ。そのうちの一邸が宮越宅であった。門扉の向こうに広い庭と飛び石。
 門扉のインターホンを押すと「はい」と宮越本人と咳き込む音が聞こえ、恐らくカメラ越しに自分たちが映ったのであろう、玄関ドアがただちに開けられた。
「相原さん?なんで郁恵と……」
 と、出てきた宮越はパジャマ姿であり、ドアに寄りかかってようやく立っているような有り様で、肩で息をしている。
 ちょっと待て。
「先生から発熱で病院と聞きました。行ったの?」
 普通、解熱剤をもらうから、こうはならない。
 なんだこの家庭は。
「いいんちょはインフルエンザの検査をします。トイレに引っ込んでください。郁恵ちゃんにうつる。郁恵ちゃんはミルクココアでもあれば作って飲んで自分の部屋で一服してください。どうやら本気でご両親を殴り飛ばさないといけないようです。ほれ、早く引っ込む、熱が上がるよ」
「え、あ、うん」
 反応は二人とも素直である。姫子はウェストポーチをゴソゴソし、ビニール手袋、医療用N95マスクを身につけ、検査キットを持ってトイレに入った。

(つづく)

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2026年9月21日 (月)

【魔法少女レムリアシリーズ】男の子の場合 -11-

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 少し髪の毛を手入れして、お下げを作り直してゴムで留める。
「私は昨日、ご両親のご希望に添いつつ、飛行機に関わる仕事に就く方法もあるよ、と教えました。それで、よしっ!て思ってくれたようです。でも、家に帰れば宝物は消えてしまった勉強だけの部屋。フラッシュバックが起きたかもしれません。多分、彼は飛行機捨てられた時を思い出して心壊れてしまったのでしょう。まあ、あなたが勘違いするのはしょうがないかな、と」
 妹は涙を拭って降り仰ぎ。
「私にできること、何かあるでしょうか」
「そうですね」
 姫子はそこでソファに戻り、タロットを並べた。
「タロットカード……え?じゃぁ」
「そうです。私の思い込みや私的な価値観を押し付けるのは怖いので、カードに聞きます」
「あー3年の占い美少女って君か」
 とは乾。おいおい教員が安易に美醜を口にするなよ。
「私も実際に扱うのは初めて見ます」
 とは奈良井。シャッフルして1枚引くと〝魔術師〟のリバース。

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「1枚だけ引く手法はワンオラクルと言います。さてこのカードは魔術師、です。それ自体の意味はこれから魔法の術式に着手する。準備、みたいなニュアンスです。ただ、逆向きで出たので、準備不足である、となります。万全や正しさに対して、迷い、ウソやまがい物、知識不足、悪知恵、そんなものを暗示します」
 妹は驚いた顔で姫子を見た。飛行機を捨てたのも恋愛のせいにしたのも悪知恵であろうし、ウソでまがい物。
「当たっているのか?」
 とは乾。
「はい……」
 妹は頷いた。
「で?それだけか?」
「いえ。なので、準備不足というのは、迷いがあって学習の方向性が曖昧になっていることを示唆します。ちゃんと決めて、目標を定めた学習をなさいと。あと、対人関係に対しては、八方美人の態度を取るな、という解釈を得ます。今回お話聞いた限り、かなり親御さんの干渉というか意図強制を感じます。それに迎合した、甘んじて受け入れた結果が今ですから、まぁ、そこを断ち切れ」
「親を無視しろ」
「有り体に言えば……郁恵さんも何か、親御さんから頭ごなしに言うことを聞け、と言われていることがありますか?」
「……はい」
「それは、かなりの確率で、あなたの心身の健康に良くない影響を与えていると判断します」
 妹は目を潤ませて姫子を見た。
「なんか、言いたいこと言ってもらえた気がします。ありがとうございます」
「占いってよりヒーリングね。なるほどね」

(つづく)

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