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手のひら端末でも読めそうな「夢見るようなファンタジーで、命を守る」お話を、ぼちぼちリストして行きます。


・魔法少女レムリアシリーズ「アルカナの娘」(11/13更新・完結)
-01-05- -06-10-
-11- -12- -13- -14- -15- -16・終-

・理絵子の夜話シリーズ「空き教室の理由」(11/9・毎週土曜日12:00更新)
-001-005- -006-010- -011-015-
-016-020- -021-025-
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 お話カタログ

●連載タイプ(掟破りの携帯で長編)
魔法少女レムリアのお話(現在15編)
超感覚学級委員理絵子の夜話(現在13編)

●長編
「天使のアルバイト」
天使が、人に近い属性を備える理由、そして、だからこその過ち。その結果。
(目次

●短編集
大人向けの童話(現在10編)
恋の小話(現在13編)
妖精エウリーの小さなお話(現在22編)
(分類不能)「蟷螂の斧」

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色んな切り口色んな長さ。他の「ココログ小説」の方々の物語。「へぇ、こういうのもアリだな」そんな発見をどうぞ!

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【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -16・終-

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 見れば目の下頬骨あたりを拳で殴られたようで、眼帯と包帯で青く腫れた周囲を隠し、小さな傷もたくさん。
「ごめんなさい……こんなことになるなら家まで送っていけば良かった……」
 涙が出てくるのを抑えきれない。美姫を抱きしめてわんわん泣いてしまう。恥も外聞も無いと判っていたがどうにもならなかった。それは傍目には膝立ちの美姫に姫子が抱きついてぶら下がり、だだでもこねているかのよう。
 美姫はしばしあっけにとられたようにしていたが、自らの目元を拭うと姫子の肩をトントン、とした。
 姫子は我に返って声を抑え、身体を離した。
「ごめん……泣きたいのは美姫ちゃんの方だよね」
 美姫は首をゆっくり左右に振った。
「ううん……嬉しい。こんなに、こんなに心配してもらったことないから……そして、自分がなにも見えてなかったってよく判った」
 神領美姫は意を決したように姫子の手を引きながら立ち上がった。
 傷だらけではあるが長身で流麗な美少女の挙動であって、黄金の輝きが迸るような印象を周囲に与えた。
「私……思い上がってました……正体晒したけどイケメンの彼氏がいてチヤホヤされて他は何も要らないと思ってた。でもむしろ迷惑を掛けてた。なのにクラスのみんなにこうして心配してもらえた。ごめんなさい。そしてありがとうございます」
 神領美姫は“カチ込み”に来ていた自分のクラスメートに頭を下げた。髪の毛がバサッと舞う。
 顔を上げる。
「そして相原さんは私の大切なお友達です。もちろん、殴るとかそんなことされてません。私の、そういうことに、魔法を使って気付かせてくれた、大事な、大事な、お友達です。ネガティブな内容は全部アイツの嘘と良くない噂です」
 神領美姫はレムリアの腕を取ってそう紹介した。それは、神領美姫が全部吹っ切れてリスタートしたことを証しした。
 もう、涙は似合わない。
「ありがとう」
 レムリアはまずそう言い、自らの乱れた髪の毛を束ねてポニーテールに作った。まだ長さが不十分で尻尾は短い。
 そして今度は、その傷もあって洗髪できていないであろう、神領美姫の両頬から腕を伸ばして彼女の髪を持ち上げる。
「これはレムリアの流儀で」
 金色のシュシュを通して長いテールを作って下へスッと流す。
 風もないのに彼女の髪の毛は一瞬ふわっと広がった。
 朝陽に黒曜石の輝きを放つ文字通りの射干玉(ぬばたま)に、男子達が瞠目しまばたきも出来ない。
「私はあなたの友達であり続ける。そして私は、私の友達を傷つける者を絶対に許さない」
 そう言って見つめると、強気な光が、神領美姫の瞳に戻った。
 
 アルカナの娘/終

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -028-

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 だから4階音楽室の直下にある屋外通路は、アスファルトが塗り替えられてひび割れがない。
「で、女の子が叱られた理由なんかは……」
 何か訊くたびにいろんな話が出る。だが、諸説融合すると大体担任が言っていたことと合致した。
 ただ、ひとつ違うというか、新たな事実として判ったのは、その“番長”すなわち校内不良グループの首魁に相当し、相手グループ首魁を半身不随に至らしめた人物が、小学5年生の夏に転入してきた男の子であり、女の子とのおつきあいは、その冬前後にスタートした、というもの。
「それだけ付き合ってりゃなぁ」
 リーダーはタバコの煙をぷかりと浮かべた。
 理絵子はとりあえず頷いた。
 長く付き合った。不良グループの首魁になっても尚。その別れを強制された。
 つじつまは合う。だがしかし。
“死を選ぶ動機”……例えるならガラスのコップが砕け散るような、そのカシャンと行ってしまう“破壊エネルギー”としては、やや足りない気がするのだ。繊細で感受性が高い少女の思春期と言ったって、振り返ることもなく死へ向かわせるにはインパクトが不足と思う。
“本人”に会いたい。だが気配はない。
 ならば。
「あのー、その女の子の家とかって、判りませんか?」
「え?」
 メンバー同士顔を見合わせる。さすがにそこまで知る者はいないか。
 すると。
「知ってるが、行ってどうするんだい?」
 背後から声が掛かった。
 マスターである。
「もう家は壊されて駐車場になってるが……」
 理絵子は一瞬返答に困る。行ってみて、何か女の子の思惟の残照でも超常感覚(この場合サイコメトリという名で分類される能力を使う)で拾えれば、なんて説明が出来るわけもなく。

(つづく)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -027-

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「そーそーこないださぁ、マックに行ってバーガー100個っつったら、“こちらでお召し上がりですか”って。んなに店で食うかっての」
 すると。
「それ都市伝説。俺が学生の頃からあった」
 マスターが言った。
「あらバレた」
 特攻服が豪快に笑う。
 理絵子は“都市伝説”に肝心な用事を思い出した。
「そういや皆さん、そこの中学の出身ですよね」
「おう、横須賀(よこすか)とか朝倉(あさくら)とか、まだいるんだってな」
 朝倉は理絵子の担任である。
「4階の教室の話、いつからあるんですか?」
 聞いたら、全員が一瞬で時間を止める魔法を受けたようになり、互いの顔を見合わせた。
「ぼく、こわいおはなし、きーらい」
 マスターがふざけた口調で言い、店の中へ。
 それはつまりマスターも知っているということ。かなり古い話である。
「それなら俺らの時で既にそれこそ都市伝説だわ」
 連中の中では年かさの革ジャン男が言った。
“たこぶえ”リーダー、と理絵子は認識している。
「それはやっぱり、女の子が教師の無理解から自殺した?」
「ああそうだ。でもでっち上げってわけでもないらしい」
「の、ようですね」
「なんか叱り飛ばしてそのショックで、と俺聞いたぞ」
「違うよ。死にたくなければ受験しろって迫ったんだ、って」
「そうじゃねぇ、受験しないなら死ぬようなもんだと言ったら本当に死ぬ方を選んだんだよ」
 理絵子は苦笑した。伝承の過程で少しずつ細部が変わって行き、尾ひれが付いて真実が歪んで行く。典型的な“都市伝説”の経過をたどっている。なお、女の子の自殺の動機は諸説あるが、その後の部分、空き教室に向かった生徒達が皆その部屋から身を投げて死んだ、という部分は同じ。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -15-

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「ほれ、身長150センチの女の子が丸腰だぜ。学校一の褐色美少女傷だらけにしてみろ。永遠の卑怯者として伝説になれるぜ」
 そこで大きく息を吸って。
 一拍。
「やれるもんならやってみろ!夕方のアサガオみてえなチンポコ野郎が!」
 小柄がウソのような大音声は教室の窓ガラスをビリビリ言わせ、その場の誰もが度肝を抜かれた。
 否、過去に同じ声を聞いた男子生徒平沢と、“そうなると寸前に探知した”美姫を除いて。
 彼女は放たれた弾丸のように突進した。
 突如頭突きの勢いで突っ込んできた小柄な娘にりゅーせーは反射的、と表現できる動作で小刀を突き出した。
「死ねーっ!」
 多くの悲鳴。刹那。
 それは闇雲ではあったが、そのまま彼女が突進すれば、何らかの傷を付けるであろう突き方であった。しかし、彼女には、どこへ、どのタイミングで刃先が達するか、判っているのであった。
 わずかに首を傾げて、右手を立てる。
「チェックメイトだ」
 それは、日曜日に放送している女児向けのアニメ。女子中学生が変身して華麗なコスチュームで悪と戦い、やっつけた時の決め台詞。
 衆目が惨劇を予見して逸らした目を恐る恐る戻すと、彼女姫子は、真剣白羽取りの要領で、小刀の刃先を右手の人差し指と中指でつまんでいた。“ピース”のポーズで、刃先を挟んだ形だ。
 りゅーせーは刃先突き出した勢いを往なされバランスを崩し、片足立ちの状態。逆に言うと伸びきった腕を彼女の指先で支えられている。
 彼女はそのまま小刀を引き抜いた。
 支え失えば倒れるのみ。
「あっ!」
 ドタバタと机に胸を打ち、更に床面に崩れ落ちる。ゴキブリたちのただ中にうつ伏せに倒れ込んだので、応じてゴキブリたちが動き回って周囲に小さなパニックを惹起したが、
 どうでもいい。両クラスの男子が一斉にりゅーせーをとっちめに動き出したので、彼女はナイフを遠くに放り出し、美姫に駆け寄った。なおこの間に“役目は終わり”とばかり、ゴキブリたちは教室から去った。

(次回・最終回)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -026-

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 そちこちから声が掛かる。サングラスや特攻服など、威圧感第一と評すべき服装外見の男達から出てくる声は、滑稽なほどポップで穏和である。猫なで声を更に越え、ホットケーキ上のバターの様相。
「おう」
 一人そっけなく片手を挙げて応じたのは青いワンピース……否否デニム地のつなぎ服を着たその桜井優子。比較的大柄なせいもあり、男達の中にあっても違和感はあまりない。傍らでひげのマスターが串焼きをほおばっている。
「お前の」
 取り置いてくれたのであろう、桜井優子が紙皿を出してくれる。たっぷり2人前はある山盛りの肉と野菜。
「え、こんなには……」
「だめだよ学級委員さんは食べなくちゃ」
「そうだよ脳みそ一杯使うんだから」
「脳まで筋肉の奴に言われたくねーってよ」
 少しの嫌みと、明らかな好意と、多少の憧れもあろうか。
 理絵子は苦笑するだけ。マンガならさしずめこめかみ辺りに汗の粒でも描かれるところだ。いつも思うことだが、連中との会話はギクシャクしがちでどうにもコミュニケーションの形成に困る。悪意は感じないし、嫌いではないのだが。
「はいはいそれではいただきますです」
 食べていた方が楽。油がギラギラしてるし、所々おコゲの黒い粒が見えるし、味付けは濃いが、柔らかくて食べやすい。
「そうでなくちゃ。イッキイッキ……」
「ビールじゃねーよ」
「え?でも“安斉亭(あんざいてい)”のジャンボチャーシュー麺をおかわりしたって優子が」
「それは私自身だ」
 桜井優子は言った。言って、肉に噛みついて力任せに串を引き抜く。
「なんだ。じゃぁいいや」
「フライドチキン80本の男に言われたくないね」
「低レベルだ。チョコボール1万個食ってこそオトコだ」

(つづく)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -025-

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 曰く昼間言い忘れ。千葉の祖父母宅から地元肉牛“若潮牛”の肉が届いた。明日喫茶店“ロッキー”でバーベキューパーティやるので来ないか。
『“たこぶえ”のヴァカばっかだけどよ。お前のクウールでクレヴァーな物言いを聞かせてやってくれよ(^^)v』
……珍走団と中学生の女の子が昼間っから肉食ってる図は父親が眉を顰めそうであるが。
 ひとつ目的が生じたことに理絵子は気付く。喫茶店主含め、メンバーはみんな同じ中学出身。
『行くよ~。お昼でいいよね~。変更あったらメールちょ~』

 喫茶店“ロッキー”は、中学校から南側へ向かう道、斜面を降りて行く途中にある。白壁のログハウス風の建物であり、15人も入れば満員。規模の大きな店ではない。
 近隣の住民はあまり使わず、主たる客層は近場にある女子大学の学生達。だから土曜午後と日曜休日は休み。
 理絵子ら中学生には出入り禁止のお達しが出ている。理由は“ふさわしくないから”とだけしてあるが、要するにPTAが眉をひそめる若者達が時々集まるからであろう。
 今日も、店前の道には明らかに違法改造と思われるバイクが数台。及び、後部の空圧パーツ“スポイラー”を極端に伸ばした古い国産乗用車。……その車体タイヤ回りは、少しの段差すら引っかかる、と思うほど低い。いわゆる車高短(シャコタン)である。
 理絵子はそれらの間をくぐり抜け、“close”としてある喫茶店の入り口ドアを開ける。
 ドアベルがカラン。
 店内に客の姿はない。厨房奥のドアが開け放してあり、外光が入ってくる。鉄板焼きのジュージュー威勢のいい音と匂い。そして談笑。
「違法駐車はいけませんよ」
 理絵子は言いながら、厨房から庭へ出た。
「お、りえちゃん」
「あー今日もかーいい(可愛いの意)なぁ」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -14-

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〝宣戦布告〟を得てポケットからナイフが現れる。応じて悲鳴がいくつか上がり、りゅーせーからみんな距離を取る。
「龍生……いや……やめて……やめろ……」
 飛び出してくる勢いの美姫を、彼女のクラスメイトらが必死に抑える。姫子はそのうち一人と目を合わせ、頷いておく。
 りゅーせーに目を戻す。ナイフなど別に怖くはない。それ以上にここで怖いのは人質を取られることだが、もっと離れろ、とか自分が言うと逆効果であろう。
 さてこの時、姫子の制服スカートの裾と、そろそろポニーテールにしようかという髪の毛がゆっくり舞い動いている。それは彼女のオーラライトで彼女周囲が熱を帯び、弱い風が生じているせいである。
 そのことに神領美姫が気づく。彼女は多分、自分が纏うオーラライトが見えている。それは彼女の奥底に眠っていた(実態として嫌な記憶を忘れるのと同じ作用で潜在意識レベルに追い込んだ)超常感覚の再覚醒なのであるが、美姫にとってそれは“過去、日常”であったせいか、変化だとは認識していないようだ。であれば逆に構わない。そう、貴女の見立ては正しい。私は魔女のレムリア。だから私は貴女の「誰にも理解されない悩み」が理解できる。
 と、教室の前後から床面を這って侵入してくる黒い点状のもの多数。
「ゴキブリだ!」
「うわっ」
 悲鳴が上がりみんな逃げる。ゴキブリたちはりゅーせーの回りをゴソゴソし、応じてりゅーせーとみんなの距離は広がった。君たちいい仕事だ。
 そこへ、”朝の会”に来たであろう、ドア向こうにキュロットスカートの担任奈良井が姿を見せ、目を見開く。姫子は手のひらで“待って”のジェスチャー。
「ダンナが言ったよ。男の子が女の子をいじめるのは弱いからだってな。もっと弱いのを叩いて強いつもりになるんだってよ」
 姫子は言いながらりゅーせーを睨み付け、ゆっくり歩き出す。挑発である。攻撃を全て自分に振り向けるためである。
 この場で”レムリアの術”を使った対処は可能である。だが、こいつの場合思い知らせないといつか同じ事を繰り返す。

(つづく)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -024-

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 経験の及ばない現象。
 だから最初“怪談”を知った時、触れるなという意識が働いたのか、と理絵子は理解する。中学に入り、多感にして不安定な思春期を過ごすことにより、いろんな心の動きを知ることが貴重で大いなる経験になったと認識している。
 友と共に歩み、衝突し、同意と嫌悪と、本音と建て前。
 過去この事件を導いた事象の内容上、理解するには自分自身、それ相応の経験を求められたのだ。
 そして今のタイミングで触れることになった。
 すなわち。
 これは叩き付けられた挑戦状なのだと洞察が訪れる。経験の全てを持ってしてこの事件を解決して見せよ。
 その認識に高らかな笑い声が応じる。いや、そういう概念が意識に浮かぶ。自分でも、訪れていた15の人格でもない。高飛車で人を小馬鹿にした嘲笑であり、例えるなら寝ている虎が小猿を尻尾で弄ぶ、そんなイメージ。
 イメージの大元は目の概念を送ってよこした抽象存在。
 同じ“波長”を有する存在を理絵子は記憶の裡に見知る。ぞろりと剥き出された歯列。暗渠の覗く双つの空洞。
 髑髏の映像イメージを伴う存在。
 死神。
 異様にまで白い骨の顎(あぎと)が開いて笑ってみせる。
 その、骸骨の形作る表情に浮かぶ不敵さ。
 お前には負けない。お前には……
 全てを引き裂いて携帯電話が着信音を鳴らしたのはその時である。
“死神髑髏”の映像イメージが雲散霧消し、窓ガラスの自分が映る。
 理絵子はハッと気付いた。
 自分は今、死神の画像に注意を奪われ、引きずり込まれそうになっていた。
 一種の催眠術である。携帯電話よアリガトウだ。しかし今頃誰か。
 着信音が途絶えた。
 メールである。開くと桜井優子。
“たこぶえ”の連中と近くの峠道を走っていたようだ。

(つづく)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -023-

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「知ってるわけ……ないよねぇ」
 思わずつぶやく。
 首無し写真……テレビが喜んで飛びつく強烈さである。にしては奇妙である。写真からは何の情報も与えられない。
『実際には撮影者の心理状態や、それによる無意識な行動が、カメラにブレを与えたり、レンズの特定部位を指で隠してしまったりといった形で現れることもある』
 担任を安心させるために言ったこのセリフ。今回の事例は能力者によっては実際こう判断する場合もあるのではあるまいか。
 ちなみに理絵子的には、写真の情報から現場……すなわち女の子が飛び降りた場所を調査、“当人”と直談判してあっさり片づくと思っていた。
 しかしどうもそんな単純ではないようである。単純じゃないから、“当人”が出てこないのだ。恐らくこのままでは直談判自体が成立しない。
 目の概念。
 見ている?
「えっ?」
 理絵子は再度椅子を回転させ、机の向こうの窓を見る。
 窓の向こうは裏庭であり更には広葉樹の生えた下り斜面である。
 映っているのは自分の顔だけ。
 誰か居たのではない。でも、見られた。
 ハッと気付く。背後の連中……さっきまで認識できた15の人格が、全部姿を、否、“存在感”を消している。
 眼力というフレーズが意識に浮かぶ。小学校の夏休みのこと、理絵子の力の存在を指摘し、力持つ者の心構えを説いたのは、東京郊外、高尾山(たかおさん)の修験者であるが、その時招待された滝行の場で、理絵子はこんなシーンに出くわしたことがある。
 修験者が霊感商法のニセ僧侶を看破した際、見据えただけでニセ僧侶が失禁したのだ。
『目は心の窓口である。心の力は双眸(そうぼう)より出(いず)る。だから黒曜石の娘よ、その心常に水晶であれ』
“心”だけの存在が、具象化(作者注:この場合、あの世からこの世に姿を見せること)せず、異次元からのぞき見を行い、意図して15人格を排除したか、或いは15人格の方が恐れをなしたか、どちらにせよ、15人格は部屋から去った。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -13-

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「美姫ちゃん!?」
「ミキチャンじゃねえ!とぼけんな!」
 いきり立つ男子委員を、美姫が傷だらけの右手で制する。
「松岸(まつぎし)違う。話聞いて。コレは彼氏……て言うか、彼氏だった奴の仕業……」
 美姫の発音は不明瞭である。頬を殴られ腫れているのだ。
 姫子は思わず近づこうとするが、その男子委員松岸が阻もうとしてくる。
「昨日、相原さんと喋って、CD貸してもらって、帰る途中、彼氏が待ち伏せしてました。誰と会ってたんだって。手をつないで走って行ったのを見た奴がいるって。女の子だって言ったのに聞いてもらえなくて。そいついつもそんなばっかで。もうあたしイヤんなって、もう嫌だ別れる、ったの。そしたらふざけんなってこう」
 美姫は自らを指差し、その目を赤くし、涙が一筋。
 姫子は歯がみした。束縛系とか誰かから借りたマンガで読んだ気がした。嫉妬深い。で、気に入らないと暴力。
 最低の所業ではないか。
「そいつしかいないって思ってたけどそうじゃなかった。相原さん全部聞いてくれた。そいつがおかしいって気づいた。だから……」
 刹那、姫子はその場の誰よりも先に察知して目線を転じた。
「そうかおめえがその相原か」
 怒気に満ち、満ちるあまりに震えて聞こえる声が教室前方のドアから聞こえた。
 背の高い、細身の男子生徒。クールなイケメンという触れ込みじゃなかったか。2組の佐倉龍生(さくらりゅうせい)とか。
「切りつけに来たかいりゅーせーちゃん」
 姫子はゆっくりと身体の向きを変え、名前をりゅーせーと故意に棒読み風に発音してやった。
「彼氏彼女の関係でも暴力使っちゃ立派な犯罪だよ。しかも悪いが見ての通りオンナだ、ムネねぇけどな。カノジョの話聞けない腐れチンポ野郎はカレシとは言えないな。で?その鉛筆削りナイフで何かしたところで美姫ちゃんは離れて行く一方だと思うが?」
「黙れ。こいつはおめえがいるから俺は要らないとかヌカしやがった。だからおめえをズタズタにして『おともだち』を消してやんだよ」

(つづく)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -022-

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 その筋の活動が最も活発になる時間帯であり、眠りに落ちた人々が夢を見ている時間帯だからである。夢とは意識のみが活動している状態であり、それはいわゆる霊体のみが活動している様相と相似形といって良い。要するに夢の中には真意や深層心理が顔を出すのである。関連してか、彼女の能力……超常感覚的知覚もこの時間帯に最も感度が高くなり、まるで高性能のラジオのように夥しい数の“夢の放送局”をキャッチすることが可能となる。一般に今回の写真のように、その筋の物体現物を手に出来た場合は、事象の中枢が近所にある場合が多く、然るに関連する“放送”があれば、容易に深夜2時に拾うことが出来る。
 はずなのであるが。
 感度無し。
 理絵子は学習机の椅子をくるりと回転させて背後に身を向け、“見えない連中”に意識を向ける。但しこの連中は担任宅の“虫”とは違い、超常感覚で捉えてみても形をなさない。感覚的には雰囲気や気配に近い。多くは“放送”によって解き放たれた強い気持ちの断片であって、言ってみれば単一の感情のみで形成された人格のような物だ。“情念”という語に概念的には近いか。ちなみに怨念だけでできあがった人格が怨霊である。首無しが理絵子に対するある種の予告や布告であれば、ラジオがキャッチする相手は間違いなく怨念であろうし、どころか、今背後にすーっと立って視覚化……幽霊さんでもおかしくないのであるが。
 集まっている“連中”は15人格。彷徨い続ける古い感情や後悔の念などであり、写真とつながる存在どころか、同情を覚える悲しい存在だ。後で話を聞いてあげたいと思う。連中もそれ……愚痴聞いてもらいたい……が目的でここに来ている。

(つづく)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -021-

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 ため息をつくなという方が無理であろう。よく観察されてるなというのが理絵子の印象。“美少女”としか書いてこない男子の手紙と違って繊細で心を打つ。変な話だが、“女の子同士”の世界が判らぬでない気もしなくもない変な感じになってくる。お互いに観察し合って相互理解に至っているのではないかと思うのだ。判ってもらえる心地よさ、う~んなるほどなぁである。ただ単に好意を伝えられるだけ、とはグレードが違うと認めざるを得ない。なおちなみに理絵子はマンガであれノベルズであれ、それをテーマに置いた作品は持たない。
「はぁ」
 短くため息付いて手紙を封筒に戻す。内容からして返事を書いて心理的にフォローした方がいいように思うが、差出人が名乗らない以上書きようがない。調べれば判るのだろうが、それは超自然にして不自然という奴だ。
 階下から階段の壁をノックする音。
「理絵子。出たよ」
 母親である。曰く次はあなたが入浴しなさい。
「はーい」
 理絵子は残りの紅茶をあおって席を立った。

 深夜2時に心霊写真を眺めている少女が一名。
 照明は机上のスタンドだけで、室内灯は用いない。暗闇に顔だけ白く浮かび上がらせ、首無し写真を見つめる様は、恐怖マンガの冒頭シーンさながらである。
 しかも実際、背後に“見えない連中”が集まっていることを理絵子は感じている。能力上この種の写真に対して、恐怖に直結しない彼女であるが、そういう写真であるという意識を持ったことで、連中が集まっているのである。
 彼女はこの種の物体を調べる際には、この時間帯を多く用いる。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -12-

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3

 翌日。
 姫子が登校し、教室に入ると、級友達が一斉に恐怖心を備えた目で見つめてきた。粗暴で無敵な不良少女でも見るかのようだ。
 男子の一人が手招き。
「ミキミキをボコり倒したって?」
「はぁ?」
 ミキミキは美姫ちゃんのことであろう。ボコる。暴力を振るう。誰が、自分がか。
「あたしが?」
「そう」
 彼女は自分を指さしてみた。級友達は頷いた。
 何がどうしてそうなった。すると。
「おい、相原って来てるか」
 廊下方より聞き慣れぬ男子生徒の声。かなり高圧的で怒気を孕む。
 級友達の目が一斉にそちらを向いた。
 美姫のクラスの学級委員。男女揃って。
「はい、何か」
 彼女姫子はまずは顔を向けて尋常に応じ、次いでゆっくり身体をそちらに向けた。想定外の何かが進展しているに相違なかった。
 するとツカツカと入ってきたのは女子の方。
「あんた女の子の顔殴りつけるなんて酷くない?」
「はあ?」
「とぼけんじゃねえよ!」
 大声は男子の方。
「ボッコボコじゃねえかよ!」
 何が起こった。逆に私に見せてくれという所だが、
「私が?神領さんを殴ったと?」
「そうだ」
「ボコボコに?」
「そうだ!」
「殴ってなんかないけど?家で親に会わせてお茶飲んで、CD貸してから、ボコりつける?」
「ウソつけ!神領呼び出して引きずって行ったって聞いたぞ!」
 男子委員の声がヒートアップして来る。何某かウソを吹き込まれて義憤に駆られてであろうから、こちらの言い分は凡そ聞き入れられまい。が、首肯するわけにも行かぬ。
「呼び出し?確かに彼女とは話がしたいと言いました。ただし彼女にしか判らない方法で伝えました。ってか、一緒に走って行ったことが何で伝わってるんですかねぇ。つけ回して覗いてたってことじゃん。それこそ女の子を。そんな犯罪まがいのご注進を信用するわけ?」
 彼女は手を腰に反駁した、その時。
「待って……」
 弱々しい美姫の声がし、衆目がサッと集まる。
 廊下のドア脇から顔を出した包帯と絆創膏。

(つづく)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -020-

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 続いて手紙の処理。はがきは洋服屋のDM。クーポンが付いているので、クローゼットにマスキングテープで貼っておく。
封書。グリーンの封筒に可愛らしい文字。
 男の子……ではない!?
『りえぼーってねぇ、女子の間でも人気があるんだよ』
 同じクラスの友人に言われた言葉。
 手紙からは香水めいた匂いがしている。コロンを振ったか、そういうレターセットか。
 封を切る。
 取り出す便せん。
 開く。
『ごめんなさい』
 1行目はただそれだけ書いてあった。
 空き行を作って、小さい字で本文が始まる。
 予測通り、差出人は“とある女子”としてある。
 ひょえ~。率直な感想を言葉にすればそうなるか。
 曰く自分は“花”だそうである。但し、ヤマユリのような大きな花でなく、草むらで埋もれてしまいそうに小さいのに、ハッと引きつけられる可憐な花だと。
 不自然でいけないことだと思っても忘れられない。気が付けば理絵子の笑顔を、後ろ姿を追い求めている自分がいる。理絵子には差出人にない物が全て備わっていて、学級委員としてみんなに気を配り、みんなが知らないところで地道な努力をしている。嫌なことも断らないし、むしろみんなが拒否していることを察してそれとなく引き受ける。そんな女の子他にはいない。そうした姿がなおいっそう理絵子を輝かせる……。
 褒めちぎりも度が過ぎて虫唾が走るというのが正直だが、真剣な気持ちならキチンと返事・回答をすべきであろう。理絵子はそのまま読み続ける。
 こんな気持ち、理絵子に伝えるべきですらないことは判っている。伝えても届かない気持ちであることは判っている。迷惑そうにしている理絵子の姿が目に浮かぶ。でもこのまま押さえ込んでいるとどうにかなってしまいそう。だから申し訳ないけれど気持ちを伝えることにした。返事もいらない捨ててもいい。ただ理絵子は素敵な女の子であると伝えたい。
 誰かが理絵子を悪く言うなら、それはあこがれの裏返し。どうか今のままの理絵子でいて。
 以上本文要約。返事はいらないのでと、差出人の記載は無し。

(つづく)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -019-

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「ふぅ」
 ため息のひとつも出ようという物である。自己完結を見たところでティーバッグを引き上げてケーキ皿の脇に移動、勉強机に座る。机の上には葉書と封書。母親が置いていった物だ。友人の多くが自室に親が入るのを嫌うが、理絵子としては別に秘密も隠す物も無し、気にしたことはない。むしろ親は味方にしておいた方が後々絶対に良いと思う。
 親なしで生きていける状態ではないからだ。
 その結論に囁く声がある。……その辺が、合理的な考え方が“男の子っぽい”んじゃないの?
「……しょぼーん」
 脱力してひとりごちたところで後回し。ケーキを口にし、机の傍らの携帯電話を取る。理絵子も持っていないわけではない。学校へ持って行かないだけ。画面に触ってスタンバイから復帰、パスワードで通知がワラワラ。
 SNSのメッセージ6通、5通は部活である文芸部の仲間から。文化祭上がってのねぎらいである。1通は級友である桜井優子(さくらいゆうこ)。彼女は級友だが年齢はひとつ上。“2度目の2年生”である。行動や交友関係に対しPTAが眉をひそめる存在であり、ゆえに疎外されがちだが、理絵子は逆に彼女と親しくしている。そんな理絵子に桜井優子は最初とまどっていたが、今では心を開いてくれた。メールは合唱サボってごめんの由。まぁ、徹底的に学校のやることなすことに反する彼女である。いかにも学校的内容の合唱では……というところであろう。ちなみに、彼女はサボった挙げ句“友人”達が所属する珍走団“たこぶえ”の連中と共に、三浦半島の先端へ走りに行ったという。マグロのカマ料理の画像付き。
 返信する。内容は別に濃い物ではない。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -11-

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「辛い言い方をしたかも知れない。でも、占いに頼るほど追い込まれた心の有様(ありよう)とあるべき姿をあなたは知っている」
 レムリアはアンスールを美姫の手のひらに載せ、握らせ、そしてもう一度開かせた。
 紐が通ってペンダントの出来上がり。それも手品。美姫はしかし、驚くと言うより“当たり前の結果”を受け入れている表情。
「あたしひとりで占い希望者背負い込んだら忙しくてトイレにも行けない。あなたには占いを引退しないで欲しい。私じゃ嫌だという人も必ずいるし。彷徨う心の受け皿は幾らあってもいい。大アルカナの回答に良い言い回しが思いつかなかったら、小アルカナを引きなさい。そこに答えが啓示される。それはお守りがわりに首にかけて。西方に過去あった魔法国家アルフェラッツの術式Coegi magicae Lunae(こえじ・まじけ・るなえ)に従い」
 レムリアは人差し指を立ててくるくると宙に円を描き、そのままパチンと鳴らした。
 美姫はペンダントを首に通した。
 そこでレムリアは革製のカードケースを手のひらに出して差し出した。
「一式入っています。お持ちなさい。差し上げます。傷だらけのカードでは、めくる前に判ってしまう」
「え?」
 美姫はボタン留めされた蓋を開いた。絵柄は19世紀から20世紀にかけて活躍したデザイナーの手になるもので、ネット辞書で類型の絵柄として取り上げられているほか、現在流通している絵柄の中でも最も一般的なもの。だが。
「羊皮紙……これって」
「ヨーロッパ王侯向けの特注品。ふさわしくない者の元から自ら離れ、ふさわしい者の手元にたどり着くと言います。私があげられる手元のタロットは今はこれだけ。なら、あなたに持てと言うことでしょう」
「でも……」
「値段?希少性?そんなこと気にする人にこれを持つ価値はないと思います。逆に道具とするなら可能な限りよい物を。私の父の教えです。少し裁いてみて」
「え?……あ、うん」
 美姫は78枚を取り出し、シャッフルし、積み上げ、崩して時計回りに混ぜる。
「凄い滑らか……」
 横一列にずらっと並べ、1枚抜き取る。
 羅針盤のような文様“運命の輪”。
「チャンスにせよ」
「私の占いは以上です」

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(wiki)

(つづく)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -018-

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 湯気立つマグカップにティーバッグを放り込み、ケーキを持って2階の自室へ。
 ドアを開いて明かりを点ける。“すっきり”という印象を誰もが持つ6畳洋室。理由として、理絵子はあまり“女の子っぽい”コレクションは持たない。本棚にマンガとノベルズはずらりとあるが、ぬいぐるみやアクセサリーの類は皆無といって良い。色遣いも木目調の方が落ち着く。
『あなたはやはり普通の子と相当違うようね』
 担任の台詞を思い出して苦笑する。えーえーどうせ私は。
『“しずかちゃん”より“出来杉くん”のようだ』
 自分に対する友人の評を思い出す。著名なマンガの登場人物であるが、同じ優等生でも“男の子”の方に近いとその友人は評したわけだ。
 だとすれば恋愛経験がないことと一致が見いだせるが。
 まさか。
 姿見の自分の身体を思わず見てしまう。りぼんで緩く縛った長い髪、頭のてっぺんから足の先。自分で言うのも変だが“女の子”の外見を備えているとは思う。ちなみに彼女は学級委員で美少女であって、男子からの勇気を振り絞った手紙はよく来る。が、内面のとりわけ“女性性”に対して言及したものはまず無く、容姿と成績、優しい感じに好感が持てますと要約できる物が殆どだ。自分の捉え方についても、相手自身の気持ちの推論に関しても、“会ってみたい、話を聞いてみたい”と思うような物はこれまで無い。端的に言ってしまうと内容が幼いのである。同年代の男子というより“男の子”を相手にしているような感覚にとらわれ、マンガやノベルズの展開と異にする。言っちゃ悪いが要するに物足りない。
 ああそういうことか。理絵子は自分の思考展開に“恋愛”しない結論を見た。どうやら自分はもう少し年上というか、人格的に成熟した男性を求めているのかも知れぬ。
 だとすれば父親のせいだ。職業上、幼い暴走を日常見ていた父が我が子に対しどんな育て方をしたか、容易に想像が付く。

(つづく)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -017-

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 結果として、塾に行かず音信不通の娘に対して、帰宅時の親の反応は当然こうなる。
 玄関マットに仁王立ち、腕組みしてギロリ。
「ただいま」
「……理絵子。ああ、もう、どこへ」
「ごめん、先生のとこ行ってた」
“トホホ”と書いてある安堵した母の顔に、理絵子はまず言った。
 母親の表情に小さな笑みが浮かぶ。ちなみに、こうした背景もあり、発信先を制限したGPS付きの機種のみ許可しようという動きもPTAの間にはあるという。
「そう……。まぁいいわ。ご飯食べなさい」
「はい」
 母親がスリッパをスタスタ言わせて廊下の奥へと歩いて行く。
 理絵子はまず2階へ上がり、着替えを済ませてリビングダイニングへ。
「あれ?お父さん今日……」
「夕方に出て行った」
「訊きたいことあったのに……」
 理絵子はリビングのテレビ桟敷に配された、父親の指定席である大振りなソファに目をやり、ダイニングテーブルの自席に座った。父親は警察官。ドラマでよくある“捜査1課”ではなく、組織犯罪などを扱う職場だが、忙しいことには変わりはない。
 以前は少年犯罪などを担当していたそうである。理絵子の就学に伴い、現職場に異動した。
 食事を摂る。同じテーブルはす向かいで母親がノートパソコンをカチャカチャやっている。最近始めた内職で、ウェブサイトのデザイン。自分の高校進学に備えての学費稼ぎと判っているので、月謝払っている塾をサボるのは少々、胸が痛い。授業の振り替えを依頼しようか。
「先生の所は補習?」
 母親が突然訊いた。
「うん」
 大嘘。
「そう……じゃぁ、テスト期待できるのかしら?」
 そういう話題は願い下げ。
「ごちそうさま~」
「冷蔵庫にケーキ入ってるよ」
 そういう話は別。
「いただきま~す」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -10-

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「敵と感じれば攻めもするでしょ。私はあなたが悪いと思っているその過去を責めたりはしません。現に私がムカついてしょうがないって子は幾らもいます。でも、仕方ないしそれで当然だから、嫌いにならないで、とは言わない。ただ、喧嘩売ってくるなら言うことは言う。あなたの挑戦にもそうしたつもり。でも、その結果あなたは打ちのめされたように見えた。あるべきあなたの姿じゃないように思えた。だから、話を聞いてみようと思った」
 彼女は抱きしめた耳元で一気に喋り、身体を離した。
 もう、涙は必要ないという確信と共に。
 テーブルに戻ってタロットに尋ねる。シャッフルして裏返し、一番上。
“魔術師”。

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(Wiki)
 美姫の眉根が歪んだ。
「皮肉みたい」
「そこは素直にとっていいと思うよ。信じて、動け。そして多分、あなたにテレパシーのような輝きは戻らないかも知れないけれど、傷ついた心の状態は覚えているはず。ここでようやく私のルーンの出番です。児童館で手品イベントやる時は魔女のレムリアって名乗っててね。その流儀で」
 以下姫子を彼女の意を汲みレムリアと記す。レムリアは右の手指をパチンと鳴らし、握りこぶしを作ってテーブルの上に置いた。
「触れて。今のあなたにふさわしい一文字があるはず」
 美姫は手のひらで包むように触れた。
「姫ちゃんの手、温かい……」
「基礎代謝が旺盛なようで」
 彼女レムリアは応じてから、手のひらを開いた。
 水晶の中に浮かび上がる、アルファベットの“F”の横棒を斜め下に傾けたような文字。

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(Wiki)

「アンスール……だっけ」
「そう。正位置なので、あなたの知ることをよりよい方向に使いなさい」
「私の知ること……」
「辛さや葛藤、迷い、破滅、そして裏切り……」
“裏切り”……その言葉に美姫は肩をびくりと震わせ、膝の上で拳を固く握った。
 友の信頼を裏切って辛い思いをさせたのは自分だし、そして、相原姫子の出現によって“信者”に裏切られたのもまた自分。

(つづく)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -016-

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 とりあえずもう少し安心させて、今日は辞することに決める。無論最短ルートは直接担任から詳細を聞き出すことだが、今の担任の心身はそれに耐えられる状態では恐らくない。もし実行すれば担任の心理に回復不能なダメージを与える可能性が高い。
 もちろん、当事者である以上、いつかはまっすぐに問わねばならないのだと思う。それは予感というより確信。でもその前に、まっすぐに問えるだけの情報と、問うことに耐えられる“強い心の回復”が必要である。
「先生がそうおっしゃるなら私としてもうれしい限りです。あの手の写真は心霊写真といいますが、実際には撮影者の心理状態や、それによる無意識な行動が、カメラにブレを与えたり、レンズの特定部位を指で隠してしまったりといった形で現れることもあるようです。先生は私がその、あゆみ、さんと似ているとおっしゃった。辛い記憶を隠そうとする心理が、ファインダーの中の私を無意識に指で覆ってしまったのかも知れない」
 この言い方に担任は目を少し見開いた。
「……なるほど」
「まずはお気になさらず。そのお気持ちのまま今日はおやすみ下さい。写真はこのまま、私が持って行きます。それですっきり寝られたなら、そういう程度のものだった、ということです」
 理絵子は言い、カバンを手にして立ち上がった。
 担任が感心したような目で見上げる。
「……あなたは私より遙かに人の心が判っているのかも知れないわね」
「とんでもない。恋愛経験ナイの一言で説得力まるでナシです」
 理絵子は笑って、締めた。

 理絵子の中学は携帯電話持ち込み禁止である。
 従って、予定通りの行動を子供が取っていない場合、親から連絡の取りようがない。これが昭和だ20世紀だという時代であれば、サボってどこかで遊びほうけて…という方向に親の推定が向くが、子供に対する犯罪が増えた21世紀以降、親としては腹を立てるより心配が先に立つ。

(つづく)

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