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手のひら端末でも読めそうな「夢見るようなファンタジーで、命を守る」お話を、ぼちぼちリストして行きます。

最近の更新

【妖精エウリーの小さなお話】「翻弄」(だいたい隔週土曜更新)
-1- -2- -3-

 お話カタログ

●連載タイプ(掟破りの携帯で長編)
魔法少女レムリアのお話(現在15編)
超感覚学級委員理絵子の夜話(現在13編)

●長編
「天使のアルバイト」
天使が、人に近い属性を備える理由、そして、だからこその過ち。その結果。
(目次

●短編集
大人向けの童話(現在10編)
恋の小話(現在13編)
妖精エウリーの小さなお話(現在22編)
(分類不能)「蟷螂の斧」

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色んな切り口色んな長さ。他の「ココログ小説」の方々の物語。「へぇ、こういうのもアリだな」そんな発見をどうぞ!

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【妖精エウリーの小さなお話】翻弄-3-

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 しかも。
〈これだけの子たちが食べて行けるスミレこの辺には生えてないけど〉
 様々な齢(れい・何回脱皮したか)、大きさの幼虫がそこここにいて、それぞれスミレを求めて歩いています。最初に出会った“彼”はこの中では大きい方。
〈食える奴が食う、それだけさ〉
 ここで、ツマグロヒョウモンは、昆虫観察でよく使われる他のチョウとは、少し違うことを説明させてください。すなわち、日本本土に生息するモンシロチョウやアゲハなど図鑑や教科書で紹介されるそれら種族は、冬場に向かってたくさん食べて、サナギの状態で冬を越します。卵として産み付けられる時期に多少の前後はありますが、“サナギになって冬を越す”点では揃っています。栄養・成長に不足があり、サナギになれなかった者は生きられません。
 対して、ツマグロヒョウモンはほぼ“成り行き任せ”です。早く成長すれば早くチョウになり、産卵して次世代が生まれます。成長が遅ければチョウになるのも遅くなります。この結果、ある瞬間にタマゴと、各齢の幼虫と、サナギと、成虫と、混在します。暖かくなれば動くし、寒くなれば動かない(動けない))。なので、冬に向かう状況でも日当たりが良くてスミレ草が豊富であれば、12月なのに羽化してチョウになったりします。ちなみに、アゲハモンシロは揃っていると言いましたが、沖縄などに暮らす者はやはり“成り行き任せ”の生態が見られます。四季を通じて食草があるからです。
 逆に言うと、ツマグロヒョウモンは四季に順応してない種類だと言えるでしょう。それもそのはず、彼らは元々南方系の“成り行き任せ”な種類です。温暖化で日本国内の生息域が徐々に北上している状態。
 と、頭上をひらり横切る影。
 メスです。たくさんの黒点をちりばめたオレンジ色……“豹紋”の翅。メスの特徴は外周部の黒い縁取り。その中の白いストライプ。

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〈おや妖精さんとは珍しい。降りてもいいですか〉
 そこだけ雑草の密度の低い一角に彼女は降り立ちました。
 お腹の先端を土の上や草の根元にツンツン当てながら歩いて移動して行きます。
 産卵です。
〈大変ね〉
 私は言いました。ツマグロヒョウモンは1匹が200を超すタマゴを産みます。その理由は。
〈少しでも多く、ですから〉
 物音がします。
 エサを探しているトカゲの仲間、カナヘビ。冬に向かって食べないといけません。地を這う
〈さよなら〉
 チョウは危険を察したか飛び立ちました。
 一方、幼虫たちは一斉にその場でピタリと動きを止めます。トカゲ類は動くものに飛びかかるからです。

(つづく)

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【妖精エウリーの小さなお話】翻弄-2-

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〈探すだけの話です〉
 答えるそばから幼虫は食事を再開し、葉っぱと、花と、茎まで食べてしまいました。
「全部食べちゃった」
 女の子が言いました。
「ちょうちょさんの幼虫さん、どうするの?」
 果たして幼虫は動きます。冷たいであろうアスファルトを黙々と這い始めます。とはいえ、見える範囲にスミレなど生えていません。
 その時。
「えみりー!」
 女性の声がし、女の子が即座に反応しました。
「ママー!」
 立ち上がり、声の方を見ます。ツカツカ……そんな調子で歩いて来るジーンズにセーター姿の若い女性。
「えみり。またそんなとこで……汚いからだめって言ったでしょ?」
「汚くないよ。ツマグロヒョウモンをお姉ちゃんと見てたんだよ」
「お姉さん?」
 お母さんは怪訝そう……なぜなら。
「この白い服の……あれ?」
 お姉ちゃん……私はそこにはいないからです。いえ、いないというのは正確ではありません。
 いますが、お二人には多分判らない。
 なぜなら、私は身長15センチの大きさになってアザミの葉陰に隠れているからです。
 私はギリシャ神話にニンフとして伝わる妖精族ですが、北欧由来のフェアリーの要素も持っていて、人間大と昆虫サイズと自由に大きさを変えられます。そしてどちらにせよ、人間さんとの接触は禁忌。“存在しない”と定義されているからです。人間さんの世界観を変更させる権限はありません。
「いなくなっちゃった」
「バカなこと言わないで。はい、帰りますよ」
「うん……」
 手を引かれて、不思議そうに不満そうに振り返り振り返りしながら去って行く女の子。ごめんねえみりちゃん。私の姿がお母様に見えたら、今度はお母様が他の人から変な目で見られる。
 さて母子を見送ると幼虫の姿が見えません。もう次のスミレ草を見つけたのでしょうか。 人間サイズに戻って探しますが、同じ視界にスミレ自体は見当たりません。
 いえいえ道ばた落ち葉の下から出てきました。右へ左へしながら歩く幼虫を見つけます。えみりちゃんと見ていたスミレの場所から50センチくらいは歩いたでしょうか。
 こういう場合、例えば私がこの子を捕らえて保護し、別のスミレのところへ連れて行く、それは作業としては可能です。ただそれは“あるべき姿”……自らの力で生きることへの干渉になるため許されていません。理不尽に命狙われているなら別ですが。

(つづく)

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【妖精エウリーの小さなお話】翻弄-1-

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 びゅうびゅうと木枯らしが吹くさなか、道ばたに座り込んでいる女の子がいます。幼稚園にすら行ってないと思われます。水色のズボンと白いカーディガン。髪の毛は風にもてあそばれてくしゃくしゃ。周囲に親御さんと思われる大人の姿は見えません。
「どうしたの?」
 私は思わず声をかけました。寒くて座り込んじゃった……などの状態だったら大変です。「虫さん」
 女の子は私を振り返るでもなく答え、土の上を指さしました。その小さな指の先には野生のスミレが生えていて、短い葉が2枚だけ、地べたに貼り付くようにしており、そして、その葉を一心に食べている芋虫がいます。
 黒い身体にオレンジの筋が一本、黒いとげとげ。

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「ツマグロヒョウモンっていう名前のちょうちょの幼虫だよ」
「ちょうちょさんなの?」
 女の子は驚いたように振り返り、私を見、びっくりしたように小さく口を開けます。声にならない「あ……」とでもしましょうか。
「お姉ちゃんだあれ?」
「私はね、エウリディケって言います」
「お姫様みたい……」
 女の子は私を見上げて、見下ろして、言いました。私の服装は古来トガ(toga)と呼ばれる、白い一枚布を身体に巻いただけの貫頭衣。ギリシャ神話の彫刻で女神が着ていると言えばそのまんまです。
「ありがと。その虫はね、そうやってスミレの葉っぱをいっぱい食べて、大きくなって、サナギになって、そしてちょうちょに変わります」
 私は言いながら、危惧を覚えます。
 今は11月です。これから季節は冬に向かい、気温も下がって食草……スミレ類も少なくなります。
 私は手を伸ばし、幼虫のとげとげに触れました。とげ……と書きましたが、実際には針やとげのように固いわけではなく、プニプニした感触です。ぱっと見は毒虫に良くある姿、擬態の一種なのでしょう。
 幼虫は食事を止めました。
〈妖精さん……ですか〉
 喋ったわけではありません。そういう意思を持ったことを私が感じ取っただけ。食うのに忙しいのに何か用か、的なニュアンスを感じます。
 そして、説明が遅れました。私は妖精族だから昆虫たちと意思疎通ができます。人間さんの世界における任務は動物と昆虫たちの相談相手。要するに人間さんのそれが天使に対する役割分担。
〈私はニンフに属すエウリディケ。食べ終わったらどうするの?〉
 食べてるスミレは葉っぱが2枚に花一輪。後数分で食べ尽くします。

(つづく)

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【予告】エウリーのお話を少し

短いお話をとりあえず二篇、挟みます。

まず、2週間後、5月28日開始。

妖精エウリーの小さなお話「翻弄」

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【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -09・終-

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 その理由を彼女は説明出来る。そしてそれは言葉にすれば彼を次のステップへ踏み出させる後押しになろう。
「あなたにたくさんの我慢を、いっぱいいっぱい押し殺してきた辛い気持ちの積み重ねを感じます。体格のことや外見ことであらぬ誹謗中傷を受けてきたこと……でも、私はあなたが努力する男の子で、勉強の遅れを取り返したいと新たに努力を始めたこと知っています。それが最も大事なことだと私は自信を持ってあなたに伝えます。あなたの私に対する好意に応えることは出来ないけれど、友達でいてはだめですか」
 彼女は、手のひらを差し出した。
 彼は涙を止め、きょとん。
「友達……」
「そう。防空識別圏を設定しますという告白お断りの言い回しじゃなくて。気軽にくっちゃべる女子という意味で。女の子の友達」
 自分の提案はひっくり返すと「いたことないでしょう女友達」という決めつけになってしまって甚だ失礼なのだが、逆に言えば彼に条件が整ったという証明でもある。
 うん。これでいい。彼女は自分の物言いに自信を持った。
「いい、のか?」
「もちろん」
 ウィンクしてみせると、平沢はしゃがんだまま右の手を伸ばして来、彼女の手のひらを恐る恐る……おっかなびっくり、触れた。
 電撃に触れたように彼の腕が肩まで震える。その頬が目に見えて赤く染まる。
 彼女は震えで飛び出して行かないように握り返す。脂肪感ゼロでゴツゴツガサガサの男の手のひら。
 手首に触れて魔法を一つ。
 巻き付く毛糸。
「なんだこれ」
 平沢は手のひらを戻してじろじろ眺めた。
「ミサンガ。友達には強制的に付けさせてる」
「え、あれこれ結び目とかないじゃんどうやって……」
「そこは手品ですから。それは不思議なミサンガです。必要なことをあなたに教え、不要な時には出て来ません。試合で見つかると咎められるというなら、あなたがそう思えばそれは消えます……従妹のさくらちゃんに見せれば教えてもらえるでしょう」
 彼女は言い、ニヤッと笑った。こういう“後から自分自身意味を理解する魔法”は必要があるから働いたのだと知っている。
「お、おう。あれ?なんでさくらの名前知っ……」
「いいじゃん。帰ろ」
 彼女は先に立って歩き出した。

彼の傷跡/終

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【理絵子の夜話】禁足の地 -11・終-

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 場所の故に高天原からお力添えをいただいたのだと判断出来る。自分の身体を抱き上げた念動の力も多分。
「おぇ……」
 男子生徒が嘔吐する。「死体に抱きつかれた」のはもちろん、高濃度の二酸化炭素による悪影響もあろう。
「昔の人は、ここに立ち入る人や動物が、恐らくいきなりぶっ倒れて息絶える現象を目撃し、霊的な毒気、瘴気が満ちていると考えて封じたのでしょう。それ以上犠牲を出さないためという後悔と尊い思いの元にここを封じた。由緒の不明な禁足地は決して興味本位で踏みにじらないことだわ」
 自分は語尾に「わ」を付けて喋るアニメ女子ではないのに……という場違いの感慨を持ちながら理絵子は言い、泥に埋もれた足首をグポッとばかり引っこ抜いた。
「登与ちゃん帰ろ」
「え?あ、うん」
 それ以上何も言うことはないし、嘔吐の介抱も必要ない。それは示唆であり冷徹な所作が求められる場面と理絵子は理解した。茅纏之矟に断ち切ったのはその辺りの寓意を感じる。
 この生徒には“思い知らせる”必要があったのである。
 授業終わり。“アンタッチャブル”にはふさわしいエンディングと言うべきか。Here endeth the lesson.
「あーもうグチャグチャ。明日までに乾くかなぁ。クッソバカが余計な手間掛けさせやがって」
 我ながら酷いが事実。てめーのせーだ。
「靴だけクリーニングできるんじゃないかな。駅前にほら」
 登与が同じく冷たい態度で続く。
 二人してぐっちゃぐっちゃ音を立て、後ろを見ずに歩き出す。
「あーあずっと泥噴いてるよ。ザリガニの巣作りみたい」
「クリーニング屋さん地震で動けないんじゃ……」
「それなら明日学校休みかも……震度5強だって。え?家ン中大丈夫これ」
 スマートホンに地震に関するニュースや安否を尋ねる家族と友人のメッセージが届き始める。

禁足の地/終

理絵子の夜話一覧
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【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -08-

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 すると、平沢はのろのろした動きでバットを自分のカバンに戻し、持ち上げて肩に掛け、彼女を見た。
 そして、彼女を見、居住まいを正した。
「姫ちゃんって、すげえな」
 諦めたような声音。寂しそうな瞳。
 彼女は平沢進の自分に対する“強い気持ち”が消失していることに気付いて彼を見上げた。
 自分に対する彼の認識が変わったことは火を見るより明らかだった。“一目惚れしたかわいい子”を見るそれではなくなってしまった。まるで手の届かないテレビアイドルを見るよう。
「それで、あの……ひとつだけ、立ち入ったこと訊いてもいいかな?」
 応じた勇気を持って、反映された低く抑制された声で、平沢は問うた。
「何かな」
 小首を傾げて聞き返す。
「普通の女の子……じゃないよね。催眠術とか、あの船とか。呪文っぽいのも聞いた」
 開示すべき時が来た。彼女の答えは一つであった。足下のネコのしっぽ。
「本当の私を知る人は、私のことをレムリアと呼ぶんだ」
 船……それは彼女が隠密裡に活動しているボランティア団体が所持する飛行帆船である。平沢はそれを見かける機会があった。見えてはならない存在なので、訊かれない限り説明するつもりはなく、黙っていた。
 普通そんなものは存在しない。
「手品師で看護師だよ。その船の中ではね。私の力を必要とする場面はレムリア案件と呼びます」
「そうなんだ……」
「すごいがっかりしてるように見えますが」
 すると平沢は立ち止まり、突如腰が抜けたようにぺたりと膝をつき、彼女を下から上までゆっくりと見上げた。
「大丈夫?体調悪い?」
「いや、打ちのめされてるんだ。こんな、こんな凄い女の子、レベルが違いすぎるって……オレ今、自分がすげぇガキなんだって恥ずかしくて仕方ない」
 ああ、と彼女……以下レムリアと記す……は合点が行った。
 彼にとっての「子供時代の終わり」が今、来たのだ。
「そんなことないよ。ガキ様ならあの状況下で私放り出して逃げ出します。あいつらのようにね。でもあなたは過去を振り切って、トラウマに打ち勝ってカバンを投げて応戦し、バット持って立ち向かおうとしてくれた。過去を聞かせるとか、私を信用してくれないと出来ないことのはず。嬉しかった、ありがとう」
 レムリアは努めて優しい声で、語りかけた。
 すると……野球部応じたイガクリ頭で無骨屈強な体格である彼の目から涙がポロポロ。
「あれ……何でオレ泣いて……ごめんみっともねぇ……でも……止まらないんだ何これ……」

(次回・最終回)

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【理絵子の夜話】禁足の地 -10-

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 示唆に従い理絵子はリボンを引っ張り、肩に担ぐようにして腰をかがめた。柔道の一本背負いの身ごなしと書けば手っ取り早い。
 彼の身体が泥濘から引き出されたその時。
 大地震すら忘れてしまう驚愕が一同を捉えた。
“腕”が地中から生えるように伸びており、彼の両肩を背後から掴んでいた。
 そのまま彼と共に引きずり出されたのは、その黒い泥で作った人形のような人体であった。目を見開き、しかしそこには眼球はなく眼窩の空洞のみがあり、口を開いたその表情は苦悶の絶叫を思わせる。
 断末魔の姿をたたえた黒い泥人間が背後から男子生徒の肩をわし掴みにしているのであった。
 湿潤な環境で腐敗を免れ“蝋化(ろうか)”した遺体。
 凝視すればトラウマになる。
 念動力が欲しい、理絵子が願った刹那、何かが、蝋の腕を上から下へたたき切った。
 日本刀の切れ味であり、その刃が風切る音が聞こえたかも知れぬ。蝋化遺骸は背中へ向かって倒れ、再び泥濘に没し、切り跳ねられた腕はくるくる回りながら草むらの彼方へ飛んでいった。
 どーん、と遠雷のような振動音と共に事象の全てが戻る。地震が収まり、驚いた鳥たちが鳴きながら飛び回っており、全身泥跳ねだらけで足首まで埋まっている自分たち4人がある。
「何が……」
 男子生徒は理絵子に問うた。ハァハァと肩で息をし、その肩を見、手指の形に付いた泥を撫でさする。『詳細は把握していないがとてつもなく怖い経験』であったとみえ、額には泥で汚れた玉の汗。
 理絵子は軽く息をつき、
「ここが禁足地なのは、二酸化炭素がたまっていて、安易に近づくと死ぬから。あんたは倒れた時、遠い昔その犠牲になった人の身体の上に載ってしまったのだよ」
 理絵子はくしゃくしゃで泥だらけの髪の毛を手で梳いて風に流した。
 リボンを見る。絡みついてる茅の葉っぱ。振り回して巻き込んだか。
 いや違う。理絵子は真相を知る。茅の葉っぱはメッセージ。
 刃となり彼を救ったそれは茅纏之矟(ちまきのほこ)。
 アメノウズメが天岩戸で踊った時の小道具。もちろん、本当に茅で矛をこさえたところで人体を切れる強度を持つわけではない。

次回・最終回)

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【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -07-

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 彼女は“企んでる魔女”の笑みで見捨てられた男達を見回した。
「あいつは女だから手加減してやった。だが、お前らはそうはいかない。私は友達を傷つける奴は絶対に許さない。卑怯の塊が女にヘラヘラしてるとかゴキブリのクソほどの価値もねぇ」
 バットを振り上げる。
「わああああああ!」
「ごめんなさい許して下さい。言われてやってただけなんですぅ」
 なんだこいつら。すると。
「俺、こんな奴らに……」
 おびえていた自分がバカみたいだ。平沢の言葉を補足すればそうなろう。
「裁く権限はあなたにあると思うよ。殴れというなら殴るし、何なら殺してもバレやしない」
 呼応するようにカラスがアーアー声を上げ。
 ツツジの植え込みからするりと現れたのは、赤い斑がいかにもと思わせる毒ヘビのヤマカガシ。
 男達はパニック寸前。何なら3人揃って漏らしそうな勢いだ。
 対して、平沢進は静かに一言。
「いや、俺はこいつらと永遠に会わないで済むならそれでいいよ」
「そう」
 彼女はそれを聞いてバットを下ろした。ただし、その実態重量以上にゴン、と重い音を立てて。さながら鬼に金棒のように聞こえた。
 彼女は立てた金棒の頂部を指で押さえた。
「3秒間、お前達に永遠に別れる権利を与える。私がこの手を離して、このバットが倒れる前に、ここから立ち去れ」
 彼女はバットを舗道に立て、手を離した。
 揺らぐバット。
「123っ!」
「わーっ!」
 わめき散らし、叫び声を上げ、こけつまろびつしながら男達は立ち上がり、不格好に舗道を走って去った。乱雑に舗道が濡れているが、まぁ知ったこっちゃない。
 バットを受け止め、グリップ側を平沢進に向けて、返す。
「お、おう」
 丸い目、もう少し言うと“人間じゃないもの”を見る目で彼女を見ている。
 説明、する必要があるようだ。
 その前に屈強な味方達を開放する。「ありがとね。助かった」これでヘビやカエルは茂みに戻り、カラスはバサバサ飛んで行く。
 ただ、ネコは足下。まるで付き従うかのように。彼女はしゃがんで、そのネコを撫でさすって。“言うべき内容”のレベルと順序を考える。
「ひとつ、あなたに言っておくことがあります。あの者達には催眠術を掛けました。永遠にあなたのことを思い出すことはありません」

(つづく)

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【理絵子の夜話】禁足の地 -09-

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「ここは断層活動の際地下から毒ガスが湧き出す。だから禁足地なんだよ!走れ。いいから走って遠ざかれ!」
 自分の物言いが難しすぎたのだと判ったが、これ以上ここに立ち止まって説明するとこっちがやられる。
 もう知らぬ。二人は手に手を取って駆け出す。程なくほぼ初期微動を伴うことなく大きな揺れが下から突き上げ二人の足下を揺さぶる。大地から天空へ太鼓打ち鳴らすように地鳴りが響く。
「うわでけえ!」
「やべぇ!」
 大きな震動に草本が揺れるのが見え、触れあってガサガサ音を立てる。足下は多分に不安定だが不思議と揺れに翻弄されずに走れる。
 その理由はどこかで見たことがある。地震の揺れが怖かったら足踏みしろ……揺れる電車で歩けるのと同じで、自らも動いているので相殺される。
 金気水が小道を横切る“入口”まで戻る。
 どっちへ……止まった一瞬に後ろから腕を掴まれた。
「黒野!」
 彼らが追いついたのである。
 が、引き抜こうとした足が動かなくなる。どころか、まるで地面に掴まれたように、グッと締め付ける力が足首に加わり、沈み始める。
 液状化である。揺れ動きながら砂を吹き上げ泥濘と化し、自分たちの足を飲み込み引き込んで行く。
 このままだと埋もれてしまう。超常の力を使うしかあるまい。彼らに吹聴されて知れ渡るが。
 すると。
 強い力が脇の下から幼い頃の“抱っこ”の要領で加えられ、自分の身体を持ち上げてくれた。
 ズボッと音を立てて足が抜ける。
 同時に、いや逆にか、自分の腕を捕まえていた彼が、バランスを崩して泥濘の中に仰向けに倒れる。
「うわ!」

-私に力を。

 されどクラスメート。理絵子は髪の毛を結わいていたリボンを解いた。
 このリボンには、よく見ないと判らないが金色のキラキラが織り込んである。
 北欧から死神退散に馳せ参じてくれた神話中の女性戦士の髪の毛である。
 理絵子はむち打つ動きでリボンを彼へと投げた。
 リボンは彼女の手先の一部を成すがが如く作用し、撓って宙を舞い、倒れた彼の手首に鋼の強度で巻き付いた。
 引っ張れば良い。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -06-

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 男達は戦意喪失と言って良かった。彼女はゆっくり、瑠菜に向き直った。
「何なんだ……お前……」
 対して、瑠菜から出てきた台詞がそれ。目玉が小刻みに揺れ動いており、不気味に近い恐怖心を抱いていると判る。まぁ、得体が知れないだろうとは思う。
「それはこっちの台詞だ。道すがらいきなりカツアゲとかバカだろ。んで?しょんべん漏らしの代わりにお前がやんのか?ああ、獲物が無いと不公平だな」
 彼女は担いでいたバットを舗道に転がした。金属バットなりのカンという音。
「私らをどうにかしたいんだろう。だったらそれ持って掛かって来やがれ。相手してやる」
 と、足下に味方。
 さっきのネコ。毛を逆立ててフーと威嚇。
「タンパク質が不足して手足も細いお前にバット振り回せると思わんがな」
 バサバサと羽音を立ててカラスが数羽舞い降りてくる。近くの木に止まって瑠菜を凝視。交互にアーアーと鳴き声を響かせる。
 そして。
 ツツジの植え込みからのそのそ這い出してきたヒキガエル。

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 これが決定打になった。彼女はカエルが苦手であり、手のひらサイズのイボイボカエルは見ただけでノックアウトと判じた。
「あ……は……あ……」
 過呼吸状態に陥ってしまう。もう動くことが出来ないのは明白だった。
 しょんべん漏らし2になる前に、謝罪と二度と接近しないことの念書でも取ってやろうかと思ったけど面倒くさくなった。
 彼女は瑠菜にツカツカ歩み寄ると中指でその額を強く弾いた。“デコピン”という奴だ。ただし。
 食らった瑠菜は急にキョトンとなった。まるで夢から覚めたように。
「あれ?あたし……」
「これ見て気絶しちゃったんだよ」
 彼女はまるで今初めて出会ったかのようにヒキガエルを指さした。当のカエルは“めんどうくさい”とでも言いたげに長い舌で自らの目玉をペロペロ。
「ひっ……」
 またぞろ過呼吸を起こしそうなので。
「見てるからここから逃げなさい」
「あ、はい。すいません」
「そして二度とここへ来ない」
「来ません」
 瑠菜は数歩下がり、きびすを返し、サイズの合ってないヒールの靴でパタパタ走り出して去った。
「おい……」
 呼び止めようとして何も出来ない男達。

(つづく)

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【理絵子の夜話】禁足の地 -08-

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 言ってから自問する。あるのか、そんなことが。
「美しい湖なのに魚一匹いない。毒水だから、ってよくあるけど」
 登与の言葉に連想したのは、湖でないなら。
「瘴気」
「まさか……え?」
 瘴気。毒のある空気。疫病の元と考えられてきた。細菌やウィルスが発見される前の迷信。
 禁足地とした理由には充分だが。
「大涌谷みたいな火山ガスとか」
 登与が言った。そういう、“自然事象”で生命禁忌は、それこそ大涌谷だと草一つ生えぬ禿げ山が硫黄で黄色くなっている。
 ここは植物は豊富だが動物がいない。
 植物は可。動物は不可。あるのかそんな毒。
 金気水はその一種であるかも知れぬ。しかし水に入らぬ虫一匹感じないのは解せぬ。
 やはり気体の毒か。動物には危険な気体。
 スマホを取り出す。検索する。気体。致死量……。
「二酸化炭素!」
「あっ!」
 知見の扉を開く。ニオス湖の惨事。火山活動で濃密な二酸化炭素が噴出して山裾に沿って流れ下り、集落に滞留して大量の犠牲者を出した。マズク。アフリカで観測される窪地(あち)に二酸化炭素が高濃度に溜まった死の穴。
 ここは窪地だ。
 全てのパズルのピースが埋まった。
 その時。
「あれ?黒野じゃん。高千穂も。やっぱり……」
 鳥居の無い“非正規”のルートから入ったと見られる彼らが歩いてくる。禁足地……窪地を囲う境界線であろう列石に沿って歩けば当然ここへ出る。
 ニコニコしながら、ニヤニヤしながらか、彼らが自分たちに小型のビデオカメラを向けた更にその時。
 知見を映したスマホの画面に文字が躍り、大きな電子音。
 緊急地震速報。
「お?これは面白え……」
“良い動画のネタ”になると思ったか、嬉しそうな彼らに比して。
 何が起こるか理絵子は判じた。揺れ動く大地がポンプのように作用し、
 下から“瘴気”が吹きだしてくる。
 理絵子は唇をキッと結んで彼らを見た。
「バカ!来るな!走れ。全速力で逃げ出せここから!」
 声を限りに彼達に叫ぶ。が、その彼らはキョトン。
「は?」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -05-

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 ただ、野球の試合などを通じて、彼がここに通っていることが露見したのだろう。
 彼女は下卑た笑いを作ると、
「そんで悪さのあげくに小遣い無くなって、昔のアイツを揺すってカツアゲたろかってか?あ?るなちゃんよ。月って名前のくせにゲスだなお前。月に月のもの出ないように仕置きしてやるか?股から手ぇ突っ込んで子宮引きずり出すぞゲロ女」
 マフィアに囲われていた孤児とか付き合いがあるので、幾らでも不良言葉は出てくる。
 すると。
「黙って聞いてりゃ随分とイキってんなお前」
 血の気が上がってきたのは植え込みに倒れ込んでガサガサしていた男。ジタバタしたあげく、ようやく舗道に片手が付いたのであるが。
 彼女はアニメで習った蔑みの目線、ジト目という奴を上からくれてやると。
「私殴る?いいけどそこから1センチでも動くとお前の目の前とお前の身体の周りにワンサといるドクガの毛虫がお前を襲うよ」
「な……」
 何か言い返そうとして、視界眼前をうごめく多数の毛虫に気付いたらしい。男はツツジを“かき混ぜた”状態になり、折から繁殖していたドクガの幼虫達が集まってしまった。
 すると。
「このクソ!」
 釣り糸を引いていたもう反対側の男である。勢いよく立ち上がろうとし、そのまま足をもつれさせて倒れ込む。
 足首に絡まる釣り糸。
「いてぇクソ……」
 力任せに足を引っ張るが釣り糸が皮膚に食い込んでギャーと言う羽目になる。
「クソクソうるせぇんだよ。そんなに出したきゃそこのスーパーでトイレ借りてして来い。行ければだけどな」
 そこでゲホゲホ咳き込みながらようやく立ち上がれそうなのがスプレー男。
 彼女は振り向くなり指さしてゲラゲラ笑ってやった。嘲笑という奴だ。
「鼻水鼻くそ涙ボロボロ。ついでに言うと小便漏れてるぜ。イキって結局馬鹿なガキそのものじゃねぇか。そんなんで私に殴りかかろうなんざ100年早い。おととい来やがれ」
 さんざん言って、バットを振り上げる。
「うわ……」
 とはいえ、そこまでで良かった。男は本当に殴られると思ったらしく、小便を漏らしてしまった。ズボンに広がる黒い染み。
 そこで。
「おら!どうしたオシッコ漏らし!」
 一拍置いて。

「掛かって来いや!」

 彼女はその場の誰もが度肝を抜かれて目を剥く大音声を張り上げた。オペラ歌手と同じ発声法で骨を共鳴させ、体内空間全てを使って増幅放出させる術を有する。

(つづく)

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【理絵子の夜話】禁足の地 -07-

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 それは一見、鉄さびで赤くなった石がゴロゴロしているようだが。
 それらの石は、頂部が平坦で、一定間隔を置いて並んでいる。
 飛び石として人為的に配置された。
「行きましょう」
「うん」
 飛び石を丁寧にたどって行く。これ以上靴が濡れるのはイヤだという部分もあるが、石が意図して配置されたならば、意図通りたどるべきだと思うからだ。
 ちなみに飛び石の両脇、草本が踏み固められた部分はそのまま真北へ小道を形成している。ひょっとすると彼らが強引にラッセルし、応じて飛び石の存在が明らかになったようにも思われる。
 金気水と飛び石は緩く左右に曲がりながらざっくり北北東へ向かう。振り返ると草に埋もれて帰路が見えぬ。
「あいつら夜中にどうやって行ってたんだろ」
「ドローンで動画に撮った奴がネットにあって、緯度経度の座標が出てるんだって。そういうGPSアプリもあるから」
「禁足地が秘匿されてた意味がないね」
 歩くこと7分。ただ、飛び石を選んでいるの時間を要しただけであり、距離はさほどでもない。
 理絵子は足を止めた。
 墓石……のように見えたがそうではない。苔むした石柱。
 花崗岩。風化し、応じたさび色の付着物。パッと見1000年クラス。
 彼らが撮影してきた“ストーンヘンジ”の一部であることはすぐに判った。ただ、誰か触った痕跡はなく、ここの“王道侵入ルート”ではないことを示唆する。
「見て」
 登与が指さし理絵子は顔を上げる。
 草の中に土管が並んでいる……否否。
 石柱が倒れているのだと理絵子は判断した。少し離れて右側にも同じように石柱を構成したであろう円柱状の石が幾つか見える。
 過去、鳥居が立っており、地震などで倒壊したのだとすれば説明が付く。
 従って、向かって行くべきは。
 倒れた柱の並びと並行し、北の方向。
 緩やかな下り勾配。および、
 気づく。極めて静かである。
 風が吹いているので応じて草本が揺れ動き相互に触れあい、サラサラと音を立ててはいる。
 しかし、5月の草むらにしてはそう、生命感が薄い。それは屋上から遠隔視した時のイメージと合致する。
 動物がいないのだ。昆虫も含めて。
「結界?」
「違う。感じないでしょ。そういうのでなく、生き物が入れない」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -04-

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 男3、女1。彼女はバット片手に女の方を向き、対し平沢は同じくバット片手に男らの方を向く。この時点でスプレー男はよろよろしながら咳き込んで鼻水ダラダラ。植え込みに倒れ込んだ男の片方は植え込みの上に身体が完全に乗ってしまい、足は地面についておらず、手を突いて立とうにも枝の間を突き抜けるばかりで、さながらデタラメなクロールを空中で泳いでいるよう。反対側の植え込み男は釣り糸が自らとツツジの枝に絡んでしまい身動き取れず。結果両方から「くそっくそっ」。
「説明があってもいいんじゃないですかね」
 彼女は携帯端末で撮影し続ける女の方を見て言った。
「(意図したこと形を成さず)」
 ボソボソッと彼女が呟いたそれは日本語に直すとそんな意味になる。
 平沢が気付いたようで一瞬彼女に目を向けたが、彼女は、彼が気付いたことには、気付かないふりをした。
 程なく、女の携帯端末からブーという雑音が生じ、煙を噴き出した。
「うわっ!」
 女が放り投げると、ぼん、と小爆発を起こして液晶画面がはじけ飛び、赤い炎に包まれる。電池の主材料リチウムの燃焼。
 肉付きの悪い、顔色の悪い、目つきの悪い、けばけばしい服装の女が燃える端末を見つめる。姉御ぶった感じだが、ずばり同年代である。
「お前ジャンクフードしか食ってないだろ。生理が止まって死ぬぞ」
 彼女は挑発してみる。
「るせえ……ちっ」
 女は我々に食ってかかりたいのだが、こちらにはバットがある。しかも携帯端末は燃え溶けドロドロ。そこを乗り越えて暴力に出る気力は無い。ハッタリ人間の裏返し。
「坂本瑠菜(さかもとるな)……ちゃん14歳。おやおや川向こうの隣の市からわざわざお越しですかい」
 これに女は目を剥いた。今、彼女の右手には生徒手帳が4冊、トランプのカードのように広げられている。
「話してくれないならこっちからどんどん喋るよ」
「いや、やめてくれ」
 ぼそっと、呟くように制したのは平沢進であった。
 彼の手がギュッと強く拳を握り、大きな体躯全体に萎縮が働いて縮こまろうとしている。
 彼にとって、とても辛いことなのだと彼女は知った。ただ同時に。
「こいつ、小学校の時、俺の隣の席で、脇毛野郎とか体臭食堂とか、さんざん言ってくれてさ。調子に乗って一緒にちょっかい掛けてくるようになったのが、この3人なんだよ。俺、野球で有名な私立中へ進学の話があったのに、こいつらの挑発に負けて殴っちまった」
「人の進学を潰した不良バカか」
 それで彼は人目を避けるように隣の市からこの住宅街にある中古住宅に引っ越し、同じ中学に行かないようにしたのだ、と彼は話した。

(つづく)

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【理絵子の夜話】禁足の地 -06-

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“鳥居の配置”に関するセオリーに従っていないあたり尋常ではないことを示すが。
「人目もあるからこっちでしょ」
 川沿い遊歩道をしばらく行くと陵墓の柵は円形の敷地に応じてカーブを描いて北へ分かれ、代わりに未開発の風情漂わせる草ボウボウ。茅を中心とした湿地に生える背の高い草本がびっしり。
 足下に腐ったカンバンの残骸。トタン板に残ったわずかなペンキは“マムシに注意”。
「あいつら良く嚙まれなかったね」
 登与がつぶやく。理絵子は草ボウボウを見渡した。
 動物、昆虫がいない。
 跳ねるバッタもさえずるヒバリもいない。
 じゃぁ霊的な気配充満かというとそうでもない。
「強固な結界?」
「違うと思う。もう少し行ってみましょう」
 歩を進めると遊歩道の幅は次第に狭まり、応じて両側には草本がそそり立つ壁のように迫る。足下地面は次第に湿り気を帯び、雨上がりの山道のように泥濘んで靴が汚れる。ここを遊歩道として利用する人はそれなりにあるのだろうが、こんな泥濘みに出くわしたら引き返すであろう。だから進むほど狭くなるのだ。
 そして。
 泥濘は靴を下ろすと水がしみ出すほどになり、ついに遊歩道を横切る小さな流れにぶつかる。黒い通学靴が泥まみれ。
 流れは視界右方、北から来ており、左方、南へ向かって流れて行く。その北から向かって来る流れの左右に、柵が立ち並んでいる。といっても、木の板が“適当”と言わんばかりに間隔も不均等で斜めになっているものもあるが。
 ただその、柵の間の泥や草本は新しく踏み固められた跡。
「ここから奥へ」
「だね」
「何これ油膜?何か上流に汚いもの捨ててる?」
 登与が指さす。流れの中に虹色にギラギラ光るものが混じっている。
「鉄バクテリアでしょ。湧き水に鉄分豊富だと繁殖するんだって。昔の人は金気水(かなけみず)って呼んで鉄鉱脈の目安にしてた」
「へぇ!」
 驚く登与の表情には見開かれた瞳もあって、幼さが垣間見える。さておき、このバクテリアたちは様々な情報を与えてくれる。鉄分を豊富に含んだ地下水が沸いていること。大和王権の時代、丈夫な農具・武具を得られる鉄は最高の産物だった。応じて鉄鉱脈を神聖化した可能性はある。そして鉄分の故に動物は生息しづらい。
 鉄の看板が腐るのも道理。本来なら強固に柵をしたいが木の柵にせざるを得ず、それは簡単に蹴破られ、泥濘の中に道があることを目立たせてしまった。結果、泥濘に負けずここまで歩いて来さえすれば、後は流れに沿って進むだけで“核心”にたどり着ける。
「見て」
 理絵子は気づいて足下を指し示した。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -03-

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“敵意”は基本向けられた瞬間にそれと気づく。それを遮断するほど“彼の気持ち”が強いということか。
 まぁどうでもいい。なるほど通学路には不向きかも知れぬ。
 ただ、自分は今、“女子一人”ではない。それこそ、そんな事態に対応したいと、立候補してくれたのが他ならぬ平沢であるが。
「お前の彼女か?ヒラ公」
 敵意むき出しの女の声が後ろから掛かるが、それは罠。
 振り返る……フリをして腰をかがめ、同じく振り返ろうとする平沢の袖を引っ張って制する。ちなみに、彼女のその動作は、飛び道具、有り体に言えば銃弾が飛んでくる場所にいるからこそ身についた動作。
 行く手、左側のツツジの植え込みから躍り出てくる男1名。
 何か持っている……催涙スプレー。
 肩掛けしていた通学カバンを彼女は投げつけるべく外しに掛かる。
 この間に平沢は彼女の手指と物音によって目線を後ろに向けることなく、出てきた男に気付いた。
 その瞬間の一瞬の震えを彼女は見逃さない。彼の恐怖と逃避。
 否。
 アドレナリンの分泌、恐怖を超える勇猛、彼女より素早い肩掛けカバンを外すアクション。
 平沢がカバンを投げる。男がスプレーの噴霧ボタンを押す。
 噴霧されたスプレーはカバンに跳ね返され、噴霧した本人に噴き掛かった。
 更にカバンがスプレー男に命中する。
 プシュッ、ドカッ、および「がっ!」という声にならない叫び。これで数秒。
 スプレー男はもんどりを打つ。固く鈍い音が聞こえ、頭部を舗道に打ち付けたことが知れる。
 平沢進は“仕事”をした自らのカバンを取り返す。
 そして、カバンの端からはみ出しているバットに手を伸ばし、グリップをつかんで引き抜く。
 それを見たスプレー男の表情が驚愕を形成し、もうろうとしているであろうかぶりを振って舗道に手を突き、起き上がろうとする。
「そんなことしちゃっていいのかな?ススムクン?」
 背後の女。バットで殴ると警察沙汰にするぞという意味であろう。
 そこで、彼女がもう一本のバットを手にした。
「私がやりゃいいか?」
 肩に担いで振り返ると女はスマートホンのカメラをこちらに向けている。暴力事件に仕立てようという腹づもりらしい。
 示唆。罠が実行される。足下。
 釣り糸を引っ張って自分たちを転ばせようという策と知る。それら一連の動きは自分たちの行動パターンを把握しており、待ち伏せしてどうにかしようとする強い意志を感じる。
 釣り糸を上からバットの先でガンと押さえつける。植え込みから釣り糸を引っ張っていた男達が想定外の荷重に逆にバランスを崩して植え込みに倒れ込む。

(つづく)

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【理絵子の夜話】禁足の地 -05-

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 二人は屋上を歩き、最も西寄りの柵から眺める。
 眺める。多摩丘陵から関東山地への境目であり、なだらかが急峻に変わる。高層化が進む都心方向と異なり、家並みに一部畑地が混じる。
 そんな家並みと畑地の一角、一見すると未造成の森。
「結界があるんじゃ?」
「だとしても見せてくれないことはないはず」
 人の目にズームアップの機能はない。ただ、一点を集中して見ていると応じて視界中央の解像度が上がり細かく見えるようになり、反対にそれ以外は視界から外れる。
 のみならず。
 彼女の場合遠隔視能力、千里眼が働く。それは距離に関わりなく合焦し、立体構造を与える。その筋の用語でテレ・ビジョンと呼ぶが、言わずもがなテレビの語源である。
「祠……石畳……というか板状の石を一定間隔で並べて全体的に円を描く。円の中はすり鉢状に落ち窪んでいて、真ん中には沼があるみたい。でも、植物の密度が凄くてそれ以上見えない」
 気づく。5月であり緑萌えるただ中であるというのに“生き物”の気配がそこにはない。
 なお、以上見取った光景と印象はそのままテレパスで登与に転送。
「あなたが気づいたことは?」
「静か……動かない。とにかく動かない」
「だよね」
「あと、夜は危険」
 それも示唆だと理絵子は判断した。
“行くなら陽のある内に行った方が良い”
「昼から幽霊は出ないでしょ」
「というか、霊的なものではないような」
 またも示唆だ。そして“示唆を与えてくれる”存在自体は霊的なものであろう。この示唆の連続は、要するに自分たちが対応すべき事象であるという確信以外の何物でも無い。
 放課後。
 二人は待ち合わせて通学路を外れる。普段一緒に帰る友達はいるが、「相談される」事態はままある立ち位置なので、今日はダメの言い訳には困らない。
 北へ延びる広い道を横断し、川沿い道を少し歩くと、陵墓の入り口。一般向け公開は16時までなので門扉は既に閉まっており、詰め所脇に警官の姿。
 見られるが笑顔で返す。笑顔で返されておしまい。
 川沿い道で舗装されているのはここまで。クルマ進入防止のポールが2本あり、その向こうに細い道が続く。陵墓は堤防ぎりぎりまで敷地にしているが、堤防の上はそのまま遊歩道になっている。陵墓との仕切りは背の高い鉄柵とその上に有刺鉄線。監視カメラも見える。
「あいつらどこから。この柵ってぐるっと囲ってるでしょ。まさか真っ当に鳥居の所突破したとか」
 禁足の地を示した看板と神域であることを示す鳥居は、これより陵墓を挟んだ北側にある。すなわちこちら川沿いは「正当な入り口」とは逆に当たる。

(つづく)

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1回、飛ばします

私事でじたばたしており、1回、更新を繰り延べます。

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【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -02-

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 彼女は我に返ったように真顔を見せる。そんな所へ押しかけて埃舞い上げるつもりはない。
「まぁまずは自分で考えるから」
「そ、そうだよ頼ってちゃ勉強にならない」
 二人で意見一致と書きたいが、後者平沢の発言には底意がある。彼女はそれを捉えているが、仕方の無いことと理解できている。
「そう?じゃ……いつもありがとう」
 信号の変わるタイミング、諏訪君が頭を下げる。送迎の意図は“途中で何かあった時に即応”するため。
 応じたスキルは彼女が保有。
「いやいやこちらこそ。じゃぁね」
 手を振って分かれる。その一連の仕草を見下ろす平沢。
 要は彼女に好意を持っている。底意というのはこの後二人きりの時間が自動的に訪れること。ただ、悲しいかな彼女には既にフィアンセと呼べる存在がいる。
「行きたかった?」
 彼女は平沢の目を見上げて尋ねた。自信と安定感がもたらす強い瞳。原宿で怪しげなスカウトをあしらうのも最近は慣れた。
「いや、だって呼吸機械とかあるんだろ?汚れた(けがれた)奴が行ったらいけねーよ」
 彼は慌てた風に目を逸らして応じると、逸らしがてらに英語のワークブックを取り出した。復路は彼女が彼に英語の補講。
 再び“通学路でない”小山の脇、遊歩道へ入って行く。彼らがここを通るのは、喘息持ちの諏訪君は少しでも車道を避けた方がいいだろうとの考えによる。遊歩道の反対側は住宅が並ぶが、いずれも遊歩道に対して高い塀を巡らせており、遊歩道に人目はないのだ。それが“暗くなると危険”の側面を与える。
 行く手にネコ一匹。
 いつもいる茶トラで耳の一部がカットされている。いわゆる“地域ネコ”という奴だ。
 にゃぁ、とひと鳴きして。
 いつもならすり寄ってきて首の後ろを擦り付けてくるのだが、今日はその場でピタリと止まった。
 いつもと違う。
「待って」
「え」
 彼女は平沢の身体の前に腕を伸ばし、進行を制した。
 自分を囲繞していた平沢の好意と目線……“ラブラブ光線”が、自分の緊張した声によって解除され、同時に自分たちに向けられた四方からの敵意を受け取る。
 待ち伏せである。多分に攻撃的な。

(つづく)

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