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手のひら端末でも読めそうな「夢見るようなファンタジーで、命を守る」お話を、ぼちぼちリストして行きます。

魔法少女レムリアシリーズ「魔法の恋は恋じゃない」(9/21・隔週水曜日更新)
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 お話カタログ

●連載タイプ(掟破りの携帯で長編)
魔法少女レムリアのお話(現在15編)
超感覚学級委員理絵子の夜話(現在13編)

●長編
「天使のアルバイト」
天使が、人に近い属性を備える理由、そして、だからこその過ち。その結果。
(目次

●短編集
大人向けの童話(現在10編)
恋の小話(現在13編)
妖精エウリーの小さなお話(現在22編)
(分類不能)「蟷螂の斧」

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色んな切り口色んな長さ。他の「ココログ小説」の方々の物語。「へぇ、こういうのもアリだな」そんな発見をどうぞ!

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【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -02-

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 坂本美咲はぱっと目を見開き、
「じゃぁ彼とは付き合ってないんだ。でも、よく一緒に帰ってるけど?」
 小首を傾げるが目線はきつい。
「何も。あれは諏訪(すわ)君のボディガードだよ。それに、普通にお友達でいる分には何も構わないじゃん」
 諏訪君というのは喘息があって、行き帰り彼女が同行している男子生徒である。そこに平沢も同行している。
「好きなんだ」
 逆に彼女は訊いた。
「え?あ、うん、その、気になってるというか……」
 坂本美咲は急にしおらしい口調に転じ、うつむいて目を伏せた。
 その諏訪君が福島と地縁があるため、原発事故と絡んで言いがかりを付けてきた女子生徒があるのだが、その言動にストップをかけたのが当の平沢である。従前、ひょうきん者でギャグ担当というポジションだった彼の、豹変ともいえる雄々しい態度に「ハッとなった」という。
 以上坂本美咲は背景を語ると、
「姫ちゃんにお願いがあって。その、何でもいいんだけど、彼が触ったものが欲しいんだ。紙、鉛筆、消しゴム……」
「もらって来てもらえないか、ってこと?」
「そう」
「何かおまじない?」
 坂本美咲は目を見開いた。
「何で判るの?」
「ご承知の通り慈善活動で手品をするので……」
 彼女は言いながら、左右の手を交互に開いたり閉じたりした。
 その都度、手のひらから紙に包まれたキャンディがコロコロ。なお、このマジックショーで彼女は“魔女のレムリア”と称している。以下、彼女をレムリアと書く。
「え?え?あ、あ。すごい」
「おひとつどうぞ」
 キャンディを持たせる。
「演出上、魔術の仁義みたいなもの語ったりするわけですよ。恋の魔法で相手の持ち物に秘薬を垂らして、とかよくあるパターン。それでもしかして、と思ったわけ」
 坂本美咲はキャンディをしげしげ眺め、包みを開いて口に含んだ。
 おもむろに視線を彼女レムリアに戻す。
「じゃあ、本気だ、と言っても笑わないで聞いてくれるかな?」
 まっすぐ見つめてくる。レムリアは坂本美咲がいつもひとりでいる理由を理解した。“素っ頓狂”なのだ。オカルト志向で応じて非・論理的であり、突飛な言動に行き着く。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -01-

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「姫ちゃん平沢(ひらさわ)と付き合っててエッチもしたってほんと?」
 姫ちゃん、と呼ばれた彼女はさすがに面食らって少しの間瞬きを忘れた。最近髪を伸ばし始めたので、身体の揺らぎが髪の毛先端に増幅されて出てくる。
 目の前の級友を見返す。じっと見てくる眼鏡の双眸、その頬にはそばかすが見られ、男子たちの評を聞くに地味で目立たないという。確かに、いつも静かに文庫本を開いて見てるイメージが強い。しかし、そのまくしたてるような話し口は饒舌系と思わせる。
「ちょっと待って。落ち着いて。大きく息を吸って」
 彼女は押しとどめるように手のひらを向け、坂本美咲(さかもとみさき)というその娘に深呼吸を促した。花の時期すぎた春の終わり、夕方間近い公園内。四阿(あずまや)で丸いテーブル挟んで向かい合う青いブレザーの制服を着た娘が二人。「相談したいことがあって」と呼ばれたものだ。彼女は普段、休み時間のたびに仲間に周りを囲まれる方なので、坂本美咲とは下駄箱で出会えば挨拶はする、程度。
「えーっとですね」
「はい」
 二の句を継ぐ前に相づち。今にもそのままテーブル越しに乗り出して来そう。
「まず、私にはフィアンセがいます。22歳の社会人です」
「えっ?」
 坂本美咲は文字通り目をぱちくり。
 この話はあっという間にクラスに拡散したので言わずもがなと思ったのだが。
「平沢君には告白を受けました。でも、そういう事情を話して無効である旨説明しました。エッチうんぬんはそのフィアンセとシたのかと他の子に訊かれたので、結婚するまでしませんと答えただけです。いろいろ端折って誤解しすぎです」
「なぁんだ……」
 坂本美咲は安堵の表情を見せた。乗り出すまでではないが若干腰を浮かせていたようで肩の高さが変わる。ちなみに彼女は東京・原宿を歩くと良くナンパされたり芸能スカウトと称す者に声を掛けられたりするが、「夫がいるので」と返すと、多くの場合想定外の反応であるので押し黙って二の句が来ない。
 どう見ても中学生に見えるだろうにさもありなん。なお、長い髪は彼氏持ちの象徴みたいな部分があると聞いたので、そういう返しを使うのに無言のエビデンスになろうか思った次第。もうすぐ校則に引っかかるという指摘もある。

(つづく)

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9月になったから、というわけではないけど

魔法少女レムリアシリーズ「魔法の恋は恋じゃない」9/7(水)始めます。

2週間ごとに更新。

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【妖精エウリーの小さなお話】フォビア-4・終-

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〈あ、だめ、それに私殺す気はないから〉
 あらかじめ言ってから、中をのぞき込みます。
 排水パイプにこびりついたおびただしい量の油と、そこここでそれを食らうゴキブリ。
 パイプ内にびっしり居着いたゴキブリ。
 薄暗く、時々お湯が流れて温かく、廃油という食料。
 要するに繁華街の下水と同じ環境。
「今度は何ですか」
 それは駆けつけた近所の人。更に数人加わり、玄関からその人々が見たのは、キッチンに立つ薄汚れた女と、這い回るゴキブリたち。
「あんた誰だ?」
 とりあえず無視して。
「お母様、調理に使った油はここに流してますか?ここを掃除したことがありますか?」
 すると。
「ママそこ使わないよ。お仕事忙しいからお弁当買ってくるの」
 ゆうくん。
「ちょっとゆうくん!」
「パパが帰ってきてジャーってやってる」
 母なる人は私をにらみつけました。
「さっきからあんた何なの!」
「お宅のゴキブリは殺虫剤の使いすぎで効かなくなっており、この排水パイプに暮らしています。ここを掃除しないと解決しませんが、掃除したことは?」
「そんな不潔な場所触れるわけ無いでしょ!」
「では、専門業者に頼むことをお勧めします」
 すると母親は何かに気付いたように目を見開き、血相を変えました。。
「わかった。あんたそういう業者の手先だろ!ウチが虫が苦手なのを知ってゴキブリをわざと……」
 めんどくせえ女。
「ゆうくん」
「なあに?」
 ゆうくんは畳の上を歩いてきました。
「パパに、ここへ火傷するような超熱いお湯をじゃんじゃん流してって伝えてください。油を溶かして流さないと、このゴキブリはずっとここにいます」
「わかった」
〈てなわけでお前達、出ておいで。今夜中に殺されるからここは終わりだよ〉
〈へーい〉
 三度金切り声の時間です。まぁ出てくるわ出てくるわ。キッチン台の下、冷蔵庫の後ろ、電子レンジの後ろ。
 ハーメルンはネズミでしたか、私はゴキブリ。
 ぞろぞろ引き連れて玄関から出て行きます。駆けつけた近所の人は距離を取って唖然呆然。
 階段で全員が翅を広げると阿鼻叫喚。
「リクラ・ラクラ・テレポータ」

フォビア/終

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【妖精エウリーの小さなお話】フォビア-3-

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「何を……」
「いいからおうちへ!目の中に鉄さびを含んだ粉塵が入った!」
 私の装束は白いので雨の屋外で転がれば真っ黒。
「汚らわしい!うちのゆうくんに何を!」
 めんどくせえ女。
 私はそのまま背中の翅にものを言わせて空中へ飛び上がりました。羽ばたきは一瞬なので見えてはいないでしょう。
 ゆう君宅の窓の手すりの上に立ちます。念力は強力ではありませんが、鍵を開けるくらいなら。
 開いて、入ると。
「これは……」
 私は翅にものを言わせて、残っていた煙殺虫剤を全部外へ吸い出しました。
 バン!と玄関ドアの開く音。
 部屋のそこここにゴキブリがいると書いたら、何が起こっているかご理解いただけますか。
「何をするの!?まだ終わってないじゃない!ゴキブリいるじゃない!」
 ヒステリー状態。
「ゆうくん、このゴキブリたちはいつもいるの?」
 私は努めて落ち着いた声で訊きました。
「うん。煙やるといなくなるけど、すぐ来るよ」
 私はゆうくんを窓枠に座らせて、部屋の中へ入りました。
 常備薬であろう目薬をチョット失敬。手のひらにぱっと現れたので男の子はびっくり。
「そんな汚い格好……」
「やかましい!」
 私は我慢できずに一喝しました。まず目薬をさして、次にしゃがみ込んで一匹呼び寄せます。
〈え?これ殺すつもりでやってたの?〉
 カサカサとフローリングをやってきたゴキブリはケロリとしています。すなわち効いていない。
 彼らは“耐性”を持っているのです。逆に言うと他の“殺虫剤が普通に効くゴキブリの天敵”はここには来ないので、よい繁殖場。
〈何食べて?〉
〈食いかす、生ゴミ、人の毛、あと何と言っても〉
 ゴキブリは翅広げて飛びました。応じて金切り声が上がって、間もなく近所の人が来ることになるのですが、話を進めます。
 ゴキブリは台所シンクに降り立ち、排水口を触角で示しました。
 脱臭剤が撒いてありますが、それを超えて臭いが鼻を突きます。
 排水口の蓋を開き、中の構造物を……。
 ゴボッ、と嫌な音がしました。

(次回・最終回)

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【妖精エウリーの小さなお話】フォビア-2-

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「ママ寒いよ」
 幼い男の子の声。
「しょうがないでしょ。虫なんか気持ち悪いし、どんなバイ菌持ってるか判らないんだよ。ゆう君のアレルギーがもっと悪くなったらどうするの」
 テレパシー能力あるわけですが、意図せず使わずとも、状況は理解できます。お子さんのために虫が出たら即座に煙殺虫。
「はくしょっ!」
 男の子がくしゃみをしました。私は反射的に飛び出していこうと身体を動かしました。
 その瞬間。
「虫!」
 若い母親の視界に私の装束がひらり動く姿が映ったようです。まるで早撃ちガンマンのように殺虫スプレーが手の中に現れます。
「リクラ・ラクラ・テレポータ!」
 呪文。
「えっ?」
 私の声と共に、パチンという風船の割れるような音が聞こえたはずです。
 テレポーテーションの呪文。私たちがその場から消えると“真空”が発生するので、周りの空気が一気に流れ込み、音が出るのです。
 私たちは屋根の上に移動しました。シューシューと大量の薬剤が撒かれます。屋根の上にも回ってくるのは時間の問題。
 私は身体のサイズを人間さん並に変え、手のひらにアシダカグモを載せ、背中の翅で舞い上がりました。
「げほげほ……ママ苦しいよ」
「ゆうくん!どうしたのゆうくん!!」
 殺虫剤は要するに“毒”です。人体には“大量に浴びなければ”影響が無いだけ。
〈これだけ離れれば充分です。下ろしていただければ〉
 と、クモ。それは中空で自分を放り出してかまわないの意。自転車置き場はアパート敷地の端っこにあって、そこはツツジの植え込みが続いています。そこへ適当に飛び降りる。
〈ありがとう〉
 私は彼女を送り出しました。8本の足を目一杯広げ、まるでモモンガのように宙を滑って行きます。糸が尾部から銀色に伸びて行きます。
 糸から伝わる“移動”の感覚が消えたのを確認すると、私は自転車置き場に降り立ちました。
 もやのように立ちこめる殺虫剤……いえ、これはエアロゾルで巻き上げられたこの場の塵埃も含まれる。……錆びて剥がれた金属粉を大量に含んだ。
 男の子が目を手でこすろうとする。
「だめっ!」
 私は母子が驚いて飛び上がるほどの声で制止し、男の子に飛びつき、抱きついて転がりながら、その場から外へ出ました。

(つづく)

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【妖精エウリーの小さなお話】フォビア-1-

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 這々の体、といった姿で大きなクモがアパート外壁を歩いて降りてきます。

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 アシダカグモ。歩脚広げると人の手のひらサイズで、その図体でゴキブリ追って超高速で走り回り、クモ嫌いな人には悪夢のような存在。雨天とは言え、夜行性の彼らが昼日中の屋外を移動中とはよっぽどのこと。
〈ああ、妖精さんでしたか〉
 宙に浮いて様子を見ていた私に気付き、しかしそのまま止まることなく下へと歩き続けます。なお、“彼女”との会話はもちろん人語ではありません。意思を直接交わす能力・テレパシー。
〈気にしないで早く離れて〉
 私は促しました。様子を見に来た理由。虫達多数の“心の悲鳴”を感じたから。
 そういう能力があって、宙に浮いていられる理由。彼女が言ったように、私が妖精だから。
 現在人間さんの手のひらサイズ。伸縮自在で人間サイズにもなれます。小さいのはケルトの伝承に知られるフェアリーですが、私はギリシャ神話のニンフの血統も入っています。結果としてどっちの姿も取れるのです。
 アパート上方、窓の隙間から煙のようなものが漏れ出しています。火事ではありませんが、“心の悲鳴”の原因はこれです。
 煙殺虫剤。人間世界における私の“任務”は、人間さん以外の動物の相談相手ですから、こういう場合駆けつけます。
 ハエ蚊ゴキブリを救うのか……気付いたときには間に合わない場合が殆どです。この場所もアシダカグモは大きさ故に耐え、室外だったから逃げられただけです。
〈妖精さん、私はもう大丈夫ですから〉
 アシダカグモに呼ばれて地上に降ります。雨に濡れた自転車置き場。屋根はありますが穴だらけ。古くて、手入れもずさん。その穴から雨だれがボタボタたれ落ち、下のコンクリートで跳ねて自転車も濡れています。
 わずかな濡れてない場所に私も降り立ちました。
〈通りすがりにひどい目に遭いました〉
 アシダカグモの主食はゴキブリ。つまりゴキブリが多い。
 ゴキブリが多いところはゴミが多いか不潔な場所です。
 そんな場所?
〈いいえ。中に入ろうとしたところでブシャッと。なので中は見ていないんですよ……おっと人間が来ますよ〉
 アシダカグモは持ち前の脚力で屋根の柱へ駆け上がり、忍者のように柱の裏へと回って陰になる隅っこでピタリと停止。
 私も小さいので柱の陰に隠れます。妖精は人間に見られてはいけません。理由は人間さんが“いない”と定義したから。人間さんの世界に介入を許されない私たちは姿を見せてはいけない。
 だから、人間さんに見られるといなくなるのです。それはさておき。

(つづく)

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【妖精エウリーの小さなお話】翻弄-4・終-

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 しかし。
 葉っぱから葉っぱへ渡る途中だった幼虫が一匹、葉っぱが揺れたせいで落ちてしまいました。
 すかさずカナヘビがやって来、幼虫に噛みつき、そして飲み込んで行きました。
 彼……が、私が見ていたことに気付きます。
 そして。
〈最近増えてるこいつらは何だい?美味しいけどさ〉
〈ツマグロヒョウモン。南の方に住んでいたチョウ。温暖化でだんだん生息域を広げているけど、地域順応が終わっていない〉
〈ふーん。おっと〉
 カナヘビは次の幼虫を見つけて走って行きました。
 ツマグロヒョウモンのタマゴが多い理由……エサ不足や、このような捕食で、生きられない個体が多いから。
 ただ、本来は、暖かい地域で、いつでも、世代を継ぐことができた種類。
 寒くて動けなくなってそのまま、という命の失われ方は今まで無かった。
 その時。
「キャー!何これ!」
 先ほどの女の子のお母さん。恐怖と共に“見えたもの”がテレパシーに飛び込んできます。
 パンジーに群がり葉っぱを今まさに食べ尽くさんとする多数の黒いイモムシ。
 ツマグロヒョウモンです。食草のスミレ草は言わずもがな、同じ仲間であるパンジーやビオラも含まれます。そこへ大量にタマゴを産むわけですから、何もせず放っておけば。
 私は背中の翅を伸ばして飛び上がり、声のした方……まだ建って程なくとみられる白壁の住宅へ。
 2階ベランダにプランターが並べてあり、パンジーが色とりどりに咲いていますが、その花の周りそこそこに黒い虫たちがモソモソ。
「ママそれツマグロヒョウモンだよ。わぁいっぱい!」
「名前なんてどうでもいいの!全部食いやがってチキショー」
 シュー、シュー、エアロゾルの噴霧音、女の子の悲鳴。
 失われた十指二十指に余る命。
 ぼろぼろに食べ尽くされたベランダいっぱいのパンジー。

翻弄/終

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【妖精エウリーの小さなお話】翻弄-3-

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 しかも。
〈これだけの子たちが食べて行けるスミレこの辺には生えてないけど〉
 様々な齢(れい・何回脱皮したか)、大きさの幼虫がそこここにいて、それぞれスミレを求めて歩いています。最初に出会った“彼”はこの中では大きい方。
〈食える奴が食う、それだけさ〉
 ここで、ツマグロヒョウモンは、昆虫観察でよく使われる他のチョウとは、少し違うことを説明させてください。すなわち、日本本土に生息するモンシロチョウやアゲハなど図鑑や教科書で紹介されるそれら種族は、冬場に向かってたくさん食べて、サナギの状態で冬を越します。卵として産み付けられる時期に多少の前後はありますが、“サナギになって冬を越す”点では揃っています。栄養・成長に不足があり、サナギになれなかった者は生きられません。
 対して、ツマグロヒョウモンはほぼ“成り行き任せ”です。早く成長すれば早くチョウになり、産卵して次世代が生まれます。成長が遅ければチョウになるのも遅くなります。この結果、ある瞬間にタマゴと、各齢の幼虫と、サナギと、成虫と、混在します。暖かくなれば動くし、寒くなれば動かない(動けない))。なので、冬に向かう状況でも日当たりが良くてスミレ草が豊富であれば、12月なのに羽化してチョウになったりします。ちなみに、アゲハモンシロは揃っていると言いましたが、沖縄などに暮らす者はやはり“成り行き任せ”の生態が見られます。四季を通じて食草があるからです。
 逆に言うと、ツマグロヒョウモンは四季に順応してない種類だと言えるでしょう。それもそのはず、彼らは元々南方系の“成り行き任せ”な種類です。温暖化で日本国内の生息域が徐々に北上している状態。
 と、頭上をひらり横切る影。
 メスです。たくさんの黒点をちりばめたオレンジ色……“豹紋”の翅。メスの特徴は外周部の黒い縁取り。その中の白いストライプ。

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〈おや妖精さんとは珍しい。降りてもいいですか〉
 そこだけ雑草の密度の低い一角に彼女は降り立ちました。
 お腹の先端を土の上や草の根元にツンツン当てながら歩いて移動して行きます。
 産卵です。
〈大変ね〉
 私は言いました。ツマグロヒョウモンは1匹が200を超すタマゴを産みます。その理由は。
〈少しでも多く、ですから〉
 物音がします。
 エサを探しているトカゲの仲間、カナヘビ。冬に向かって食べないといけません。地を這う
〈さよなら〉
 チョウは危険を察したか飛び立ちました。
 一方、幼虫たちは一斉にその場でピタリと動きを止めます。トカゲ類は動くものに飛びかかるからです。

次回・最終回

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【妖精エウリーの小さなお話】翻弄-2-

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〈探すだけの話です〉
 答えるそばから幼虫は食事を再開し、葉っぱと、花と、茎まで食べてしまいました。
「全部食べちゃった」
 女の子が言いました。
「ちょうちょさんの幼虫さん、どうするの?」
 果たして幼虫は動きます。冷たいであろうアスファルトを黙々と這い始めます。とはいえ、見える範囲にスミレなど生えていません。
 その時。
「えみりー!」
 女性の声がし、女の子が即座に反応しました。
「ママー!」
 立ち上がり、声の方を見ます。ツカツカ……そんな調子で歩いて来るジーンズにセーター姿の若い女性。
「えみり。またそんなとこで……汚いからだめって言ったでしょ?」
「汚くないよ。ツマグロヒョウモンをお姉ちゃんと見てたんだよ」
「お姉さん?」
 お母さんは怪訝そう……なぜなら。
「この白い服の……あれ?」
 お姉ちゃん……私はそこにはいないからです。いえ、いないというのは正確ではありません。
 いますが、お二人には多分判らない。
 なぜなら、私は身長15センチの大きさになってアザミの葉陰に隠れているからです。
 私はギリシャ神話にニンフとして伝わる妖精族ですが、北欧由来のフェアリーの要素も持っていて、人間大と昆虫サイズと自由に大きさを変えられます。そしてどちらにせよ、人間さんとの接触は禁忌。“存在しない”と定義されているからです。人間さんの世界観を変更させる権限はありません。
「いなくなっちゃった」
「バカなこと言わないで。はい、帰りますよ」
「うん……」
 手を引かれて、不思議そうに不満そうに振り返り振り返りしながら去って行く女の子。ごめんねえみりちゃん。私の姿がお母様に見えたら、今度はお母様が他の人から変な目で見られる。
 さて母子を見送ると幼虫の姿が見えません。もう次のスミレ草を見つけたのでしょうか。 人間サイズに戻って探しますが、同じ視界にスミレ自体は見当たりません。
 いえいえ道ばた落ち葉の下から出てきました。右へ左へしながら歩く幼虫を見つけます。えみりちゃんと見ていたスミレの場所から50センチくらいは歩いたでしょうか。
 こういう場合、例えば私がこの子を捕らえて保護し、別のスミレのところへ連れて行く、それは作業としては可能です。ただそれは“あるべき姿”……自らの力で生きることへの干渉になるため許されていません。理不尽に命狙われているなら別ですが。

(つづく)

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【妖精エウリーの小さなお話】翻弄-1-

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 びゅうびゅうと木枯らしが吹くさなか、道ばたに座り込んでいる女の子がいます。幼稚園にすら行ってないと思われます。水色のズボンと白いカーディガン。髪の毛は風にもてあそばれてくしゃくしゃ。周囲に親御さんと思われる大人の姿は見えません。
「どうしたの?」
 私は思わず声をかけました。寒くて座り込んじゃった……などの状態だったら大変です。「虫さん」
 女の子は私を振り返るでもなく答え、土の上を指さしました。その小さな指の先には野生のスミレが生えていて、短い葉が2枚だけ、地べたに貼り付くようにしており、そして、その葉を一心に食べている芋虫がいます。
 黒い身体にオレンジの筋が一本、黒いとげとげ。

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「ツマグロヒョウモンっていう名前のちょうちょの幼虫だよ」
「ちょうちょさんなの?」
 女の子は驚いたように振り返り、私を見、びっくりしたように小さく口を開けます。声にならない「あ……」とでもしましょうか。
「お姉ちゃんだあれ?」
「私はね、エウリディケって言います」
「お姫様みたい……」
 女の子は私を見上げて、見下ろして、言いました。私の服装は古来トガ(toga)と呼ばれる、白い一枚布を身体に巻いただけの貫頭衣。ギリシャ神話の彫刻で女神が着ていると言えばそのまんまです。
「ありがと。その虫はね、そうやってスミレの葉っぱをいっぱい食べて、大きくなって、サナギになって、そしてちょうちょに変わります」
 私は言いながら、危惧を覚えます。
 今は11月です。これから季節は冬に向かい、気温も下がって食草……スミレ類も少なくなります。
 私は手を伸ばし、幼虫のとげとげに触れました。とげ……と書きましたが、実際には針やとげのように固いわけではなく、プニプニした感触です。ぱっと見は毒虫に良くある姿、擬態の一種なのでしょう。
 幼虫は食事を止めました。
〈妖精さん……ですか〉
 喋ったわけではありません。そういう意思を持ったことを私が感じ取っただけ。食うのに忙しいのに何か用か、的なニュアンスを感じます。
 そして、説明が遅れました。私は妖精族だから昆虫たちと意思疎通ができます。人間さんの世界における任務は動物と昆虫たちの相談相手。要するに人間さんのそれが天使に対する役割分担。
〈私はニンフに属すエウリディケ。食べ終わったらどうするの?〉
 食べてるスミレは葉っぱが2枚に花一輪。後数分で食べ尽くします。

(つづく)

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【予告】エウリーのお話を少し

短いお話をとりあえず二篇、挟みます。

まず、2週間後、5月28日開始。

妖精エウリーの小さなお話「翻弄」

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【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -09・終-

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 その理由を彼女は説明出来る。そしてそれは言葉にすれば彼を次のステップへ踏み出させる後押しになろう。
「あなたにたくさんの我慢を、いっぱいいっぱい押し殺してきた辛い気持ちの積み重ねを感じます。体格のことや外見ことであらぬ誹謗中傷を受けてきたこと……でも、私はあなたが努力する男の子で、勉強の遅れを取り返したいと新たに努力を始めたこと知っています。それが最も大事なことだと私は自信を持ってあなたに伝えます。あなたの私に対する好意に応えることは出来ないけれど、友達でいてはだめですか」
 彼女は、手のひらを差し出した。
 彼は涙を止め、きょとん。
「友達……」
「そう。防空識別圏を設定しますという告白お断りの言い回しじゃなくて。気軽にくっちゃべる女子という意味で。女の子の友達」
 自分の提案はひっくり返すと「いたことないでしょう女友達」という決めつけになってしまって甚だ失礼なのだが、逆に言えば彼に条件が整ったという証明でもある。
 うん。これでいい。彼女は自分の物言いに自信を持った。
「いい、のか?」
「もちろん」
 ウィンクしてみせると、平沢はしゃがんだまま右の手を伸ばして来、彼女の手のひらを恐る恐る……おっかなびっくり、触れた。
 電撃に触れたように彼の腕が肩まで震える。その頬が目に見えて赤く染まる。
 彼女は震えで飛び出して行かないように握り返す。脂肪感ゼロでゴツゴツガサガサの男の手のひら。
 手首に触れて魔法を一つ。
 巻き付く毛糸。
「なんだこれ」
 平沢は手のひらを戻してじろじろ眺めた。
「ミサンガ。友達には強制的に付けさせてる」
「え、あれこれ結び目とかないじゃんどうやって……」
「そこは手品ですから。それは不思議なミサンガです。必要なことをあなたに教え、不要な時には出て来ません。試合で見つかると咎められるというなら、あなたがそう思えばそれは消えます……従妹のさくらちゃんに見せれば教えてもらえるでしょう」
 彼女は言い、ニヤッと笑った。こういう“後から自分自身意味を理解する魔法”は必要があるから働いたのだと知っている。
「お、おう。あれ?なんでさくらの名前知っ……」
「いいじゃん。帰ろ」
 彼女は先に立って歩き出した。

彼の傷跡/終

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【理絵子の夜話】禁足の地 -11・終-

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 場所の故に高天原からお力添えをいただいたのだと判断出来る。自分の身体を抱き上げた念動の力も多分。
「おぇ……」
 男子生徒が嘔吐する。「死体に抱きつかれた」のはもちろん、高濃度の二酸化炭素による悪影響もあろう。
「昔の人は、ここに立ち入る人や動物が、恐らくいきなりぶっ倒れて息絶える現象を目撃し、霊的な毒気、瘴気が満ちていると考えて封じたのでしょう。それ以上犠牲を出さないためという後悔と尊い思いの元にここを封じた。由緒の不明な禁足地は決して興味本位で踏みにじらないことだわ」
 自分は語尾に「わ」を付けて喋るアニメ女子ではないのに……という場違いの感慨を持ちながら理絵子は言い、泥に埋もれた足首をグポッとばかり引っこ抜いた。
「登与ちゃん帰ろ」
「え?あ、うん」
 それ以上何も言うことはないし、嘔吐の介抱も必要ない。それは示唆であり冷徹な所作が求められる場面と理絵子は理解した。茅纏之矟に断ち切ったのはその辺りの寓意を感じる。
 この生徒には“思い知らせる”必要があったのである。
 授業終わり。“アンタッチャブル”にはふさわしいエンディングと言うべきか。Here endeth the lesson.
「あーもうグチャグチャ。明日までに乾くかなぁ。クッソバカが余計な手間掛けさせやがって」
 我ながら酷いが事実。てめーのせーだ。
「靴だけクリーニングできるんじゃないかな。駅前にほら」
 登与が同じく冷たい態度で続く。
 二人してぐっちゃぐっちゃ音を立て、後ろを見ずに歩き出す。
「あーあずっと泥噴いてるよ。ザリガニの巣作りみたい」
「クリーニング屋さん地震で動けないんじゃ……」
「それなら明日学校休みかも……震度5強だって。え?家ン中大丈夫これ」
 スマートホンに地震に関するニュースや安否を尋ねる家族と友人のメッセージが届き始める。

禁足の地/終

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【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -08-

←前へ次へ→

 すると、平沢はのろのろした動きでバットを自分のカバンに戻し、持ち上げて肩に掛け、彼女を見た。
 そして、彼女を見、居住まいを正した。
「姫ちゃんって、すげえな」
 諦めたような声音。寂しそうな瞳。
 彼女は平沢進の自分に対する“強い気持ち”が消失していることに気付いて彼を見上げた。
 自分に対する彼の認識が変わったことは火を見るより明らかだった。“一目惚れしたかわいい子”を見るそれではなくなってしまった。まるで手の届かないテレビアイドルを見るよう。
「それで、あの……ひとつだけ、立ち入ったこと訊いてもいいかな?」
 応じた勇気を持って、反映された低く抑制された声で、平沢は問うた。
「何かな」
 小首を傾げて聞き返す。
「普通の女の子……じゃないよね。催眠術とか、あの船とか。呪文っぽいのも聞いた」
 開示すべき時が来た。彼女の答えは一つであった。足下のネコのしっぽ。
「本当の私を知る人は、私のことをレムリアと呼ぶんだ」
 船……それは彼女が隠密裡に活動しているボランティア団体が所持する飛行帆船である。平沢はそれを見かける機会があった。見えてはならない存在なので、訊かれない限り説明するつもりはなく、黙っていた。
 普通そんなものは存在しない。
「手品師で看護師だよ。その船の中ではね。私の力を必要とする場面はレムリア案件と呼びます」
「そうなんだ……」
「すごいがっかりしてるように見えますが」
 すると平沢は立ち止まり、突如腰が抜けたようにぺたりと膝をつき、彼女を下から上までゆっくりと見上げた。
「大丈夫?体調悪い?」
「いや、打ちのめされてるんだ。こんな、こんな凄い女の子、レベルが違いすぎるって……オレ今、自分がすげぇガキなんだって恥ずかしくて仕方ない」
 ああ、と彼女……以下レムリアと記す……は合点が行った。
 彼にとっての「子供時代の終わり」が今、来たのだ。
「そんなことないよ。ガキ様ならあの状況下で私放り出して逃げ出します。あいつらのようにね。でもあなたは過去を振り切って、トラウマに打ち勝ってカバンを投げて応戦し、バット持って立ち向かおうとしてくれた。過去を聞かせるとか、私を信用してくれないと出来ないことのはず。嬉しかった、ありがとう」
 レムリアは努めて優しい声で、語りかけた。
 すると……野球部応じたイガクリ頭で無骨屈強な体格である彼の目から涙がポロポロ。
「あれ……何でオレ泣いて……ごめんみっともねぇ……でも……止まらないんだ何これ……」

(次回・最終回)

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【理絵子の夜話】禁足の地 -10-

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 示唆に従い理絵子はリボンを引っ張り、肩に担ぐようにして腰をかがめた。柔道の一本背負いの身ごなしと書けば手っ取り早い。
 彼の身体が泥濘から引き出されたその時。
 大地震すら忘れてしまう驚愕が一同を捉えた。
“腕”が地中から生えるように伸びており、彼の両肩を背後から掴んでいた。
 そのまま彼と共に引きずり出されたのは、その黒い泥で作った人形のような人体であった。目を見開き、しかしそこには眼球はなく眼窩の空洞のみがあり、口を開いたその表情は苦悶の絶叫を思わせる。
 断末魔の姿をたたえた黒い泥人間が背後から男子生徒の肩をわし掴みにしているのであった。
 湿潤な環境で腐敗を免れ“蝋化(ろうか)”した遺体。
 凝視すればトラウマになる。
 念動力が欲しい、理絵子が願った刹那、何かが、蝋の腕を上から下へたたき切った。
 日本刀の切れ味であり、その刃が風切る音が聞こえたかも知れぬ。蝋化遺骸は背中へ向かって倒れ、再び泥濘に没し、切り跳ねられた腕はくるくる回りながら草むらの彼方へ飛んでいった。
 どーん、と遠雷のような振動音と共に事象の全てが戻る。地震が収まり、驚いた鳥たちが鳴きながら飛び回っており、全身泥跳ねだらけで足首まで埋まっている自分たち4人がある。
「何が……」
 男子生徒は理絵子に問うた。ハァハァと肩で息をし、その肩を見、手指の形に付いた泥を撫でさする。『詳細は把握していないがとてつもなく怖い経験』であったとみえ、額には泥で汚れた玉の汗。
 理絵子は軽く息をつき、
「ここが禁足地なのは、二酸化炭素がたまっていて、安易に近づくと死ぬから。あんたは倒れた時、遠い昔その犠牲になった人の身体の上に載ってしまったのだよ」
 理絵子はくしゃくしゃで泥だらけの髪の毛を手で梳いて風に流した。
 リボンを見る。絡みついてる茅の葉っぱ。振り回して巻き込んだか。
 いや違う。理絵子は真相を知る。茅の葉っぱはメッセージ。
 刃となり彼を救ったそれは茅纏之矟(ちまきのほこ)。
 アメノウズメが天岩戸で踊った時の小道具。もちろん、本当に茅で矛をこさえたところで人体を切れる強度を持つわけではない。

次回・最終回)

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【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -07-

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 彼女は“企んでる魔女”の笑みで見捨てられた男達を見回した。
「あいつは女だから手加減してやった。だが、お前らはそうはいかない。私は友達を傷つける奴は絶対に許さない。卑怯の塊が女にヘラヘラしてるとかゴキブリのクソほどの価値もねぇ」
 バットを振り上げる。
「わああああああ!」
「ごめんなさい許して下さい。言われてやってただけなんですぅ」
 なんだこいつら。すると。
「俺、こんな奴らに……」
 おびえていた自分がバカみたいだ。平沢の言葉を補足すればそうなろう。
「裁く権限はあなたにあると思うよ。殴れというなら殴るし、何なら殺してもバレやしない」
 呼応するようにカラスがアーアー声を上げ。
 ツツジの植え込みからするりと現れたのは、赤い斑がいかにもと思わせる毒ヘビのヤマカガシ。
 男達はパニック寸前。何なら3人揃って漏らしそうな勢いだ。
 対して、平沢進は静かに一言。
「いや、俺はこいつらと永遠に会わないで済むならそれでいいよ」
「そう」
 彼女はそれを聞いてバットを下ろした。ただし、その実態重量以上にゴン、と重い音を立てて。さながら鬼に金棒のように聞こえた。
 彼女は立てた金棒の頂部を指で押さえた。
「3秒間、お前達に永遠に別れる権利を与える。私がこの手を離して、このバットが倒れる前に、ここから立ち去れ」
 彼女はバットを舗道に立て、手を離した。
 揺らぐバット。
「123っ!」
「わーっ!」
 わめき散らし、叫び声を上げ、こけつまろびつしながら男達は立ち上がり、不格好に舗道を走って去った。乱雑に舗道が濡れているが、まぁ知ったこっちゃない。
 バットを受け止め、グリップ側を平沢進に向けて、返す。
「お、おう」
 丸い目、もう少し言うと“人間じゃないもの”を見る目で彼女を見ている。
 説明、する必要があるようだ。
 その前に屈強な味方達を開放する。「ありがとね。助かった」これでヘビやカエルは茂みに戻り、カラスはバサバサ飛んで行く。
 ただ、ネコは足下。まるで付き従うかのように。彼女はしゃがんで、そのネコを撫でさすって。“言うべき内容”のレベルと順序を考える。
「ひとつ、あなたに言っておくことがあります。あの者達には催眠術を掛けました。永遠にあなたのことを思い出すことはありません」

(つづく)

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【理絵子の夜話】禁足の地 -09-

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「ここは断層活動の際地下から毒ガスが湧き出す。だから禁足地なんだよ!走れ。いいから走って遠ざかれ!」
 自分の物言いが難しすぎたのだと判ったが、これ以上ここに立ち止まって説明するとこっちがやられる。
 もう知らぬ。二人は手に手を取って駆け出す。程なくほぼ初期微動を伴うことなく大きな揺れが下から突き上げ二人の足下を揺さぶる。大地から天空へ太鼓打ち鳴らすように地鳴りが響く。
「うわでけえ!」
「やべぇ!」
 大きな震動に草本が揺れるのが見え、触れあってガサガサ音を立てる。足下は多分に不安定だが不思議と揺れに翻弄されずに走れる。
 その理由はどこかで見たことがある。地震の揺れが怖かったら足踏みしろ……揺れる電車で歩けるのと同じで、自らも動いているので相殺される。
 金気水が小道を横切る“入口”まで戻る。
 どっちへ……止まった一瞬に後ろから腕を掴まれた。
「黒野!」
 彼らが追いついたのである。
 が、引き抜こうとした足が動かなくなる。どころか、まるで地面に掴まれたように、グッと締め付ける力が足首に加わり、沈み始める。
 液状化である。揺れ動きながら砂を吹き上げ泥濘と化し、自分たちの足を飲み込み引き込んで行く。
 このままだと埋もれてしまう。超常の力を使うしかあるまい。彼らに吹聴されて知れ渡るが。
 すると。
 強い力が脇の下から幼い頃の“抱っこ”の要領で加えられ、自分の身体を持ち上げてくれた。
 ズボッと音を立てて足が抜ける。
 同時に、いや逆にか、自分の腕を捕まえていた彼が、バランスを崩して泥濘の中に仰向けに倒れる。
「うわ!」

-私に力を。

 されどクラスメート。理絵子は髪の毛を結わいていたリボンを解いた。
 このリボンには、よく見ないと判らないが金色のキラキラが織り込んである。
 北欧から死神退散に馳せ参じてくれた神話中の女性戦士の髪の毛である。
 理絵子はむち打つ動きでリボンを彼へと投げた。
 リボンは彼女の手先の一部を成すがが如く作用し、撓って宙を舞い、倒れた彼の手首に鋼の強度で巻き付いた。
 引っ張れば良い。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】彼の傷跡 -06-

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 男達は戦意喪失と言って良かった。彼女はゆっくり、瑠菜に向き直った。
「何なんだ……お前……」
 対して、瑠菜から出てきた台詞がそれ。目玉が小刻みに揺れ動いており、不気味に近い恐怖心を抱いていると判る。まぁ、得体が知れないだろうとは思う。
「それはこっちの台詞だ。道すがらいきなりカツアゲとかバカだろ。んで?しょんべん漏らしの代わりにお前がやんのか?ああ、獲物が無いと不公平だな」
 彼女は担いでいたバットを舗道に転がした。金属バットなりのカンという音。
「私らをどうにかしたいんだろう。だったらそれ持って掛かって来やがれ。相手してやる」
 と、足下に味方。
 さっきのネコ。毛を逆立ててフーと威嚇。
「タンパク質が不足して手足も細いお前にバット振り回せると思わんがな」
 バサバサと羽音を立ててカラスが数羽舞い降りてくる。近くの木に止まって瑠菜を凝視。交互にアーアーと鳴き声を響かせる。
 そして。
 ツツジの植え込みからのそのそ這い出してきたヒキガエル。

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 これが決定打になった。彼女はカエルが苦手であり、手のひらサイズのイボイボカエルは見ただけでノックアウトと判じた。
「あ……は……あ……」
 過呼吸状態に陥ってしまう。もう動くことが出来ないのは明白だった。
 しょんべん漏らし2になる前に、謝罪と二度と接近しないことの念書でも取ってやろうかと思ったけど面倒くさくなった。
 彼女は瑠菜にツカツカ歩み寄ると中指でその額を強く弾いた。“デコピン”という奴だ。ただし。
 食らった瑠菜は急にキョトンとなった。まるで夢から覚めたように。
「あれ?あたし……」
「これ見て気絶しちゃったんだよ」
 彼女はまるで今初めて出会ったかのようにヒキガエルを指さした。当のカエルは“めんどうくさい”とでも言いたげに長い舌で自らの目玉をペロペロ。
「ひっ……」
 またぞろ過呼吸を起こしそうなので。
「見てるからここから逃げなさい」
「あ、はい。すいません」
「そして二度とここへ来ない」
「来ません」
 瑠菜は数歩下がり、きびすを返し、サイズの合ってないヒールの靴でパタパタ走り出して去った。
「おい……」
 呼び止めようとして何も出来ない男達。

(つづく)

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【理絵子の夜話】禁足の地 -08-

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 言ってから自問する。あるのか、そんなことが。
「美しい湖なのに魚一匹いない。毒水だから、ってよくあるけど」
 登与の言葉に連想したのは、湖でないなら。
「瘴気」
「まさか……え?」
 瘴気。毒のある空気。疫病の元と考えられてきた。細菌やウィルスが発見される前の迷信。
 禁足地とした理由には充分だが。
「大涌谷みたいな火山ガスとか」
 登与が言った。そういう、“自然事象”で生命禁忌は、それこそ大涌谷だと草一つ生えぬ禿げ山が硫黄で黄色くなっている。
 ここは植物は豊富だが動物がいない。
 植物は可。動物は不可。あるのかそんな毒。
 金気水はその一種であるかも知れぬ。しかし水に入らぬ虫一匹感じないのは解せぬ。
 やはり気体の毒か。動物には危険な気体。
 スマホを取り出す。検索する。気体。致死量……。
「二酸化炭素!」
「あっ!」
 知見の扉を開く。ニオス湖の惨事。火山活動で濃密な二酸化炭素が噴出して山裾に沿って流れ下り、集落に滞留して大量の犠牲者を出した。マズク。アフリカで観測される窪地(あち)に二酸化炭素が高濃度に溜まった死の穴。
 ここは窪地だ。
 全てのパズルのピースが埋まった。
 その時。
「あれ?黒野じゃん。高千穂も。やっぱり……」
 鳥居の無い“非正規”のルートから入ったと見られる彼らが歩いてくる。禁足地……窪地を囲う境界線であろう列石に沿って歩けば当然ここへ出る。
 ニコニコしながら、ニヤニヤしながらか、彼らが自分たちに小型のビデオカメラを向けた更にその時。
 知見を映したスマホの画面に文字が躍り、大きな電子音。
 緊急地震速報。
「お?これは面白え……」
“良い動画のネタ”になると思ったか、嬉しそうな彼らに比して。
 何が起こるか理絵子は判じた。揺れ動く大地がポンプのように作用し、
 下から“瘴気”が吹きだしてくる。
 理絵子は唇をキッと結んで彼らを見た。
「バカ!来るな!走れ。全速力で逃げ出せここから!」
 声を限りに彼達に叫ぶ。が、その彼らはキョトン。
「は?」

(つづく)

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