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見れば目の下頬骨あたりを拳で殴られたようで、眼帯と包帯で青く腫れた周囲を隠し、小さな傷もたくさん。
「ごめんなさい……こんなことになるなら家まで送っていけば良かった……」
涙が出てくるのを抑えきれない。美姫を抱きしめてわんわん泣いてしまう。恥も外聞も無いと判っていたがどうにもならなかった。それは傍目には膝立ちの美姫に姫子が抱きついてぶら下がり、だだでもこねているかのよう。
美姫はしばしあっけにとられたようにしていたが、自らの目元を拭うと姫子の肩をトントン、とした。
姫子は我に返って声を抑え、身体を離した。
「ごめん……泣きたいのは美姫ちゃんの方だよね」
美姫は首をゆっくり左右に振った。
「ううん……嬉しい。こんなに、こんなに心配してもらったことないから……そして、自分がなにも見えてなかったってよく判った」
神領美姫は意を決したように姫子の手を引きながら立ち上がった。
傷だらけではあるが長身で流麗な美少女の挙動であって、黄金の輝きが迸るような印象を周囲に与えた。
「私……思い上がってました……正体晒したけどイケメンの彼氏がいてチヤホヤされて他は何も要らないと思ってた。でもむしろ迷惑を掛けてた。なのにクラスのみんなにこうして心配してもらえた。ごめんなさい。そしてありがとうございます」
神領美姫は“カチ込み”に来ていた自分のクラスメートに頭を下げた。髪の毛がバサッと舞う。
顔を上げる。
「そして相原さんは私の大切なお友達です。もちろん、殴るとかそんなことされてません。私の、そういうことに、魔法を使って気付かせてくれた、大事な、大事な、お友達です。ネガティブな内容は全部アイツの嘘と良くない噂です」
神領美姫はレムリアの腕を取ってそう紹介した。それは、神領美姫が全部吹っ切れてリスタートしたことを証しした。
もう、涙は似合わない。
「ありがとう」
レムリアはまずそう言い、自らの乱れた髪の毛を束ねてポニーテールに作った。まだ長さが不十分で尻尾は短い。
そして今度は、その傷もあって洗髪できていないであろう、神領美姫の両頬から腕を伸ばして彼女の髪を持ち上げる。
「これはレムリアの流儀で」
金色のシュシュを通して長いテールを作って下へスッと流す。
風もないのに彼女の髪の毛は一瞬ふわっと広がった。
朝陽に黒曜石の輝きを放つ文字通りの射干玉(ぬばたま)に、男子達が瞠目しまばたきも出来ない。
「私はあなたの友達であり続ける。そして私は、私の友達を傷つける者を絶対に許さない」
そう言って見つめると、強気な光が、神領美姫の瞳に戻った。
アルカナの娘/終
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