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手のひら端末でも読めそうな「夢見るようなファンタジーで、命を守る」お話を、ぼちぼちリストして行きます。

理絵子の夜話「城下」(9/16・隔週土曜更新)
-01- -02- -03- -04-

 お話カタログ

●連載タイプ(掟破りの携帯で長編)
魔法少女レムリアのお話(現在15編)
超感覚学級委員理絵子の夜話(現在13編)

●長編
「天使のアルバイト」
天使が、人に近い属性を備える理由、そして、だからこその過ち。その結果。
(目次

●短編集
大人向けの童話(現在10編)
恋の小話(現在13編)
妖精エウリーの小さなお話(現在22編)
(分類不能)「蟷螂の斧」

リンクのページ

色んな切り口色んな長さ。他の「ココログ小説」の方々の物語。「へぇ、こういうのもアリだな」そんな発見をどうぞ!

【理絵子の夜話】城下 -04-

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 日曜日。
 件の城はハイキングコースに組み込まれており、応じた距離と標高を徒歩で跋渉せねばならない。スニーカーにナップザックで麓のケーブルカー乗り場に集合。
 そこは私鉄の終着駅から200メートルほどで、沿道両脇はお土産と食べ物のお店がずらりと並ぶ。
 理絵子は登与と共に終着駅に降り立つと、その200メートルを歩いた。動きやすさを考えジーンズにTシャツであり、念のための防寒として学校の体育ジャージ上下をザックに入れてある。髪の毛は普段緩く結わえて背中に流しているが、9月の日中を活動するのでポニテにして首から離した。日よけに野球帽。
 他方、登与は同じくジーンズにTシャツだが、髪の毛は長いまま。何か感じると髪の毛が反応するからだという。その姿は麦わら帽子と相まって透明感あふれる夏の美少女といった案配になり、道行く人目を見開いて止まることなし。
「嫉妬」
 理絵子が呟いたら登与は笑った。
「学校一は黒野さんが定評……しかし、“成り行き上真面目に調べることになりました”って気がするのは私だけ?」
 シルクでクリスタルガラスに触れるような、柔らかく透明な声で登与は言った。
「私たちが関与しなかった場合の未来が見えない。それはそれで怖い。ひっくるめて罠かも知れない。登与ちゃんは何か?」
「お誘いを受けて乗っただけ。それはそれで天の采配なのでしょう。出来ることをできる限り」
 会話しながら歩く二人に対し、道行く人は振り返り仰ぎ見、目を見開き、そして二人に道を空ける。……こういう、意図せぬ、しかし結果として至れり尽くせりが、理絵子にもまま生じるのだが、だからって遠慮しても無意味なので素直に乗っかることにしている。
 果たして人々が道を空けた先、ケーブルカー駅前の広場に、長坂・当麻両名は到着しており、あきれた顔をして二人の到着を見ているのであった。
「黒野のモーゼ現象を初めて見たよ」
「なんじゃそら」
 当麻のコメントに理絵子は苦笑した。この道空け現象が学校でも時折生じるのは認識していたが、それを旧約聖書でモーゼが歩くと海の水が退いた……になぞらえて命名されたらしい。
「写真撮っていい?」
 これは長坂。
「二人立って太陽が照らしてるだけで絵になるってなんなん」
 否定も肯定もする前にスマートホンでパシャリ。
「壁紙」
 当麻に見せる。
「アニメのDVDのパッケージみたいじゃん」

(つづく)

【理絵子の夜話】城下 -03-

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「え?」
「えっ?」
 その名を出したら二人の瞳が見開かれ、眉根が曇り、拒絶と恐怖が表情に表れた。
 前述した怪奇事件の当事者である。霊能者を公言し、魔方陣をこさえて悪霊を召喚した。
 女の自分が見ても目が勝手に追いかけてそのまま離せなくなるような美少女だが、霊能駆使して言い当てをするので怖がられている。ちなみにその悪霊は他ならぬ理絵子に対してけしかけられたものだったが、和解してしまえば最高の理解者。
「彼女ガチの霊能者だし」
「それは……」
「そのくらい怖いことに首突っ込もうとしている自覚はある?イヤならお断り。二人で行くならご自由に。それこそ五感が何かおかしくなった時、頼れるのは第六感だけだと思うけど」
 ああこの選択肢は用意されたものだと理絵子は知った。天啓・示唆という奴だ。
 二人の間で興味と恐怖が逡巡を織りなす。ちなみにこの時点で当の高千穂登与は気付いている。自分と常時テレパスでコンタクトしていいよとしてあるので(応じて孤独な立場であるため)、そのチャネルを通じて状況は伝わっている。
「黒野さんひとりでは?」
「怖いもん」
 妥協を蹴る。実際には自分は密教・神道系の流儀やら呪文(真言)に近しく、比して彼女はロザリオをお守りにしている。二人がかりの方が万全というのが真意。
 戦国時代の城だからこそ、である。魔は魔だ。いかに裏を掻くかを考えたら、和風である必要はどこにも無い。
 果たして長坂が目を閉じてうーんと唸り、見開いた。
「判った。高千穂さんも一緒に」
「え?知(とも……)」
 断を下した長坂知に当麻が驚いて目を向ける。
「マジか?」
「二人とも来てくれるなら安心じゃん」
「おう……そうだ、けど」
 そこで理絵子は小さく笑って見せた。
 何のことはない、当麻には“知と二人きり”という下心があったのだ。
「別に女三人で行ってもいいけど」
 意地悪。
「あ、いや、いいよ。行く行く。背丈や力仕事が必要なことだってあるかもじゃん」
 彼の身長は172センチ。
 思惑と駆け引きを全部見ている自分に若干の嫌悪。
「最後の確認だけど本当に行くのね?ただし、普通に遊歩道とその周辺に限るよ」
 若干、嵌められたのは自分だという気もするが。

(つづく)

【理絵子の夜話】城下 -02-

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 理絵子は舌打ちしたくなるのをこらえた。
「女同士の話を盗み聞きするのは趣味悪いぞ当麻(とうま)」
 振り返らずに言う。
 即座に目の前の娘が特異な反応を示すのを感じる。当麻というのは自分のクラスの男子だが、この長坂とは特別な関係にあるようだ。要するにカレシカノジョの関係である。
「何でバレっかなぁ。やっぱ霊能じゃねーの?」
 ヘラヘラしながら教室後ろ手、ドアの影から入ってくる。
 長身長髪でカッコイイ外見だが学ランを着崩してワイシャツなどはみ出ており、みっともない。性格はチャラい。
「違う。聞こえた。耳はすこぶる良くてね。これでもオーディオマニアの端くれ」
「マジかよ」
 半分は超常感覚的知覚の賜物だと思うが、安価なオーディオセットから出てくる音波を「まずい飲み物」みたいに感じてしまうのは困ったものだ。
 さておき当麻が近づいてくる間に大体の背景は把握する。地歴入会者を増やす策はないか。最近この学校怪奇事件が多いからネタにしたらどうか。例の城はどうだろう……。要するにけしかけたのはこの当麻であるらしい。
 で、このコイビト二人共通の認識一つ。黒野理絵子に付いてきて欲しい。……怖いから。
 一番ダメな奴じゃないか。
 ただ、自分が断ったにしても、二人で行くつもりであるらしい。
……行かせたらどうなるんだろう。
「調査の計画は?断層の位置は把握してる?地磁気の異常はどうやって測るの?」
「断層は図書室の地図をコピーして持って行こうかと。後は方位磁石と水平器くらいかな」
 長坂はすらすら答えた。少なくとも可能な範囲で調べることは本気のようだ。
「んで、出来れば風水的な鬼門とか地脈みたいなのと整合取れれば、科学非科学双方から検討が出来るかと。それでぶっちゃけ黒野さんの協力がもらえるとうれしいなって」
 あ、しまった。理絵子の率直な感想。それは口から出任せに近い後付けの理由なのだが。
 断る理由が無くなってしまったではないか。
“二人きり強行”も引っかかる。それでどうなるかの未来が示唆されない。予知能力は持たないが、因果律に従うモノはそれとなく判る。ひっくり返して示唆がないのは“自由意志により決まる”パターンだという認識がある。自分がいたら抑制できた行動が実行に移され取り返しが付かない。
 仕方が無いか。
「私にも来て欲しいと」
「うん」
 少女マンガのヒロインみたいな笑顔。
「文芸部のネタが増えるでしょ」
 勝利を確信、と少しダークな心理。この娘が学級委員に収まり込んだ経緯がなんとなく見える。
 仕方ない。
「判りました。けど、条件一つ。高千穂登与(たかちほとよ)ちゃんの同行を許すこと。いいですか?」

(つづく)

【理絵子の夜話】城下 -01-

←理絵子のお話一覧次→

“地理歴史同好会”が文芸部を訪ねて来たのは夏休み明けて程なく。
「例の城を取り上げようと思って」
 会長の女子生徒が、文芸部の部長である彼女の目の前に差し出したのは雑誌記事である。彼女ら住まう町外れの山林にある戦国時代の廃城。そこに怨霊が出る、という見出し。要するにオカルト雑誌である。
 彼女は雑誌に目を落とす。長い髪がはらりと流れて左右の頬を隠す。ページを数葉めくって。
「地歴(ちれき)ってそういうの興味本位で扱うようになったの?」
 会長女子に上目遣いで尋ねる。ちょっと怖い目になったかも知れない。会長女子は少し見開いた瞳を見せた。
「え?違う違う。逆に単純にガチで調べて、最近多いじゃん?遊び半分の肝試し。そういうのを諫めたい。そういうのでもヤバいというか、失礼になるのかなって。そういうの詳しいの黒野(くろの)さんかなって」
 彼女をさん付けで呼ぶ会長女子は2つ隣のクラスの学級委員で名字は長坂(ながさか)。彼女黒野理絵子(りえこ)もまた学級委員であり、応じた集まりがあって、逆に言えばつながりはそこだけ。だから、さん、が付く。ちなみに“同好会”は、人数など、部としての条件が揃っていない活動に対する呼称で、固定された部室と部費が認められない。ただし、文化祭に参加は出来る。
 彼女理絵子は雑誌を返して。
「ネットで出てくる、図書館で文献を読む、それ以上の情報を現地へ行って得ようってこと?」
「地学的考察ってあまり見ないから。断層があるとか、地磁気が乱れているとか、そういう、人間の平衡感覚に影響する要素が他と違うことで、幽霊伝説に繋がっているかも、と思って。そういうのは興味本位や昔の不幸を笑うわけじゃないから問題ないよねって確認」
 用意していた答えだな、と理絵子は判ってしまった。
 オカルト的見地から問題ないか確認のために自分を訪ねたのは間違いではない。ただし、自分に霊能があることは公言していない。
 怪奇事件を解決した経緯があって、ほぼほぼ“その手の者”と見られていると判っているが、認めると色々とややこしいので“文芸部の創作ネタとしてその手の知識を持っている”ことにしてある。
 だから長坂の底意は見えてしまっている。それで記事書いてセンセーショナルなキャッチコピーになるだろう。入会希望者増えたらいいな。
 ちなみに理絵子自身は自分の能力駆使してその城跡を訪れたことはない。逆に何かあるという示唆も無い。“そっとしておいて”という弱い意図は受け取る。
 悲劇の地に高感度の受信機持って踏み込むとか不躾の極致であろう。
 と、こちらを伺う目線を背後に感じる。

(つづく)

今後の予定など

レムリアのお話終わりまして向こうしばらくの話。

・【理絵子の夜話】「城下」(8/5土開始。隔週土曜更新)
・【妖精エウリーの小さなお話】「ずっと友達」

単発書きたいんだけどねぇ。降りてきませんねぇ。

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -24・終-

←前へレムリアのお話一覧→

「高校野球でスター選手と持て囃されても、いざプロに入ったらボコられて記憶にも残らず引退する……ということは、時々、あります。そういう、ことですよね」
「その通り。だから多分、なんだけれども、皆さんは、それぞれに、自分の足で、自分の考えで、今、確実に一歩進んだ、そう思うんです」
 副住職の言葉に、坂本美咲は手の中のルーンを広げて見つめ、そして。
「姫ちゃ……相原さん」
「はい」
 答えた彼女の前に差し出す。
「返す。判ったんだ私。あなたに追い抜かれたような気がして嫉妬しただけ」
 それは、その場の聴衆には、転入生が溶け込めない自分を追い抜いていった、と受け取られよう。比してレムリアに対する意味は違う。
“2人の仲を引き裂こうと思った”
 レムリアはルーンを受け取り、いったん握り、
「お持ちなさいな」
 手のひらを開いて返す。それは文字はそのまま、ペンダントとして首から下げられる紐がついている。
「おお、鮮やかだ」
 これは副住職。
「この文字、エルハツの意味を知る限り列挙してみて」
「守護、防御、友情……」
 坂本美咲はハッと見開いてレムリアを見た。
「あなたは私たちの友達です。その石はあなたの願いを叶えました。違いますか?」
 坂本美咲の瞳が黒曜石を見たように見開かれ、揺らぎ、涙が浮かび、極寒に放り出されたの如くブルブル震え出す。
「坂本さんどうした?大丈夫か?」
 平沢が立ち上がろうとする。
「違う……」
 坂本美咲はそれだけまず言った。
「すごすぎて震えてるの……すごすぎて……私このルーンお守りにもらったの。護符の意味もあるからって……。でね、さっきのエイヴァーツ。あれは死後の再生とか、再生とか、要はリスタートの意味がある……合わせると友達としてリスタート……」
 坂本美咲はエルハツのルーンを首から下げた。
「ありがとう。離さない。これ、もうずっと離さない」
 坂本美咲は胸元の輝く光を、自分自身ごと、両腕で抱きしめた。

魔法の恋は恋じゃない/終

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【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -23-

←前へ次へ→

「私、人見知りというか、人と話してて否定されるの怖くて、ずっと、誰かと話そうって状態になるの避けてた。でも……姫ちゃんがクラスに来て、一気にみんなに溶け込んで、私でも話せるかなって思った。何でか知らないけど、姫ちゃんなら話聞いてくれるって思った。そしたら、こんな素敵なイベント設定して仲間に入れてくれた。話せるどころか男の子と普通に話できた。そしたら、今までの自分が、みじめ、って言ったら自分に可愛そうかな、でも、そのときの自分と違う見方や考え方をしてる自分がいるんだ。……って、何言ってるか判んないね。ごめんね」
「イヤ判るよ」
 間、髪を入れずそう言ったのは他ならぬ平沢。
 ハッと目を見開いて彼を見上げる坂本美咲。
「自分を思い知らされるんだ。姫ちゃ、失礼、相原さんと話してると。経験値の差かな。足らなさ、甘さ、気づかされる。その瞬間、違ってるんだ。今までの自分と。魔法だよ。それこそ」
 そのフレーズに、坂本美咲はものすごい勢いでレムリアを見た。
 その目は問う“あなたは一体”。
「本当に魔女だったら仏罰が当たるかと」
 レムリアは自分を指さして冷静にそう応じた。
 と、そこで、副住職が、はっはっは、と、ゆっくり笑った。
「本当に魔女だとしても、仏様は全て判っていらっしゃることでしょう。さておき、今、わたくしは、素敵な瞬間に立ち会わせていただいたかな、と言えると思います。多分、皆さんは、小学生になったときに幼稚園の自分を振り返って、中学生の制服を着て小学生の自分を振り返って、なんて幼かったんだろう、と思った瞬間があると思います。一方で、自分は今はまだ子供の範疇で、大人と比べると大きな差がある、とも感じていると思います。では今後、高校生になって、大学生になって、就職して、振り返ったら気づく、のでしょうか。逆に言うと、就職すれば、成人式を迎えたら、大人になるのでしょうか。違いますね。わたくしが皆さんの言葉を聞いて思ったのは、なすべきことのために動き出す、その瞬間を皆さんお一人お一人が迎えてらっしゃると言うことです。自分はどうしたいのか、そのためにどう動けばいいのか。魔法、という言葉がありましたが、それらは、自分で見つけるもので、自分で獲得して行く生きるための力です。なにがしかの儀式をして与えられたところで、考えて工夫して、修練を積んだ実力とはやはり差があると思います。進君は野球をしているからよく分かると思うが」
 水を向けられた平沢を坂本美咲がじっと見つめる。
 その目線にレムリアは気づく。この娘が“恋”と思っていた“思い”の正体と、今、掴みかけようとしていること。
「僕が言うのはおこがましいんですけど」
 平沢は神妙な面持ちで前置きして。

(次回・最終回)

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -22-

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「え?オレ」
 彼は手を伸ばし、指揮棒の先端を握り、
 開いた。
 傾いた“N”のような、“Z”の裏返しのような、それ。
「姫ちゃん……」
 坂本美咲は悲壮な目でレムリアを見た。
「え?何?これ悲惨なの?」
 平沢が戸惑った顔で少女2人を交互に見る。
 レムリアは息を吸った。示唆“言ってよい”。
「エイヴァーツ。死神」(Eihwaz)
「ええ?何それ……」
 平沢はタコのように口をとがらせて眉毛をへの字にした。
 まぁ、あまり気分のよいものではないだろう。
 もちろん、この回答の相手先は坂本美咲である。彼女の問いに対するルーンの答え。
「これは魔王を演じた平沢君への忖度じゃない?もう一度やってみて?」
 方便。彼に再度握らせる。これはコントロールできる。
“X”が縦に2つ並んだような。
 諏訪君が笑った。
「え?え?」
 平沢はキョロキョロ。レムリアは少し笑って。
「これは乙女が口に出すのは恥ずかしいかな。イングツ。性欲をかき立てる、みたいな意味」(Inguz)
「マジで?」
「マジで。実はスケベ?」
 魔女のいたずらな微笑みで訊いてみる。
「えー、まー、男子として恥ずかしくないレベルには」
「これこれ真面目に答えなくてよろしい。まぁ、占いでこれが出たら、性欲の向こう、豊穣とか生誕みたいなポジティブな意味を答えてあげるのがセオリーかな。で、ペンダントにして身につけておくとセクシャルダイナマイツなお守りになりますと。欲しいならあげるよ?」
 すると、ここで吹っ切れたように笑い出したのが坂本美咲。
「あははははは」
「えー?なんかひでえな坂本さん」
 平沢はまたぞろタコ口になってもう一度指揮棒を握った。
 が、イングツのまま変わらない。何度握ってもイングツ。なお、この文字は上下同一である事も手伝い、逆位置・リバースはない。
「違う違う。ごめん……」
 坂本美咲は考え込むように、少しの間、黙り、
 意を決したように口を開く。

(つづく)

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -21-

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 坂本美咲は指揮棒をギュッと握った。
「あ、いや、イヤならいいんだが?」
「いえ、違います。この水晶には古代文字が浮かぶんです。その意味を考えてました」
 坂本美咲は字面を副住職に見せた。
「ルーン文字かね」
 副住職の知見に女の子2人は少なからず驚いた。ルーンを魔法、占いのアイテムと置いた場合、仏教と最も遠い位置にある存在だろう。
「ルーン?ゲームに出てくる?」
 これは諏訪君。北欧神話の神々やルーン文字はそういう系のゲームで多出。
 キョトンとしている平沢。
「バイキング時代の古代文字だよ。キリスト教がふつーのアルファベット持ってきて廃れた。文字個々に意味が持たせてあるので、占いや魔法のキーワード、発動アイテムに多く使われる」
 レムリアは軽く説明した。
 すると坂本美咲の手が動いた。
 ポケットの中から取り出すエルハツ。
「同じものだね」
 副住職は言った。
 坂本美咲は、指揮棒を副住職に差し出した。
「た、試してみてください」
 ちょっと震える声。
「そうかね。では」
 副住職は、握って、離した。
 Fに似た、それ。
「アンスルじゃん!すげぇ。オーディンの象徴だぜ」
 興奮気味の諏訪君。なお、意味は高い知性など。スペルANSUR。
「北欧神話のオーディンかね?いやぁこれは忖度だなぁ」
 副住職は後頭部をポリポリ掻いた。
 そこで坂本美咲が気づいたように彼に……平沢に目を向ける。
「やってみて」
 レムリアは気づいた。彼女はルーンに尋ねている。
 啓示のように浮かんだ想いは“自分は口出ししてはならない”。
 坂本美咲の目は射るように真剣である。瞳自体が光を発しているかのよう。
 だが、彼は気付かない。

(つづく)

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -20-

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 お開きになった後、そのまま本堂で演者三人はジャージ姿で、私服の諏訪君と、車座になってお茶菓子をいただいた。
「鮮やかだねぇ。びっくりしたよ。どちらかが本物の魔女なら坊主代表で聞きたいことがたくさんある位だ」
 副住職は瞳を輝かせて笑った。
「僕が本物の魔法使いである可能性は?」
 平沢がボケる。
「ないから」
 諏訪君が即遮断。
「ちぇ。ちなみにこの相原さんの道具です。手品ってタネをごまかすのが難しいのに、誰が使ってもうまくできる。オランダ、だっけ」
「ええ、そうです」
 彼女は答えた。そういうことにしときましょう。
 ウソは付きたくない。
「ちなみに美咲ちゃんはどうでしたか?せっかく”魔女に昇格“したんだし、また一緒にいかが?」
 坂本美咲に水を向ける。
「え?……あ、うん。最初、次どうしようと思ったけど、姫ちゃんの道具に救われた。次、か……」
「魔法の指揮棒の方がいい?」
 手のひらからにゅっと出現させて彼女に渡す。先っぽに星の飾り物。
「おお、それも手品か。すごいな。そういえば帽子や服は?」
「片付けました」
 レムリアは副住職に答えた。
「あんな大きなものを?」
「そこは企業秘密とさせてください」
 話す二人の傍らで坂本美咲は指揮棒をじっと見つめる。先端の星を握り、離し。
 星が透明な石に変わった。
 坂本美咲はハッとした表情でレムリアを見上げた。
 現れたそれはルーンの水晶である。アルファベットのn、あるいはギリシャ文字ηに似た文様。
 その変化に副住職も気づく。
「ほう、星から変わった。すごいね。私がやってもなるのかね」
 坂本美咲はニコニコ顔の副住職に顔を向けた。
 nに似たその文字は“ウルツ(Uruz)”である。意味は複数で挑戦、始まり、審判、等。

(つづく)

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -19-

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 レムリアは言って、冒頭脱ぎ捨てたジャージをステッキで指し示した。
 ジャージの中でもこもこと動くものあり。
「あら、僕のリスちゃん」
 平沢魔王はキスでもするかのように唇をとがらせ、内股で駆け寄り、「うふん」と発してジャージを取り上げた。
 リスがピーナッツをカリカリ。
 応じたどよめき。
「お待たせリスちゃん」
 平沢魔王がおちょぼ口でそう言ってまぶたをパチパチさせたら、リスは逃げるように走り出してレムリアのステッキから肩へ駆け上った。
 くすくす笑い。
「ひっどーい」
 魔王はおちょぼ口で不平を言い、再度まぶたパチパチ。
「ウッフンは満腹だから。やい魔王。これでマジックは終わりだ。採点しやがれ」
「やい魔王とは何事だ。待ちたまえ」
 平沢はジャージを着込み、胸を張る。
「サキくん」
「はい」
 サキは魔王の前にかしこまり、持っていたステッキを彼に渡した。
 魔王はステッキを右手に。
「合格だ」
 言って、ステッキで床をドン。
「やった!」
 サキが喜んでジャンプした次の瞬間。
 サキもレムリアもジャージ姿に変わる。
「ちょ!だっさ!魔女だっさ」
「なんで私までジャージにされるんですか魔王」
 会場爆笑。頃合いである。3人は横一列に並んだ。
「以上。見習い魔女のマジック試験、でした」
 お辞儀すると拍手をもらう。リスはレムリアの頭の上に移動し。
 ステッキは平沢の手の中で帽子に変化し、その帽子をレムリアにかぶせると、リスの姿は見えなくなった。

(つづく)

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -18-

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「なんだゴミじゃん」
「いらねーよそんなもん」
 が、お年寄りの一人が、舞い降りてきた金色の紙片を手にしたところ。
 ラメ入りでそれこそ男の子たちがリクエストした炎のドラゴンがデザインされたカードに変わる。テーブル対戦ゲーム用カードである。携帯端末で印刷されたバーコードを読ませると画面の中で対戦できる。
「うそマジか!」
「オレも欲しい」
 出来事を掌握した男の子たちが立ち上がり走り出し一気に争奪戦になる。男の子たちの手にした紙くずはそれぞれがそれぞれ欲しいと思っていたモンスターのカードに変わった。
「レベル50とか最強じゃん!」
「やべー。何これマジ鳥肌」
 ただ、そのゲームに興味のない子も存在する。騒ぎの間にレムリアはサキにこっそり耳打ちし、サキは帽子を裏返しにしてそうした子供たちとお年寄りに配って歩いた。
 髪の毛のアクセサリーとか、ミニカーとか、お年寄りにはお菓子の小袋。
「なぁ、これ本当にもらっていいのか?」
 男の子の手が震え、のぞき込む周囲の子供達が目を見開く。威勢良く炎を吐く黒いドラゴン。
 レムリアは大きく頷いた。
「もちろん。あげておいて返せとか手品じゃないでしょう。さて、みんな席に戻ってください。見習いサキの最後の大手品です。この帽子はみんなにいっぱいあげたのでもう空っぽです」
 サキは帽子の中を聴衆に見せた。男の子達は席に戻らず、立ってそのまま帽子を見ている。
「でも……おかしいですね。このモンスターのぬいぐるみ、最初は何でしたっけ」
 女の子の一人が目を見開く。
「リス……あのリス本物だよね!?どこ?」
「ですよね。でも、私には判っています。こいつ……ちゃうちゃう魔王です」
 平沢を指さす。
「そう私がちゃうちゃう魔王です。ってそれじゃイヌじゃん。リスだろ」
「野球部のリスがおるかい」
 このツッコミは諏訪君。
「え?その人リスなの!?」
「そう私はリスだ。かわいいだろ」
 鼻の穴を広げて喉仏をぐびぐび。
「どこがじゃヒラ」
「おっと設定間違えた魔王だった」
「じゃぁジャージ……じゃない、魔王の制服を着て魔王に戻ってください」

(つづく)

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -17-

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 リスからトカゲのモンスター。
 子供たちはざわついた。そして、そのモンスターがゲームのそれであると気づくや、成長した姿である火を吐くドラゴンに変えろとリクエスト。
「やってみたまえ」
「偉そうだぞヒラ」
 これは諏訪君。
「言葉を慎みたまえ、君は魔王の前にいるのだ」
「うるせーヒラ」
「そうだぞ黙れヒラ」
 このあたり子供たちが乗っかってくる。
「では、この子をドラゴンに……」
 帽子をかぶって、脱ぐ。
 間の抜けた顔をしたカバがモチーフのモンスター。
「ぎゃはははは!」
「だめじゃん」
「おかしいなぁ」
 もう一度、かぶって、脱ぐ。
 ドラゴンだが別のタイプで子供型。
「違いまーす。そのドラゴンじゃありませーん」
 もう一度。
 キツネと子犬のいいとこ取りをしたようなモフモフのモンスター。
「あ!」
 かわいい、という声が女の子から上がる。
「いいなー。欲しいなぁ」
 幼い声。サキはレムリアをちらと見た。レムリアは頷いて返す。
「どうぞ」
 サキは頭の上のモフモフモンスターを手にして女の子に手招きした。
「え?いいなー」
「あたしも欲しい」
 数名。サキは帽子から次々取り出して女の子たちに渡した。
「ずりー(狡い)。俺たちにもなんかくれ」
 男の子達の不満は当然。
「判りました何かあげましょう」
 サキは帽子からステッキを取り出し、宙へ向かって振り出した。
 舞い散る紙吹雪、まるで音のしないクラッカーを破裂させたよう。
 男の子達の目は一瞬輝いたが。

(つづく)

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -16-

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 観客が一斉に振り返る。
 女の子二人。レムリアと坂本美咲。
 マジシャンがよく身につけるスーツとシルクハット。レムリアのそれは白、坂本美咲は黒。
「あー、君か、認定試験の受験者は。入りたまえ」
 ふんぞり返って偉そうにして腕を伸ばし、オイデオイデ。
「もう入っています」
「細かいこと気にするな。こっちへ来たまえ。ちゃんと皆様にご挨拶しながら、な」
 平沢は観客席に両腕を広げるようにして指示した。それはショーの始まりの合図である。
 本番。
「……は、はい」
 坂本美咲は緊張気味。
「はいはい、帽子を手に持って。早くしないとあふれちゃうよ」
 見世物その1シルクハットの中からお菓子を出して配る、なのだが。
 坂本美咲の頭の上でハットが左右に動く。まるで中に何かいるよう。
 坂本美咲が慌ててハットを手にして裏返すと、中からリスがひょっこり。
 どんぐりを前足で持って食べている。
 坂本美咲は呆然としている。いきなりシナリオから外れているのだ。
 一方、リスの存在に気づいた女の子を中心に、どよめきと「かわいい」の声。応じてお年寄りの方々の口元も緩む。
 心つかめばそこまで。これで坂本美咲が困ってしまうというのは本意ではない。
「サキ、それは私のドジ帽子では?交換しましょ?」
 どうしていいのかと固まってしまった坂本美咲……“サキ”にレムリアは助け船。
「え?あ、そうかも。はい」
 白で統一しているレムリアと、黒で統一している“サキ”と。
 シルクハットを交換すると、
 マジシャンスーツも併せて入れ替わる。
「おおっ?」
「え?うそ何今の」
 サキも応じて驚いたわけだが、リスが彼女の頭の上まで駆け上がり、何らかリアクションをする暇を与えない。
「では魔王教官準備できましたのでよろしくお願いします」
 レムリアはそう言って促した。ここから事前シナリオ通り、“次々モンスター出現”。
「うむ、見せてもらおう。最初は“モンスターマジック”だったか?」
「あ、はい、そうです。このリスが次々、みんなも知ってるあのモンスターに変わって行きます」
 サキは進行を合わせ、まずは帽子をかぶせて、取った。

(つづく)

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -15-

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「判りました。君たちはいいかな?」
 座った子供達に問いかけ。
「あ、はい」
 先頭に座っていた女の子が答える。急に訊かれてちょっと緊張。
「ありがとう。では始めましょう。今日は当院始まって400年の歴史の中で初めての出来事です。魔女の認定試験」
 副住職は仏像右奥の引き戸へ向かい、開き、退出した。
 仏像左手。
 奥の方より平沢が歩いてくる。中学校の体操ジャージである。
 仏像の前に足を開いて立ち、手を腰に胸を張る。
「諸君、私は魔王だ」
 会場は無言。〝滑った〟というより唐突すぎる。
「あ、観音様ちーっす」
 仏像に向かってヘコヘコ。
「うそつけ平沢!」
 この声は諏訪君。
 子供たちが背後を振り返る。
「誰だお前は!私は平沢ではない。見ろ、それが証拠にここに魔王と書いてある」
 平沢は言って背中を向けた。
〝魔王〟と書いた紙が貼ってある。
「どう見ても魔王だろう」
「どう見てもジャージだが」
「ジャージに見えるなら脱いでやる」
 平沢は言って、観客に背を向けたまま、ジャージの上着を脱ぎ捨てた。
 白い体操シャツに〝魔王〟。
「魔王だろ?」
 ここで子供たちから小さな笑い。
「じゃ、始めるぞ」
 平沢は振り返る。
 体操シャツの胸に〝3-3 平沢〟。
「平沢じゃねぇか」
 諏訪君が突っ込み、ここでようやく本格的な笑いが取れた。
「あのー平沢君、じゃなかった魔王様」
 観客席の後ろからレムリアは声を上げた。

(つづく)

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -14-

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 坂本美咲はついに机に突っ伏してお腹を抱えた。
「だめ……やめ……おかしい……」
「ウケてるよ」
「じゃ、魔王の制服がジャージの世界で」
「いいね。合格するとジャージになると。美咲ちゃん聞いてる?ちゃんと設定書くか覚えるかしてね。ヒラの魔王に拝謁して手品試験を受ける魔女見習いってことで」
 これに坂本美咲は身体を起こして対応しようとするが、腹筋が震えてしまったか思い通りにならない。
「待って……判ったけどちょっと待って……こんなに面白いって思わ……わははははは!」
 その笑い声は“女の子なんだから”やめなさいと言われたであろう類いの爆笑と言って良かった。
「やべぇ本物の魔女の笑いだ。もう合格出そうかな」
「ぎゃははは!」
 上半身のけぞらせて足をバタバタさせて文字通り笑い転げる。〝ツボに入った〟と表現する向きもある。彼らは空き教室を選んで集まったのだが、坂本美咲の大笑いに何事かと覗きに来た生徒もあるほど。
「うるせえよお前ら」
「あ、オレのせいだわ」
「なんだヒラかよ」
 じゃぁ仕方ないとばかりに、文句を言いに来た生徒がドアを閉めて去る。それで通用する。言い換えれば彼の行くところ笑いあり。

5

 そして月曜夕刻。
 平沢家に隣接する寺のお堂に集まったお年寄りと子供たち。
 仏像の前にスペースが作られ、子供たちが〝体育座り〟で並び、後ろにはパイプ椅子に座ったお年寄り。ただし、椅子には諏訪君の姿もある。これは彼が現在預けられている叔父夫婦が高齢であり、このお寺の法話(月例講話会)に参加するうちに立ち上がったイベントであることに基づく。子供達は“トワイライトスクール”と呼ばれる、共働きの家庭の子供さんを両親の帰宅まで預かる施設から。どちらもお寺が関わっての合同イベント。
 廊下から姿を見せた法衣姿の副住職。寺の息子さんだそうで若い印象。眼鏡をかけている。
「本日はお集まりいただきありがとうございます。暑い寒いありましたらお知らせいただきたいのですが大丈夫でしょうか」
「こっちは大丈夫だと思います」
 この発言は諏訪君。そういう部分をお願いしている。

(つづく)

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -13-

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「え?そこから臭う?」
 と、自ら脇の下をクンクン。彼が体臭を気にしていることは周知で、それを踏まえてのボケ。
 それは坂本美咲の想定を越えたのであろう。脇の仕草を見、大柄な彼の大きな鼻の穴がヒクヒク動く様を見る。
 そして、彼女も彼の“コンプレックス”は聞き及んでいたようで、思わず「ぷっ」とばかり吹き出した。
「あはは……」
「おいおいお前ら、最初の発言が『おっさんくさっ』『あはは』ってひどくね?」
 これに坂本美咲はタガが外れた。
「あはははは!」
 底抜け大爆笑とでも書くか。それは“受け過ぎだろ”と感じたか、クラスのボケ担当を自認するさすがの平沢もやや困惑気味。
 ただ、〝実質初めて〟の緊張は解けたことだろう。
 本題。
「ごめんねー。彼女と先にやってた。漫才どーしよねぇ。ツカミは出任せ成り行き任せでいいかなって」
「まぁ俺らなら何とかなると思うけどね。そこからどう強引にマジックショー持ってく?」
「適当に失敗手品ぶち込むから、魔女見習いのテスト、あたりの設定が無難かな。てなわけで美咲ちゃんそれでいい?」
 いきなり話を振られて予想外だったか彼女はきょとんとしてから。
「え?ああ、見習い魔女ってこと?私が」
「そうそう」
「いいよ。判った。楽しそう」
 緩やかでナチュラルな微笑み。平沢の瞳孔がちょっと大きくなったのをレムリアは見逃さない。
 しかし彼はすぐにレムリアに目を戻し。
「んで?〝魔女見習い〟って設定をどうぶち込むん?」
「見習いが技を披露する場は試験でしょ。ヒラが教官……」
「オレ魔男(まおとこ)ってことか」
 坂本美咲はまた吹き出した。レムリアは“まおとこ”の意味するところを坂本美咲の情動から理解して遅れて笑った。
「あっはっは!」
「まおとこはお子様もいるからNG。でも魔女に対する男性の同義語ないね。魔神、魔王?」
「魔王にしようか。いかにも魔王だろオレ。あだ名ヒラだし」
 手を腰にし胸を張る。いがぐり頭に声変わりを象徴する喉仏がぐりぐり動き体操ジャージ。ヒラは平社員……要は組織の下っ端の俗称。
 その有様は“魔王”の与えるイメージと完全に逆。だから〝ギャグ〟になる。

(つづく)

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -12-

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「綺麗……手触り冷たいから水晶だよね」
 魅入られたようにじっと見つめる。その瞳に透明なきらめきが反射して輝く。
「差し上げましょうか?そのままお守りになってくれるでしょう」
 ルーン文字エルハツの意味するところ、守護者によって守られている。
「いいの?」
 坂本美咲は顔を上げ、レムリアを見た。その瞳がきらめきに変わって瞠目に拡大し黒水晶を宿す。
「ルーンに従え……そういうことでは?」
「でも1個減っちゃうんじゃ……高そうだし」
「そこでケチるようじゃ意味なくない?魔法を信じるってそういうことでは?」
 坂本美咲はしばらくレムリアを見つめ、次いで手のひらの水晶文字を見つめ、そして、ギュッと握った。
「マジックショーの魔女、やってみるよ。デイサービスの催しなんだよね。きちんと練習もしたい」
「そう来なくっちゃ!」
 レムリアは言い、両の手を合わせてパチンと鳴らした。

4

 土曜日。
 試験に向けた自習用に教室が解放されているので3人で待ち合わせる。ろくに口をきいたこともない坂本美咲を呼んだことに対し、平沢は最初怪訝な顔をしたが。
「興味あるんだってさ」
「ふーん、いいよ」
 自身、〝細けぇことは気にしない〟と言うが、本領発揮というところか。
 ただし、後から彼女が来て〝二人の間に入り込めない〟だと困るので、少し先に入ってシナリオの調整。ドスドスという足音。
「ちーっす。お、姫ちゃん早ええ。よっ!」
 ドアががらりと開き、野太い声が“ぶるん”とばかりに室内に響き、体育着ジャージ姿の平沢が入ってくる。
〝よっ!〟は坂本美咲に対して。片手をあげて声かけ。それはレムリアに〝なじみの飲み屋ののれんをくぐるおじさん〟を想起させた。読んでる漫画の1シーンだが。
 坂本美咲を見る。平沢の姿を足下から首の下へ向かって追いかけるように見ている。
 ただ、顔を、目を見ることは出来ていない。
 ひと肌。
「よ、っておっさん臭(くさ)」
 応じて彼の仕草に対して突っ込んでみる。

(つづく)

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -11-

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「ステッキをどうぞ」
 振ると、先端から花束出現。
 坂本美咲は声も出ない。
「いかがでしょう。同じシナリオなら再現できるけど。私個人は動物をよく使うけど屋内イベントだとちょっとねぇ」
 レムリアは言いながら四阿の屋根の外、上空へ向かって手を伸ばし、オイデオイデの手つきをした。
 降りてくる風一陣。四阿の塀に止まる鳩。
 文字通りその辺にいるドバトである。丸い目で二人を交互に見、小首を傾げる。その仕草には知性をうかがわせる。
「呼んだの?」
「まぁ。はい、行っていいよ、ごめんね」
 レムリアは手のひらを開き、出てきたクルトンをひとつまみ鳩に咥えさせ、指をパチンと鳴らした。
 鳩がいくらかの羽毛を散らして飛び立って行く。
「すごすぎる……」
 坂本美咲は四阿の椅子、円形の壁に沿って配された木の板にへたり込んだ。
「平沢君ってあなたの手品見たことあるの?」
「フルコースはないよ。教室でやってる小ネタを見てる位。その辺はむしろ諏訪君が知ってる」
「諏訪君……」
 坂本美咲は口ごもった。
〝諏訪君が福島と地縁があるため、原発事故と絡んであることないこと言ってきた〟
「知っての通り平沢君は諏訪君の味方だし、諏訪君も呼ぼうと思ってる。どうしますか?」
 ちなみに彼に関わる風評被害の払拭にはこれ務めた。ただ、理論に基づく説明を〝ねつ造だ〟と言いつのる手合いはあった。
 坂本美咲は思い出したようにはっと目を見開いた。
「ルーンに訊いてみたい」
 それは今回拠り所としている魔法書の物言い、迷ったらルーンに訊け……ルーン文字の占いをせよ。
「そのシルクハットから出るよ」
 テーブル上、シルクハットに坂本美咲は手を入れた。
 文様の刻まれた水晶の小石。
 ギリシャ文字の〝Ψ〟に似ている。
「エルハツ(elhaz)……」
 坂本美咲は呟いて、そのまま水晶のルーンを見つめた。

(つづく)

【魔法少女レムリアシリーズ】魔法の恋は恋じゃない -10-

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 坂本美咲が四阿の隅に向けてステッキを振り下ろすと、先端からおもちゃの花がポンと生えて開いた。
「あらギャグモードになっちゃった。物陰ってのがないからね。えーと、その花を抜いてみて下さい」
「うん」
 坂本美咲が言われた通りおもちゃの花を抜き取ろうと手で茎の部分に触れると。
 本物のコスモス1輪。
「え?え?」
「手品ですから。そういうのは女の子やお年寄りでもウケるよ。もう一度……えーとね、あなたのカバンをコツンと突いてみて」
「……もうわけわからない」
 坂本美咲は自らのスポーツバッグをステッキ先端で突いた。そして。
「言わなくていい。ありえないもの出てくるんでしょ」
 バッグのジッパーを開くと、世界的に有名なモンスター同士を戦わせるゲームに出てくるモンスターのぬいぐるみ。
 坂本美咲はあきれたようにため息。
「これ、主人公が相棒に設定したら頭の上に乗るよね」
 キツネを思わせる顔立ちだがウサギのような耳。
「頭の上に載せたら何をしたくなりますか?」
「シルクハットを……まさか」
 坂本美咲は出て来たモンスターを頭の上に載せると、シルクハットを被って、脱いで。
 別のモンスターにチェンジ。間抜けた顔のカバのような。
「もう一度」
 今度はアンモナイトのような。以下、シルクハットを扱うたびにモンスターの種類が変わる。
「え、何これおもろ」(面白い、の意)
 坂本美咲は自分自身面白がってシルクハットをひょいひょい。
「それ、子供たちに人気のモンスターに変えようとしてクソザコ(※)ばかりなら笑いが取れるでしょ」
 何度か載せ替えるうち、イモムシ形状のモンスターになって、先ほどのコスモスをその口に咥えている。(※クソザコ……糞雑魚の意。要するに格好悪くて弱い)
「え?何これ!」
「食べちゃった。どうしたい?」
「え……新しく出したい」

(つづく)

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