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手のひら端末でも読めそうな「夢見るようなファンタジーで、命を守る」お話を、ぼちぼちリストして行きます。


・魔法少女レムリアシリーズ「アルカナの娘」(5/15・隔週水曜12:00更新)
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・理絵子の夜話シリーズ「空き教室の理由」(5/18・毎週土曜日12:00更新)
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 お話カタログ

●連載タイプ(掟破りの携帯で長編)
魔法少女レムリアのお話(現在15編)
超感覚学級委員理絵子の夜話(現在13編)

●長編
「天使のアルバイト」
天使が、人に近い属性を備える理由、そして、だからこその過ち。その結果。
(目次

●短編集
大人向けの童話(現在10編)
恋の小話(現在13編)
妖精エウリーの小さなお話(現在22編)
(分類不能)「蟷螂の斧」

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色んな切り口色んな長さ。他の「ココログ小説」の方々の物語。「へぇ、こういうのもアリだな」そんな発見をどうぞ!

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -003-

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 心霊写真ということか。デジタルカメラになって絶滅したと言われていたが。
「あなたがそういうものを信じるかどうか…」
 理絵子は写真を全て引っ張り出してテーブルに並べた。
 担任は公園に出向いてバラを撮るのが好きといい、応じてデジタルカメラを所持している。今回担任はステージを36枚撮影し、うち8枚に自分が写っているが、ことごとく首がない。
「カメラはこれなんだけど……メモリカードもそのままです」
「見ても?」
「ええ」
 カメラを起動し、プレビュー用の液晶画面で画像を繰って行く。市内の公園に咲いてる蔓バラ、千葉県は“京成バラ園”の花たち、そして。
 フィルムカメラの時代ならフィルムに傷を付けたり故意に感光させたりして、“何か”を加えたりすることは可能であったろう。比して純粋な電子回路であるデジタルカメラで、首から上だけクローキング(光学迷彩)を掛けたようにすっぽり消え去り、その向こうの緞帳が写っているのはどう説明すれば良いのか。とりあえず口を突いて出た言葉は。
「見事に、ですね」
 理絵子は言った。意図したわけではないが少し軽めの口調で。小笑いでも付ければマンガの一コマ。
 まぁ、呪怨なのだろうというのが自分の中の結論である。担任の抱く感情と深刻さは理解した。しかし、そこで担任を怖がらせてしまっては自分の中ではアウト。
「……なのかしら。やっぱり」
 と、担任。
「断定は出来ませんが可能性はあると思います。デンキカイロですから光の加減だの何だのと理由付けする方がかえって不自然」
 理絵子は首なしと普通の写真を分けた。自分が霊能者と噂されている事は知っている。担任の言う“物知り”はその辺の噂に応じた婉曲表現であろう。対しては、『文芸部のネタとして一通り調べて知っているだけで、ありませんそんなもん』ということになっているので、使える言葉としてはこうなる。
「普通に撮れている方はみんなに見せて良いと思います。これは不気味なので知り合いのお寺さんへ持って行かせてください」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -03-

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 神領美姫の瞳孔が一度大きく開いてから、元通り閉じたのを見逃さない。要するに“図星”だ。そして“落ち着け”と自らに言い聞かせた。
「私に敵意を?」
 上目で訊くと、
「うるさい!」
「脊髄反射しちゃダメじゃん……おっと」
 4時間目が始まるチャイム。悔しそうな神領美姫。恥を掻いた、という認識なのだろう。
 だがそれはある程度見えていた展開。および、そこを責め立てるつもりはない。
「ルーンに尋ねる前に、ちょっとお話をした方がいいような気がします。放課後、任意のタイミングで私を訪ねて下さい。その時誰にも邪魔されず話が出来るように取り計らってもらえるでしょう」
 それこそ占い師のように。女教皇の上下を戻して正位置とし、21枚のカードに混ぜて神領美姫の手に持たせる。女教皇正位置の意味の一つは“意外なタイミング”。つまり、今、彼女が言った“取り計らい”の内容そのもの。
 神領美姫は意味を判じたか、彼女を見つめた。
「カードの汚れ、取っておいたから。早く教室戻りな」
「え?あ、うん……」
 素直に応じて、しかし力なく、神領美姫は席を立った。
 先ほどまでの勢いが、しおれてしまった花のよう。

 お高くとまっていたタロット女を3分でシオシオにさせた話は、給食が終わる頃には学年中に広がっていた。“ぎゃふんと言わせた”という表現はこういうときに使うのだと教えてもらった。
「会うんだって?そのままフェードアウトさせればいいのに」
 顔に反対と書いてある大柄な娘は大桑(おおくわ)という。彼女が転入してその日のうちにいがみ合ったが、今は仲良しだ。柔道部、最後の夏の大会は大将を務める。
「ってことは、何か言われた……?」
 やれやれと思いつつ訊いてみると。
「ウチの部員でアレに占ってもらったのがいて、自信喪失、敗退、退部」
「真に受けたと。私が言うのもアレだけど」
「姫のはちゃうじゃん。刺さること言うけど元気をもらえる。あっちの姫はディスるだけ」
 ディスる。英語の否定辞disから来た“腐す”を意味するネットスラング。2010年代。
「否定的な内容ばかり当たる?」
 すると二人の会話を聞いていた数名がハッとした顔でうんうんと頷いた。
「それだよ、姫ちゃんご明察」

(つづく)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -002-

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 教頭に使用許可をもらいに行くとかで、理絵子は廊下で少し待たされる。夏以降伸ばしている黒髪には夏服セーラーのスカーフに合わせた青いりぼん。1年生であろう、幼い顔立ちの詰め襟少年が二人、行き過ぎてから自分を振り返ってチラチラ見つつ、ひそひそ話しているのが判る(見えてないつもりかい少年)。理絵子とすれ違う男子生徒で、彼女に目を向けない男子生徒はまずいない。飾り気は無いが、しかしどこか“品”とか“貴”といった言葉を想起させる彼女は、思春期にある男子たちを自動的に振り向かせる、と書けるか。
「ごめんなさいね」
 担任がカギをちゃらちゃら言わせて戻ってくる。
 開き戸の鍵穴に差し込んで回転し、引き戸のドアをカラカラ開く。値付けの鈴があちこちぶつかってちりんちりん。中は黒革張りの長いすが向かい合わせに配置され、大ぶりのテーブルを挟んでいる。色あせ古びた応接セット、と書けば手っ取り早い。夕日がもろに入っており、室内は真っ赤。
 10月初旬であり、西陽にあぶられていた室内はかなり暑いと書いた方が適切で、応接セットはこの先も使われる回数の割に劣化が進行して行くであろうと言える。担任は率先して自ら窓のカギをかちゃんと回して開く。
 外からの音が入るが、部活動が終わった直後で、校庭は静か。呼び合う友達同士の声が幾つか。
 担任は廊下のドアを閉めて施錠し、更に職員室へ通ずるドアにも内側からカギをかけると、抱えていた書類をテーブルの上に下ろした。
 その書類に問題がある。理絵子は直感した。
「黒野さん……あのね」
 ためらいがちな担任。
「今からあなたに見せるものを、あなたは信じないかも知れない。でもあなたに大いに関係があることだし、あなた物知りだからひょっとして、とも思って、あなたに相談します」
 担任は言い、書類束の中から写真屋の袋を取り出した。
「これは文化祭の時に撮ったものなんだけど」
「あ、はい」
 理絵子は頷いて写真を袋から出した。
 今回、理絵子のクラス2年4組は“面倒くさい”それだけの理由で、クラスとしての出し物を合唱にした。その時、担任が体育館のステージ下から撮りまくった写真だ。できあがってきたのだ。
 取り出した映像に理絵子はギョッとした。
 首がない。
 しかも自分のものだけ。

(つづく)

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【理絵子の夜話】空き教室の理由 -001-

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プロローグ

“怪談”を持つ学校は少なくないようだ。
しかも歴史の長い学校ほど、確実と言って良いほど怪談を持っている。
ただ、詳しく調べると、悲しい事件を元に尾ひれが付いただけだったり、誰かの作り話が伝説化しただけだったりと、虚構であることが殆どである。
要は遊びの一種である。それゆえ、修学旅行や合宿で夜話のネタになるだけで、何か起こることはない。生徒間で少しずつ内容が変わりながら伝わって行き、毎年、一人二人教員に尋ねる。教員はその問いにまたかと微笑ましく答える、というパターンが多い。
普通は。

 文化祭が終わってより3日。
 金曜の午後、学級委員を集めての“文化祭反省会”から出てきた理絵子を、担任が呼び止めた。
「黒野さん、ちょっと」
 大事そうに両腕で書類を抱え、困惑の表情、頼る表情。
 この50代の女性教諭は、理絵子の母親よりも年上である。いかにも経験豊富という風で、ゆえあってかクラスでトラブルが生じることはまずない。その担任のこの表情。
 よほどのことに違いない。
「はい?」
「ちょっと、時間もらえないかしら」
「今ですか?」
 担任が頷く。全校下校が5時半であるが、それに合わせて反省会はお開きになっている。
 夕映えに赤く染まる困った表情。
「塾か何かあるの?」
 その質問は普通なら『用事があるならいいのよ』とでもなるはずであろう。すなわち、よほどのことがない限り理絵子に聞いてもらいたい、という意思の表れ。
 塾は7時から。
「いいですよ」
 理絵子は答えた。
「じゃぁ……」
 担任が歩き出し、階段を1フロア下りて2階。
 職員室横“生徒相談室”。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -02-

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「何を調べますか?」
 机の上で両手指を組み合わせ、神領美姫に尋ねる。自分を睥睨するその姿は、透明感に凄みをまとい、まるで音楽CDのジャケット写真のようだ。フィアンセはこういうビジュアル引力を”観賞用美女”と表現する。蠱惑的な笑みでも浮かべれば、占い師としてミステリアスなイメージ増幅に大いに寄与したことだろう。その瞳に映る童顔ショートカットな自分は、まるで場違いな新入生のようだ。
 すると。
「そのルーンの石はどこにあるの?」
 性急な感じで訊いてくる。彼女の“ルーン占い”は、願いや知りたいことに対し、手品の手法でルーン文字の刻まれた水晶を取り出すというもの。文字に込められた意味や伝承が占いの答え。
「お願いに応じた内容で1つだけ出てきますよ」
「だからどこにあるの?」
 苛立つ声音。机の中を見た結果の質問であることは確かめるまでもない。
 そこにルーンは無いからだ。勝手に机の中を見るとか失礼なことは置いといて。
「それは企業秘密ですよアルカナのお嬢さん」
 彼女は唇の端を持ち上げ、ちょいと不気味な笑みを作って言うと、組み合わせた両手を開いた。
 タロットカード大アルカナ22枚を扇のように広げる。
 何もなかった手からタロット。手品である。衆目から小さな歓声、および、
 気付いて驚愕に大きく体をびくりと動かしたのは神領美姫。
「あたしの!いつの間に!」
 立ち上がらんばかりの勢い。
「一枚、お引きなさい」
 比して彼女は髪の毛の一本も揺らすでなく、テーブルに22枚を伏せて直線状に並べた。
「私は願いや思いを叶えたい人のために文字に尋ねる。だけどあなたはその意図はない。単に今を知りたいならタロットがふさわしい。違いますか?」
 と、神領美姫の瞳から高慢ちきの光が消えた。
「そうだけど……」
 戸惑いの口調は、主導権を取られたが、否定出来ないので、どう対応していいのか困っている事を証する。要するに”これはヤバい”。
「傷や汚れでカードが判ってしまうと言うなら、ダイスに聞いてみますか?シャッフルするから止めてもらってもいいけど」
 神領美姫の眉根がピクリと動くが見なかったことにし、カードを集めてトランプのように切る。とはいえこの娘に“勇気”がないのは明白だ。
 怖いのである。なにがしか、予感があるのだろう。自身が占いをするが故に。
「私が引けばいいですか?」
 答えはない。ないと判っている。否定も肯定もしない。少し投げやりなのかも知れない。
 彼女は適当にシャッフルの手を止め、一番上の一枚を机の上に音もなく置いた。
“女教皇”のリバース……すなわち逆さま。

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(「女教皇」wiki)

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -01-

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 学年にひとりやふたり、占い好きの娘がいるものだ。
 なまじ当たったりすると、評判が付いてチヤホヤされるようになり、取り巻きが付いて一定の地位を得たりする。すると次第に評判を気にするようになり、それが生きがいに変わる。そんな、正に絶頂期とでも言うべきタイミングで、転入生に、その“地位”をあっさり奪われた日にゃ、不機嫌にもなるだろう。
 ひょんなことで、魔法が大好きという級友に、ルーン文字を使った占いをして見せる展開となり、その結果“魂が救われた”と級友が吹聴したことで、一気に評判になり、相対的に件の娘の人気が落ちた、という時系列になる。おかげで休み時間は先に手洗いに行かないと捕まるし、戻ってくると待ってる。彼女にその娘の悪口を言って寄越す依頼者までいる。
 が、4時間目の始まる前、教室の後ろドアから入ると、級友達の心配そうな目。
 いつもと違う“お客様”が来ていることはすぐに判った。
 流麗な長い髪の持ち主。お嬢様タイプ。彼女を見つけるや、
「相原姫子(あいはらひめこ)さん」
 椅子に足を組んで座っており、腕組みしてこちらを見ている。紺色ブレザー制服のスカートを長いまま着用しているが、足が長いせいか似合って見える。挨拶されたら答えましょう、
「神領美姫(じんりょうみき)さん」
 彼女は立ち止まり、返した。神領美姫の眉根がぴくりと動く。間髪を入れずフルネームで返されて少し驚いた、そんな感じか。
「占いのご用命で?」
「私を占ってもらっていい?」
 この手のさや当て、日本語でなんと言ったか、ああ、験比べ(げんくらべ)か。まぁ挑戦状の類いであろう。承るのは構わないが、こちとら先約がある。
「次は2組の武並(たけなみ)さんで、その次が釜戸(かまと)さんだと思ってましたが」
 少し冷たい目で指摘する。その二人は少し離れて彼女を見ている。
「譲ってもらいました」
「ホントに?」
 彼女は二人の方を見て尋ねた。
「う、うん」
 おどおどした感じの回答。
 二人が元々、神領美姫に頼んでいたが、自分に“鞍替え”したのは、火を見るより明らかだった。元の主人に見咎められた裏切り者……選択肢はあるまい。
「判りました。時間が無いから急ぎますね」
“姫ちゃんの占いコーナー”は、彼女の椅子と机を使い、一つ前に座っている別の娘の椅子を借り、前後逆にして座ってもらう形で行う。が、神領美姫が座っているのは彼女の机、つまり本来彼女が座る側。
 彼女は構わず、“お客様”の席に座る。

(つづく)

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2024年4月以降のうごきぶり

4月17日開始で隔週でレムリア

・魔法少女レムリアシリーズ「アルカナの娘」

それから「過去にこんな事件がありまして」と作中で書いていながらココログに移植するのを忘れていた理絵子の長い話。

・理絵子の夜話シリーズ「空き教室の理由」

こちらは5月4日開始で毎週更新。単純計算で1年半かかります。

引き続きダラダラと。 

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【理絵子の夜話】城下 -19・終-

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「面倒が無くていい」
「今のうちに」
 おんぶ紐をほどき、長坂知を横たえ、3人で力を合わせて取り除ける岩などどけると。
 壁。明らかに人工の。
「コンクリ?」
「みたいだね」
 触るとジメジメして柔らかい感じ。試しに石でガツンと殴ると容易に削れた。
「“アルカトラズからの脱出”って映画を思い出したよ」
 登与が言った。著名な脱獄映画で、劣化して粘土のようになったコンクリートを少しずつ削って穴を掘る。
 それだ。理絵子は回答を見いだしたと直感した。
「当麻。このコンクリは劣化してる。力任せにぶち破れ」
「判った!」
 石器人よろしく岩で殴り、削って薄くなり、ヒビが入ったところを蹴る。
 穴が開き、目を射る外光。
 刹那あり、隧道内から転げ出た岩塊が路面に落ちる。多湿な空間にあったせいか脆くなっていたようで、跳ねるのではなく潰れてしまい、砂を思わせる鈍く響きの少ない音がした。が、その音の伝搬の仕方から大きな空間に繋がったと判じる。
 蹴り広げてスマートホンのライトで照らす。道路トンネルの中に出たと考えれば合点が行く。穴開いた位置は、トンネル路面上からは胸の高さくらいであろうか。先に当麻に降りてもらい、長坂知をどうやって下ろそうかと思案している途中で彼女は目を覚ました。スマホ内蔵の歩数計と方角から、相次ぐ土砂災害で遂に遺棄された旧街道のトンネル内と判断する。
「旧街道の入口って埋まってるんじゃ?」
「キノコ栽培に使ってたはず」
 4人は、一匹を伴い、全身赤土にまみれつつ生還した。

「行基道の再発見と甌穴(おうけつ)中の球形磁鉄鉱石回転による電磁波発振現象」

 この探検行は地元郷土史研究家の目にとまり、市内レベルではあるが論文書いて発表するに至るおおごとに発展した。
「……このように、超能力という言葉を軽々に持ち出すことは避けるべきではありますが、いわゆる霊感が電磁波過敏症を意味するものであれば、この回転する磁鉄鉱で生成された電磁波に導かれて霊的な道場として開発が行われ、山頂寺院に伝わる行基による開山の背景までも同時に説明することが出来るほか、戦国時代に悲惨な殲滅戦が行われたとされながら多くの子女が逃げ延びたと考えられること、赤く染まったのは血ではなく、その際関東ロームの赤土を大量に流し込んだと考えれば説明できるなど、仮説や噂の類いに論拠を与えます。残念ながら姿を見せたのはわずかで、今般の地震により再び土中に没しましたが、幸いにもトンネル内に場所を比定出来ていますので、今後の本格的な調査発掘に後を託したいと思います。ありがとうございました」

城下・終

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【理絵子の夜話】城下 -18-

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「知!」
「知ちゃん!」
 彼女らの所作は“キャッチャーフライを捕らえに行ったキャッチャー”と書けば最も近い。要は滑り込みながら当麻の背中が地面に落ちないようにした。
 が、理絵子の背中のヘビが一瞬早い。その長い身を駆使して長坂知の頭にターバンの如くクルクルと巻き付き、地面への激突から保護。
 ただ、「動物の肉体が地面に衝突する音」は発生した。
「くっさあああい!」(臭い)
 絶叫を上げたのは長坂知である。時系列的には当麻が転倒し、しかし長坂知は彼の背中で蛇が巻き付いていたので頭を打つなどは回避。ただしヘビの方が身体に掛かったストレスの反動で“臭腺”から臭い物質を放出。これが気付け薬のように作用して長坂知が意識を回復。
 可能な範囲で手足を動かしているのであろう。礫や小石がガラガラこぼれる音が暗闇に聞こえる。
「え、ちょ、なに、動けない。暗い。どうなってるの?」
「落ち着け知」
 これは当麻。彼は背中の長坂知に自分の体重を掛けるまいとしてどうにかうつ伏せになっている。
「どうやって!」
 長坂は金切り声に近い。暗闇で束縛されていればパニックにもなろうというもの。
「知ちゃん落ち着いて。私たちは閉じ込められました」
 あ、しまった。“見えて”いるのは自分だけだ。
「黒野さんまで!」
「状況を説明します。あなたが蛇にびっくりして迷い込んだのは、築城当時からの道のうち、荒廃して忘れられた道の一つです。その中にここが修験道の道場として行基菩薩によって開かれたものに繋がっていて、私たちはそこであなたを見つけ、当麻君があなたを負ぶって戻る途中、地震に遭遇して土砂崩れに遭って生き埋めになりました」
 理絵子は説明しながら悲惨な物言いになっていることに気付いた。
 が、本当に悲惨なことになるという予感はない。いわゆる予知能力は持たないが因果律に従うものは判る。
 背後で動くもの。アオダイショウ。
 背後の積み上がった岩やがれきの間をその身を駆使して登って行く。すなわちこの向こうに到達できる空間がある。
 パラパラと小石が崩れ、彼、が隙間に身をねじ込ませようとしているのが判る。つまり、
 このがれきの山は崩せる。
「当麻、知ちゃん下ろして手伝って」
 理絵子はスマホ内蔵のLEDランプを点した。
 ヘビが影絵の要領で岩の崖に大写し。
「……!」
 大蛇の影に長坂知は再び失神。

次回・最終回

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【理絵子の夜話】城下 -17-

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 蛇は身体を伸ばすが降りて逃げようという素振りはない。それは「一緒に早く行こう」なら納得の所作。
 理絵子は気付いた。
 急げという示唆の正体。
 守り神がここを離れようとする意味。
「当麻、可能な限り早足で行け。ここは危ない」
「判った」
 わずかに残った水をパシャパシャ歩いて反対側へ渡る。そこは細く、わずかでもバランスを崩したら落ちそうだ。理絵子と登与は前後に別れて当麻を引いて押した。
 左方崖下に件の石が黒光りしている。その周りにはおびただしい数の動物の骨。拠らず生き物近づけば同様に神経系狂わされて死んだのであろう。犬っぽいもの、人間、人間を小型にしたようなものは猿か。
 トンネルへ入る。
 3人は一瞬、足を止めた。何事もなく行き過ぎるなど不可能。なぜならトンネルの両壁にはおびただしい数の棺が並べられている。
“墓所”さもありなん。ただ、木製で水のそばなので殆どが朽ちており、一部お骨が見え隠れしている。
「当麻、怖いか」
「そんな余裕ねぇ」
「上等だ」
 理絵子は、応じ、知る。
 地震が来る。
 地鳴り。およびわずかな震動。肩口の蛇が再び身を伸ばす所作。
「地震が来る。走るぞ」
「おう」
「判った」
 理絵子は当麻の手を引き、登与が背中を押す。
 ゴゴゴゴ……月並みな書き方であるが、轟音を伴う震動が発生し、3人を下から突き上げる。土煙が舞い上がり、視界が徐々に塞がれて行く。
 でも、理絵子には全部映像として認識できている。超視覚。透視能力に近いのかも知れぬ。
 上下に揺れながら、着いた足を下から突き上げられながら、3人は走る。理絵子は己の“見える”がままに彼達を導く。岩をうがち、敷き詰められた砂利を鳴らして……それは湿度がもたらす泥濘を抑えるが目的であろう、古き隧道をつんのめりつつ走って行く。
 一瞬の躊躇も許されない。一瞬速度を緩めて振り返ることすら許されない。伊弉諾尊のようにギリシャ神話のオルフェウスのように。
 応じて走ったつもり、だが。
 ドーン。落雷のそれににた大きな崩落の音がし、同時に3人は突き上げられて次の瞬間、つんのめって相次ぎ倒れる。

(つづく)

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【理絵子の夜話】城下 -16-

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「行けそうだ」
「さすが男の子」
 理絵子は言い、彼の眼差しが変化していることに気がつく。男性本能の発露という奴だ。ジェンダーフリー思想?バカか。
 彼は軽く笑みを見せ。
「変なこと言っていいか。女の子の重さって豪華だな」
 使命を得た男の感想であろう。理絵子はニヤッと笑って返した。
「女の価値って奴だよ。さておき、旦那方、彼女を丁重に扱って戴きありがとうございました。私たちはこれで」
「ああ理絵子様どうかどうかここのことはご内密に」
「言いませんよ」
 来た道を戻るのは苦痛と考え、集落を西の方へ歩き出す。道ばたの水流は次第にその速度を増し、やがて前方より滝の音。
 右手にねじハンドル式の木で出来た水門がある。滝の下にその気狂い石があり、この水門で水流を制御する。
「止めますだ」
 T字型のハンドルを回すのだが、ひどく重そうだ。めったに使わないのであろう。
 理絵子は手を貸した。念動使えるわけじゃないが、それでスムーズに動き出すという示唆がある。理絵子が触れただけで自ら意思を持ったようにくるくる動き始める。
「おお、おお……」
 ああ、と理絵子は納得する。今の所作で自分は法力使い……イコール超能力者だという認識がこの男性に宿った。
 万が一にも裏切る逆襲の類いを働くと天罰。
 ギイギイと音を立てて水門が閉じられ、滝の音は聞こえなくなった。
 村落の末端に達する。水門と滝の間の短い流れを横切る必要があり、その先は崖をうがったトンネルになっている。水門を開いておけばそのトンネルは隠されている。
「この隧道は、行基(ぎょうき)様ですか」
 理絵子は男性を見て言った。行基。行基菩薩とも。密教僧であり、この山を修行地として開いた祖であり、あちこちにこの手のトンネルを手堀りして信仰の道を作ったという。
「へぇ、へぇ。さようでございます……理絵子様は何でもお見通しだ……」
「ここを通って行けばいいですね」
「へぇ」
「では、この先我々だけで行きます。ありがとうございました」
「いえいえそっだら……祟らねぇで下せえ、祟らねぇで下せぇ」
 両手を合わせて伏し拝む。さてここで理絵子は肩乗りヘビと化した蛇神様を下ろそうとしたのだが。
「戻っていいのよ?」
「送り狼の代わりのつもりみたい」
「でもあんたここの守り神じゃない……え」

(つづく)

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【理絵子の夜話】城下 -15-

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 ならば、気狂い石が、回転することで電磁波をぶっ放す……丸く削られた磁鉄鉱の塊、であれば説明が付く。
「気狂い石に落ちてくる水を止めることは出来ないのですか?」
「それは……」
「出来るんですね」
「へぇ」
 が、やりたくない。そのわけは。
「ほでを止めだら余所もんが入って来でまう。それに……」
「それに」
 理絵子の文字通り詰問に男性は観念したようだ。
「墓なんでさ」
「墓……」
 要するに人身御供は薬で眠らせて犬神の郷まで持ち込むが、気が付いてしまったり、要は言うこと聞かない者はそこへ歩かせて“発狂”させて死に追いやった。
「では水を止め、石を止めて下さい。犬神の郷では最早人身御供など必要ありません。そのようにわたくしが取り計らいました。そして彼女を返して下さい」
「へぇ……」
 不承不承、の意思表示であろう、男性は口をへの字にして、しかし承諾した。
「ほだが(ところで)、おなごはどうすだ?……その、おでらがそうやっとってあれだが、明日まで起ぎねで」
 そんなヒマはない。理絵子は示唆を受ける。
 出ろ。早急にここから出ろ。
 自分たちの役目は終わった。
「当麻。出番だ。知持ってけ」
 果たして理絵子は振り返りもせず彼に命じた。
「え?あ、おう」
「急げ。彼女に気付かれたら逆に良くない気がする」
 当麻がバタバタ上がり込む。ただ示唆の言うには急ぐ理由は彼女にあらず。むしろそれを口実にしろと言う。
 さて当麻は彼女を“お姫様抱っこ”しようとしたのであるが。肩と腰に腕を通してどっこいしょ。しかし。
「……えーと」
「40キロのニョタイをマンガのように抱っこできるわけねーだろ。フォークリフトが何で2トンもあるか考えてみな」
 理絵子は腕組みして指摘した。
 男衆におんぶ紐を用意してもらう。彼女の身体をゴロゴロ転がして手足を通し、彼に負ぶわせて前ヒモを締める。
「せーの」
 前から腕を引っ張りの、背後から押し上げの。
 彼はフラフラと立ち上がり、しかし程なくスイッチ入ったように雄々しく赤土を踏みしめた。

(つづく)

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【理絵子の夜話】城下 -14-

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 犬神の郷にかかわる自分たちの関わりが、隠れ里の間で伝説化しているのは承知したが。
 祟りと来たか。
 どちらにせよ強権が使えるのは都合が良い。
「先にここに落ちた娘に会わせて下さい」
「へ、へい」
 果たして本堂奥手に畳が一枚敷かれ、仰臥させられ布団をかぶせてある。失神状態だが外傷はない。不適切な扱いを受けた痕跡もない。女性による対応が一枚噛んでいると感じる。ただ、ノートや携帯電話、測定器類は見当たらない。
「眠らせたのですか」
「へぇ」
「持ち物は」
「その……」
「祟りを与えたりしません。正直に言って下さい」
「気狂い石のところへ」
 きぐるいいし。今日び文字に起こすのも憚られるそれは、水流に打たれて高速回転する黒い石であった。
「どこに?」
「この村の果てでさ……いや、近づいたらいけん、“あーあーになってぼん”になってしまう」
 神妙になって答える男性の想起したイメージを解釈すると。
「生き物が近づくと行動がおかしくなってしまいに身体が破裂すると?」
「そうだす……わでらには何が何だがさっぱり」
「んだば、娘ゴのけったいな板から同じようなビリビリがあったから、怖くなって捨てただ」
 けったいな板、は知の携帯端末であろう。ビリビリ?
「これですか?」
 理絵子は自身の端末を取り出した。
「ああ~、それじゃそれじゃ。ああ理絵子様おねげぇだ、それをわでらに近づけんでくれまし。ビリビリする。祟らないでくだせぇ……」
「電磁波過敏症」
「なるほど」
 登与の物言いに理絵子は膝を打った。
「旦那衆。その気狂い石も近づくとビリビリを感じますか?」
「そりゃもう。ドタマがガーガーしてくるくる回るだ」
 人間の脳は生体コンピュータに他ならない。すなわち神経細胞間で電気信号をやりとりしている。従ってそこに外部から電流を流すと脳の活動に干渉できる。病気の治療に使われる他、最近では夢を読み取ったり、逆に意図的に夢を見させる研究も行われている。いわゆる霊能力も電磁波に対して鋭敏な状態に過ぎないと説明する向きもある。
 例えば神社や古代祭祀遺構は断層上に並んでいるのが知られている。これは、断層付近は岩同士の摩擦で生じる電磁波が強まる地帯だからだ、という説もある。

(つづく)

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【理絵子の夜話】城下 -13-

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 その“娘”の供給源こそは、ここに迷い込んだ若い女で、強制的な婚姻を拒否した者。
 ここの存在意義は尊重するが、そぐわないしきたりは断ち切らねばならぬ。
 自分たちはそのために遣わされたのだ。理絵子の認識。
「一緒に来なさい。置いて行かれたら二度と帰れないと思いなさい」
 当麻に命ずる。
「は、はい」
 しゃちほこばった男の子である。少女の肩口に大蛇が鎌首もたげ……まぁ、不気味さと恐怖しか与えまい。
 霊能者疑惑とかどうでもいい。ここから4人で帰るのだ。
 男性を追う。ついて行くのは罠かも知れぬ。ただ、蛇背負ってる自分に手出しはしまい。
 登与と二人で当麻を挟んで歩く。彼より心配なのは彼女だ。
 長坂知はどこでどんな状態にあるのか。
 緩い坂を下りて平地の部分を行く。四角四面に整地されており、見上げると透明な洗面器を裏から見ているよう。
「裏多摩湖(うらたまこ)の底だよここ」
「大地底国じゃん」
 その湖は水深の割に水面の色が深く色濃く、何か“裏”があるのでは、という言い伝えから名付けられた、と聞いた。
 日差しが入って水は充分。農作業には困らない。
「タンパク質は?」
 理絵子は肩口を指さした。ヘビがシャーッと擬音を付したくなるように口を開けて威嚇する。
「あんた食うってんじゃないよ。あんたが出入りできるってことはそこそこに動物入るでしょってこと。ここで何か食ってる?」
 更に田んぼにはカエルの声が聞こえ、田んぼ沿いの流れには小魚の姿も見える。
「外へ出る理由も意味も無いか」
「ここでさぁ」
 男性は集落の中心であろう、大きく普請された寺とおぼしき建物に3人を案内した。
「おお、田悟さ(たごさく、の略らしい)……あんだ、連れてきちま……へ、蛇神様かえ?」
 寺の本堂、であろう、その建物の中から出てきた白髪の男性が目を見開いた。
 示唆、犬神の郷で呼ばれた名を言うと時代劇の印籠状態。
 すなわち無敵スキル。
「わたくしは畢星(ひつのほし)の理絵子と申します。私どもの仲間が迷い込んで恐らくはけがをしてお世話になっているかと」
 果たして案内してきた男性、その白髪の男性、更には本堂にいた男女がまるでほじくられた巣のアリのごとくワラワラと出てきた。
「理絵子様だと」
「道理で犬神をご存じのはずだ」
「蛇神様とご一緒だ。天罰じゃ。祟る。祟る、控えよ」
 理絵子は登与と顔を見合わせた。

(つづく)

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【理絵子の夜話】城下 -12-

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「東南海地震か」
 登与が呟いた。1944年12月7日。戦争末期の出来事で辻褄は合う。南海トラフの一種で、震源の遠い関東において顕著な被害があったと聞かぬが、多摩地域では旧震度階級で6だった地域もあったという。
 軍は結局多摩地区の地下に大本営を移設する計画を中止した。
 それ以後も、ずっとここで。
「ここにお住まいの皆さんは外へ出ることはないのですか?」
 理絵子は訊いた。400年以上、外界とコミュニケーションを絶つとか不可能と思うが。ただまぁ、彼らに電子工学ベースの21世紀社会に生きているという認識はないようだ。
 一方で、閉鎖空間だと生物学的にハプスブルク家のような問題が生じると思うが。
「食って行ける。一族皆息災だ。どこかへ行く必要があるらかね?」
「なるほど」
 ここで理絵子は背筋が寒くなる認識を受け取る。
“お前ら帰さないぞ”
 すなわち。
“新しい血脈となれ”
 とはいえ。
「それで、私どもがここへお邪魔した理由ですが、その、私どもと同じようなズロッとした格好の娘ゴを迎えに来たのですが」
 すると男性の表情がにわかに厳しくなった。
「帰る道はないし、帰さんぞ。蛇神様の施しであらっしゃるからな」
「……それさっきの蛇!」
 当麻が声を上げるが。
「お黙り!」
 娘二人は同時に声を荒げてしまった。
 驚き、そして悲しそうな当麻の顔。
「君の出る幕じゃない」
 理絵子は強く制した。当麻は目を見開き、おびえたように小さく震え、頷いた。
「よろしい。さて旦那さん、その蛇神様は私と共にあるのですが」
「なんと?」
 しゃがんで腕を下ろすとひやりとした重たいものがその腕へ登ってくる。
「蛇神様が……これはこれは……」
「そしてここは犬神の里とも繋がっていますね。出していただけないというならそちらから帰るのみです。さぁどうされますか?一緒に来た女の子を返していただけますか」
「犬神様とも……」
 男性は振り上げたクワを諦めたように下ろした。
「従いますだ。こちらでさぁ」
 男性はへりくだった態度を見せ、手を下に“どうぞこちらに”の構えを見せ、歩き出した。
 その犬神云々は縁あって理絵子は登与と訪れている。隣県の山奥に電気も通らぬ隠れ里があり、犬神の里と呼ばれている、人身御供のしきたりが残っていた。

(つづく)

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予定とか計画とか

グレゴリオ暦で年が改まったので(なんやねん)。

現在進行中は理絵子の夜話「城下」。

で、彼女の話で長いのをひとつ載せ忘れていたのですよw

「教員が逮捕される猟奇的事件が発生、伴って彼女が霊能者であるという噂が立った。事件の背景にいわゆる〝学校の怪談〟があり、解決に理絵子が一枚噛んだからだ。」 

この「一枚噛んだ話」そのもの。

理絵子の夜話「空き教室の理由」

原稿用紙で200枚くらいあるので、隔週掲載だと軽く死ぬので毎週更新を計画。それなりに労力食うので↓のレムリア挟んでめどが立ったら。

レムリアのお話は「ほぼほぼ」状態が2篇あって順番に。

魔法少女レムリアシリーズ「アルカナの娘」「14歳の密かな欲望」

エウリーの短いので、どこかで一服、みたいな感じで

妖精エウリーの小さなお話「ずっと友達」

以上、見えてる範囲はこんな感じで。

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【理絵子の夜話】城下 -11-

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「おー、今日は多いなあ」
 年配の男性で歯が抜けてる感じの発音。
「さっきの娘ゴの知り合いかえ?」
 理絵子は登与と顔を見合わせた。なら、話は早い。
「ええ、はい。滝から落ちたようで。迎えに参りました。ご迷惑をおかけしております」
 応じると、その草本の盛り上がりの向こうから農機具のクワを背にした男性が現れた。頭ははげ上がり……否否、ちょんまげ。首には手ぬぐい。適切な表現か判らぬが“昔話のお百姓さん”というのが理絵子の率直なイメージ。
 男性は近づいてきた。かなり小柄。
「こらまたべっぴんなおなごだ!」
 理絵子と登与を交互に眺め、目に見えて頬を赤くする。
「恐れ入ります」
 これに対して。
「あんだおめえは」
 男性の表情がにわかに厳しくなり、クワを構えて戦闘態勢。
 二人の背後の当麻のこと。
「羽柴(はしば)のモンかおんどりゃ」(訳:羽柴の手先かお前は)
 男性の発言にべっぴん二人は目を見合わせた。
「ダンナさん失礼ですが北条殿(ほうじょうどの)の……」
「いかにも。城は無くても息災じゃ。誰にも渡さんぞ」
 疑念を会話で聞き出すのが面倒くさい。理絵子はテレパシーを使った。あまり褒められた使い方ではないが。
 戦国時代、関ヶ原の前。
 豊臣方の総攻撃に遭って全滅皆殺しにされたと伝わっているが、実際は城内から井戸穴を通じて降りたところここへ繋がっており、城内のかなりの数が難を逃れた。血で川の水が赤く染まったと言われているが、実際にはここの赤土を流し、噂を広めた。
 以降400年以上、ここで地下の生活。
 地下でも光が入ってくるのは。
 理絵子は透視を試みる。ここはドーム球場が幾つも入るサイズの超巨大石英ノジュールで、内部が空洞になったもの。表面をタマゴの殻のように覆う石英・水晶を通して光は柔らかく入ってくる。所々の“穴”は幾度かの関東大地震で崩れて出来たもの。
 登与と共有。彼女の目が見開かれる。
「当麻君は、悪いけど状況が明らかになるまでちょっと静かにしててね」
 これは登与。
「70年前にかなりの数の人間が調査に入り込んだと思いますが。その時のことは伝わっていますか?」
 理絵子は訊いた。この空間が見つかった話を知らぬ。
「それなら、ちょうど大きななゐ(地震)があってな、彼奴等の掘ってきた穴は天井が崩れて皆埋まったと聞いている」

(つづく)

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【理絵子の夜話】城下 -10-

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 とはいえ階段自体はかなり急である。理絵子は公園にあった滑り台を逆に上って階段から降りてきて遊んだことを思い出した。そのくらいの“急”だ。
 足が地に着いた。
 見上げるとプールの底から空を見ているよう。明らかに“そこ”と“ここ”で温度を含む空気の組成が違う。長坂の持ってきた機械で何かしら測れないか。
「なんだ、すぐ終わりじゃん」
 見下ろした当麻が飛び降りた。
 そして、3人揃ったところで、滝を背にする形で向きを変えると。
「これは……」
 理絵子が思い出したのは、SFに出てくるスペースコロニー。
 驚くなと言う方がムリであろう。簡単にはサッカースタジアムが幾つも並べられそうな大空間を有する洞窟であり、所々穴が開いて上層と繋がっているようで、陽光が導入されて“深い森の中”程度の明るさが確保されている。
 自分の街の至近にこんな構造体があるなどどこの書物でも見たことはない。ただ。
「これって……」
「帝国陸軍多摩地下大本営」
 理絵子は、自分がいちばん納得できる見解を口にした。
 描写すべき内容が多い。足下は赤土、光の入る部分には“残された鎮守の森”を想起させる草木の生えた盛り上がり。この空間では半日村どころではなく、光は貴重。植物を育て古代太陽神のようにお祀りする……あり得るだろう。
 足下より流れ出る泉を利用する水路が作られ流れる音が聞こえる。すなわちこの空間は集落として活用され、水路を追うと明るい部分を中心に田畑にされてあり、規則正しく植わった緑色が見える。そして驚くべきか、所々に小さな池が出来ているが、これはどうやら導入された陽光を反射する“水鏡”として使っているようで、応じてあまねく光が届いているようだ。畑の周囲には木造平屋の家屋がぽつぽつ並ぶ。その造作は昔話のあばら屋のようで、応じて電気やガスなどの現代インフラの存在は見えない。この中でいにしえのシステムで完結する村落と確信させる。
 アオダイショウがしきりに首を地面に伸ばし、どうやら降りたがっているようなので腕を下ろすと足下にするり。ニョロニョロ動いて水に身体をつける。行水か。
 逃げない。付き従うという意思があるようなのでそのままにしておく。
「ダイホンエイ?」
 当麻が疑問形。
「太平洋戦争当時、軍の本部、大本営を東京郊外に移転しよう、それは地下に作ろうという計画があって、実際トンネルを掘った。でも、急に放棄されて、戦後も何の調査も入らず、そのうち場所すらも不明になった。甲州街道ってこの周辺だけアスファルトじゃなくてコンクリートでしょう。あれは滑走路として使えるようにと設計された結果」
「あ、それ聞いたことある。でもウソというか誰かが小説のネタに書いたのが広まったって聞いたけど……」
 登与も与り知らぬことのようだ。
 人の気配。

つづく

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【理絵子の夜話】城下 -09-

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「うわっ!」
 彼は驚いて尻餅をついた……のだが、それが視界と視点の変化をもたらし、“滝”の見え方を変えたと二人は気付いた。
「上から見ると深そうに見えたけど斜めから見るとそうでもないな。ってか、寒い」
 理絵子と登与は顔を見合わせた。二人の身長は150センチ台前半。
 目の位置と角度で見え方が変わる、なにがしか、“だまし絵”的な地形、岩等の配置になっているのだろうか。
「でも、飛び降りるには高すぎる……どうやって降りたんだろう知……」
 問題は降りる方法。長坂は自分たちより運動神経がある方だと思うが、パニック状態で木の根を伝って降りるという冷静な判断が出来たのだろうか……。
「これ、階段だよね」
 と、しゃがみ込んだ登与が指さす。しかし理絵子には見えていない。
 二人で違うなら霊的なものではない。理絵子は同様にしゃがんでみた。
 当麻の言った“寒い”の意味を知る。しゃがむと氷穴のような冷たい空気にさーっと包まれる。
 かくしてその冷たい空気の中に身を沈めると、崖状に見えた部分は、勾配こそ急ながら、明らかに人造とおぼしき階段がしつらえられ、踏み板代わりの石が敷いてある。
「これは……」
 二人は顔を見合わせ、立ち上がった。ある高さまで視点が上がると階段は途端に平面状の板の重なりに見える。それは湯船で水面直下の指が短く見える現象を思い出させた。あるいはグラスに挿したストローが飲み物と空気の境目で折れ曲がって見える。
「屈折?」
 立ったり座ったりしてみると、階段が見えたり見なくなったり。
 温度の違う空気のせいか。自分たちの腰の高さに存在する光学的境界線。
「なるほど」
「そういう見立てで良さそうだね。上下混ざるとハッキリしなくなるし。酸素が薄いとかないよね」
 命の危機があれば超感覚がそうと囁く。
 立ったり座ったり、あげくにニヤニヤ笑う二人に当麻が当惑。
「あの……」
「まぁ、私らに付いてきな」
 彼は寝そべらないとその現象は生じないだろう。説明するのも面倒くさいので二人はそのまま階段を降り始めた。
「黒野、お前消えてくぞ!」
「来れば判るよ、おいで」
 まるで幼い弟である。二人が“消えた”せいか心細くなったようで、遅れて足が伸びてきた。
「え?足が付く」
「だから大丈夫だって」

(つづく)

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【理絵子の夜話】城下 -08-

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 当麻は近づいてこようとし、眉間に皺を寄せ、足を止めた。ヘラヘラした男であるが蛇は苦手らしい。防空識別圏のようなモノを設定したと判じる。
「懐かれてしまってね。置いておくと後から来た人が驚くだろうし。んで?知ちゃん見失ったと」
「え?あ、うん」
 当麻はしょげた。格好いいとこ見せたかったのだろうが真逆。
「下は?」
 滝の下。上にいなければ下を探すのが道理だろう。
「見た限りでは見つからないんだ」
「見えないだけかも知れないじゃん」
「どうやって降りるんだよ」
「へ?」
「え!?」
 理絵子はそこで彼我に認識の違いがあると理解した。自分にははみ出た木の根をロープ代わりに降りて行ける程度のところに、滝から落ちた後の川の流れが見えている。
〈彼にはそうじゃないよ〉
 登与からテレパシー。
 華厳の滝とまでは言わぬが飛び降りたら死ぬ程度の高さに見えているよう。
 違いをもたらしている因子は。
「お前か」
 理絵子は蛇を見た。
「登与ちゃん連れてってもいいか」
 舌をペロペロ。……示唆。その気があり勇気があるなら私に触れよ。
 それは“お告げ”なのだが、自分が言ってもいいものか。
〈ああ、私が。霊能者ですから〉
 登与は当麻に向かってビシッとばかりに指さしした。
「な……」
「真面目に聞くかどうかは君次第だ。蛇神様からお告げを頂戴している。君が彼女を思うなら我が身に触れて勇気を示せ。ならば再び並び歩く日が来る」
 感情を殺した声で上意下達。巫女の託宣。バッチリ決まったと理絵子は思った。最も、彼が同行するがするまいが自分たちで行くだけなのだが。少なくも彼がここで逃げ帰ればこの二人の未来は無い。因果律。
「マジか……」
 逡巡。ただ、考える時間を与えるほどヒマでは無い。
「んじゃ私ら行くから」
「わかった。わかったよ。触ればいいんだろ」
 果たして防空識別圏を越えて伸びてきた指先にヘビの尻尾を差し出すと、
 指先でチョイ。
「冷たっ!」
 氷にでも触れたように指を引いた途端、ヘビは鎌首をもたげ、口を開いて威嚇。

(つづく)

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