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魔女と魔法と魔術と蠱と【1】

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 公演が終わった後に子ども達が自分のところへ来て。
「私に(僕に)手品を教えて下さい」
 良くあるパターン。目的は様々。来られなかった他の子に見せたいとか、自分も覚えて他の子を楽しませたいとか。
 中には自分手品師になりたいから……なんてのもあり。そんな場合、彼女は、タネも仕掛けも〝ある〟手品を教える。
 だから。
「僕にも魔法を教えて欲しい」
 なんて質問は想定外だったので。
「何に使うの?」
 と、反射的にきつい声で答えてしまった。黒い瞳に、ころん、と表現しようか、丸みを帯びた顔立ち。髪の毛は肩に触れないところでスパッとカット。少女マンガのヒロイン向きと書けば手っ取り早い。マジックショーということで、金縁の入った青いスーツにシルクハット。
 しまった!と、当然思ったわけだが、よく考えたら今日は〝魔法使いレムリアのマジックショー〟と演目掲げたのだ。そう求められても不思議ではない。
 問うてきた男の子の顔を見る。自分の顔を映した瞳。背は自分より僅かに小柄。彼女は身長153であるからして、中学1年というTシャツ姿の少年は、多分その筋の悩みを抱えていよう。そして〝魔法〟の使い道は限りなく自身の利のため。
 しかもその利は成就を見ない。
 以上超常感覚的知覚、すなわちテレパシーの回答。
「何って……」
 少年は姉に叱られた弟のように、目を泳がせ少しうつむく。それは、底意を見透かされたココロが、身体を通じて表す反応の一つ。
 魔法、と書いたが、副産物がこの超感覚だ。恣意的にこの比類無き力を行使するのは好きではないが、自衛的な状況下では意図せず勝手に働く。
 二人の会話は、二人が認識しているように、姉が弟を叱るが如くであって、故か、退場し掛けていた多くの子ども達が何事かと立ち止まり、自分たちを見ている。
 その子ども達の最年長である彼にとって、それは恥ずかしいことこの上なし。ちなみに、ここは神奈川湘南エリアにある児童館。地元の子供会と保護施設の子ども達との、ゴールデンウィーク交流会。
 彼女はゆっくりシルクハットを取る。
「ここでは言えないこと……?」
 小首を傾げ、小声で尋ねると、小さな頷き。
 彼女は取ったシルクハットをくるりと返して中に手を入れた。
 紙吹雪散らすように舞い上がる幾多のモンシロチョウ。見ていた子ども達からわき起こる歓声と驚き。
「この子達忘れてた。みんなで外に逃がしてあげて」
 子ども達がチョウを追う。彼女は帽子に入れたままの自分の手をゆっくり引き出した。
 手のひらに紙一枚。
「あなたがここの最後の一人になったら、そこへ来て。待ってるから」
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つづく

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