魔女と魔法と魔術と蠱と【12】
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病院の従業員食堂。
カフェテリア形式。トレイを持って4皿チョイス。
レジカウンターに向かい、おばさんに客人向けチケットを渡して通過。空席を探して座る。ちなみに彼女が選んだのはシャケの塩焼きに海藻サラダ、ご飯にみそ汁。勿論そこには他にも医師や看護師、IDカードを下げた病院の職員の方々がいて、彼女の方を見るのだが、彼女はどう見ても〝お昼ご飯の女の子〟であるせいか、イベントの主かどうか訊いてくる人はいなかった。なお、後で聞いた話では、その病院は中学生の体験学習を受け入れることもあり、子どもが従業員食堂で食事、という光景自体は珍しくないそうだ。
「ホント魔法だよ」
ハンバーグにナイフを入れながら、開口一番、彼は言った。
「オレの分のあの衣装ってどこから?」
「企業秘密。あなた良かったよ。最後の方なんか堂に入ってた。あれなら一人で出来るんじゃない?」
彼女は言った。シャケは先に小骨を抜く派。
周囲テーブルからチラチラ彼女を見ている目線があったが、彼女の箸さばきを見て〝まさか〟と思ったか、めいめいのテーブルに目を戻す。まぁ、魔法の国の姫様が、箸で上手に焼き魚とは、夢にも思うまい。彼女は王女でありながら日本国内を偽名で平然と飛び回るわけだが、その背景にはこうした溶け込みと、伴う人々のこんな反応、という事実がある。実際過去、先にその旨訊かれたことは皆無なのだ。
と、彼がハンバーグを切るだけ切って、動作を止めた。
「あのさ」
「ん?」
答えたら突如訪れた強い禁忌、示唆。
テレパシーを使うな。
急かすな。
恐ろしく強引で強制的なイメージ。
何かあるのだろう。予知的に働く超常感覚的知覚。天啓という奴だ。彼女は刻んだシャケを口に放り込み、彼を見、言葉を待つ。
彼を見つめる、輝く丸い目。
彼は深呼吸し、息を吸い、息を止め。
彼女の目に焦点を合わせ。
一旦口を開き、躊躇うように閉じ、恥じらうように目線ずらしながら、言った。
「食べたら、か、鎌倉湖行かない?」
「いいよ」
彼女は即答してご飯を一口。言われて風景を思い出し、ああ行きたいと思った、それだけ。この後は予定もないし、あの水と緑の中で時間過ごすの歓迎。
彼が彼女に目を戻す。
「そ、そのオレ、何もお礼とか用意できないからさ。あそこが好きなら、と思って」
取って付けたように、彼は言った。
なるほど、と彼女は思った。彼にとって自分は〝助けてくれた存在〟になるのだ。
「ありがと。じゃ、連れてって」
「う、うん」
笑みを返すと彼は頷き、しかし再び目を逸らした。
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(つづく)
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