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魔女と魔法と魔術と蠱と【10】

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 再診日。
 医師はレントゲン写真を見ながら首を傾げ、感嘆の息。
「奇跡という言葉は使いたくないから、偶然と自然治癒力の賜物としておこう」
 カルテにさらさらと万年筆を走らせる。
「舞台から階段を下りるつもりで実際には落ちた」
「ハイそうです」
「君の全体重がこの手首に掛かったわけだ。しかも無防備な落下だ。力入れて突っ張ったわけじゃない。骨折でもおかしくはなかった。実際鼻の方は曲がったけどな」
 医師はペン先でパソコン液晶画面の手首の骨をつんつん。その言葉遣いは、自身納得出来ないのか、どこか不満げなニュアンス。
 しかし次の瞬間には小さく笑い、
「でも治ってるとしか言いようがない。自転車の山乗りか、してもいいよ」
 医師は少年を見て言った。
「ホントですか?」
「良かったじゃん」
 彼女は少年の肩をポンポンと叩いた。
 少年が笑みを浮かべ、医師がフッと笑う。
「後は大人の書類のやりとりだ。当院と施設の方とでやっておくよ。しかし……プリンセスさん」
 彼女のこと。
「はい」
「あなたに出会った子ども達は見違えると聞く。ケガが軽く済むとか、死の淵から引き戻してしまうとか。それはどうやら確かなようだね。バカな医者がいてね。分散分析って統計学の手法を使って確認したんだと。挙げ句奇跡だ魔法だってメール飛ばしてきてね。『オレならミラクルプリンセスとお呼びする』とさ。あなたの国は魔女伝説があるそうだが……そういう魔法なら私も是非欲しいなぁ」
 医師は照れたように笑った。魔法の少女という存在に顔を覗かせた少年のときめき、そんなところか。
 そこで、彼女はちょっとイタズラ。
「我らを見守りし月の精霊よ、我が名において、我が友に聖なる力を授けたまえ……」
 口にしたら、医師は感電したような反応を示した。それは日本の神様に対する『恐み恐みも白す(かしこみかしこみもまをす)』に相当する冒頭の挨拶であって、特に使用言語の指定はないし、声に出すことは禁忌でもない。
 ただ、流儀には則った。
 医師はほう、と声に出して感心を表し。
「さすがに堂に入ってるねぇ。言葉に力がある」
「言葉だけでもそれだけの力がある、ということです」
 言ったら、医師は目を見開いた。
「ちょっとした挨拶、掛ける一言、口調や言い方で子ども達の受け取り方は変わります。子どもには底意も疑いもないから当然のこと。逆に言うと、この程度と思ったことでも真に受けて、ひどく不安にもなる」
 それは彼女の信念。
 医師はゆっくり、頷いた。
「それはあなたの言う通りだ。ケガや病気は、方法と気持ちの双方が揃って治すものだ。……なんか私も小児病棟まで出張りたくなってきたな」
 聞いてギョッとした表情を示したのは、この整形外科本来の看護師。
「まさか先生本気でおっしゃって」
「はっはっは。ウソだよ。さ、君はそんなわけでもう大丈夫だ。で、もう帰るかね?」
「いえ、その、か、彼女と一緒に」
「デートかい!プリンセスゲットとはすごいぞ」
 医師はまるで自分の息子のようにオーバーアクション。
「じゃなくて、マジックショーの方に……」
「それでも羨ましいぞ。まぁ、彼女の魔法にかかってくるんだな。プリンセス、小児科のみんなによろしく」
「はい、先生」
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つづく

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