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魔女と魔法と魔術と蠱と【5】

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「(処置を彼に変わっても?)」
 彼女は問うた。
 警官が答える前に彼女は立ち上がり、団長が心マッサージを変わる。
 彼女はそれを確認すると、刺激しないようゆっくりした動きで警官に向かい、両腕を広げた。
「Go ahead.(おやんなさい)」
 真っ直ぐ目を見て言う。
「make my day.(ご機嫌な一日にしてくれよ)」
 マグナム44をぶっ放す銀幕の警官を知ってるかどうかは知らぬが。
 波の音。
 累々と横たわる人体。
 対峙する拳銃の警官と、ナースウェアの少女。
 彼女はまばたきすらしない。
 警官は、彼女から目線を外し、拳銃をホルダーに戻した。
「(子どもを助けたところで、面倒が増えるだけだぜ)」
「(子どもがいなくなれば、国は老いて滅びる)」
 マッサージを再び変わる。団長が警官に尋ねる。
「(近隣に医者が必要なところはないか?我々は先遣だ。追って本隊が来る)」
 議論は時間の無駄。
「カモン」
 警官は団長に顎をしゃくった。
「プリンセス……」
 団長は立ち上がる途中、彼女の耳に声を掛ける。
 言われなくても意図は判っている。男の子に費やす時間と、他の可能性を見つける時間と、トレードオフがある。
「ええ。団長は警官さんの方を」
 彼女はそう答える。
 二人が歩き去る。
 誰もいなくなる。
 その表現は正確ではないかも知れぬ。男の子はそこにおり、
 人々は延々とある。
 彼女はひとり、心マッサージを繰り返す。
 時に胸に耳を当て、不要と言われた水の吸い出しを行い、
 更に心マッサージ。
 自分を照らす太陽の角度が、次第に変わって行くのを感じる。
 傍らでビデオカメラが赤いランプを灯してそれをずっと〝見て〟いる。
 近づくモーターボートのエンジン音。
「プリンセス!」
 声に目を向けると、マダガスカルの船が沖合にあり、恐らく浜の水深か、或いは人体への配慮の故であろう、エンジン付きゴムボートがこちらへ走ってくる。
 乗っているのはコンゴからのスタッフと、家庭用カメラを手にしたテレビ局カメラマン。
 彼女は作業はそのまま、カメラをじっと見返し、言う。
「(肺のドレンを)」
「(持ってきている。その少年は?バイタルは?)」
「ゼロ・ゼロ・ゼロ・ゼロ・ゼロ」
 脈拍、呼吸、血圧、体温、意識。
「(それでは……)」
「(でも、私の感覚に過ぎない。医師が機材を併用しての診断ではない)」
「(判った)」
 コンゴのスタッフはそれだけで彼女の真意を掌握したようである。一旦ボートを下り、人体を移動させ道を造り、ボートから機材を運び込む。
 その傍らで立ちつくすカメラマン。
 さすがに〝絵になる画像〟を探すのが商売の彼であっても、人体で埋め尽くされる状況には驚愕し、足が止まったようだ。
 予報と復旧がシステム化されている現代日本では、まず起こらない。
「これ全部……」
「決めるな!」
 彼女は叫んだ。
 カメラマンはびくり、と全身を震わせた。
「すいません……あ、そういえば頼んだカメラは」
 カメラマンは話題を変えるように目線を外し、周囲を見回し、足元のビデオカメラを発見する。
 カメラは無造作に放り出されたようにそこにあり、電源が切れている。
 再起動すると、ディスク残量無しの旨表示。
 カメラマンはカメラ内蔵の液晶モニターで再生する。傍らでは男の子の口からパイプが差し込まれ、水の排出。
「これ……」
 カメラマンが呟いた。
「あんた……じゃない。姫様、あなた心臓マッサージを2時間ずっと」
 彼女は、コンゴのスタッフから渡されたミネラルウォーターを手に、カメラマンを無言で見返した。カメラマンは目を円くし、その瞳が小刻みに震えている。
 しかし、驚かれるほどのことではない。できる範囲以上のことはしていない。
 傍らで激しく咳き込む声。
「(プリンセス。蘇生した!……あなたはすごい。なぜ判る。なぜあなたが触れた命は蘇る!おお、おお、あなたを奇跡と言う人の気持ちが……)」
「(輸液しましょう)」
 するとカメラマンが状況を知り、早速持参したカメラの録画をスタート。
「奇跡だ。すげえ。これはすげえぞ……いただきだ」
「馬鹿」
 彼女のその一言に、カメラマンはぎょっとした目で彼女を振り仰いだ。
 聞かれた。バレた。そんなニュアンスか。
「まだ何か撮りますか。正直、手を貸して頂けるとありがたいのですが。まだ、助かる子がいるかも知れない」
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つづく

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