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魔女と魔法と魔術と蠱と【4】

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 その空の彼方、直線距離にして1000マイル程になろうか。
 ベンガル湾岸を台風と同質の熱帯低気圧、サイクロンがかすめ通り、大きな被害が出た、という知らせが団長の衛星携帯電話に届いた。
 EFMMの旅程は大きく変更された。テレビ局は予定変更を大きく渋ったのであったが、「だったらカネ引き上げてさっさと帰れ」という団長のひとことに何事か相談し、付き従うという選択をした。
 まずジェット機でその国の首都まで飛ぶ。テレビ局は貨物室を借りて機材車を丸ごと収めた。
 次いでその国の支援団体のクルマを借り受け、ベンガル湾岸へ向かう。機材車は後から付いてくる。
 しかし湾岸へ向かうハイウェイは前途を失う。広大な土地が高潮と河川氾濫で水没しているためだ。
「ここで活動をしては?」
 テレビ局が再び渋った。豊富な機材を持って行けない。
「ここには何もない。我々は人がいない場所に用はない」
 団長の声を彼女は通訳した。
 ぬかるんだ悪路を通って水没域を迂回する断を下す。100キロを行くのに300キロを遠回り。
 当然クルマは途中で燃料が無くなり、住人にガイドを頼んで馬でクルマを引いた。
 どうにかして現地を目指すEFMM一行。
 対しテレビ局は文字通り這々の体ながらもどうにか付いてきた。機材車は結局悪路を前に引き返させ、家庭用のビデオカメラ2台と衛星携帯電話だけ持ってきた。タレントも一緒だ。それはそれでプロ根性かも知れぬ。
 途中、その家庭用カメラと衛星電話を使って難行苦行をそれらしく中継。余りに演出が過ぎるので被害者はもっと大変だと皮肉ってやった。
 深夜、出発より19時間で港湾都市に達した。後は海路だ。ここでサイクロン回避のため停泊していたマダガスカルの漁船と交渉し、乗せてもらうことになった。
 条件は積み増す燃料代を出すこと。給油を待って夜明け前に出航する。余波で荒波残る中を氾濫河川の河口域へ。船は上下に揺れつつ、しかし力任せに波を砕き、派手にしぶきを飛ばしながら西進する。彼女たちは甲板にあり、双眼鏡を手に行く先を代わる代わる見つめている。テレビクルーは船酔いか、借り受けた船室にこもったまま。
 日が昇ると船へ向かい飛来するヘリコプターがあった。
 被災国の軍の物である。船の上空にとどまり併走する。肥え太った独裁者の顔が脳裏をかすめる。
「Will refused acceptance? . Almost time of some stupid country.(受け入れ拒否?どこかの国みたいに)」
 尋ねたがそうではなかった。船室から甲板へ駆け出てくる浅黒い肌の男性。今般彼らの夜行臨時急行船を買って出たマダガスカルの船主。
「(二人運べる。乗る者はいるか。だそうだ)」
 意に反した反応と言うべきか、はたまた渡りに船か。EFMMのメンバーは5人。機材はテント3張りに医療機器が重量100キロ。
 団長と彼女が行くことになった。彼女はメンバー中で最も体重が軽い。その分、医療機器が運べるからだ。AEDと応急処置の用具を少し。
 テレビ局はビデオカメラだけでも持って行ってくれと乞うた。
「ドラマの撮影じゃないんですよ」
「殿下がどんなことをされているかを日本の子ども達に伝えたいのです。カメラマンになってくれとは申しません。どこかに録画状態で置いといて頂ければ」
 団長がカメラを受け取った。大人の判断だと団長は付け加えた。
 それでもテレビ局はスポンサーである。
 軍のヘリに乗って海岸地域へ向かう。
 見えてくる。
 上空から見た波打ち際は多数の流木が打ち上げられているのか、そのように見えた。
 そうではなかった。
 近づくとそれは人体であった。
 弧を描く海岸線を埋め尽くす、夥しい数の動かぬ人体。
 周囲には、それら人体に対し目を向け手を出すような人影は見えない。
 最初から諦めているのか。
 だからこそ、探さなくてはいけない、のではないか。
「(降ろして!)」
「(どうせ全部……)」
「(誰か確かめたの!?)」
「(奥地に重要なケガ人が……)」
 その物言いに底意を感じ、彼女は傍ら兵士の目を真っ直ぐ見つめる。唇を真一文字に結んで正面から見る。
 すると兵士の目が泳ぐ。その顔に残る幼さ。まだ少年の域を出ないのではないか。
「(ケガの内容は?)」
「(割れたガラスで傷が)」
「(どんな方ですか?年齢は?傷の場所は)」
 軍の幹部だと少年兵士は露した。
 彼女はヘリコプターのドアを開いた。
 気流が乱れて機体が揺れる。
「(何しやがる!)」
 操縦桿からの怒号。
「(生きていると判っているなら後でも良い。私たちのなすべきは生きる可能性を探し、確実に変えること。下ろしなさい。嫌というなら飛び降ります!)」
 そこで団長がひとこと。
「(言っておくがビデオカメラに収めている。何かあってもディスクだから、このまま海へ放ったところで消えたりはしないだろうな。さすが日本製だ)」
 果たしてヘリコプターは海岸線へ着地した。
「(くそったれ!)」
 二人を捨てるように降ろすや、医療機器を載せたまま、ヘリは再度離陸した。下ろす代わりにくれてやると団長が言ったためだ。
 団長の携帯も身代に取られたので、彼女がウェストポーチから衛星携帯電話を取り出し、船の仲間に一報。ちなみにポーチは服の下、なおかつ背中に回して隠してあった。有り体に言えば女の武器だ。
 すぐに早足で西へ西へと歩きながら、可能性を探し始める。波に洗われる変わり果てた人体の数多。
「(プリンセス。正直難しいかも知れないぞ)」
 サイクロンが襲ってより1昼夜である。この人々は来襲を知らず高潮や洪水で水中に没し、挙げ句この海岸へ打ち上げられたのであろう。
 つまり時間が経ちすぎている。証左に、手や足は枝のようにある姿勢のまま固定され、微動だにしない。
 しかし時間が全てを決するわけではない。
 長き時間はそうかも知れぬ。しかし、まだその長きではない。
 まだ。
「(子どもを……子どもを捜して下さい。子どもなら……まだ判らない)」
「(判った。では私は東へ向かおう)」
「(お願いします)」
 しかし困難はすぐに明らかであった。何か求めたか、手を開き伸ばす形のまま、ストップモーションの掛かった腕。
 これだけの“人”がいながら、その“人”は動かず声も出さず、打ち寄せる波の音が聞こえているだけ。
 失われている膨大な人命。
「プリンセス!」
 背後からの団長の呼び声に、彼女は振り向くより早く走り出した。
 海岸線に沿って曲線を描くことすらもどかしい。波打ち際を一直線に走る。
「(黒だが)」
 団長が心マッサージをしている男の子。その意味、トリアージなら黒札。すなわち一般の災害救助では既に死亡として扱われ、救助対象から外される状態。
 確かに、男の子の瞼は閉じられ、呼吸はなく、身体は動かない。ただ、他の“人体”と異なり、生命体の柔軟性を示している。
 近づく砂の足音。
「(お前達何をしている!)」
 たどたどしい英語。振り仰ぐと制帽制服を身に付け、二人に銃口を向けている。腕のワッペンにpoliceとあり、地元の警官と知れる。
 遺体から貴金属を奪取する泥棒の疑いである。
「ウィ・アー・メディカル・チーム」
 団長が着ている白衣を手に持って見せ、説明にかかる。彼女は団長に代わって砂浜に膝を突き、男の子の口を開き、口をあてがって中の水を吸い出し、吐き捨てる。
 声帯が震えたか、声と呼べぬ声が出る。彼女の瞳がキラリと光る。
 繰り返す。心臓マッサージをし、水を吸い出す。
 団長が戻ってきた。銃を出したままの警官を伴っている。警官は言葉だけでは信じようとせず、現場確認に来たのだと知る。
「(その状態だと水にこだわる必要はない。ドレンは機材を待つ。とにかく心拍の確保だ)」
「Stand up. body check.」
 警官が団長の脇から銃を突き出し、銃口をしゃくり、彼女に立ち上がるよう命じた。
 ボディチェック。盗んだ物を身につけていないか調べる、という名目である。
「(オレには何もしなかったが?何故彼女には?)」
「(子どもだからこそ怪しい)」
 警官の顔に下卑た笑いが浮かんだ。
 彼女はやがて14歳という少女である。
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つづく

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