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魔女と魔法と魔術と蠱と【9】

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 少年が目を開くと、傍らにはカチャカチャとレース編みに忙しい娘がいた。
「ああ気が付いた。良かった。痛かったら言って。ドクターに鎮痛剤頼むから。朝ご飯食べる?お腹空いてない?」
 彼女は編み針を下ろして言った。
 少年はゆっくりと周囲を見回す。何で自分がここにいるのか判らない。そんな風情である。ここは12階建ての総合病院。その最上階近くの個室ベッド。
 着せられたシマシマパジャマの袖を見、包帯巻かれた手首の表裏。次いで頭全体を覆うネットと、ネットの下のガーゼに触れる。鼻柱にはプラスチックの保護ケース。
「ごめんね。私が下手にしゃがんだりしないで、そのまま受け取れば、あなたは落ちたりしなかった」
 彼女は彼の鼻の周りに指で触れた。まだ腫れが引いてない。
「痛くない?」
「うん。……ああ、オレやっぱ落ちたのか。ボーッとなったけど、鼻血噴き出したことは」
 記憶の範囲は思い出したようである。
 溜息混じりにうつむき、そしてハッと顔を上げる。
「太陽?は?朝ご飯!?」
 番組は夜である。一夜明けている。
「えっと。えーっと……」
 少年はその後を思い出そうとしているようである。だが、それは無理だ。彼は失神していた。
「観客の子がここの先生にアポ取ってくれて担ぎ込んだ。手首はねんざ、鼻の軟骨が大ざっぱに言えば骨折。あと、頭を少し切ったのと、脳しんとう。しばらくは気持ち悪いかもと思うんだけど、目が回るような感じとか、ない?」
「それは……」
 少年は話半分といった口調で答え、手首の包帯を見、窓の外の追いかけ合うスズメを見やった。
 まるで自覚無くこの場に放り込まれた時間旅行者である。最も、その通りであろうが。
「まさか君ずっと。じゃない、あなた様ずっと、ですか?」
「まぁね。敬語禁止。看護師が徹夜して何が悪いとや?」
 いんちき博多弁。なお、各地の方言勉強中。
「でも」
「私自身は姫であろうが無かろうが何か変えたつもりはないよ。それとも変わった?私」
「でも……」
 彼は戸惑うばかり。〝姫〟と判じて扱いあぐねているようだ。
「は~あ」
 彼女はやや大げさにため息をついた。
「だから、そこばっかり取り上げるのは止めてくれって言ったんだけどね。所詮まねっこ番組の限界かねぇ。やっぱやめときゃ良かったかな」
「いや、そんなことない。じゃない、ないですよ」
 彼女が口にした後悔を、彼は力強く打ち消した。
「毎晩見てたよ。別人かと思った。すげーパワーというかバイタリティだなって。ボランティアって、もっといい子ブリッコでフワフワしたイメージがあったから。
 ショック受けたよオレ。こんなの到底オレには無理だなって。あの大雨で中継切れたヤツなんか、どうやって助かったの?」
 彼は迸るように、矢継ぎ早に、そう言った。
「それは、間違い」
 彼女はゆっくり、否定した。
「え……」
「昨日君を助けたのは」
 5人名前を挙げる。抱きかかえてくれた男の子3人。病院とアポ取ってくれた男の子。お父さんがクルマを出してくれた女の子。
「ハンカチやタオルなんか借りたけど、誰のかも判らない。でも探すアテはあるし、どうやら女の子っぽいからちょっとオマケ付けて返そうって企み」
 彼女はウィンクして、レース編みの小さなハート型を彼に見せた。
 同じもの四つ作って四つ葉のクローバーにする。
 彼はしばし彼女を見つめ、まばたきもしない。
「どうした?気持ち悪いの?」
 彼女が腰を浮かす。
「いや、違う。……その、憶えてるわけ?あれだけの子達」
「全部が全部はさすがにまさかだけどね。顔見れば、あーあの時のって思い出せるよ。でもそれ言ったらガッコのセンセってスゴイよね。大体憶えてるでしょ。担当した子どもが毎年40人とか増えてくのにさ」
 彼女は付き添い椅子に身を戻した。
「いつから……」
「私?思い立ったのは9つ。半年後に初めて病院に行って……でもそこで事故が起こって。
 何もできなくてさ。無駄そのもの。すごく悔しかった。で、こういうことするんなら、私自身が看護師になれば役に立つかなって。言葉勉強して、看護師の資格を取ったの自体は12歳。今の君と同じ」
「俺と同じ……」
「そう、つまり決して無理じゃないってこと。実際みんな君を助けてくれたでしょ。誰でも何か出来ることはあるんだって。どうせならやってみる?一緒に」
 彼は目を見開いた。
「い、一緒って?」
「まずはマジックショー。一週間後の再診の時、ここの小児病棟に顔を出すって話にしたんだ。その時一緒に」
「再診って……俺の?」
 彼は自分を指差して訊いた。
「もちろん。他に誰が?看護師は自分が担当した人は完了まで責任持つものです」
「あ、うん。……そう、だよね」
 彼は微笑んだ。
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つづく

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