【妖精エウリーの小さなお話】瑠璃色の翅は青い空に
台風。
体重の軽い私たち妖精族にとって、この熱帯産の暴風雨は最大限避けたい相手です。
でもそれは私たちが相談相手になっている虫たちや動物たちも同じこと。
フェアリーランドに逃げてしまえば私たち自身の危難は回避できますが、そういう事情から逆に地上に残らなければいけないのが台風襲来のやっかいなところ。
でも、どうにかやり過ごせたようです。吹き返しの風は残っていますが、夜明けの空には、こっそり昇ってきた冬の星も幾つか。
やがて群青から青へと変わって行く空に星の光が吸い込まれて消え、台風一過の雑木林は、まず鳥たちのざわめきが戻ってきました。
私は隠れていた木の虚から身を乗り出します。身長15センチは文字通り〝吹けば飛ぶよな〟身体。その代わりに、こんな小さな穴でも入り込める。ちなみに、穴の中にはヤマトゴキブリ一家が一緒。ええ人間さんが大変嫌悪しているゴキブリです。でも何か?
穴の外、目の前の梢にスズメ。
〈何ともない?〉
私はスズメに尋ねました。といっても、スズメは人語を解しません。そういう〝意志〟を発しただけ。
言葉を使わぬ意思疎通。すなわちテレパシー。
〈ええまぁ、だけど翼が何か気持ち悪くて……〉
〈海の水で出来てる嵐だからね。水浴びしておいで〉
〈そうします〉
スズメが飛び立ったところで、私はこの雑木林の巡回に出ようとし、慌てて穴に引っ込みました。
なぜなら人間さんの声。
しかもかなりの数。
妖精族は人間さんとのコミュニケーションを原則禁止されています。人間さんが〝妖精なんかいるわけ無い〟と決めているからです。私たちはあくまで虫と動物のサポートであって、それ以外の権限はありません。
さておき、これだけの人がいるのは何か事件でしょうか。見ていると、人々は手に手に……捕虫網?
「いないぞ!」
「そっちは!」
人々は何か探しています。捕虫網ですから昆虫か小動物か。
〈ここはどこなの?〉
捉えたのは彷徨える意志。但し日本語で表記するとそうなるだけで、実際にはそういう意志だけ。
意志放たれた方向に目を向けると、ふらふらと飛ぶチョウが一匹。
瑠璃色の翅はルリタテハかオオムラサキか。
そのどちらでもありません。どころか、日本のチョウじゃない。
迷チョウ……ご存じの方もあるかも知れません。台風の目に閉じこめられ、本来生息の地より遠くへ運ばれてしまった異国のチョウのことです。
マルバネルリマダラ(Euploea eunice)。グアムでしょうかそれともフィリピン。手のひらサイズの青い翅。
どちらにせよ〝コレクター〟にとっては格好のトロフィー。もちろん網持つ人々全てがそうとは思いません。ただ、〝命〟という根本を忘れている人が昨今多いのも実感。
「いた、いたぞ!」
「高い!網が届かない!」
どうやら発見されたようです。
〈おいで〉
私は舞う翅を呼びます。
〈妖精……さん?〉
「あそこだ!木の穴に入った」
チョウは私に呼ばれたと判るや、穴に入ってきました。台風に飛ばされ、こうして網で追われ、さんざ飛び回ったのでしょう。翅のあちこちが欠け、ギザギザになっています。
〈苦労したね。ここは日本。あなたの種族は本来住まない土地〉
私は言いながら、首から下げている金のチェーンのペンダントを外します。ペンダントの先には青いサファイヤ様の石がぶら下がっています。言ってしまえば妖精の魔法の石。これで一旦フェアリーランドを経由し、本来の居住地へ戻そうという算段。
私は石を手のひらに載せ、後はチェーンを。
テレパシーが捉えた危機感。
地震かと思うような強い衝撃が私たちのクヌギの木を襲います。
木を揺らし、チョウを脅して穴から再度飛び立たせようというのでしょう。私は驚く翅を守ろうととっさに腕を回し、代わりに自分が大失態をしました。
衝撃で手のひらの石が転がり落ち、穴から外へ。
「……!」
全身の血が一瞬止まったような感じ。
声も出ません。
「出て来ないぞ」
「なんだこれ。あ、紫水晶ひーろった」
どこかの男の子。それは私の石でしょう。
まずい、やばい、頭をよぎります。しかし今そこにある更に大きな危難。
「君が僕の肩に乗れ、そっちの枝に足を掛ければ手が届く」
そんな声。つまり、この穴に手を突っ込んで取ろうと?
穴から外をチラリと覗くと、大人の肩の上に子どもが立ち、ものすごい形相でこの穴へ手を伸ばして来ます。
逃げる?穴から出る?
この状況で、石もないのに、どうやって。
〈あの。お手伝いしましょうか?〉
声を掛けてきたのは前述のヤマトゴキブリ。この種族は、こうした雑木林に生息し、近くに人家があればそちらにも。そんな生態です。クワガタ取りで黒いのが見えたと手を伸ばしたらゴキブリだった、という経験をお持ちの方もあるでしょう。でもゴキブリは本来森林性の昆虫です。ご存じの方もあるかと思いますが、3億年前からこの姿。当時当然人家などあるはずもなく。人家専門のクロゴキブリはむしろ進化順応。
木の穴の外に手のひら。
そこでゴキブリたちが動きます。と言っても、穴からぞろっと出るだけ。
「うわゴキブリだっ!」
伸ばされた手が引っ込みました。
〈今です〉
〈ありがとう〉
促され、私はチョウと共に穴から飛び出します。
下方ではゴキブリに驚いた人間さん2階建てが倒れるタワーのように崩れ落ちて行くところ。
ここで、時間を引き延ばして書きます。
まず、チョウは自前の翅で羽ばたきを始めます。
そして、私もまず背中の翅を伸ばします。妖精ですから、形態上は人体にクサカゲロウとよく似た形の翅が2枚。伸縮自在。
ただ、欧州の伝説で知られるフェアリー族と違い、私はギリシャ神話のニンフの血を引く種族。
背伸びするように手足を伸ばすと、身体のサイズが変わります。
こうして、〝人間タワー〟が雑木林腐葉土の上にドサッと倒れた時、彼らの背後には髪の長い白装束の女が一名。
両手を〝おむすび〟作るように組み合わせています。もちろん、中にはルリマダラ。ただ、私自身の翅は着地の減速に使っただけですぐに縮めています。本当はそのまま飛んで行ければ良かったのですが、小さいままでの高速飛翔はチョウの翅が風圧に耐えきれず。大きい身では翅が長すぎて輻輳する枝葉が邪魔。中間サイズでは手の中にチョウが収まらない。
「何だお前!?」
人間タワーの上段にいた子どもさんが倒れながら私に気づいて叫びました。
その場人々の目が一斉に私の方へ向きます。
どうやら石を探す時間はなさそうです。私はまずは走り出します。
「逃げたっ!」
「あの女がチョウ持ってるぞ」
「君、それは学術的に貴重な資料だ。返したまえ」
返せ。よく言う。むしろこっちの台詞。
全力疾走。とにかくこの林を出ることにします。追ってくる足音と声が次第に遠ざかって行きます。
「すげー速え。なんだあの女」
「おい持ってきた……」
以下聞き取れず。
少し広いところへ出ました。
広い林でまだまだ続いています。人々は入れるところから来たはずで、そちらと逆方向へ向かったのですから、出られないのは当然かも知れません。
でも、私たちは、上へ出られる。
青い空へ向かって、私は翅も使って大きく飛び上がりました。
木の上。ところがそこで出くわしたのは、空飛ぶ生き物ならぬ、機械。
ラジコンヘリコプター。
「ヘリがキャッチ!」
「何だこの女!」
そんな声。どうもヘリコプターには中継できるカメラが積んであるよう。お宝チョウを見失わないようにあらかじめ用意?
近い将来、空飛ぶ昆虫は、この種の機械で捕まえようということになるのでしょうか。
ともあれ困りました。私の翅は、人間サイズであれば、狩るハヤブサをも凌ぐ200キロ近い速度が出せます。でもそんな姿カメラに収まっていいのか。
仮に飛んだとして、ラジコンヘリは容易に振り切れるでしょう。でも、林を越えれば人家が多い。そこを人間サイズで飛ぶ?
だからこその手のひらサイズ。
要は人々に見えなければいいのです。
私はそのまま地上めがけて飛び降ります。
木の根元に降り立つ私。
「いたぞっ!」
走って来る……その姿は最早〝群衆〟に、私は見つかります。
でもすぐに身を縮めて手のひらサイズになり、そのまま木の裏側へ移動。この手の、飛び降りてから這って移動し、場所を変える、というのは、バッタやキリギリスの流儀。飛翔したバッタが飛び降りた。網を振ったがいなかった。そんな経験、ありませんか?
「あれ?消えた」
「探せ探せ」
騒ぐ人々の足音を聞きながら、落ち葉の下で息を潜めていると、足下に穴が開いていることに気づきます。
モグラの穴です。
私は着ている白装束、トーガ(toga)……すなわち身にまとった一枚布の背中にチョウを止まらせると、モグラの穴へ入り込みました。
中は真っ暗。ただ、超常感覚は一式持っているので、薄ぼんやりと状況は判ります。
〈持ち主は誰?〉
訊きながら、しばらく進みます。上の方でドタバタ動きがあり、都度、トンネルの壁から土がポロポロ。
人とは違う小刻みな足音。但しモグラではありません。
ケラ。財布がオケラでおなじみのコオロギの仲間。春先に〝ビー〟と大きな音で鳴き出すのは彼らです。
〈……妖精さんですか?〉
昆虫たちは遺伝子的に私たちの存在を知っていますが、モグラのトンネルで出くわすのはさすがに驚いたよう。
私は事情を話して逃げ道を尋ねました。
〈こちらへ〉
ケラは当然自前でトンネルを掘りますし、モグラはかえって天敵のはずですが、方向の見当は付くようです。私達は案内を受けてトンネルを進み、外へ出ました。
林に隣接して設けられた畑のあぜ道。
モグラの穴は畑でミミズ探し用。そんなところでしょうか。
人々が林の中で探す声と、林の上を飛び回るラジコンヘリ。
出し抜いたようです。
「ありがとう」
私はローヤルゼリーから出来た特製の〝お菓子〟をお礼に渡すと、畑を横切り、農道を人間サイズで歩き出しました。
歩きながら考えます。この先どうしよう。
しかるべき研究機関等にチョウを渡せば、寿命の限りの命の保証は出来るでしょう。ただ、私としては、元いた場所へ返したい。
この翅で飛んで行く?不可能じゃないでしょう。ただ、時速200キロで国境越えて飛んでくる人間サイズは、果たしてどのように思われるでしょうか。
それに石の問題もあります。あの石は音声認識……要するに呪文を唱えるといろいろやってくれます。日常会話で出てくる言葉は呪文に含まれませんので、間違って起動することはまずありません。ただ、超能力の増幅作用があるので、極端な話、呪うなどの悪意を持つと、それがパワーアップされて放出されるという懸念はあります。
取り返す必要があります。無事に確実にこのチョウを返すためにも。
考えながら歩いていたら、人家並ぶ辺りまで来てしまいました。この際ですからいっそのこと人間さんに頼んでしまいましょうか。
〈妖精さん、私じゃお手伝いできませんかね〉
気持ちをくれたのは、庭先で伏せていた白い毛の老犬。
〈そこから動けるの?〉
私は犬小屋前、柱にロープでつながれた老犬に目を向けます。犬には前にも、迷子になった女の子の親御さんを探すとか、手伝ってもらったことがあります。
〈外していただければ〉
〈ご主人さんは?〉
見れば開け放した窓の向こうで男性が横たわり、腕枕でテレビを見ています。
〈内緒で〉
つまり無断で。でも正面切ってお宅のワンちゃんを貸して下さい……?
〈たまには散歩コース以外の場所に行きたいですよ〉
人間さんに例えるならちょっと冒険、そんな気持ち。
いいのでしょうか。でも、背に腹は代えられず。なのも確か。
私は身体を縮めて庭に入ります。
そこで身体を伸ばし、ロープを外します。
走り出すワンちゃん。私は再度身を縮め、チョウとその背中に。
「あ、ジョン!こら待てジョン!どこへ行く!」
気づいたご主人が立ち上がってサンダルを突っかけた時、ジョンは私たちを乗せて柵を跳び越えていました。
〈あなたと同じ匂いのする石ころを探せばいいんですね〉
〈そう〉
私は来た道を戻る形で、ジョンを先ほどの林へ誘導します。人間さん達は多分まだ中でチョウを探しているはず。
〈……匂いますね〉
ジョンが足を止めました。
〈近づいてきます。誰か持って歩いてるんじゃないですか?〉
休耕田の草ぼうぼうの向こうに見え隠れする捕虫網。
〈あの網の方へお願い〉
〈判りました〉
ジョンは休耕田のあぜ道を大きく回り、網の行く手に先回り。
小道で網の持ち主と出くわします。男の子。手首には私のペンダント。
突然の犬との遭遇に目を円くして固まっています。
「な、なんだよ。……あ、あのチョウだ!」
白い毛の中の瑠璃色に気づいたらしく大きな声。
私はチョウを伴って飛び立ちます。男の子の視界から外れさえすれば、一瞬で充分。
人間サイズになって男の子の背後へ。
男の子がジョンの背中に網を振り下ろしました。
もちろん、そこに私たちはいません。
「あれ?」
不思議がる男の子の声に、むしろ林の中の方が強く反応します。男の子の声が一部の大人に聞こえたようです。
こっち、とか言ってますので、程なくここへ来るでしょう。時間の猶予はありません。
「この子、捕まえちゃうの?」
私は言いながら、男の子の傍らをすり抜け、前に立ちました。
突然の女の出現に男の子はびっくり。
「な、なんだよあんた……あ、そのチョウ!狡い、先に見つけたのオレだぞ」
この状況でその石返して……ああ、なんと言いにくいことでしょうか。
〈私と引き替えになさって下さい〉
チョウの提案。そんなこと出来るもんですか。
〈もう寿命も近いです。その石が人間さんの手に渡る方が後々危険かと〉
確かに、羽化後のチョウは渡りをする種族を除き、持って10日から2週。この辺りよくセミが引き合いに出されますが、昆虫の成虫は子孫を残すことのみが使命。数の多い種類ほど成虫の期間は短い傾向があります。エサも後回しに命削ってパートナーを探すのです。文字通りなりふり構わず。このチョウは台風に巻き込まれ、本来ならパートナーを探す期間ひたすら飛び続けざるを得なかった。
だからこそ、返したいのです。石とチョウとは天秤に掛けられな……。
いやそうでもない。石さえあれば。
「その青い石、私のだと言ったら、チョウと引き替えに返してくれる?」
果たして私は言いました。
「はぁ?」
「その石、木の穴のこの子取ろうとした時、穴から落ちたのを君が拾ったんでしょ?私はそれを落として探してたの」
「お前何言ってんの?バカじゃね?」
男の子は小学校2年か3年か。引き換え、私は19歳を200年やってます。
年上だから言葉遣いを、などと古いことは申しません。ただ、人対人型生命体の礼儀はあって良いとは思います。
でも、背に腹は。
「はい、虫かご開けて、ほら」
言葉より行動、私は指先にチョウを止めて差し出しました。
男の子は半信半疑といった表情で、しかし虫かごを開きました。チョウは私の指を離れ、虫かごへ。
すると男の子は、背筋が寒くなるような顔で笑いました。
「やった!チョウもーらった!」
大声で勝ちどきを上げ、振り返って走り出そうとします。……バカなのは私でしょうか。
破壊する呪文(コマンド)はあります。ただ、それを使えば私は永遠にこの人間さんの世界から出られない。
〈それはいけません。チャンスはあるはず〉
チョウが言いました。しかし、男の子は逃げるように走り出します。
飛んで追うか、思った時、草むらがガサガサ音を立てました。
大人達です。草むらや林の中から次々現れ、男の子の行く手を塞ぎます。
「やぁボク、チョウを捕まえたって?」
「私はチョウの研究家だ。学会で発表するから譲ってくれないかなぁ」
「タダとは言わないよ」
甘言にあからさまな欲望を表情に浮かべ、迫ってくる大人達。
四季折々の風景に虫の姿もあった。日本とはそういう国だと私は思っていたのですが。
大人は子どもを守るもの、人間さんの基本だと思っていたのですが。
「子どもが持っていたって意味がないんだよ」
「君それどうするの?飼い方知ってるの?」
口調が変わってきます。
包囲し、迫ってくる大人達。
青ざめ、後ずさる男の子。
男の子は私のいる位置まで戻り、背中が私に当たったと判るや、驚くように振り仰ぎました。大人達の目線が、合わせて、私の方へ移動。
「そっちのお姉さんも協力してくれるよねぇ」
つまり私のこと。
私を見る男の子の顔に浮かんだ恐怖。
手首からぶら下がる私のペンダント。
手段が一つある。
閃光のような認識と共に、私は手を伸ばしました。
ペンダントの石を握って呪文。
「リクラ・ラクラ・シャングリラ!」
大人達の顔が、私たちの目の前からスッと消えました。
さながら映画のシーンチェンジ。
そこは、花揺れるひたすらな草原と、青い空に白い雲。
天国の片隅に位置する私たち妖精族の居住地、フェアリーランド。
「ここどこ……」
呆然としている男の子。
そう、私は男の子もろとも、この地へ飛んだのです。
チョウと、男の子を共に救うには、他に手が思いつかなかった。
〝異常な〟光景に男の子の力が抜け、手首からペンダントがするりと抜け落ちます。
「これは返してね」
私は石を拾い上げて手のひらに載せ、チェーンを手首に巻き付けました。
「あっ!それオレ……」
私は首を左右に振ります。そして指先には篭の中のチョウ。この辺は妖精の魔法。
「あっ!ちょうちょ……」
「さよなら」
私は手のひらの石で男の子にタッチ。
男の子の姿がフッと消えます。
これで、人間さんの世界へ戻ったでしょう。ええ、騙したと言われればそれまで。
でも、もしも戻さなかったら。
〈エウリディケさん〉
〈大丈夫ですか?〉
〈卑怯を感じました。何かありましたか?〉
土の中から顔を出すヘビ、大空から舞い降りてくるハヤブサ。
群れをなして飛んできたスズメバチ。
彼らは天国の一部であるこの地に〝魔〟が入り込むことを阻止する番人。
あの男の子が、そのままこの地にとどまっていたなら。
虫は子ども達の永遠の友達。……ですよね。
「ううん、大丈夫。みんなありがとう」
私はお礼を言いました。少し胸が痛い。
〈了解しました〉
〈無事なら結構です〉
私の言葉に彼らは土に戻り、滑って飛び去り、森へターン。
後ろ姿を見送ると、指先のチョウを飛び立たせ、周囲の花で吸蜜させます。
「どうする?故郷に戻っても、ここにいても。ここでも全ての種類がいるから、仲間は見つかるよ」
チョウはしばし飛び回ります。チョウは確かに救いました。石も手元に戻りました。
めでたしめでたし。おとぎ話ならそうです。でもこの引っかかった感じは何なのでしょう。
〈このまま、あなたのそばじゃいけませんか〉
チョウは伝えてきました。
それは予想外の反応。
「え?」
〈あなたの心の穴が、この翅で少しでも塞げるのなら〉
瑠璃色の翅は青い空に/終
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