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【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【1】

 最低気温が10度を切るようになると、冬支度の合図です。
 同時に「春から秋」を生きる虫たちは、子孫に未来を託して命尽きて行きます。
 お話の中には出てきませんが、尽きた命が蔑ろに扱われないよう気を配るのも、私たちの使命です。時々道ばたのそうした命を土に戻してくれる子ども達がいてくれます……どうもありがとう。
 
 だけど、その男の子を見た時には、感謝というより驚いて声が出そうになりました。
 二股に分かれた竹の枝を持った男の子でした。その二股の枝先を、電信柱の電話線近くでくるくると回していました。
 紡いだ糸を巻き取るように。
 そこにジョロウグモの巣があることを私はすぐに思い出しました。ジョロウグモ。山間やその近くで豪快な三重網を掛けるあの艶やか至極な大型のクモです。漢字で書けば女郎蜘蛛。名は体を表すならば、なるほどと思う方もあるでしょう。但し、ここで言う〝女郎〟は、高い地位に上り詰めた女性を指す尊称です。侮蔑語として眉をひそめ、親御さんが子どもさんに意味を説明するのに悩む必要もありません。そもそも、日本は神話にクモが出てくる国です。目立つこのクモの和名も、言葉が確立する頃には早々に付けられたことでしょう。だとすればその時代、豪奢な装束を纏った宮中の女官こそが、〝女郎〟さんだったはずです。
 ただ、縁はさておきクモはクモです。クモが好きという人間さんはそうそうはいません。
 私は彼がジョロウグモをどうするつもりか、声を掛けて遮ろうか、そんな思いで見つめていました。
 
(つづく

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