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【妖精エウリーの小さなお話】私が怒ったこと

〈見つかりません〉
〈間に合いません〉
〈おなかがすきました〉
 と、テレパシーで送られたのだと、書いたらあまりにも唐突かも知れません。
 ビジュアル的にも変です。コナラの木梢、そのちょうど幹から枝が分かれる部分に、タイワンリス3匹。
 そして、彼らと向かい合う位置には、白い衣をまとった身長15センチの女がいます。
 その背中には、膝裏まで伸びた長い黒髪と、カゲロウのそれに似た翅2枚。
「困ったねぇ」
 翅持つ女…私は腕組みしてため息をつきました。昆虫と動物たちの相談相手が私たち妖精ニンフ族の主な仕事です。今日は冬を前にリスたちの冬眠準備を拝見、なのですが。
 ご承知の方も多いかと思いますが、彼らは主としてドングリなど木の実を冬のエサとしてため込みます。ところが今年は長梅雨と梅雨寒が響き、そうした木の実が少ない地域が多いのです。最も、最近の傾向として、毎年なにがしか夏に異常があり、木の実が極端に多い少ない、地域偏在というパターンが続いているのですが。
〈妖精さんに頼めば貰えると聞いたんですが〉
〈配って歩いてるってホントですか?〉
〈ありかを教えてくれるんでしょ?〉
「その前に出来るだけのことはしたの?」
 私の口調はちょっと怒気をはらんだかも知れません。というのも、最近、こうした小動物達、野性のたくましさというか、必死さが薄れ、ズルイというか怠惰な傾向が見て取れるのです。
 なぜかというと。
「りすさんおいで~」
 下から幼いかわいい声。ここは雑木林を切り開いた住宅地にある公園。先ほどから保育園の小さい子達が下で遊んでいます。
〈行こうぜ!〉
 リスたちが私を見捨てたように駆け下りて行きます。そう、彼らは人間から労せずエサをもらえることに味を占めてしまったのです。で、姿形が同一である私に対しても同じようにちょうだい、というわけです。
 子ども達がきゃーきゃー言っています。他の子ども達も駆け寄ってきて大騒ぎ。
半分呆れていると、背後上方に舞い降りてくる翼。
〈こんにちは、エウリディケさん〉
 鋭い目線の持ち主は、最近都会暮らしも板に付いてきた小型の猛禽、チョウゲンボウ。ちなみに女の子です。
「お元気?」
〈まぁ、何とか。…うーん、これは我々にとっては都合のいいことかも知れないのだけど、あなたには知らせておいた方がいいでしょう〉
 彼女が言うには、最近この辺のネズミ類が“肥満”していると。
「人間さんの残飯のせいだね」
〈動きが鈍い分には我々には好都合なんですけどね。野性の有り様(ありよう)としては、恐らく良くないのではないかと。結果として連中早死にして数が減るし〉
 私はまたまた、ため息をついてしまいました。
「ありがとう…そう、言う通り、最近おかしくなってきてる。動物たちが人間さんによって変わっていってしまう。でも難しいんだ。私たちは人間さんの前に姿を見せることが出来ない…同じ格好しているのにもかかわらずね」
 私は人気アイドル状態のリスたちを見下ろして言いました。妖精族は基本的に人間さんとのコミュニケーションを禁止されています。これは人間さんが妖精などいないと決めているから。私たちにその禁を破る権限は与えられていないのです。だから…妖精って見えた瞬間に消えてしまうでしょ?
 ただ、だからって何も出来ないでは事態はどんどん悪化するでしょう。人間さんにもそれに気づき、歯止めを掛けねばと思って下さる方が大勢います。でも、それ以上に、そうした風潮を利用している方のほうが、残念ながら多い状態。
 ため息をつくなと言う方が…待って下さい。
 “悪意”
 割り込んできたその認識は、私たち妖精族に備わった超常の感知能力、テレパシーの警告。
 悪魔的、残酷な意識。それは陰惨な雰囲気となり、比重の重いガスのように、地面近くを忍び広がって行きます。
〈エウリディケさん!〉
 気配を察知したのでしょう。リスたちがあわてて駆け戻って(登って)きます。
 チョウゲンボウの姿を見てギョッ。でも妖精の前で野性の行動は原則禁止。
「この子なら今は大丈夫。判ってる。私も感じてる」
 リスたちに私は言いました。下の方では子ども達が怒っています。リスが突然いなくなり、不平不満。
 “解き放たれた”
「来る」
〈ええ来ます。早い〉
「あなた達はそこにいなさい」
〈私も手伝います〉
 リスたちを残し、私はチョウゲンボウと共に動きます。彼女には上空から見てもらって私は地上へ。
 上を見上げる子ども達のまにまに飛び降ります。
 禁忌とされている人間さん達の前に姿を見せたわけです。でも理由…この子ども達が危ないとなれば、話は別。
 そう、この子ども達に危害が及ぼうとしているのです。現時点で判るのはそこまで。
「あ、てんしさま」
 無邪気な声が私を迎えます。突如木の上から降りてきた白装束の女。
 驚き目を剥く保育士さん達。ただ、私が女の外見をしているせいか、怪しさや危険という印象は持たれていないようです。
 近づいてくるもの。
 そのものの行く手に立ちふさがるように、私は幼子達の前で腕を広げます。
 聞こえてきたのは犬の鳴き声。
 ようやく危機の内容が知れます。凶暴な犬が何匹か解き放たれ、けしかけられた。
 この子ども達に!。
「わんわんだ」
「逃げてっ!」
 私は保育士さんに言いました。
「えっ?」
「子ども達が危ない!」
 と、木立の間を抜けて走ってくる猛悪そのものの顔、顔、顔。
ドーベルマン・ピンシャー。ボクサー。
 大型で力ある犬種ばかり。
「みんなこっち!」
 保育士さん達がようやく事態に気付きました。私はチョウゲンボウと共に動きます。彼女が上方より威嚇し、私は私で回り込み行く手をふさぎ、そして翅を伸ばし、羽ばたいて顔をはたいたり、地面の砂をまきあげて掛けたり。
 当然噛みついてこようとしますが、反射神経と動く早さは私たちの方が数段上。
 行く手をふさぎ、追い返し、すり抜けようとする者の前に回り。
〈やめなさい!〉
Okotta2
 意識に直接言葉を放り込みます。頭の中に稲妻が落ちたようなショックはあったはずです。
 でも彼らは一瞬びくっと震えるものの、行動を止めようとはしません。一般に動物や昆虫は妖精が何者か遺伝子的に知っていますが、人間によって何世代も“培養”され、人間しか知らないような生き物の場合、その情報が不要とされ、欠落していることがあります。
 鼻にシワを寄せくってかかってきます。その鼻面を掴み、口を閉じるように両手で圧迫します。…書くと簡単そうですが、前述のように反射神経の故です。実際には統制されないオオカミの狩りのように闇雲に噛みついてきているわけで、普通の方は避けた方が無難。
「いい加減にしなさい!」
 その状態で一喝し、かなり乱暴に地面に組み伏せます。これは太古、彼らがオオカミであった時代、群れの首魁、専門家が言うところの“アルファ”が、聞き分けのない構成員を黙らせるために取っていた行動です。但しもちろん、彼らには手はないので、口で口に噛みついてふさぎます。
 結果、その捕まえたドーベルマンは、私の方が上位存在と認識したか、きゃんきゃん言いながらどうにかおとなしくなりました。
 しかし犬はまだ5頭ほどいます。保育士さん達が子ども達と逃げまどい、チョウゲンボウが威嚇していますが、このままでは危険。彼女と私の連係プレーでどうにか逃れているだけなので、とても一頭一頭組み伏せる暇はありません。
 仕方ありません。
 私は胸元の金のチェーンを引き上げます。
 その先にはサファイアを思わせる青い石。
 石を手のひらに載せ、握ります。
 保育園の一行は大きな栗の木の下に小さくかたまりました。
 子ども達に保育士さんが覆い被さるように体を張り、犬が周囲から吠え立てます。一気に攻撃、と行かないのは、前進すると阻む存在…私がいることを学習したから。
「リクラ・ラクラ・テレポータ」
 私はその場所へテレポーテーション、すなわち瞬間移動。
 突然現れた私の姿にボクサー犬の一頭がひるみます。
 その鼻先に石持つ手のひらでタッチ。
「テレポータ!」
 ボクサー犬、消滅。
 翻ってシェパードを、以下間髪を入れず次々に犬の姿をかき消します。
 とはいえ命を奪うとか、傷つけたわけではありません。彼らの行き先は天国の片隅、私たち妖精の国フェアリーランド。
 悪魔の者かと思わせる吠え声が消えました。
「大丈夫?みんな大丈夫?」
 私は子ども達に、保育士さん達に尋ねます。
 恐る恐る振り返る保育士さん。
 その血の気を失い、凍り付いた表情。震える身体。
 唇をガチガチ鳴らしながら、それでもどうにか頷きます。
 事態が去ったと知ったのでしょう。火がついたように子ども達が泣き出します。なんで、なんでこんな幼い子達がこれほどまでに怖い目に遭わなくてはならないのでしょう。
 保育士さん達が自らを鼓舞するように首振って、頬を叩いて動き出し、子ども達を慰めに掛かります。まずは任せて大丈夫でしょう。
 残った問題は。
〈どこに〉
 私はチョウゲンボウに尋ねます。
〈息を潜めています。場所は判らない〉
〈来なさい〉
 私は組み伏せた犬に命じました。犬はしっぽを股に挟み、すごすごという感じでやってきました。
〈何か…〉
〈お前の飼い主は〉
 犬の意識が指し示したのは公衆トイレの向こう側。
目を向けると、そもそもは壁の影から隠れて見ていたか、驚愕に茫然とした顔の若い男。
 どうすべきでしょう。れっきとした犯罪者です。目撃者はいますので立件できます。しかし、面白そうに犬をけしかける者に、子ども達が命落とすかも知れないという状況でも平気でそうする人間に、労働奉仕を基本とした人間さんの更正システムが有効なのでしょうか。
 かといって当然、私にそんな権限はありません。ただ、正直なことを言えば、同じ恐怖を味わわせ、思い知らせてやりたい。
 大地の女神ガイア様、私は一体どうすれば。
「待ちなさい!」
 逃げ出そうとする男を、私は指で指し示します。
 それで、男はまるで空間に釘付けになったように動けなくなります。こんなことしたの、何年ぶりでしょう。
 男が目に見えてうろたえ、自分を見回し、次いで自分を見ます。上半身は自由です。でも腰から下は石のように動けないはず。
 逃げるのは阻止しました。でも、この後どうすれば。
 その時。
「あ!あの男!」
 高所から放たれた女性の声が周囲に響きました。
 向かいのアパート5階のベランダ、手にした布団はたきで男を指さす熟年女性。
「放火魔でーす!ちょっとー!誰か公園の男捕まえてー!」
 その声に開く戸建ての家屋の玄関ドア。バットを片手の白髪の男性。
 そして。
 私の傍らを風のようにすり抜ける長い髪がありました。
 保育士さんの一人です。対人制圧用具“さすまた”を手に走って行きます。恐らく不測の事態に備えて散歩にも携行していたのでしょう。たった今まで、自らが危機であったにもかかわらず、であればとばかりに買って出る…それは庇護者持つ存在、母の強さでしょうか。
 
 …新聞によると、孤独な男が無職であることを親に咎められ、自宅周辺で犯罪行為を繰り返していたようです。徐々にエスカレートし、人目をはばかることなくなり、そしてついに選択した犯罪が、それ。
 
私が怒ったこと/終

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