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ブリリアント・ハート【2】

 今日の彼女は“お姫様”らしく白のワンピース姿である。しかし、彼女を初めて目にする者は“欧州から来たお姫様”と言っても、にわかには信じられないであろう。“ころん”とした顔立ちはもちろん、肩口でスパッと切ったショートカットの髪の毛は黒、少女マンガのヒロイン向きと言おうか、輝く瞳の色も黒である。日本語もぺらぺらと書いたが、下手をするとその辺の普通の子どもより語彙が豊富であるかも知れぬ。仮にそのまま町中でみたらし団子を食べていても、それとは気付くまい。要するにどう見ても日本人の女の子なのである。ただ、相当な美少女であり、人目を引くか、ヘタをするとスカウトかナンパが声を掛けるかも知れないが。
『ありがとうございました。メディア・ボレアリス・アルフェラッツ王女陛下のスピーチでした。もう一度大きな拍手を』
 スポンサーになっている地元テレビ局のアナウンサーらしい司会が、そう言って仕切り、子ども達が次々に席を立って会場を後にする。
 そこから、このイベントの表面的性質と、子ども達の受け身な感じを彼女は感じ取る。すなわち目的は“講演会をやった”という実績づくり。他方、子ども達の方も、書いたように“ネタになれば”程度であって、積極的に聞きに来たわけではない、というのが殆どと思われる。それが証拠に質問コーナーもなければ、質問する子どももいない。時間が来ればおしまい。
「こちらへ」
 シークレットサービスが身体で舞台裏への道を作り、ビシッと黒スーツを着た外務省のお役人…日本における彼女のお目付役…が、彼女を案内しようと腕を出す。貧困や環境について語った当人が、至れり尽くせりの立場を見せていいのかと彼女は思う。こんなズロッとした服着てプリンセスしているより、一人で、“レムリア”という裏の名前で、好きにぶらぶらしていた方が絶対にいい。
 背後に気配を感じて彼女は足を止める。
「質問あるんですけどだめでしょうか…」
 小さめで、かすれがちで、振り絞るようなその声は、一生懸命な感じを即座に彼女に伝えた。
 振り返ると女の子である。眼鏡を掛け、一見して真面目そう。真っ赤な顔色は恥ずかしさの表出。
 彼女が、とてつもない勇気を、使い古された言葉を使うなら、清水の舞台から飛び降りる、一世一代の勇気を持って、声を掛けたと知る。
「君、もう終わったからダメだよ」
 黒スーツのお役人の言葉を、彼女は目で制した。
 確かに姫は姫かも知れない。“公式実務訪問”…コッカのお客様扱いも仕方がない。
 しかし堅苦しいことこの上なし。なお、こうした彼女の意向により、以下彼女をレムリアと書く。
「これは私の講演会ですから」
 言ってやると、お役人氏は恭しく頭を下げ、一歩後退した。ただ、その目には“子どものくせに”という蔑みの色がありありで、ハッキリ言って気に食わない。口では王女王女言って持ち上げるが、所詮大人には子どもであって実態はこんなもの。だったら最初からその辺のガキメッチョ同等と見てくれた方がどれだけいいか。『なんでオレがこんなガキの世話』…はっきり言ってごらんよ。

(つづく)

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