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【妖精エウリーの小さなお話】僕に魔法を

 ネコ集会というのは、一般に夜であると共に、私たち妖精族にとっては、様々な情報を彼らから得られる絶好の機会でもあります。
〈行橋(ゆくはし)のばぁちゃん入院しちゃったよ〉
〈マジかよ。明日から食いっぱぐれじゃないか〉
「そこは冒険でしょ。人間さんに頼ってばかりじゃだめだい」
 私はちょっと意地悪な気持ちで言います。実際には、ネコたちの野生の喪失という、やや由々しき問題を踏まえての提案です。ちなみに、彼らと私との会話は、基本的にはテレパシーでのやりとりです。
「自分でとっつかまえてきなさい」
〈めんどくさい〉
〈ネコですから〉
〈あーあ、エウリーさんに何かもらえると思ったのに〉
〈妖精さんは冷たい〉
〈行こ行こ〉
「あのねぇ…」
 集会はお開きになってしまいます。“ネコですから”安楽指向。そりゃまそうでしょうけど。
 と、一匹残って私を見ています。その子は名をミミと言い、最近越してきた近くのお宅で飼われている三毛猫です。ちなみに三毛ですのでメスです。まだ生まれて10ヶ月ほど。
〈エウリディケさん…〉
 それはさしずめ人間さん的に言うなら“泣きそうな声”。
「どうかしたの?」
 問いかけると、彼女は座っていたブロック塀の上から飛び降りました。
 ネコは高い位置を取った者が強い者という序列を持ちます。そのネコである彼女が私の足下へ。あ、ちなみに申しておきますと、私は妖精ではありますが、手のひらサイズのケルトのフェアリーと、人間サイズのギリシャのニンフ、双方の血筋を引いており、身体の大きさをそのどちらにも変えられます。そして現在は人間サイズ。
〈いきなりで申し訳ないんですけど…〉
 ミミちゃんは言いました。
〈私に魔法を掛けてもらえませんか?〉
「えっ?」
 その訳を聞くとこうです。最近小学校3年生の“同居人”たくや君に元気がない。引っ越してきてから友達が出来ず塞ぎがち。いつも自分のことをかわいがって、遊び相手にして過ごしている。だったらいっそのこと自分が話し相手になってあげられれば。
〈たっくんだって素敵だなって思ってくれるだろうし、そうしたら嫌なことも忘れられるかなって〉
 私はため息。
 ミミちゃんの望み通りにすることは、生物学的にあり得ない、やってはいけないこと。
〈やっぱりだめですよね。いいです。無理言ってすいませんでした〉
「あーちょっと待って」
 私は気落ちする背中を呼び止めます。
「そのまんまは無理だけど…」
Boku2
 翌日、昼下がりの住宅街に、男の子の声が響くことになりました。
「ミミー。どこ行ったとねー?」
 探しながら走り回る彼を、私は手のひらサイズで中空を飛びながら見ています。この状態、よーく目を凝らすと髪の長い小さな女が空中を移動しているという図ですが、まぁ、見つかることはないでしょう。え?ミミちゃんですか?一時的に妖精の国、フェアリーランドに隠れんぼ。
 …たくや君が誰かに声を掛けざるを得ない状況を作ったのです。友達を作るには、得てして待っているだけではだめ。
 道行く彼の向こうから、ランドセルの少女が二人、お喋りしながら歩いてきます。
「ミミー。何も怒りよらんから出てきー」
 声を出す彼に女の子達が気付きます。
 そしてうわさ話をするようにクスクス。
 その動作を見た彼は立ち止まりました。
 去って行く女の子達の背中を寂しそうな目で見つめます。
「ミ…」
 声を出そうとし、口ごもってしまいます。
 と、交差点の陰から同年代とおぼしき男の子達が3人。
「おいイナカモン!」
「ミミー。どこ行ったー?」
 彼の口まねをし、ゲラゲラ笑います。
 説明は不要でしょう。方言をバカにされて話すことすらままならない。
 友達が出来ないのは彼のせいじゃない。
「ネコのことはネコに聞いたら?」
「ほらあそこにいるぜ」
 道ばたで顔をぬぐうノラネコ…集会所にいたニャゴ助…を指さします。
 私は最初、自分が彼にひどいことを強いたと思いました。
 でも、この展開なら話は別。
〈ニャゴ助、ちょっと〉
 私はテレパシーで話しかけます。
 ニャゴ助は応じ、道を横断してたくや君の足下に座りました。
 ニャゴ助がたくや君を見上げます。
 その隙に私はたくや君のズボンのポケットへ。
〈僕で良ければ聞きますが?〉
 これは私。さもネコが喋ったかのように。
 たくや君は驚愕のあまり声も出ず。
〈たくや君でしょ。ミミちゃんとこの。ミミちゃんどうしたの?〉
「…いなくなったと」
 たくや君は反射的に言いました。
 これに大笑いしたのは3人の男の子達。
「バカじゃねぇの?」
「ホントにネコに訊いてるぜ」
〈無視して。いなくなっちゃったんだね?待って。みんなを集める。口笛を吹いて手を2回ぱんぱんと叩いて〉
 それは私がネコたちに呼びかけるやり方。但しテレパシーを併用します。
 たくや君は猫と会話していると認識したと見え、その通りにします。私はネコたちを呼びます。
 …あちこちからネコたちが集まってきます。
 男の子達の表情が変わってきました。
〈ミミちゃんがいなくなったらしい〉
〈え?本当に?〉
〈手分けして探そう〉
「にゃぁ〈たくや君は僕と一緒に。心当たりがある〉」
 ニャゴ助はひと鳴きすると、しっぽを立て、ちょっと振り、颯爽と歩き出します。
〈まぁ見付けるから心配しないで〉
「ありがとお」
 たくや君が言うと、ネコたちはさっと散って行きました。
 ニャゴ助と共に、たくや君が歩き出します。男の子達は夢でも見ているような表情で、たくや君を後ろから付けて行きます。
 ブチネコの甚五郎が脇から出て来ました。
〈5番地にはいないよ〉
「わかった。サンキュー」
 甚五郎がニャゴ助、たくや君の二人に加わります。たくや君とネコ2匹。歩いているのは通学路。向かう方向は小学校。
 次にアメショとチンチラのミックス、リリア。
〈2番地から空き地までは見た。見あたらない。悪いけど抱いていってくださる?〉
「よかよ。おいで」
 たくや君はリリアの前に両手を出しました。リリアが進み出ると、抱き上げて歩き出します。
 以降更にネコが加わり、程なく、たくや君とネコ集団…。
 これには帰り道の子供達も目を剥かざるを得ません。そして、ネコ集団の後ろに、次第に子供達の列も出来て行きます。
〈そのまま学校へ向かって。私はミミちゃん連れてくるから〉
 私はニャゴ助に伝えると、一旦その場を離れます。
 小学校は住宅街から雑木林を挟んだ向こう。
 その雑木林の中を行く通学路に、私は人間サイズでミミちゃんを抱いて立っていました。
 …妖精族は人間とコミュニケーションを取ってはいけません。なぜなら人間さんが、そんな生物はいない、と決めているからです。私たちは虫や動物達の相談相手にすぎず、人間さんのことにとやかく口を挟むことは出来ません。
 だから本来なら、姿を見られることも良くない。でも、この神話の女神様と同じ白い装束(貫頭衣…toga:トーガといいます)が、この場合多分効果的。
 “一行様”が私を見つけて立ち止まりました。
〈あら、ミミちゃんよ。私はお邪魔ね〉
 リリアが言って、たくや君の腕から飛び降りました。
 私は進み出、ミミちゃんをそのまま、たくや君の腕に託します。
「ミミちゃんは幸せね。飼い主さんがこんな人ばかりなら、ノラネコなんか一匹もいないのにね」
 私は言うと、togaの裾を細長く指で裂き、たくや君の手首に巻き付けました。
 そして巻き付けた手首を両手で握り、手を放す。ちょっと魔法。
 ミサンガのできあがり。本来ならりぼんに結びますが、男の子でりぼんでもないでしょう。
「ミミちゃんは、あなたに元気がないって、とっても心配していました。でも大丈夫。これであなたは元気になれる。後ろを見てみて」
 たくや君を見つめる驚きの瞳。
「ネコたちにお礼を言ってあげて」
「あ、うん、おかげで見つかったばい。ありがとね」
 彼が言うやいなや、ネコたちは一斉に走り出しました。一緒に付いてきた子供達の間を駆け抜け、元来た道を戻って行きます。
 子供達の目線がネコたちを追います。その隙に、私は小さくなって木の上へ。
 子供達とミミちゃんが残されます。みんなして狐につままれたような表情。
 “不思議”が起こったのだと誰もが認識しています。でもそれは多分、大人に言っても信じてもらえないこと。
 子供達が互いに目を見合わせます。こういう、“経験の共有”は仲間意識、そして友情へとつながる第1歩。
「にゃ」
 これはミミちゃん。
「お。よーし、帰ろうな。あ、みんなも探してくれたとね?ありがとお」
 たくや君は嬉しそうに言い、ぺこっと頭を下げました。
 子供達は“不思議”の中枢である彼に対し、自動的な動きで、通れるように道を作ります。
 たくや君がバカにされることはなくなったと、後にミミちゃんに聞きました。
 
僕に魔法を/終

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