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【妖精エウリーの小さなお話】プレゼント

 妖精族は大きくフェアリ、ニンフ、ドワーフ、ピクシーなどの種族に別れています。私たちニンフ族のように人間さんにそっくりな種族もいれば、そのリリパットであるフェアリ達、逆に人間さんとは異なる姿を持ち、そのゆえに人間さんに忌避されてきた種族もいます。
 そうした中で。
 ちょっと特徴的なのが人間タイプの身体を持った種族である私たちです。何がどうというと、女性形が殆ど。翅娘はいても翅男(!)というのはあまり無いはずです。
 ただ。
 翅こそありませんが、世界で最も有名な人間型の妖精族は男性形です。
 サンタクロース。
 聖人ニコラスの音便変化が固有名詞に転じたもの。言ってしまえばその通りです。でも、“恵まれない境遇の子どもに、誰も知らない人がプレゼント”という故事伝承は世界のあちこちにあります。現代ではさすがに少なくなり、代わりに施設や慈善団体、他ならぬご両親の心づくしが幸せを補完していますが、無くなったわけではありません。
「そんなわけで、あなたにお願いしたい、いかがだろうか」
 “使節”を名乗る燕尾服の“男性”が私の顔を覗き込みます。私は“男性”の顔を見ますが読み取りたい顔色はそこにはなし。目は黒い点、口は赤い線。その身体はニスでテカテカ。
 だって手のひらサイズの木の人形ですから。
「初めてだからねぇ…」
「あなたなら、と、主人より言いつかっております。大丈夫、保証致します」
「変な感じ」
 私は言い、少し返事を保留します。ややこしい背景があるのでちょっと説明します。そんなわけで使節や慈善団体に“サンタクロース”が訪れ、おもちゃを配って行く…というのは、半ば定番化しつつあるのですが、それが逆に、“自分はかわいそうな子”という認識を強調させるという側面も出てきているらしいのです。なぜでしょう。今の子ども達がサンタクロースに頼むものと言えばビデオゲームやそのソフト…善意の範囲で用意するには高額すぎるのです。貰えるものの差、わざとらしいサンタクロース…“違い”を強調してしまう。
 そこでお声が掛かったのが私たちニンフです。人間社会のそばにいるのを利用し、古来伝承に戻り、プレゼントをあげられないかというわけ。もちろん全員には無理なので、選ばれた子どもだけに。不公平な気がしますが“奇跡的”だからこそ、夢と希望と信じる心を維持できるのだとか。本当かしら。
「自信はないけど光栄な話ですから、お受け致しましょう」
 私は答えました。木の人形がギシギシ言いながら小躍りします。リアクションがオーバーなのは普段の仕事が夢の演出。
「あすかちゃん、でいいのね?」
「はい。一番ふさわしいだろうという主人の判断です」
「判りました。なんとかやってみます。ご主人様に了解した、と伝えて下さいな」
「はい。では早速に」
 人形使節はマントをくるりと翻し、そこから消えました。
 あすかちゃん…彼女は町はずれの保護施設に住む小学校2年の女の子で、この雑木林によく遊びに来ます。目的は虫たちと遊ぶこと。採集ではありません。観察し、手に乗せて遊ぶ程度。ただ。
 “自分たちのことを本当によく知ってる”それが虫たちの評判です。クラスならさしずめ虫博士といったところでしょうが、背景はちょっと胸が痛くなります。
 彼女には友達と遊ぶ“自宅”がない。
 おもちゃも限られ、それゆえに友達がいないに等しいのです。以前、友達とは“本人”がいれば良かった。でも、今の基準はその子が“どんなガジェットを持っているか”。
 …友人とする判断基準として、これはどうなのでしょう。
 それはさておきそんな理由で彼女は“虫”です。虫博士なのは、生い立ちに伴う心理的負い目を、“他にはない何か”で、自ら埋めようとする意識の働きでしょう。そして、友達のいない自学区ではなく、隣の学区に属するこの林までやってくるのは、誰かに見られても、知らない子どもばかりだから、何言われようと気にならないから。
〈何をお悩みですか妖精さん〉
 オオカマキリが枯れ葉揺れる枝の上から問いました。大きなおなかは産卵間近の証。なお、彼らと私との会話は意志だけ…すなわちテレパシーです。
 私はわけを話して。
〈何をあげようか悩んでるの〉
〈なるほど…彼女はいい子ですからね。空き缶やゴミを拾ってくれたり、業者がほじくり返しに来る前にカブトムシの卵を集めたり。最近はスケッチしに来ることが多いですよ。穴が開くかと思うくらいじーっと観察しながらね〉
〈観察か…〉
 恐らく、彼女の基本。
 すると。
〈私たちみたいな小さいの描くのに苦労してるようですよ〉
 これはナミテントウ。つまり、翅の星にバラエティが多い普通のテントウムシ。
 クヌギの幹を根元へ向かって歩いています。彼らは日当たりの良い朽ち木の中や、枯れ葉の裏で冬を越します。
 クリスマス…それはすなわち冬の到来、昆虫が少なくなる季節。
 彼女にとってはツマラナイ季節。
 でも、それを乗り切れるような何かがあれば。
「観察ね」
 私はひとりごちました。それこそ虫の名が付く観察用具を思い出したのです。

 

 12月24日。
 冷たい風吹く曇りの日。
 すっかり葉の落ちた雑木林に、あすかちゃんは姿を見せませんでした。
 だったら施設に行って、彼女の靴下の中にでも入れて来ようか。私がそう思い、クヌギの梢を飛び立とうとしたその時でした。
〈エウリディケさん!〉
 ヒヨドリが血相変えて飛んできました。
〈どうしたの?〉
〈女の子…施設からいなくなっちゃった〉
 あわてて向かいます。すると丘の上、施設周辺の草むらを探し回る大人達の姿。
 私は手のひらサイズだった身体を伸ばします。ギリシャ神話のニンフは人間サイズ。その直系であり、フェアリとの混血を経た私たちは、身体の大きさを変えられるのです。
〈エウリディケさん何を…〉
〈情報収集〉
 私は言うと、地上に降りて翅を縮めました。
「あのすいません、あすかちゃんっていう女の子はこちらの施設に…」
 メガネの男性に問いかけます。
「えっ?…ああそうだが、あんたは?」
 いらだった口調、刺すような目線。
 私の服装は神話の妖精そのままの白い貫頭衣、togaです。非常事態にその姿、異様に見えて当然。
「教会のクリスマスの劇に来てくれる、という話だったんですが」
 これなら不自然じゃないでしょう。
「…そうかい。いや実はいなくなってしまってなぁ。クリスマスなんか嫌いだって」
 男の人の声音が困惑を含みます。その手には金の色紙で折ったお星様。…でも握りつぶされたようにくしゃくしゃ。
 ヒモが付いていてペンダントになっています。

 

『メリークリスマス!』
『こんなのいらない!』

 

 強いショックと共に、その映像は男性の記憶に刻まれていました。
「すいません、そのお星様、お借りできますか?」
「え?ああいいが」
 差し出された星のペンダントを私は手にします。何をするのかって?
 持ち物から心理情動の残した波紋を追いかける超常感覚、サイコメトリ。
 女の子がこの星を叩きつけた瞬間、脳裏に浮かべた風景を、私は星から読み取りました。
 河原。何か思い出があるのでしょうか。
〈近くにある?〉
 柿の木に止まって見ているヒヨドリに尋ねます。
〈…女の子が歩いて行く距離じゃないですよ〉
〈だからこそ。案内して〉
〈…判りました。こっちです〉
 飛び立つヒヨドリを私は走って追います。
「あっ!ちょっとあんたどうするんだそれ!」
 背後からの声。
 でも説明はしません。ちょっと待ってて下さい。私は風のように草むらを駆け抜け、人々の視線の届かないところで、上空へと飛び上がります。
 飛ぶこと少々。距離にしたら2キロはあるでしょうか。川があり鉄道の橋が架かっている場所に出ます。確かに、女の子が歩いて行く距離じゃない。
 でも。
〈あ、いました。本当にいました。あそこです〉
 ヒヨドリが興奮したように叫びました。その河原、流れのそばに、女の子がひとりぽつんと立っています。
 それは確かにあすかちゃん。
 私は彼女の背後に、音もなく降り立ちます。
 但し、太陽を背にして影を伸ばして。ある程度の風を起こして。
「…だれ?」
 気付いて、あすかちゃんが振り返ります。
Pre2
 どう思ったでしょう。そこにいた女の背中には翅がある。しかもその翅は、彼女ならすぐ、クサカゲロウのそれと判るはずです。
 ヒヨドリが私の肩に止まりました。
「妖精…」
 あすかちゃんが私を見上げます。円い目で、輝く目で。
 私は何も言わず、星のペンダントを取り出します。あすかちゃんは目を伏せ、その表情が曇ります。それは悪いことをした、という認識が彼女にある証拠。
 でもそう、そんな顔しないで…私はそれを指さして。
「ワン、ツー、スリー」
 指をぱちんと鳴らすと。
 手品の要領で、用意してきたプレゼントにすげ替えます。
 虫眼鏡。
 レンズは水晶。柄とレンズの枠は樫材。但し、柄の途中には虹色に輝く別の材料が組み合わされ、その材料の特性上、若干反っています。
 ベレムナイト(チョッカクガイ:白亜紀)の化石がオパール化したもの。
「…置換化石?」
「そう」
 私は言いながら、着ているtogaのだぶだぶ裾口を、細くくるりと引き裂きました。
「あっ…」
「気にしないで」
 切り裂いた裾を柄の先端に開けた穴に通し、輪になるように結ぶと。
「メリークリスマス」
 私は彼女の首にそれを掛けました。
「え?」
「いつも虫たちのこと気に掛けてくれてありがとう。…それはみんなからの気持ち」
 あすかちゃんは声が出ません。
「知ってるよ。あなたがカブトムシの卵を守ってくれたこと。畑のモンシロチョウを施設の庭で育ててくれたこと。セミの子を狙うヒキガエルを勇気を出して連れてってくれたこともあったね。他の子がアリを踏み潰して遊んでいるのをかばってくれたこともあったかな?。みんなみんな、虫たちに聞いたよ」
 私は彼女の前にしゃがみ、その手を握り、瞳を見つめて言いました。
「素敵な女の子に巡り会えて、みんな、幸せだよ。また春になったら、それで、いっぱい観察してあげて」
「…うん!」
 あすかちゃんは頷きました。涙の滴光る目に微笑み。
「施設の人たち探してるよ」
「うん、帰る。あ、さっきの星のペンダントは?」
 私はポケットからそれを出し、破れ目から、中に何か粒状のものが入っていることに気付きました。
「何か入ってるよ」
「え?」
 あすかちゃんが早速虫眼鏡でその粒を観察します。
「…星の砂。妖精のお姉ちゃん。これ星の砂だよ。あれ?」
 あすかちゃんが見回しても、私の姿は見えなかったでしょう。
 私が呼んだ施設の飼い犬、ベンが、所長さんを引っ張って河原まで来たのは、それから3分後のことです。

 

プレゼント/終

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