【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【2】
(承前)
私は彼がジョロウグモをどうするつもりか、声を掛けて遮ろうか、そんな思いで見つめていました。
〈敵意は感じないのですが〉
意識が飛んできました。
巣の持ち主たるクモの心の声です。もちろん、クモが人語を話すわけではありません。言葉に直すとこうなるだけ。私の存在と気持ちに気付いて答えてくれたのです。
テレパシー。妖精族必須の超常能力。
巣が壊れます。ジョロウグモの巣を十重二十重に集めて網とし、魚を捕る……南国の漁法として今も行われているようですが、ここは勿論違います。そして書いた通りジョロウグモは本来南方系のクモです。日本列島が例外的に北の方まで住んでいるのです。
〈妖精さん……〉
助けを求めるように、壊された巣からクモが糸を引いてスーッと下がります。
そこに差し出された男の子の手のひら。
「おいで」
男の子は降りてきたクモを手のひらで受けます。
戸惑いながらも降り立ったクモ。
大きな身体で巣にある時は俊敏な動きを見せるジョロウグモですが、性質はかなり繊細で、あまり人の手で触りすぎるとストレスを感じて弱ってしまいます。
でも、男の子はどうやらそのことを知っているようです。巣を巻き取った竹の二股にクモの身体を戻します。
-持って帰る。
それが男の子の意思。
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