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ブリリアント・ハート【1】

 

 

 彼女は日本に来ていた。
 仕事…しかも“講師”としてだ。
 自然だの環境だのをテーマとした国際博覧会があり、関連して開かれた講演会に招かれたのである。
 聴衆は夏休み中のお子様。内容は環境変化がもたらす気候変動で飢餓が云々。
 話題性だけで自分が呼ばれたことはよく判っている。“本物の姫様”であり、慈善団体と行動を共にする日本語ぺらぺらの少女看護師であり、まぁ確かにインパクトはあるかも知れない。
 しかし主催者側の言う“世界の現実を知ってもらいたい”というお題目を実現するなら、別に自分である必要はないと思うのだ。講演というのは重点を絞って、しかも的確に伝える能力が必要であり、その点で自分では到底不足していることはよく判っている。なのにあえて自分を指名してきたのは、お子様を呼び寄せるための“人寄せパンダ”効果を狙ったとしか思えないのだ。最も、この辺は、博覧会に関して、東京の知り合いに色々入れ知恵されているので、先入観を持っているせいもあるかも知れない。ゲスの感繰りと言われればそれまで。でも、そういう要素を除いたとしても、13の小娘が偉そうに講師を名乗るなんざ、聞いてる方は、小学生であるにせよ、どう思うだろうか。
「…このように、進む砂漠化は、痩せた土地からさらに作物の生産能力を奪い、子ども達の命を今この一瞬も次々と奪って行きます」
 巨大スクリーンにパソコンのプレゼンテーションソフト…東京の知り合いに作らせた…の画面を映し、レーザポインタで指し示す。冷房がガンガンに効いて、その風圧でシャンデリアがシャラシャラしているホテルの大ホールで、ジュースを飲みながらこんな話を聞いたところで、どれほど現実味を持って実感してもらえるか、とつくづく思う。ちなみに、その大ホールたる会場には200人ほど入れるようだがほぼ満席。画像投影の関係で暗幕を使っているが、彼女には聴衆の様子が充分に見て取れる。殆どの子どもが、自分が何か喋るたびに、配ったレジュメにメモを走らせているのが判る。夏休みの自由研究ネタ、というところであろうか。でも、レジュメに基づいてレポートを作っても、それは自分で調べたことにはならないよとちょっと危惧する。
 締めの時間になった。
「…最後はまぁ、良く聞く話となってしまうんですが、これくらい、という些細な気持ちが、巡り巡って環境に対する負担となり、そのしわ寄せがこうした悲惨な事態を招いているということです。これくらい、と思う程度なら、実際行動に移す前に、これくらいは、と、ちょっと考えてもらえたら。それが私の実感です。以上で終わります。長々とありがとうございました」
 拍手がわき起こって照明が点く。頭を下げる彼女を、屋外より明るい高輝度放電灯が照らし出す。

(つづく)

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