彼女は彼女を天使と呼んだ(9)
彼女の気持ちが弄ばれるのではないか。
「彼女は夢中。夢中ゆえに一途さと怖さと同時に持ってる。他方相手は駆使する手練手管は幾らでも」
「怖くない、大丈夫だ。言われればもう周りなんかアウトオブ眼中。端から見ればハラハラドキドキ。で?私の経験談はありませんか、という訳か」
美砂は立ち止まり、理絵子を見、ため息をついた。
「だったら、ごめん」
やっぱりか。それが理絵子の感想。
これだけ綺麗な人なのだ。経験があるならこうやって話す前にサジェスチョンをくれている。
「生きることそのものに必死だったからね」
美砂は付け加えた。理絵子はそのことを思い出し、目を見開いた。
美砂の両親は命を絶っている。以降彼女は兄と二人暮らし。そして時を経て今、彼女は天涯孤独。
自分の恋どころじゃなかったに相違ない。ただ、現在は理絵子の知り合い宅にて住み込みバイト中。
「ごめんなさい変なこと」
「いいよ。あなたの気持ちは判る。……だって判っちゃうもんね。白馬の王子様か、はたまたビビッと来るか。経験と失敗を繰り返してっていう普通のプロセスは辿らないだろうね私たちは。
意図的に働かせるものじゃないと判っていても、意識していても、傷つきたくないって気持ちは、自動的に力を動かす」
美砂は言いながら、再び歩き出した。
それは経験に裏打ちされた発言と理絵子は理解した。
美砂自身恋心を抱いたことはないが、その逆、持たれたことはあるのだ。
「増えてくるだろうね、そういう話。理絵ちゃんも持ちかけられるわけだ、度々」
「……はぁ、まぁ、おかげさまで」
他者から改まって言い直されると照れるものだ。
「ってか判るよ。仮にも私はあなたを殺そうとしたんだよ。その相手を逆に心配して住み込み先まで世話焼く娘だよあなたは。好かれるし頼られないわけがない」
美砂は言った。経緯は略す。ただ、〝能力つながり〟の裏には、そうした事情があった、とだけ書いておく。
「だから」
美砂は言葉をつないだ。
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