彼女は彼女を天使と呼んだ(20)
理絵子の相談はこれだ。そのネットいじめ問題。要はバレないように傷つけているわけで、犯罪そのもの。であるからして、その心理について父親の見解。
「なるほど」
父親は言い、ビール缶を卓上に戻し、身体を理絵子に向けた。
「犯罪ってのは何かのフラストレーション反応なんだよ。つまり、理由がある」
まず言って、
「だけどな。いじめはそれだけでは説明できない」
「理由がない?」
「きっかけ、自体はフラストレーションなんだろうとは言える。だが、繰り返す。エスカレートする。そして肝心なのはこれだ。罪だという認識はあるが意識はない」
理絵子は目を見開いた。
確かに、いじめという行為は、一般に隠れて行われる、隠される。露見は避けたいのである。
ただ、避ける理由は、罪の意識ではなく、
「バレると自分が不利になるから隠す」
「その通りだ。むしろ無差別殺人に近いのではないかとオレは考えている。後を考えて隠すのがいじめ、後なんか最早どうでもいいのが殺人だ。『誰でも良かった』……この点ではいじめもそうだろう。違うか。それこそネットいじめなんか何の関わりもないヤツが突然しゃしゃり出てきて罵詈雑言を並べ立てる。そんな類に思うが」
理絵子はため息をついた。言われると、ゾッとするほど類似点が多い。行動としての現れ方が違うだけ。どころか、実際に学校の中で児童生徒同士の殺し合いも生じている。
となれば、無差別……がそうであるように、いじめの背景もいろんな因子が複雑に絡み合い、思考がマイナスへマイナスへと進行して行くある種スパイラルに陥った挙げ句、とまとめられる。
対して。
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