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彼女は彼女を天使と呼んだ(10)

「協力できる範囲であなたには協力する。でも……恋が絡むとちょっとね。一緒に考えて行こう、としか言えない。ミスド寄る?」
 そのドーナツショップが入っているのはエキナカ改札前。
「美砂姉(ねえ)のおごりなら」
「ちゃっかりさん」
 ふたり腕組んで堤防脇の階段を下り、中央図書館裏の公園を横切って、甲州街道(国道20号)。信号を渡って〝100円ラーメン〟の前を通れば駅前広場。銀色車体にオレンジのストライプをまとった電車が、踏切を加速しつつ東京都心へと出て行く。
「下っ品だよねあの電車」
 美砂が結構歯に衣着せぬ物言いの持ち主だと気付いたのはこの辺りである。ただ恐らく、その源は一発で確信を見抜く能力の故であろう。
 駅の改札は2階である。タクシー乗り場の脇から階段で上がって行く。
 〝能力〟が察知してワンテンポ。
「おう!くろの~」
 うわっ。
 その男がまたデカい声で。片手まで上げて。
 改札前コンコースの衆目が、彼の声と目線の注がれた自分へと向けられる。皆前で何をやるかこの男は。
 やっぱガストン?
 気付かぬ振りを決め込んでミスドへ進路を振る。自分の気持ちは知っているので、美砂も同調してくれる。
 すると、彼は人波を横切り、小走りで自分たちの前へ。
「なぁ黒野。黒野ってば」
 進路をふさぐように立ちはだかる。そこでわざとらしくかそれとも本気か、彼は二人の絡んだ腕を見、背の高い少女に気付いた。
「綺麗な人だね~」
「失礼だよ少年」
 美砂は低い声でひとこと言った。
「怖いなぁ」
「尚失礼だよ。それじゃ理絵子の相手は100年経っても無理だね」
 彼は目を剥いた。
「ちょ……」
「図星か」
「な、なんだよあんた」
「女同士に首突っ込んでくるデリカシーのない少年をたしなめてるんだ。主将が隣の駅で女の子ナンパ中なんて部員に示しが付かないと思うが?ホレ、あれは君んところのマネージャーじゃないのか?」
 本橋美砂の物凄いウソ。
 主将君が振り返っているスキに、二人は店内へ逃げ込む。

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