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彼女は彼女を天使と呼んだ(17)

 ……でもない、というフレーズが意識に付加される。そして再び、あの、目のイメージ。
 監視?
 追い払う。と言ってもそのように〝考える〟だけ。自分が〝気付いている〟というシグナルを送る。
 消えた。
「へぇ、でも桜井さんは知ってるわけだ」
 父親は意外、というニュアンスのトーンで言った。
 誰にも言うな、自分に使うな。幼い日、理絵子に発現した力を見抜いた、東京郊外、高尾山(たかおさん)に集う修験者からの助言である。
「彼女別格だから」
「そうか」
「ただ、すがる人の気持ちは判る気がする。心の問題であるが故に、心を超越的に扱おうとする言葉に吸い寄せられる」
 思い出したのは言うまでもなく北村由佳である。迷う人に対し先が見えると言うならば。これほど甘美に聞こえるコトバはないだろう。
 理絵子は続けて、
「いろいろ言い当てて信用させる。信用させてから牙を剥く。その言い当てた中身も、誰にでも通用する話だったりしてね。『あなたは優柔不断になることがありますね』……何か迷ってる、決めきれないから霊的な相談、と思ったところに、優柔不断、と来る。自明の内容なのに〝テレパシーで読んだ〟こう思って一気に信用」
「血液型性格診断と同じか」
「そう。でも逆に言うと、自分の力の限界を感じている、追いつめられている、という深刻な状態の表出。で、深刻ってのが得てして重い病気だったり、立ち行かなくなった商売だったり、本当に深刻な状態だから、縋った結果は回復不能。弱みにつけ込むとはまさにこのこと」

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