【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【5】
(承前)
扉が閉まって真っ暗になる。
暗闇に閉じこめて。……いや、違います。突然オレンジ色の光に満たされました。
織りなされた幾重もの網が、糸が、人工演色に照らし出され、見たこともない光景を作り出しています。
ここは一体どこ?
〈そのうち温度が上がってきますよ〉
オレンジ色の光の正体。ハロゲンヒーター。倉庫の隅っこに、扇風機の外見に似て、それはゆっくりと首を左右に振っています。
〈ずーっと点いています。ずーっとね。そして私たちはここにずーっといる〉
〈暖かいですよ。エサも不足無くくれます。私たちを見て下さい〉
私は一匹の近くに飛んで行きます。成熟したメスは糸イボの周辺が赤くなりますが、確かに見事な赤、そして大きな身体。
生きている、分には飼育されていると言って間違いではないでしょう。ただ、生き物の生き様としては、私には腑に落ちない。
〈お腹には卵があるんじゃ?〉
ジョロウグモの産卵は秋の終わりの主に夜間。
寒くなると日中でも産卵する個体もいますが。
〈ええ、でもそのようにならない〉
命にタイミングを見計らう地球生命は人間さんだけです。
私はどうするべきでしょう。彼女達を逃がすことは当然可能です。でも、それでは、男の子は別のクモを捕ってくるだけ。
〈待っててもらえる?〉
〈ええ〉
私は倉庫から外へ出ます。胸もと金のチェーンをたぐり寄せ、青い石のペンダント。
「リクラ・ラクラ・テレポータ」
倉庫の外へテレポーテーション。……瞬間移動。
(つづく)
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