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2008年12月11日 (木)

彼女は彼女を天使と呼んだ(6)

 北村由佳は言い、逃げるように立ち上がった。
「由佳」
 その背中に理絵子は声をかける。自動的に呼ぶ声が出た。
「え?」
「大切に……」
「うん」
 北村由佳は小さく、少し寂しげにも見える笑みを見せ、教室から走り去った。
 不安の雲を理絵子は覚えた。自分は彼女を呼び止めるべきではなかったか?だから深層心理が彼女を呼んだのではないか?
 それとも、彼女が自分を見限った、と感じたのが寂しかったのだろうか。

 都立藤川(ふじかわ)高校は、川沿いに2棟の校舎を構える普通科で、全日・定時制併設である。
 レンガの校門から出てくるブレザーの生徒たちが、セーラー服なびかせる自分をチラと見ては行き過ぎる。
「かわいい子!彼氏待ってんの?」
 男子生徒3人組がからかうように声をかけて来た。
 他に誰もいないので自分のことであろう。理絵子は首をすくめて苦笑し、手のひらを左右にパタパタ。
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