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【妖精エウリーの小さなお話】クモの国の少年【6】

(承前)

 倉庫の外へテレポーテーション。……瞬間移動。
 何か両極端な二面性を持つ男の子、そんな印象です。小さい子どもが無邪気な顔して虫の翅や脚をちぎって遊ぶ。人間さんも〝狩り〟で食を得てきた種族ですから、それは躊躇無く命を奪うためには逆に必要な部分なのかも知れません。
 でも、この男の子の示した二面性は、そういうのとはまた少し違う。
 私は翅を広げて音を収集。この男の子のお宅は、倉庫が置けて中で子どもが自由にクモを飼える程ですので、土地もそれなり家屋もそれなり。富裕層という表現が使えるかも知れません。
 リビングの声が聞こえてきます。ゆたかちゃんは優しい子だね。
 ぼく、クモたちにエサあげてくる。
 つまり男の子ゆたか君、再度出てくるようです。私は倉庫の屋根から見守ります。
 程なく、リビングの庭に面した窓が開き、ゆたか君が出てきます。
 抱えているのは虫かごと、中にたくさんのコオロギ。
 捕食用としてペットショップで売られているコオロギ。
 後ろ足をちぎられ、跳べる状態ではありません。
〈自分たちの考えが判る何かがいるぞ〉
 彼らが私を見つけて寄越した意識はそんな内容でした。
 〝妖精〟という存在は動物や虫たちに遺伝子レベルで刻み込まれています。しかし、非・野性の環境下で複数世代ブリーディングされると、それは退化してしまう。
 彼らが私のことを知らなかったのは、数分後の運命を考えた時、良いとは書けないにせよ、……いいえ、私にとって体のいい逃げだったのかも。
 原理に従う捕食の場に妖精があってはならない。私は最も厳格な掟に従い、倉庫の外に暫くとどまりました。
 そして、空っぽの虫かごを持った男の子の後について、家の中に入って行きました。

つづく

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