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彼女は彼女を天使と呼んだ(8)

 美砂の質問の故は、理絵子が彼女に相談を持ちかけたからである。中身は言うまでもなく、〝不安の雲〟について。
「歩きながらで」
「オッケー」
 経緯を説明。と言っても、一瞬で済む。
 〝能力〟を恣意的に行使するのは好きではない。ただ逆に言えば口にする必要がない。
 今回の場合は〝心の秘密〟に関する話。ヘタに口にして、その様子を他人に見聞きされるわけには行かない。
 積極的に〝能力〟を駆使し、意図を伝える。
「恋、か」
 美砂は、さも困ったという風に、ため息を漏らした。
 夕暮れの川沿い堤防道。このまま図書館の裏まで歩いて駅へ、というのが、美砂の通学ルート。
「相手は理絵ちゃんに気があるわけだ」
「というか、私に恋心を抱いてるという表現自体、適切ではないような」
 その委員長会議でちょっかい出してくるのは確かである。一緒に帰ろうとか、露骨に誘ってくる。
 だが、彼の言動や放つ雰囲気は、日常千倍の勇気と共に投じられた下駄箱の手紙と質が異なる。それら〝男の子の決意〟には、いかに傷つけずお断りしようかという思慮が湧くが、彼の場合はそうではない。たとえて言うなら、古代の勇者が猛獣を狩ろうという意気込みに近いような印象を受ける。すなわち自分はトロフィーという存在意義である。
「モテモテの俺様の傍らに侍らせるに相応しいのは学内一級の美少女理絵子だと。俺様が彼女を〝落として〟みせよう……美女と野獣のガストンだね」
「あそこまで野卑で不潔じゃないけど。積極的に彼女を後押しする気になれないのは確か」
「彼女が傷つく因子が3つあるわけだ。実態がイメージとかけ離れてる。彼は彼女に気がない。どころか目下のターゲットはあなた」
「私自身が憎まれるのは別にかまわない。ただ……」
「4つ目の因子」
 美砂は理絵子の心理を先回りした。

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