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男の子だもんね【1】

 舞台に上がってすぐ、あの子だって判った。
 目にする子どもなんて月に何千。でも、その子は憶えていた。
「みんなー!今日は応援に来てくれてどうもありがとう!」
 私はマイクを通して声を出す。地べたに敷かれたブルーシート。座って見ているたくさんの小さな声が、一つの大きな歓声になる。
「後ろの大きなお友達もどうもありがとう」
 控えめに。すると、ブルーシートの子ども達の後ろ、立って見ている若者達から、うぉーという反応。
 正直ちょっとびびったり。
 私の仕事は〝中の人〟。女の子向けアニメの着ぐるみショー。お目々ぱっちり15歳。されど、中身はその倍以上で夫に子持ち。
 3ヶ月だけのバイトのつもりがいつの間にやら1年弱。私の声は肝心のヒロインに似ているらしい。
 魔法で変身、悪者退治。
 番組は〝萌え〟の対象らしく、コアな男性ファンがいる。しかし、彼らはアニメキャラが好きなのであって、こんな着ぐるみに集まることはなかった。
 なのに今では彼らの人垣が出来るほど。それも私の声だと主催者は言う。で、集まれば何かしら関連商品の売り上げがあるので、どんどんやってくれ……。
 でも、その子はそういうのと違うと思った。ブルーシートの子ども達は殆どが女の子。小学校低学年以下。同じくらいの、男の子。
 夫は言う。「男の子には綺麗なお姉さんだ。憧れるのはおかしいことか?」
 確かに、その子の舞台の見方は他の誰とも異なる。女の子みたいに悪者登場で悲鳴を上げず。若者達のように合いの手を入れることもなく。
 ただじっと、舞台の私と、相棒役を目で追っている。
 しかも、こうやって憶えてしまう程頻繁に来ている。舞台のシナリオは毎度同じではないけれど、それでも3本ほどをローテーション。起承転結は知っているはず。
 なのに繰り返し、繰り返し。いつも一番前で。
 ひとりで。
 土曜日曜、月により3連休。その午前午後、どちらの舞台でもいつも一番前で待ってる。
 これは、好き、なんだろうか。彼なりの幼い恋心なのだろうか。
「真剣な愛ほど寡黙になるもんだ。なんてな」
 夫は茶化す。確かに、それなら微笑ましい出来事、幼いなりの男の証明。
 でも。
 今日見る限りは笑っていられないみたい。
 12月の声を聞く寒空に半袖半ズボン。
 彼を最初に見かけたのは大きな街の中心、デパート屋上。
 今いるここは、そこから電車で30分かかる屋外の住宅展示場。
 思い起こせば彼の〝親御さん〟の姿を見なかった気がする。いつも開演30分前には一番前に一人でぽつん。
 それでもデパートなら、親御さんが買い物している間一人で……とか、まだ納得できる理由が見つかる。
 対してここは、北風吹く丘の上。
 母親の端くれとして、気になって仕方がなかった。
 おかげで変身のセリフを忘れた。
「おい、ワルキューレゴールド、今日は変身しないのか」
 悪者から突っ込まれる始末。
「うるさいわね!ウルトラマンだって一回間違えてスプーン出したことがあるんだから」
 このアドリブは大受け。
 ショーが終わって握手会。子ども達一列に並んで、ステージに上がって私と握手。キャラクターシールをプレゼント。
「小学生以下のお子様に限らせていただきまーす」
 仕切りがメガホンで断る。何度も同じ事を言っている気がするが、大きなお友達の中には、それでも並ぼうとする向きがチラホラ。シールは店に行けば売っているから、シール欲しさじゃないだろう。
 声優とキャラを同一視して、という話は聞くが、15歳の〝中の人〟には夫も子どももいるよ。それでも握手したい?
 最後の女の子と握手。
 あれ?
「男の子いなかった?」
 仕切り役に訊いたら。
「追い払いましたが」
「そうじゃなくて。小さい男の子が一人いたでしょ?」
「だったらあそこに。次も見る気じゃないすか?」
 メガホンで示す先には、シートでぽつんと座っている男の子。
 私を見て……ない。
 座ったまま首だけ上を向き、白目を剥いている。
「バカ!気を失ってるんだよ!運んで。急いで!」
「わ、はい!」

つづく

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