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彼女は彼女を天使と呼んだ(18)

「気付いた時は手遅れか……」
「極端な話、死人に口なし」
「うーん……」
 父親は腕組みして首をひねり、野球中継の終わったテレビを消した。
 やめさせる算段を考えているが、思いつかない……そんなところか。
「で、桜井さんはどうしてお前の〝信者〟にならないんだろう」
 父親は話題を変えてきた。逆に〝信者〟にならない心理に光明を、という所か。
「お前の力は頼るためのモノじゃない、と、彼女は言った」
 理絵子はまず言った。桜井優子のコメントはそれだけだったが、それは、彼女がこの能力の本質に気付いていることを示唆する。と、理絵子は思っている。
 すなわち。
「彼女は恐らく、私に現れているこの力の本質が、努力に報いるための存在。或いは命の確保のためのもの、と知っている」
 すると驚いたことに、父親はびくりと身体を震わせ、手にした缶ビールの缶を取り落とした。
 ホットカーペットに広がる黄金の海。
「おおいかん」
 手近のティッシュを何枚も取り出す父親に対し、理絵子は洗い場から布巾を取ってくる。
 ツンと酒の匂いが広がる。二人してゴシゴシ拭いてる有様は、古代エジプトのそれこそ〝ビール造りの女〟と名付けられた彫刻を思い出させる。
「すまんすまん。いやーお前の言葉に頭に電撃来た」
 父親は照れくさそうに言い、
「そっくりそのまま、霊感商法の物言いだからだよ。霊能は努力に報いるため、命を救うため……でもこういうのって聖書とか仏典に書いてあるらしいな。おお、イイ匂いしてきた」

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