男の子だもんね【3】
(承前)
勇気と武器はこれで万全。残った問題はこれだ。まさか着ぐるみ被って屋外闊歩というわけには。
ただ前にも書いた通りイメージぶち壊したくないわけで。
二人で相談。しかし、結局頭のイイ結論は出ず、もし幻滅したらコードKにリアル委譲、で、まぁ、いいか。
この妥協、意味するところすなわち。
「ワルキューレゴールド。松山奈々(まつやまなな)」
「ワルキューレシルバー。徳島まな(とくしままな)」
設定が私立中学生なので、コスチュームはオリジナルデザインの制服。
彼女はカチューシャ、私はポニテで髪型をアニメに合わせ、コスプレ状態。
これにて、二人揃って戻ったら、ボクは一言。
「全然違う」
当然の反応。すると、何と、まなちゃんの方が。
「あれはマンガにしたんだもの」
物凄い嘘。ところが。
「テレビより美人だ」
おろ?
私たちは顔を見合わせた。
「いやいや。お二人それでまだまだ行けますよ」
とは展示場の支配人氏。お上手で。
ともあれ、正義の味方グロリアスワルキューレ。出撃。
……中古で買った私の軽自動車で。
「〝ジェットスケボー〟じゃないの?」
後席ボクから当然の質問。アニメの二人は超小型ジェットエンジン付のスケートボードで246号をカッ飛んで行くが。
「あれは道路運送車両法上の原動機付自転車に該当するから、中学生がリアルに乗ったら道路交通法に抵触するのよ」
「奈々姉(ねぇ)リアルすぎ」
「シルバー。それよりナビ。ボク、どこの駅から乗ってきたって?」
まなちゃんの携帯電話でナビってもらって、ボクが乗ったJRの駅へ。最近地下鉄が延びてきて駅前広場をリニューアル。
駅前からボクにあっちこっちと案内してもらい、街外れへ田んぼの道へ。
「あの踏切の向こうだよ」
そこはあぜ道にアスファルト被せただけの細い道。自動車通行止めの標識があり、遠くに小さな踏切。
クルマじゃ無理。というか違反。
降りて歩いて行く。コスプレの娘と娘のなれの果てが田んぼの中を男の子と。
これって何かアブナイ情景じゃない?ねぇ。
踏切は横浜行きの電車が通る路線で本数も多く、案の定引っかかる。
通過して行く電車の窓から突き刺さる幾つかの目線、視線、凝視。あ、いや、こっちを見ないで。
ボクが歌う。
「わたしたちワルキューレ。いつも見ていて~」
遮断機が上がった。
小さな踏切と書いたけど、本当に小さな踏切で、通路は自転車1台どうにか通れる狭さ。周囲に灯火の類はなく、夜は真っ暗になるだろうと思う。わたしたち女の子には危険な夜道。
……何か?
踏切を渡る。軽い下りで、坂の終わりで多分隣町になるのだろう、道路に繋がっている。住宅地の端っこの公園。そこまで立派な道路が作ってあって尻切れトンボ。細い道は、そのブツリと切れた部分に、ノリで貼ったみたいにとりあえずくっつけてある。
「あれ。あの赤いヤツ」
ボクが指さす先には、年代物の赤い軽自動車。
「あれ、〝ミラ〟ってクルマですよ」
まなちゃんが言った。
「L200って型式で92年から93年頃作ってたクルマです」
「それって短大生の知識として異様に細かくない?」
「〝百鬼夜号(ひゃっきやごう)〟って妖怪まみれのクルマがあるんですよ。それの色違いですもん」
でもその細かさこそは逆に非常に具体的なわけで、コードKに持ち込むには強い説得力を持つ。
「妖怪じゃなくて単に怪しいわけだ」
詳しい話をボクに聞く。衝撃的な出来事であって、当然記憶は細かい。要約すると、ママの自転車の後ろに乗って信号待ち。交差点で曲がってきたそのクルマに自転車ごと倒された。
すなわち教習所で何度も言われる左折巻き込み。クルマは自転車前輪を乗り越え、轢き潰して、走り去ったという。
だとすれば、その手の傷や跡がクルマに付いてるはず。
「調べてみる価値……」
「ありますね」
私たちはアパートからは死角になる公園の植え込み影に隠れて、アパートを観察。
「2階建て。各階5部屋ずつ」
私の言うことを携帯電話のメモ帳機能でまなちゃんが記録。
「1階中央は洗濯物が干してある。女性用男性用子供用と干してあるから家族で住んでる。軽自動車にチャイルドシートは見えるか?」
「ありません」
「じゃぁ違うね」
この辺実はアニメの二人の流儀。当然、ボクは気付いた。
「やっぱ本物ってスゲエ」
「そう?……1階は無関係さんと空き室だね。怪しい人が住んでいるとすれば2階だ」
「じゃぁ近づくと見られちゃいますね」
私たちはボクの顔を見た。
まなちゃんが携帯電話GPSの位置表示を画面保存し、男の子に携帯電話を持たせる。
「これから私たちはあのクルマを調べてくる。何かあったら君が頼りだ。この電話を持って全速力で駅へ向かって走るんだ。そして誰でもいい、大人の人に頼むんだ。携帯のこの地図の位置にひき逃げのクルマが止まってるって」
「わかった」
ボクは強い瞳で頷いた。上等。
「行くよシルバー」
「OKゴールド」
「かっちょえー」
「ゴー!」
私たちは同時に走り出す。走りながら、私は私の携帯電話のカメラを起動。
果たして、L200ミラの助手席ドアには、長々付いた傷を隠すように赤いビニールテープ。携帯カメラオートフォーカス。
パシャ。
「写メった」
その時。
「なんだてめえら!」
粗暴な男の声。
しかも背後から。
ドジった!
(つづく)
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