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彼女は彼女を天使と呼んだ(2)

「相談があるんだけど」
 理絵子に声をかけた少女があった。同級生の北村由佳(きたむらゆか)。心配になるほど大人しい感じの眼鏡の娘で、声のトーンは高く、細く、まるで薄いガラスが震えているよう。
 彼女が自分に相談を持ちかける、そのこと自体は珍しいことではない。成績の話から花の種類まで、むしろ困るほどバラエティ豊富に訊いてくれる。
 ただ、今日はいつもと違う。理絵子はまずそう直感した。
 そして放課後。
「噂に聞いたんだけど」
 残照の教室で北村由佳は切り出した。噂の真相について、彼女は正面から訊いて来た。
「私が?」
 理絵子は白々しく問い返し、自分の顔を指差す。彼女理絵子は、さざ波ひとつない高原の湖のような、静かで澄んだ印象を与える髪の長い娘だ。校則によれば長いのは三つ編みというのが指定であるが、似合う気がしないのでひとつにまとめて背中に流し、白いりぼんで緩く結んでいる。ただ、それで文句を言ってきた教員は(逮捕された教頭も含めて)過去にいない。
「うん」
 北村由佳の目がきらきら光る。
 対し理絵子が抱いたイメージは少し違った。
 双つの眸。むしろ、暗闇から自分をじっと見張っているネコのような。

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