ブリリアント・ハート【7】
乗り換えた地下鉄は、郊外へ出ると陽光の下へ顔を出し、高架線路に上がった。実のところ、地下鉄と私鉄との直通運転であり、そのまま丘陵地帯を走って行く。
トンネルを出てすぐ、東京から電話が来た。
電車の中であり、本来は受けるべきではないが、内容の予想が付き、おそらく緊急を要するものであろうから受ける。
「バレた?」
『その通り。良く出られたね』
「メイドさんに迷惑かかってないかな」
『清掃用の通路があるって?』
「うん」
『そこからの誘拐説ってのが専ら大勢。現在ホテルの防犯カメラ解析中。どのみち道路と鉄道には全部追っ手がかかるぞ』
「ごまかしてよ」
『無茶言うなよ』
「東京で見ました、って一言」
無茶は百も承知である。しかしその無茶が当たり前のように口をついて出る。
彼女はこうして強引に外出したように、基本的に自分のことは自分で何とかしたい…タイプである。しかし、こと東京に関する限り、年長者である上、なまじ無茶を聞いてくれるがゆえに、ついついこうやってぶら下がってしまう。彼が自分を極めて高く買ってくれている割には、“お子様”ではなく、対等に、すなわち一人の“女”として接してくれる希有の存在なのに、逆に子どもっぽい部分を見せてしまっているのだ。理由は彼女自身もよく判らない。追求すればいいのかも知れないが、恐らく悩んで大変そうなので考えないことにしている。
果たして彼女の無茶に東京は少し黙った。
『…しょうがないな。自分の写真をケータイに送りなされ。今現在の服装が欲しい』
「ありがとう。恩に着る」
レムリアは言うと、電話を切った。
しかし、作業の前に目的の駅に着いてしまう。
(つづく)
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