彼女は彼女を天使と呼んだ(13)
理絵子はため息。桜井優子は薄く笑い、
「りえぼーが悩むこっちゃないだろ。お前人のために悩むってパターン多すぎ。禿げるぞ。まぁ言っても無駄だから止めないけどな。ただ一つ言っておく。動き方が判らない時はジタバタするな。敵の方から焦れて動き出す。それまで待て。先に焦れた方が負けだ」
「敵って……」
理絵子は苦笑した。恋心って敵?
と、優子は傍らにしゃがみ込み、理絵子に囁く。
「時々気になるんだ。お前のそのお人好し、利用してるヤツがいやしないかって」
理絵子は自分自身驚くほど身体をびくりと震わせた。
不安の雲と、優子のセリフとが、同じものの表と裏、と合点が言ったからだ。
ただ、それは認めたくないことでもある。北村由佳が自分に相談を持ちかけるのは中学入学以来の話。おとなしさの故か、クラスに溶け込んで行けそうにない彼女に、クラス委員である理絵子が声をかけた。それが始まり。だんだん頼ってくれるようになり、というわけだ。そして今、自分を軸に、〝友達の友達〟みたいな形で、クラスの他の子とも会話をするようになっている。明らかに入学当初と面持ちが違う。
そんな〝友達〟と、にこやかに喋っている北村由佳を見つめる。隠した内奥があるようには到底見えないが。
「おとなしいのは押し殺しているだけかも知れない。普段そう言ってるのはりえぼー自身だぜ」
「であれば、それこそ反応があるはず、か」
理絵子は半分自分自身に言い聞かせるように言った。自分に対し敵意があれば、自分の〝能力〟が反応するはずだ。それこそ『傷つきたくないって気持ちは、自動的に力を使わせる』の故に。
「だろな」
優子はガムのフーセンをいつにもまして大きく膨らませ、パチンと割った。
「だから、敵の方から焦れて動き出す、のさ」
包囲網。それがその時、理絵子が思い浮かべた言葉。
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