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男の子だもんね【4】

(承前)

 振り返ると、踏切を渡って駆けてくるコンビニビニール片手の男。
 浅黒い肌に黒いシャツ、その上にジャンパーを羽織っており、口ひげを生やしている。
 男はコンビニ袋を放り出し、ジャンパーを脱ぎ捨てた。現れた太い腕には鮮やかな入れ墨があり、首もとには金のネックレス。
「ワルキューレ!犯人こいつだ!」
 目の前を通過して行く入れ墨男を見、ボクが言った。
 勇気は認めるが、君にそこで言って欲しくなかった。
 果たして、一旦ボクの前を行き過ぎた男が、ブレーキをかけ、振り返ろうとする。
 まずい。これはまずい。
「そこまでだひき逃げ犯人。とっくに写メを警察に飛ばした!お前はもうこれまでだ!」
 まなちゃんがブチ上げた。お前は云々は変身前の決めぜりふ。
「なんだと!?」
 こうなったらこうしかないでしょう。
「世の中に尽きまじ悪を、清き泉が指輪に封じる。愛があるから諦めない!」
 せーの。
「ワルキューレトランスフォーメーション!」
 当然、男は固まった。
 踏切がカンカン鳴り始める。
「ボク行け!私たちのために行ってくれ!」
 私たちの声にボクが立ち上がり走り出す。遮断機が下りる前に渡り切るんだ。
「追うだけ無駄だよ。踏切には事故監視カメラが付いてる。アンタの顔もばっちりさ」
 ボクを追い振り返る男の背中に大嘘を言いながら、私たちは男めがけて走り出す。後ろを取るしかチャンスはない。
 男がこっちに顔を戻す。
 物凄い憤怒の形相。
「ワルキューレが実在のアニメ化だったとはな。でもルーク・スティックもクイーン・スティックも持ってねーな」
 男は私を見てニヤリ。
 その外見風体でワルキューレ知ってんじゃねー!
「番組中断だな」
 男が懐に手を伸ばした刹那。
「チェックメイト」
 ウィンクと共に構えたまなちゃんの手には、スティックならぬ催涙スプレー。
 これ、アニメではシルバーがチェックで追い詰め、ゴールドがチェックメイト。
 役どころ反対が、〝知りすぎた男〟には効いたらしい。まさかのシルバー・チェックメイトで、真っ正面から濃縮10倍芥子スプレー直撃。あ、意味の判らない人は〝チェス〟で調べて下さいね。
 しかもそこにナイト出現。
 炭酸飲料のでかいペットボトルを持った男の子。
 その向こう、何故か踏切で止まっている電車と、走ってくるのは……電車の運転士さん?
「ワルキューレに手を出す奴はオレが許さねぇ!」
 ボクはペットボトルを大きく振り上げて体重を載せて。ああ小さなナイトの中身満タン、ポリエチレンテレフタラートが斜め上から振ってくる。
 さすがは男の子だ。でもさすがに2キログラムの水の棒でぶん殴るのは。
 手遅れ。
 炭酸飲料が盛大に飛び散り、男の顔は涙と鼻血で最早めちゃくちゃ。
「悪いけどリアルのワルキューレは容赦しないんでね」
 警察が来たのはそれから10分ほど後のこと。男の子は踏切の緊急停止ボタンで電車を止めたんだとか。ペットボトルは男の買い物。
 そして運転士さんも、いつも電車を見ている男の子がそうしたのは、余程のこととすぐ判ったと。
 この顛末は程良い新聞ネタになったようで。そりゃもうオファー殺到で忙しいったらありゃしない。
 挙げ句の果てには。
「ワルキューレの後日談ということで、実写映画化の話があるんですがね」
「一つ条件付けていいですか?ワルキューレは女の子。女の子にはやはり白馬の騎士が助けに来ないと」
 女の子を助けてこそ、男の子だもんね。

男の子だもんね/終

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