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2008年12月21日 (日)

彼女は彼女を天使と呼んだ(16)

 塾が終わり、〝帰るメール〟を家に送ろうと携帯電話をスライドさせたら、実にタイミング良く、主将君からメールが入った。

『塾終わった?相談したいことがあってさ。』

『Re:要点まとめて箇条書きで。パケ代フリーじゃないんで。分割メールお断り』

 だから文末の「。」も付けない。しかし我ながら冷たい。
 帰宅すると、テレビ桟敷の大振り座椅子に父親あり。酒飲んで寝るだけ、かと思ったが、酒の類は缶ビールひとつ。父親にしては控えめの部類。
「なぁ」
「あの」
 父娘は同時に相手を呼び、互いに笑った。
「父に敬意を表して」
「レディファースト」
 これも同じタイミング。
「私ご飯用意するから先に話してよ」
 理絵子はキッチンに向かった。並んでいるのはトンカツとタマネギとタマゴと……すなわちカツ丼の続きを自分で作りなさい。という母親の無言の伝言。
 電話脇で無線LANのランプがピカピカしている辺り、母親は自室にこもってパソコン叩き。自営業……ウェブサイトのデザイン追い込みというところか。
「お前の〝力〟に崇拝しているような子いるか?」
 タマゴを溶く背中に父親は訊いてきた。
「霊感商法?」
「みたいなもんだ。まぁ本務じゃなくてウチの近所から受けた相談なんだがな」
 そりゃ本務……警察官としての捜査なら、家族にすら内容は秘密であろう。ちなみに中身はというと、父親曰く、町内で怪しげな商品を次々購入している家があり、近所のケイサツということで黒野家に持ち込み。詐欺ではないか。
「5万円のブレスレットとか、何千円のシールとか。病気に効くと言われて買って」
「で、全然、効かないと。文句を付けると信心が足らないからだもっと買え」
「そういうことだ。虚偽の証明が出来て間違えた購入だと言えばなんとかなるけどな。それ以前に、そういうのを信じる心理ってのを知りたくてな」
「私のこと知ってるのは学校では優子ちゃんだけ」

→次

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